ニュースレター

2012年06月12日

 

「リオ+20」に向けた日本の市民セクターの取り組み

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JFS ニュースレター No.117 (2012年5月号)


ブラジルのリオデジャネイロで、1992年に「環境と開発のための国連会議(地球サミット)」が開催されました。世界で進む環境破壊の惨状を前にして「どうやって直すのかわからないものを、壊し続けるのはやめて」と訴えた少女がいました。カナダ生まれのセヴァン・カリス=スズキさん。当時まだ12歳だった少女の言葉は、のちに「伝説のスピーチ」と呼ばれ、地球サミットに行かなかった人の間でも広く知られるようになりました。

あれから20年。この6月、再びリオで地球サミット「リオ+20」が開かれます。この20年間の日本の環境・サステナビリティを取り巻く環境の変化と、主に市民セクターによる「リオ+20」に向けた取り組みの一端をご紹介します。


地球サミットで芽生えた「地球環境」への意識

1992年の地球サミットでは、持続可能な開発に向けた新たなパートナーシップの構築をめざす「環境と開発に関するリオデジャネイロ宣言」や、この宣言の諸原則を実施するための行動計画「アジェンダ21」「森林原則声明」が合意されました。また、俗に「双子の条約」と呼ばれる「気候変動枠組条約」と「生物多様性条約」への署名が開始されたのもこのサミットです。

この成果を受けて、日本でも地球環境問題への取り組み基盤が徐々に整備されていきました。まず、サミットの翌年1993年に「環境基本法」が制定されます。それまでも、公害防止や自然環境の保護・保全に対応する法律はありましたが、地球規模での環境問題を視野に入れた、新たな環境政策の枠組が求められるようになったのです。

環境問題はグローバルな問題でもあるという意識は、日本の市民の中にも芽生え、新しい動きが生まれました。たとえば、地球サミットに参加した市民が中心となり、サミットで採択された国際合意や行動計画を実行に移すネットワーク組織として、1993年に「市民フォーラム2001」を設立。このネットワークからはのちに、いくつものNGOが巣立っていくことになります。

しかし、地球サミットで議論された地球環境問題は悪化の一途をたどっています。温室効果ガスの排出量は増え続け、生物多様性の劣化はかつてない勢いで進んでいます。そうしたなか、2008年12月の国連総会で「リオ+20」の開催が正式に決まり、その二大テーマ「持続可能な開発と貧困根絶の文脈におけるグリーンエコノミー」と「持続可能な開発のための制度的枠組み」に関する議論が各国で行われてきました。


連携しながら独自のアピールを

2011年7月、日本では国内のステークホルダーの対話の促進を目的として「リオ+20国内準備委員会」が設立されました。地球サミットで定められた9つのメジャーグループ(女性、子ども・若者、先住民、NGO、地方自治体、労働者・労働組合、企業・産業、科学技術コミュミティ、農業者)を代表する約40名の委員のほか、広く一般の参加者も交えて「持続可能な開発の推進に向けた日本のステークホルダーからの提案」をまとめ、国連事務局に提出しました。各国政府やNGOなどから、こうした意見書が677も寄せられ、それを元にして「リオ+20」の成果文書の草案がつくられ、まさにいま、具体的な交渉が続けられているところです。

リオ+20国内準備委員会

「国内準備委員会」からの提案の冒頭でキーメッセージとして打ち出されているのは、東日本大震災の経験を踏まえた日本からの教訓です。原発を利用するすべての国と国際社会が、抜本的な安全対策強化を図る必要があること、今後の原子力利用の方向性と持続可能なエネルギー政策への転換について、国内外の大勢のステークホルダーで検討する必要があること、さらに震災後に示された地域・国境を超えた「共助」の精神は、持続可能な社会づくりにも欠かせないことなどが提案されました。

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「NGO連絡会」による政府担当官を招いた
意見交換会

政府と市民セクターとの橋渡し役を務めているのは、2011年6月に設立された「リオ+20 地球サミットNGO連絡会」です。およそ60団体が所属する連絡会は、国内外の取り組みについての情報収集、NGO間および政府など他セクターとの情報共有や意見交換などを行ってきました。とくに、外務省と環境省の担当者を招いた意見交換会では、外からは見えにくい政府の動きを知り、またNGO・市民セクターの声を政府の担当者に直接届ける機会として、毎回活発な議論が展開されています。

リオ+20 地球サミットNGO連絡会

こうした連絡会で連携しつつも、各NGO・市民団体が力を入れる主張や活動はさまざまです。政策提言を主な活動とする「環境・持続社会」研究センター(JACSES)は、「リオ+20」を契機に、持続可能な社会を実現する経済を推進するため、新たにGreen Economy Forumという組織を立ち上げました。グリーンエコノミーの推進に向けて、さまざまなセクターの協働を活性化させたいねらいです。

「環境・持続社会」研究センター(JACSES)
Green Economy Forum

JACSES事務局長の足立治郎さんは、「リオのテーマとしてグリーンエコノミーが語られるのは意味がある」として、「経済とは本来、産業界だけの話ではなく、すべての人のライフスタイルにかかわる話。多様なステークホルダー間で対話を深める必要がある。リオだけで十分な議論が尽くされることはなくても、今後に向けた起爆剤になるのではないか」と期待を寄せています。

「もっと生物多様性の視点を盛り込もう」と「リオ+20」に取り組む団体もあります。そのひとつ、「国連生物多様性の10年市民ネットワーク」の今井麻希子さんは、1月に出たゼロドラフト(「リオ+20」の成果文書素案)について、「『生物多様性』の文字はあるが、決して十分ではない」と言います。同ネットワーク幹事として国際的な交渉にあたる中、生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)で採択された「愛知ターゲット」や「国連生物多様性の10年」について、海外でも認識が足りないと感じています。

国連生物多様性の10年市民ネットワーク

そこで同ネットワークでは、生態系の豊かな田んぼづくりに励む琵琶湖畔の農家や、原発事故で自然環境が大きな被害を受けた福島に生きる人など、地域で暮らす人たちの声を「リオ+20」に届けること通じて、生物多様性の視点から生命を尊重する社会の必要性を訴えようとしています。「リオ+20」という機会を活用して、生物多様性に関する議論を主流化したいと考えているのです。


一人ひとりの声を届けよう

「リオ+20」では、先にあげた「グリーンエコノミー」と「制度的枠組み」という2つのテーマのもと、仕事、エネルギー、都市、食糧、水、海、災害という7つの重点課題について詳しく議論される予定です。どれをとっても、世界にとって、そして日本にとって重要な課題です。

とくに、2011年3月に東日本大震災を経験した日本では、災害について、これまでにない問題意識を持つようになった人が少なくありません。2011年11月号のニュースレターでもお伝えしたように、3.11は日本に暮らす人の意識や価値観に大きな影響を与えました。

JFS参考記事:
大震災後の日本人の暮らしと意識はどう変化したか

たとえば、住まいに「省エネ」「創エネ」設備を取り入れる・取り入れたいと願う人が増えたり、人とのつながりや自然などを見直す変化が見られることが、さまざまな調査結果から分かります。「内向き思考」と言われる若い世代の考え方にも、世の中や政治への関心が高まるなどの変化が現われています。

「リオ+20」には20年前の地球サミットと大きく違う点がいくつかあります。その1つは、インターネットなど通信環境が格段に進歩したことです。誰もが自分の経験や、そこから生まれた意識・行動の変化、「リオ+20」への思いを発信することできます。

国連でもインターネット上に"The Future We Want"というサイトを設け、目指したい未来の姿について、世界中の人々から意見を求めています。このムーブメントに呼応して日本では、"The Future We Want - Japan Voices"というサイトが立ち上がり、すでに約1500名のメッセージが集まっています。
The Future We Want
The Future We Want - Japan Voices

JFSが運営するコミュニティサイト「未来クル・MIRACLE」でも、独自に国内外の子どもたちの声を集めており、世界に届ける予定です。「リオ+20」を新たな契機の1つとして、一人でも多くの人が声を上げ世界と共有することで、持続可能な社会に向けた取り組みが勢いを増すことを願っています。

「未来クル・MIRACLE」


(スタッフライター 小島和子)

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