ニュースレター

2018年05月31日

 

2050年の日本のエネルギーを方向づける ~ エネルギー情勢懇談会に参加して

Keywords:  ニュースレター  エネルギー政策  再生可能エネルギー  原子力  地球温暖化 

 

JFS ニュースレター No.189 (2018年5月号)

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YouTube 第2回エネルギー情勢懇談会

日本のエネルギー政策基本法では、エネルギー基本計画を策定し、3年ごとに検討することを定めています。

2010年版のエネルギー基本計画では、「2030年までに、少なくとも14基以上の原子力の新増設、原子力設備利用率の引き上げとともに、再生可能エネルギーの最大導入によって、電源構成に占めるゼロエミッション電源(原子力+再生可能エネルギー)を70%に引き上げる」としていました。

その後、2011年3月11日に起こった東日本大震災と東京電力福島原発事故を受けて、2014年版のエネルギー基本計画では、原子力を「重要なベースロード電源」と位置づけ、「原子力発電所の再稼働を進める」としつつも、「原発依存度については、省エネルギー・再生可能エネルギーの導入や火力発電所の効率化などにより、可能な限り低減させる」としました。

また、再エネについては、「現時点では安定供給面、コスト面で様々な課題が存在するが、温室効果ガスを排出せず、国内で生産できることから、エネルギー安全保障にも寄与できる有望かつ多様で、重要な低炭素の国産エネルギー源である」と位置づけました。

このエネルギー基本計画を受けて2015年7月に策定された「長期エネルギー需給見通し」では、2030年度のエネルギーミックスとして、東日本大震災前に約3割を占めていた原発依存度を20~22%程度へと低減し、再エネ22~24%、LNG27%、石炭26%、石油3%という数字を打ち出しています。

その後の情勢変化などを受けて、次のエネルギー基本計画を議論するのが「総合資源エネルギー調査会基本政策分科会」です。2017年8月上旬に議論が開始されました。

新たな「エネルギー情勢懇談会」の設置

しかし、2030年度に向けてのエネルギー基本計画を超えて、もっと将来に向けての勉強と議論を始める必要があります。パリ協定を受けて2050年視点での長期的なエネルギー政策の方向性を検討するため、経済産業大臣主催の「エネルギー情勢懇談会(以下、情勢懇)」が新たに設置されました。私も委員を務めた情勢懇の議論と最終提言についてお伝えしましょう。

資源エネルギー庁のウェブには、情勢懇の位置づけがこのように書かれています。

我が国は、パリ協定を踏まえ「地球温暖化対策計画」において、全ての主要国が参加する公平かつ実効性ある国際枠組みの下、主要排出国がその能力に応じた排出削減に取り組むよう国際社会を主導し、地球温暖化対策と経済成長を両立させながら、長期的目標として2050年までに80%の温室効果ガスの排出削減を目指すこととしています。

他方、この野心的な取組は従来の取組の延長では実現が困難であり、技術の革新や国際貢献での削減などが必要となります。このため、幅広い意見を集約し、あらゆる選択肢の追求を視野に議論を行って頂くため、経済産業大臣主催の「エネルギー情勢懇談会」を新たに設置し、検討を開始します。

情勢懇が設置されたのは、「現在のエネルギー政策や、従来の議論の延長上では、パリ協定はとても到達できない」という問題意識からです。原子力政策についてもあらゆる選択肢の一つとして議論の対象ですが、原発の是非を問うというよりも、「2050年の温室効果ガス80%削減」という極めて高い目標に向けてのエネルギー政策を、様々な観点から考えていく場として設置されました。

情勢懇のメンバーは8人。飯島彰己氏(三井物産株式会社代表取締役会長)、五神真氏(東京大学総長)、坂根正弘氏(株式会社小松製作所相談役)、白石隆氏(独立行政法人日本貿易振興機構アジア経済研究所所長) 、中西宏明氏(株式会社日立製作所取締役会長)、船橋洋一氏(一般財団法人アジア・パシフィック・イニシアティブ理事長)、山崎直子氏(宇宙飛行士)と私・枝廣淳子です。

私は、情勢懇の議論に、「環境」「地域」「市民」の3つの視点をもって参加しました。特に「地域」の視点はこれまでのエネルギー基本計画やエネルギー政策では重視されていませんでした。これまでのエネルギー政策は、いかに石油をはじめとする化石燃料を海外から安定的に輸入するかに力点が置かれていましたが、人口減少と高齢化が進む日本では、地域のエネルギーをどのようにまかなうかが今後ますます重要になってきます。

2050年になっても、今と同じように、大型の発電所から全国津々浦々の家庭まで長い送電網で送電しているとは思えません。それぞれの地域が、地域内で発電した電力を地域内で融通する仕組みを持ち、送電ロスもなく、海外情勢による輸入エネルギーの途絶があっても地域の暮らしや経済が混乱することのない、レジリエンスの高い地域になっていてほしいと思うのです。

しかし、そのような地域のエネルギー自立をめざす技術や法的な枠組みは、これまで余り重視されていませんでした。情勢懇の最初に事務局から提示された議論の視点には、「地域」の視点が欠如していました。

エネルギー情勢懇談会の流れ

初回の顔合わせ・事務局説明を経て、第2回から第7回まで、毎回2時間半ほどの時間をとって、主に海外からのゲスト・スピーカーから、2050年のエネルギーを考える上で重要な知見を得る回が続きました。大きなテーマとしては、「エネルギーをめぐる地政学的リスクの動向」(第2回)「温暖化対策とエネルギー政策」(第3、6回)「エネルギー企業の経営戦略」(第4、5回)「技術とイノベーション」(第6、7回)の4つで、ゲスト・スピーカーは以下の方々でした。

<地政学>

  • ポール・スティーブンス氏(イギリス) 王立国際問題研究所 / 特別上席フェロー
  • アダム・シミンスキー氏(アメリカ) 戦略国際問題研究所 / エネルギー地政学議長

<地球温暖化>

  • ジム・スキー氏(イギリス) インペリアル・カレッジ・ロンドン / 持続可能エネルギー担当教授
  • マイケル・シェレンバーガー氏(アメリカ) エンバイロメンタル・プログレス(環境NGO)/ 代表
  • フェリックス・マッティス(ドイツ) エコ研究所エネルギー・気候政策部 / リサーチコーディネーター

<エネルギー企業>

  • マティアス・バウゼンバイン(デンマーク) オーステッド / 本部長(アジア大洋州担当)
  • ラルフ・ハンター(アメリカ) エクセロン・ニュークリア / 最高執行責任者
  • ガイ・オーテン(イギリス) ロイヤル・ダッチ・シェル / 上級副社長
  • ディディエ・オロー(フランス) ENGIE / 上級副社長
  • マリアンヌ・レニョー(フランス) EDFグループ / 上級副社長

<技術・イノベーション>

  • 内山田竹志(日本) トヨタ自動車 / 代表取締役会長
  • リチャード・ボルド(オーストラリア) ビクトリア州政府 / 経済開発・雇用・運輸・資源省次官
  • アルン・マジュマダール(アメリカ) スタンフォード大学 / プレコートエネルギー研究所所長
  • ジョン・ホプキンズ(アメリカ) ニュースケール・パワー / 最高経営責任者

提言の内容と意味合い

第8回、第9回と議論を重ね、最終的な提言がまとまりました。提言本文はこちらにあります。

「エネルギー情勢懇談会提言 ~ エネルギー転換へのイニシアティブ ~」
http://www.enecho.meti.go.jp/committee/studygroup/ene_situation/pdf/report.pdf

わずか1ページの「はじめに」ですが、ここに今回の提言の拠って立つところと大きな方向性が書かれています。「提言をとりまとめるに当たり、踏まえた3つの点」として、以下が明記されています。

(1)福島第一原発事故が原点であるという姿勢は一貫して変わらない
(2)情勢変化の本質は「可能性と不確実性」である
(3)エネルギー自立路線は不変の要請であり、技術革新による非連続のエネルギー転換が不可欠

この提言については、各種メディアでも大きく取り上げられ、特に「再エネの主力電源化」と、「可能な限り原発依存度を低減する」という文言の明記に焦点が当てられていました。委員のだれからも異論がなかった「再エネの主力電源化」に対して、「可能な限り原発依存度を低減する」という文言については、産業界からの委員から「入れるべきではない」という強い意見が出され、「きちんと入れるべきだ」とする私などと議論の応酬がありましたが、最終的にはそのまま残りました。

今回の提言にはそれ以外にも、特に中長期的に非常に大事なポイントがいくつか盛り込まれています。私が大事だと思う3つのポイントをお伝えしましょう。

<ポイントその1> 「未来は不確実」を前提に
最初の重要ポイントは、「複線型シナリオと科学的レビューメカニズム」です。

3つのよりどころの1つとして書かれているように、「エネルギー情勢は不確実で、予測不可能なものなのだ」という認識が共有され、エネルギー政策をつくる上での"前提"となっています。

従来のエネルギー政策は、「未来はこうであるはずだ」「未来はこうなるべきだ」という決め打ちの像を描き、その実現のための施策を実施するという形で進められてきたと思います。しかし、今回、情勢懇では14名もの内外有識者のヒアリングを通して、「未来は不確実であり、現時点での予測に基づいて進んでいくことは危険だ」という認識を共有しました。

そこで、1つのシナリオではなく「複線型のシナリオ」を描き、科学的にレビューしつつ、状況変化や技術進歩に応じて柔軟にゴールや打ち手を変更していくメカニズムを設けるという提言となったのです。

これは大事な認識と方向性だと思いますが、「どのように複線型のシナリオを描くのか?」「科学的レビューメカニズムとして、だれがどのようにレビューするのか? そのガバナンスはどうなるのか?」が大事です。これらについては、今後の議論と設計となります。

<ポイントその2> 「地域の視点」
2つめに大事なポイントは、「地域の視点」が大きく入ったことです。これは、私が初回の情勢懇から何度も発言し強く望んできたことなので、本当にうれしく思っています。提言の中では「分散型エネルギーシステム」として言及されています。その部分を引用します。

「省エネルギー・分散型エネルギーシステムの課題解決方針」

再生可能エネルギーの小型化や高効率化、蓄電池や燃料電池システムの技術革新、輸送システムの電動化、そして需給制御を地域レベルで可能とするデジタル化技術やスマートグリッド技術の進展は、これらを効果的に組み合わせることで、電力・熱・輸送のシステムをコンパクトに統合した効率的で安定、かつ脱炭素化につながる需要サイド主導の分散型エネルギーシステムの成立の可能性を高めていく。

自家発導入を率先して進めてきた鉄道・通信・病院・基地なども、エネルギー安全保障の観点から、革新的技術に裏打ちされた分散型エネルギーシステムの開発に関心を持つ。地域におけるエネルギー自立を目指す動きも加速する。エネルギー安全保障と地域、この双方の観点から、技術に裏打ちされ経済的で安定した分散型エネルギーシステムの開発を主導し、世界に提案するとの姿勢で臨む。

 

「エネルギー転換を担う産業の強化とエネルギーインフラの再構築」

一方、分散型エネルギーシステムの世界は、各地域に根差した経営マインドにあふれる新興企業が担い手として登場する可能性がある。世界市場を舞台に活躍する総合エネルギー企業群と地域で分散型エネルギーシステムの開発を担う企業群、この世界と地域で活躍する企業群を生み出す事業環境を用意し、それぞれの強みを活かし、エネルギー転換・脱炭素化を加速する構造を作り出すべきである。また、この過程で、送電網の次世代化、分散ネットワークの開発などエネルギーインフラの再構築を加速すべきである。

<ポイントその3> 単体電源を選ぶ時代から、しなやかな全体調整の時代へ
3つめに大事なポイントは、これまでのように「再エネは高いか」「原発は安いか」という、個別の電源別のコストを考える時代ではなくなった、ということです。

これまでの日本では、10の電力会社が発電し、産業用にも家庭用にも電力を供給していました。「電力の生産者は数が少なく、電力の消費者は無数にいる」という状況でした。

現在、その構図が大きく変わりつつあります。新電力も数多く登場し、企業や家庭での発電も増えています。「電力の生産者も無数にあり、電力の消費者も無数にいる」という状況になってきたのです。

発電した電力を「売電」し、必要な電力を「買電」するということは、大きな「電力プール」に電力を注ぎ込んだり、そこから電力を引き出したりしている、ということです。「電力プール」に注ぎ込まれる電力は、再エネもあれば火力発電もあり、原発もあります。究極的には、このプール全体で、そのときの全体の需要に応えればよいということになります。

つまり、これまでの「再エネ+バッテリー」「原発」などの単体のシステムからどれを選びますか?という話ではなく、あらゆる電力があらゆる電力の調整電源になる、という世界なのです。

IT化・IoT化・デジタル化などの技術によって、あらゆる電源からの電力をつなぎ、つねに変動する需要にマッチするように調整することが可能になってくるでしょう。また、供給状況にあわせて需要を調整するデマンド・サイド・マネジメントも一体化されるでしょう。また、余剰電力で水素やメタンを生成し、貯蔵しておいて、必要なときに使うことで、現在は高価なバッテリーか揚水発電に頼るしかない「電力の貯蔵」も可能となるでしょう。そうすれば、全体の調整力はますます高まります。このあたりの技術開発は、「次の競争優位性の源泉」として、現在世界中がしのぎを削っているところです。

こういう世界では、電源別のコストだけでなく、ネットワークや、将来的には水素やメタンに関わるコストなども含めた、「調整し合う全体」としてのコストを考える必要があります。この認識が提言に「電源別コスト検証から脱炭素化エネルギーシステム間のコスト・リスク検証への転換」として盛り込まれました。
以上が、私から見た「情勢懇提言の3つの大事なポイント」です。

最後に

次のエネルギー基本計画を議論する「基本政策委員会」は、情勢懇の最終提言を受けて、2050年もにらみながらエネルギー基本計画の見直しを進めました。5月18日に、第5次エネルギー基本計画案のとりまとめが終わりました。閣議決定を待って確定します。

今回のエネルギー情勢懇談会に参加して、世界のエネルギー情勢のダイナミックで急速な動きも実感でき、さまざまな学びもあり、また、日本各地で地域づくりに関わっている自分だからこそ、地域の視点を盛り込むこともできたと思います。シナリオプランニングの手法や、対話による社会的合意形成プロセスなど、今後のエネルギーの議論に用いたいことも提案できました。

最後に、議論の形式に対する私の小さな貢献についてお伝えしましょう。日本ではこのような政府関係の委員会では、こちら側に委員が横一列に並び、向こう側に政府関係者がずらりと並ぶ、という座席配置がほとんどです。横長の机に一列に委員が並ぶので、お互いが見えません。そこで私は初回の最後に、「これでは懇談はできないので、お互いの顔が見えるように机の配置を変えてほしい」とお願いしました。

第2回からは円卓型のレイアウトにしてもらえたため、それぞれの委員ともゲスト・スピーカーや事務局とも、良い雰囲気で議論ができたと思います。「学習する組織」では、「場の質が関係性の質を左右する」と考えます。「場の質→関係性の質→思考の質→行動の質→結果の質」とつながるのです。今回、机の配置を変えてもらったことが、少しでもよい議論につながり、よい結果につながったのではないか、と思っています。

枝廣淳子

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