ニュースレター

2011年12月06日

 

大震災後の日本人の暮らしと意識はどう変化したか

Keywords:  ニュースレター 

 

JFS ニュースレター No.111 (2011年11月号)

3月11日の東日本大震災と東京電力福島第一発電所の事故から8ヵ月がたちました。「ひとつの時代の終わりを告げる出来事だった」と言う声が聞かれるほど、3.11は私たち日本人の暮らしと意識・価値観に大きな影響を与えました。

今回の大震災と事故が日本にとってどのような意味をもち、日本をどのような方向に動かしていく出来事だったのか――それは将来の歴史家の分析を待つことになるのでしょうけど、大震災後に実施・公表されているさまざまな調査結果から見てくる「大震災後の日本人の暮らしと意識の変化」のいくつかをお伝えしましょう。


住まいには「省エネ」「創エネ」設備が必要

読売広告社が9月中旬に、マンション購入意向を持つ30~59歳の男女150人にインターネットで「これからのマンションに必要とされる機能・性能」を聞いたところ、「省エネ性能(冷暖房効率の高い住まい等)」について85.3%が「必要」と回答し、「創エネ性能(太陽光発電パネル設置等)」についても76.0%が「必要」と回答しました。

パナソニック電工が6~7月に、2011年に住まいづくりを検討・進行中、および経験した全国2,283人にサイト上で行った「住まいに関するお金意識アンケート」では、2008年度の前回調査から今回の間に、太陽光発電を検討する人が1.4%から25%と18倍に増加しました。住宅取得やリフォームを機に購入を考えている家電商品については、省エネ機器が上位を占めました。特にLED電球は、エアコンとともに37%を占め、トップにランクイン。今後購入したいと思う商品を1つ選択してもらったところ、「太陽光発電システム」が46%、次いで「家庭用蓄電池」(17%)でした。

住環境研究所が7月に、太陽光発電(PV)採用者716人と一般1,037人に行った調査によると、「以前よりPVが話題になることが増えた」とするのは東日本で62%、西日本で34%と、震災後PVに対する周囲の関心が高まっていることがわかりました。周囲の感じているPVの魅力は「光熱費削減」88%、次いで「災害時の安心」44%でした。


節電意識と行動は一過性ではなく、定着と広がりへ

パルシステム生活協同組合連合会が9月に20歳~59歳の男女1000人に対して、携帯電話によるインターネット調査を行ったところ、68.7%が「震災後、自分の身の回りの生活習慣や生活環境を見直した」と答えました。「こまめに電気を消すようになった」(70.1%)がトップ、1位は「エアコンの設定温度を上げた」(56.7%)、3位は「食材の無駄をなくすようになった」(23.2%)で、「照明をLEDに変えた」という回答は15.3%で6位でした。

ダイキン工業が9月に20代~70代の男女600人を対象に行ったアンケートでは、50.2%が「今夏の節電をきっかけに、電気を使用するライフスタイルに対する意識や考えが変わった」と回答。「意外と無くても大丈夫なものがたくさんあって今までは使いすぎだったんだと思った」などの声が挙がっています。「今夏の節電をきっかけに、夏の避暑対策に対する意識や考えが変わった」は41.8%。昔ながらの打ち水やすだれ・よしずの活用など、これまで安易に頼っていたエアコンでの避暑対策の見直しが見られました。

「節電対策による厳しい夏を過ごした後は節電意識がトーンダウンするのでは」という予想に反して、84.3%が「今後も意識して節電したい」と回答。節電によって新たな気づきや学びがあったという声も多く見られました。 また、これまでの漠然とした「エコ」「省エネ」の意識から、「資源の少ない日本では使えるエネルギーも無尽蔵ではない」「電気料金だけでなく、電気を含む日本のエネルギーの今後のあり方を考えたい」など、明確な問題意識を持つ人も見られました。


調理方法も変わった

電通総研『食生活ラボ』が9月に全国の20~69歳1200人を対象にインターネットで節電による「この夏の調理の変化」を調査したところ、この夏の節電で4割の人の料理に変化がありました。調理法は、できるだけ「短時間」で「手間をかけず」と「熱源(火)を使わない」ように、また食材は「残さず使い切る」などの傾向がみられました。


人とのつながりや自然などを見直す

NTTデータ スミスが6月に、全国の20~69歳の1,000人にインターネットで行った調査によると、震災発生後、様々な組織や個人の中で信頼度が最も高かったのは「自衛隊」(72%)で、過去の調査に比べて「日本国政府」への信頼は低下しました。震災後の対応・支援について『好感がもてる』のは、「自衛隊」(83%)、「芸能人、スポーツ選手などの著名人」(64%)、「国内の企業」(61%)、「NGO、NPOなどのボランティア団体」(60%)で、「東京電力」「国・政府」の対応・支援については『好感がもてない』との回答が8割を超えました。

震災を契機に「自然の大切さを感じるようになった」「人とのつながりを大切にしたいと思うようになった」「人は一人では生きていけないと強く感じるようになった」について8割強が肯定的に答えており、「被災後の様々な対応をみて、日本人を見直した」「故郷はよいものだと思うようになった」「仕事に費やす時間よりも家族との時間をより作りたいと強く思うようになった」についても7割以上が肯定的に答えています。

電通総研は震災一ヵ月後の4月に、全国の20~69歳の男女 2,000人にインターネットで、現在強まっているであろう意識として事前に検討した24の仮説を検証しました。60%以上の支持を集めた「震災後に顕著に強まっている10の生活者意識」は以下です。

  1. 安全志向:これまでの常識や法律基準にとらわれず、安全性への対策をしたい
  2. 節電節水志向:節電や節水の工夫を家事や生活に前向きに取り入れていきたい
  3. メリハリ志向:大切なことをよく考え、お金や時間の使い方のメリハリをつけたい
  4. 無駄排除志向:無駄を見直し、節約・我慢できること、買わずに済むことを考えたい
  5. 持続可能志向:エネルギー生産・供給の体制・あり方などへの関心をもっと持ちたい
  6. 情報質志向:わかりやすく、一見正しいように見える情報よりも、できるだけ本質的・実質的な情報を選んでいきたい
  7. 癒され志向:精神的癒やしを求めたり、日常生活の中のささやかな幸せを大事にしたい
  8. エシカル消費志向:「社会に貢献しよう」「もっとよい社会に変えていこう」という姿勢が見える企業を応援したい
  9. 絆志向:家族の絆や身近な人々との絆をいままで以上に重要にしようと思う
  10. ハレ志向:日常のストレスを忘れたり、非日常的な気持ちになりたい


働く女性は「震災のストレス」で5歳老化? そして大事なものを見極める傾向

ナガセ ビューティケァが8月に、東北と関東の 20歳代~60歳代の働く女性520人を対象にアンケート調査をしたところ、7割以上が「大震災以降、ストレスが増えた」との回答。「地震や余震に対する不安」(81.0%)、「放射能に対する不安」(57.9%)、「将来への不安」(50.4%)が増えたと回答しています。「震災によるストレスで、自分自身の老化を感じましたか?」には約5割が「感じた」と回答。「何歳くらい歳をとったと感じますか?」には、「5歳」と回答した人が最も多く(41.2%)、平均で4.98歳、最大が15歳でした。

「震災を受けて、やめたこと、切り捨てた物やことは?」には、「無駄遣いをやめた」(60人)が最も多く、次いで「電気の使い方を見直した」(52人)、「物を整理し処分した」(30人)。本当に必要な物は何かを見極めるきっかけとなったようです。

「今、あなたにとって1番大切だと思うことは?」には、多くが「家族」(207人)と回答。次いで「健康」(77人)、「人とのつながり」(29人)でした。未既婚別では、未婚の働く女性がより「人とのつながり」を大切だと感じています。2008年の調査では、働く女性は「自分の時間を大切にしたい」と感じている傾向がありましたが、今回の震災を受け、多くの働く女性が「家族」や「人とのつながり」をあらためて大切だと実感していることがわかりました。


「内向き志向」だった若者層、世の中への関心に目覚める

男性ビジネスマン向けフリーマガジン「R25」と若者層のマーケティング調査機関であるM1・F1総研Rが6月に、首都圏・名古屋・大阪在住で25~34歳の会社員500人を対象にアンケート調査したところ、全体の約半数が「(震災前よりも)世の中への関心が高まった」と回答。「日本の将来が不安になった」(89.8%)、「政治への関心が高まった」(80.9%)、「血縁を大切に思うようになった」(80.1%)との声が上がりました。


震災直後に急増した「結婚願望」、落ち着く

大手婚活サイト「youbride(ユーブライド)」が6月に、結婚活動を行っている全国の男女500人にインターネットで「震災直後と震災3ヵ月後の結婚したい気持ちの変化」を尋ねたころ、男性は震災直後に結婚の気持ちが高くなった人が約3割でしたが、3ヵ月後にはその半分に減少、女性も37%から半分以下の17%まで減少していました。


仕事観、人生観、結婚観にも変化

アクサ生命保険が6月に首都圏の20歳~59歳の男女1万人を対象にインターネット調査を行ったところ、仕事に関しては、「高収入を得たい」(10.1ポイント減)、「出世したい・社内で認められたい」(5.2ポイント減)という価値観が低下する一方、「家族の近くで働きたい」(5.1ポイント増)が高まっています。また「健康であること、健康を維持することが大切だと思うようになった」(75.9%)、「生や死の意味について考えることが増えた」(67.4%)、「人とのつながりの大切さを認識するようになった」(67.4%) など、人生観にも変化が見られます。

震災を機に夫を見直した(尊敬した)妻は81.7%、夫から妻も89.5%と、お互いを再評価する声が多い一方で、震災をきっかけに夫との離婚を考えた妻は11.3%、妻との離婚を考えた夫も11.5%いました。かつては結婚相手に求める条件は『三高』(収入、身長、学歴が高い)と言われましたが、今回の調査では「収入がいい」は12位、「身長が高い」は18位、「学歴が高い」は20位。今回の結婚相手に求める条件のトップ3は、「価値観が合う」「金銭感覚が一致している」「健康である」となりました。また「頼りがい」も昨年の6位から4位と急浮上しています。

大震災と原発事故を受け、日本人の暮らしや意識・価値観がさまざまに変化しつつあることがわかります。今後日本人のあり方や日本社会のあり方はどのように変わっていくのでしょうか。引き続き、表層的な変化だけではなく深いレベルでの変化も追っていきたいと思います。


(枝廣淳子)

English  

 


 

このページの先頭へ