ニュースレター

2015年07月31日

 

人口減少社会 東京一極集中と地方消滅(後編)

Keywords:  ニュースレター  定常型社会 

 

JFS ニュースレター No.155 (2015年7月号)

写真:Senior Sidewalk
イメージ画像: Photo by John Gillespie Some Rights Reserved.

前号では、2015年4月23日に行われた日本創成会議座長・増田寛也氏(東京大学公共政策大学院客員教授)の講演から、人口減少問題に関して、日本全体で考えなくてはならないことについてお伝えしました。

今月号のニュースレターでは、引き続き同講演の内容から、日本の状況を悪化させている東京への一極集中の問題と、地方での人口減少問題解決の可能性を中心にご紹介します。


人口の東京一局集中:地方から東京へ移動する若者

高度経済成長期以降の日本の人の流れの特徴は、東京圏への一極集中です。高度経済成長期の1961年の転入・転出のデータをみると、地方の人口が65万人減る一方で、東京圏(約36万人転入)、大阪圏(約22万人転入)、名古屋圏(約7万人転入)と、3都市圏へ多くの人口が転入しています。

ところが、高度経済成長期以降は、東京圏だけが一貫して人口を増やしており、大阪圏、名古屋圏ではほとんど増えていません。2014年の数値を見ると、地方からの転出者が10万人、東京への転入者は11万人です。もともとの人口が減っているため、転入者の絶対数は減っていますが、地方からの転出者が東京に集中して転入していることがわかります。

東京圏への転入者の年齢を住民票のデータで確認すると、就職期にあたる20~24歳が一番多く、次に多いのは大学進学時の転入です。2014年の東京への転入者の11万人のうち、95%が若い年齢層、つまりこれから子どもを産む世代です。

出生率が低く、高齢者が増える構造の東京圏

ところが、東京都の合計特殊出生率は1.13(2013年)です。全国平均(1.43)に比べて、非常に低いのです。合計特殊出生率とは、一生の間に女性が出産する子どもの数の平均値ですが、1.13だと、父親、母親の2人の大人から1人が産まれるくらいの状態です。そのため、東京では子どもの数が減り、人口構成が逆三角形になりつつあるくらいです。出生率が低い東京に、大量の若者が流入していることは、日本の人口を考える上での大きな問題です。

東京圏では、少子化と同時に高齢者の数が爆発的に増えます。地方では人口減少により自治体が消滅する可能性があると問題視されていますが、一番難しいのは実は東京だとも言えるでしょう。

2025年に戦後のベビーブームの世代が75歳以上になります。医療と介護が本当に大変になることでしょう。現在でも東京の特別養護老人ホームの待機者は一つの施設でも千人以上いる場合が多いので、23区の特別養護老人ホームに入るのは本当に難しく、23区以外でもなかなか空きがない状況です。そのため、東京から離れた地域にあるケアハウスに入ってもらうといった苦労があります。

他方、高齢者を自宅で介護する場合、つきっきりの介護のためにやむをえず会社を辞めざるをえないというケースが増えています。東京は医療へのアクセスがよいように見えますが、高齢者の数が2倍以上増えることを考えると、状況は大変難しくなってきます。大病院では「待ち時間が3〜4時間で、診療時間が10分」という事態がどんどん増えてくるでしょう。

対策がとりやすいのは地方

一方、地方は2040年になれば高齢者の数も少なくなり、病院も介護施設も余裕が出てきます。

ただし、経済的には大変です。十数年前に試算したときには、中山間の平均的な「人口1万人規模の町」に入るお金は、「年金」「公共事業」「農業・林業・商工業での稼ぎ」がそれぞれ3分の1くらいずつでした。年金は二ヶ月に一度、高齢者に払われ、買い物に使われますが、これからは高齢者の数も減っていきます。また現在では公共事業が激減しています。そうすると年金のお金も公共事業のお金も、地方に入らなくなるわけです。

そういう点から考えると、地方に働く場をたくさん作るのが良いと思います。例えば農業です。以前は、農業地域の出生率はとても高かったのですが、今では岩手県では1.4人、北海道が1.28人という数字です。地方に子どもを増やすためには、若い女性が喜んで働けるところまで農業を切り替えていく必要があります。そうしないと、農業に頼っている多くの地域では、人口再生産力を維持するのは難しいでしょう。

好事例の1つである秋田県大潟村は、大規模農業株式会社経営方式で農業を経営しています。ここでは男性にとっても大変な農業の重労働を機械化しました。また、株式会社にすると、経理などのデスクワークが必要になりますが、そうした仕事は女性でも行いやすいでしょう。

また、サービス業の事例の1つである北海道のニセコでは、オーストラリアをはじめ、海外からの観光客が増えています。そうすると、通訳も必要になるし、ホテルのレセプションで接客する人たちも英語が話せる必要が出てくるなど、女性の活躍する場ができています。

東京では、20歳代・30歳代の若者が経済的に職場の近くに住めず、平均すると片道90分以上、往復3時間以上を通勤に費やしています。加えて残業も少なくない状況で、疲れてしまう――こうしたことも結婚・出産が遠のいてしまう理由です。

この問題に対する好事例がコマツ(小松製作所)です。東京に本社を置くコマツでは、自社の教育部門を東京から地方の小松市に移しました。調べてみたところ、小松市の事業所で勤務している女性管理職は、平均3人の子どもを産んでいるのに対し、東京在住の女性管理職が産んでいる子どもの数は平均0.9人でした。東京では、経済的な理由で職場の近くに住めないケースが多く、その場合、何かがあってもすぐに帰宅することができません。そういった意味でも、地方の方が有利だと言えるでしょう。

コマツのように、本社は東京に置いたまま、必ずしも東京に置く必要がない部門を、地価の低い地域に移転することもできます。そこで東京と同じような水準で学生を採用すれば、近隣の優秀な学生が集まり、企業にとっても有利になるでしょう。

このような取り組みを進めつつ、土日の拘束割合を下げていくなど、地方の若い人たちの職場環境を整えていくことが重要です。


ただでさえ人数が減りつつある若者が、出生率が低い東京に転入していく状況は、構造的に大きな問題です。「地方に消滅可能性都市が多い」と聞くと、地方の方が危機的な状況にあると考えがちですが、「対策は地方の方がとりやすい」というお話が印象的でした。

人口減少は日本全体で起きている日本全体にとっての問題です。局所的に問題を考えるのではなく、全体的な構造を見た上で対策を考えることが求められています。

(編集:枝廣淳子・新津尚子)

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