ニュースレター

2015年07月13日

 

人口減少社会 東京一極集中と地方消滅(前編)

Keywords:  ニュースレター  定常型社会 

 

JFS ニュースレター No.154 (2015年6月号)

写真:こんにちは
イメージ画像: Photo by Toshimasa Ishibashi Some Rights Reserved.

2014年5月に発表された「日本の約半数の市区町村は、将来人口を維持できなくなり消滅する可能性がある」という、いわゆる「増田レポート」は、日本中に大きな衝撃を与えました。特に地方に「消滅可能性都市」が多かったことから、日本の地方をめぐる状況は待ったなしという認識が一気に広がりました。

消滅可能性都市という言葉を生み出したのは政策提言機関の日本創成会議で、座長は増田寛也氏(東京大学公共政策大学院客員教授)です。JFSがアウトリーチ・パートナーとなっている幸せ経済社会研究所の主催で2015年4月23日、増田氏による講演が行われました。

お話から伝わってきたのは、「人口減少問題は、地方だけでなく、日本全体で考えなくてはならない」こと、そして、「東京は地方以上に大変だ」ということです。前編では日本全体の問題、後編では地方と東京の関係に焦点をしぼり、講演内容をご紹介します。


知事時代に実感した地方の人口減少

私は1995年から2007年にかけて、岩手県知事を務めた12年の間に、人口減少を実感しました。たとえば、小さな自治体の成人式に来賓として行くと、知事時代の初めの頃は新成人の数のほうが多かったのが、最後の頃は来賓の数のほうが多く、新成人は十数人しかいないということもありました。しかも、東京から成人式のために帰ってきている若者も多いので、地元で暮らしている20歳の人の数は本当に少ないのです。

小学校の数も、驚くほど減りました。成人式での実感や、小学校の減るようすを見ても、「この現象は何だろう?」という思いが募りました。知事としては、この人口の減り方について、市町村ごとに「どれくらいの数が、どれくらいのスピードで減っているか」というデータが欲しいと思いました。

しかし、市町村レベルの人口の将来推計データはありませんでした。進学や就職時の人の移動(社会移動)の予測が難しいためです。最初にそういったデータが出たのは、2003年、社会保障・人口問題研究所が出した推計でした。現在では、同研究所が5年ごとに、市町村単位の人口推計を出しています。2013年が最新版です。私たち日本創成会議では、この2013年のデータを元に、推計を行いました。

社会保障・人口問題研究所と日本創成会議の推計には違いがあります。私たちの方が、「東京への一極集中が長く続く」と見積もっている点です。私たちは、2020年の東京オリンピックまでは東京の人口は緩やかに増えていくと予測しています。この違いによって、私たちの推計では全体として、東京の人口はあまり減らず、地方の人口が減る予測になっています。

その推計の結果をまとめたものが、「2010年から2040年までの間に、20歳から39歳までの女性の人口が5割以下に減少すると推計される市区町村が、全国の869市区町村(全体の49.8%)にのぼる」という、消滅可能性都市についてのレポートです。

日本全体の人口の「これまで」と「これから」

日本の人口推移を鎌倉時代(1185年から1333年)から追っていくと、鎌倉時代に757万人だった人口は、江戸時代(1603年から1867年)の終わりに3千万人になるまで、緩やかに増えています。この頃の人口は、米の収穫量によって大きく左右されていました。明治(1868年から1912年)になってから人口は一気に増加し、わずか約100年の間に1億人に達しています(注:日本の人口が1億人を超えたのは1967年です)。

そして日本の人口は、2008年をピーク(1億2808万人)に、今度は増加時と同様の勢いで減少しつつあり、中位推計によると85年後の2100年に5000万人を切ります。

図:日本の総人口の推移と推計
 (クリックで拡大表示します)

つまり日本の人口は、明治の初めまで緩やかに増加していたのが、そこから2008年までの140年間に7000万人増え、今度は2008年から2100年までの90年間に7000万人減少しようとしているのです。

この大きな減少を食い止めるのは、かなり大変なことです。なぜかというと、普通は「出生率が上がれば出生数も増える」のですが、今の日本では「出生率が上がっても出生数は増えない」からです。具体的に見てみましょう。

日本の合計特殊出生率(1人の女性が15~49歳までに生む子どもの数)は近年、回復傾向にあります。合計特殊出生率は、戦後ベビーブーム以降、第二次ベビーブーム期(戦後のベビーブーマーの子どもの世代)を除いてずっと減少傾向にあり、2005年には1.26まで下がりました。でもその後、少し上がって2013年は1.43です。このように、出生率は10年前と比較すると改善しているのですが、出生数は一貫して減少し続けています。

「出生率が上がっても出生数は増えない」理由は、子どもを産むことができる若者の人口が減少しているからです。年齢別に人口を見ると、第二次ベビーブーム世代の最後の年(1974年)に生まれた子どもたちが、すでに40歳を超えています。これから若者の数は、年々激減していきます。子どもを産む女性の95%は20~39歳です。そのため、出生率が若干上がっても、出生数は増えないのです。この出生率と出生数の関係は、今の日本の特徴を表していると思います。

図:合計特殊出生率と出生数の推移
 (クリックで拡大表示します)

今後、様々な対策を講じても、出生数は年間70万人くらいまでは下がります。ですから、その半分の35万人くらいの女性が産む子どもを増やしていくことを考えなければいけません。そのためには、「若い人たちが社会でどのように過ごすのか」に焦点をあてて仕組みを考えていく必要があると思います。

「人口の減り方」を小さくするために

政府は、2060年までは1億人の人口を維持することを目指しており、その後、最終的には大体2100年に9千万人くらいで安定させようとしています。しかし、「それは難しいだろう」と私は思っています。

なぜなら、「そのために、2040年には出生率を2.07(人口置換水準)に上げる」ことを目指すと政府は言っているのですが、先進国では出生率が高いことで知られるフランスでも2.01なのです。日本の出生率をそれ以上にすることがいかに難しいかがわかると思います。そして、政府の掲げる高い目標が達成できたとしても、今から4千万人は人口が減ることになります。

こういった状況への対策を考える上で重要なのが、「働き方」に関する課題の解決です。最低賃金を上げること、労働時間を短くして仕事以外の時間を楽しめるようにすること――そういった働き方に切り替えていくことが重要です。

日本の場合、女性が働くことは、「仕事をとるか、家庭をとるか」という状況をもたらし、出生率を下げる構造になっていますが、たとえばスウェーデンでは、女性が社会参加すればするほど、出生率は上昇しています。日本でも、「女性が働くことによって、出生率が高まる」という状況が生まれるまで働き方の改革をすると、1千万人くらいの労働力が生まれ、人口減少分をカバーできると言う経済学者もいます。

労働時間の長さも問題です。一人当たりの平均年間総労働時間は、日本が1,728時間であるのに対して、フランスは1,476時間、スウェーデンは1,644時間です。週49時間以上働いている長時間労働者の割合も、日本では22.7%であるのに対して、フランスは11.6%、スウェーデンは7.6%。夫の家事・育児時間は、日本が1時間、フランスが2時間半、スウェーデンは3時間20分です。これでは、日本では子どもを育てるのが大変になってしまいます。

また、婚外子の割合が非常に低いのも日本の特徴です。他の国々では、人口減をストップさせるために、事実婚への切り替えも進めています。日本では、婚外子の割合は2.1%なのに対して、フランスでは52.6%、イギリスでは43.7%です。家族のあり方についてはいろいろ議論があるところですが、人口の問題を考える上では重要な観点の一つかもしれません。

後編につづく)


(編集:枝廣淳子・新津尚子)

English  

 


 

このページの先頭へ