ニュースレター

2009年08月18日

 

「環境モデル都市」の取り組み事例 その2

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JFS ニュースレター No.80 (2009年4月号)

前号では、2008年7月に日本政府が選定した「環境モデル都市」のうち、横浜市、富山市、北海道下川町の取り組みをお届けしました。今回は、「大都市」の北九州市、「地方中心都市」の帯広市、「小規模市町村」の水俣市取り組みを、2008年12月14日に開催された国際セミナーでの発表からお届けします。

アジアの環境フロンティア都市北九州市
(北九州市市長 北橋健治氏)

北九州市は、日本を代表する産業都市として日本の経済成長を戦前からリードし、アジアに大変近いことから、貿易が非常に盛んな町でもありました。また繁栄の一方で、1960年代、公害が激甚であった地域でもあります。OECDのレポートに「灰色のまちから緑のまちへ」と紹介されるほど見事に回復しましたが、短期間で回復した力は何だったのかというと、それは北九州市民が官・民の枠を越えて一緒に取り組んだパートナーシップです。

市内の婦人たちが最初の運動を呼びかけました。夫は工場で働いていますから、大変に勇気のある行動だったと思います。婦人たちは、公害の現実を自ら勉強し、結果を示していきました。それが市や企業や国を動かしていったのです。市内の企業は、公害防止を通じて、自らの生産プロセスを徹底的に改善しました。本市では経済と環境は見事に両立を果たしたのです。

この市民の環境の力は、その後、国内外で環境問題の解決に大きな力を発揮し、アジア地域への環境技術の移転にも大きな成果を上げてきました。海外から受け入れた研修生は今年で5,000人を超えました。日本の最大の研究拠点、リサイクル産業拠点を築き、日本の資源循環型社会づくりをリードし、環境対策と同時に生産性の向上も合わせて「クリーナープロダクション」を促進しています。本市のリサイクル産業には1200億円の投資があり、1,300人の新たな雇用が生まれました。

※クリーナープロダクション
http://www.eic.or.jp/library/pickup/pu050609.html

低炭素社会づくりは、都市構造、産業構造、市民生活、交通生活、まちの形すべてを包み込んで取り組むべき、言うなれば、「社会革命」であると思います。この革命の原動力も、やはり市民の環境の力です。これから進めることを4つの視点から説明します。

JFS/kitakyushu Eco-model City
出所:内閣官房


1点目は、都市構造をどのように変えるかです。鉄鋼の日本の発祥の地である八幡東田地域は公害が一番ひどかった地域ですが、2002年に環境にやさしいまちづくりがスタートしました。ディベロッパーと隣接する工場と住民とIT企業とNPO、大学などが、このまちを成長させていこうという共通の認識を持ち、関係者がつねに話し合いながら環境のまちづくりにチャレンジしています。

工場で発電した余剰電力をまちで活用したり、二酸化炭素を30%削減する環境にやさしい住宅をつくるなど、さまざまな取り組みがスタートしています。工場から出る水素をパイプで引いてきて、まちの中で利用するという「水素タウン事業」も2008年からスタートです。日本で初めてのいわゆる200年住宅も市内に建設します。住宅や太陽光発電、公共交通システムなどのハードに加えて、歩いて暮らせる、コミュニティあふれる、人にやさしいストック型街区、「200年街区づくり」の構想づくりに着手しました。

2点目に、産業分野での取り組みです。市内の工場には熱や電気、水素などのエネルギーがたくさん余っていますから、まちの中で最大限活用してエネルギーの地産地消を推進します。

3点目は人づくりです。環境モデル都市の指定を受けて決まった第1号のプロジェクトは、「100万本植樹プロジェクト」です。100万人住んでいますから、それぞれの誕生日に愛する人のために、家族のために1本植えると、1年間で目的は達成できます。10年で1000万本、20年後に北九州はジャングルになるのです! まあ、そこまでいかないかもしれませんが、今、市民、企業、行政が一体になって木を植えようという運動がスタートしました。市民の意識やアクションを起こす動機付けを強化し、市民の環境力がさらに高まっていくように、行政はサポートしたいと思います。

4点目は、アジアへの貢献です。北九州市はアジアに近く、貿易、環境の技術交流を通じて、非常に友好的なおつきあいを長くしてきました。地球環境問題の最大のポイントであるアジアの都市に、これからも貢献をしていきたいと思います。

どこの自治体も財政、経済情勢は最悪に近づきつつあります。しかし、ピンチのときにこそチャンスがあります。「グリーンニューディール政策」という言葉は、オバマ大統領よりも先に北九州市が言っていたと思いますが、環境対策こそ経済対策の中心に据え、積極的に取り組むことです。本市の経済も、この「グリーンニューディール政策」によって打開できるという確信を持って進んでいきたいと思います。

帯広市~田園環境モデル都市おびひろ
(帯広市市長 砂川敏文氏)

JFS/obihiro rural
出所:内閣官房


帯広市は北海道の東部、十勝平野の中央部に位置しており、面積は約620平方Km。畑が40%、森林が40%、市街地は約7%で、人口は約17万人、大規模な農業畜産地帯の真ん中にある田園都市です。帯広市を含む十勝平野全体の食料自給率は、カロリーベースで約1,100%と、高い農業生産力を誇る日本有数の食料供給基地です。

本市の二酸化炭素の排出量は2000年の実績で約138万トン。民生部門で50%、運輸部門で30%と家庭や事業所のウエイトが大きくなっています。民生部門では電気あるいは灯油、重油などの暖房用の化石燃料の使用が非常に大きく、約90%を占めています。家屋の高断熱化や太陽光発電などの自然エネルギーの導入、地域に賦存するバイオマス資源の利用促進など、脱化石燃料の取り組みが重要です。

帯広市の田園環境モデル都市構想は、「住、緑、まちづくり」「食と農」「創資源・創エネ」「快適で賑わうまち」「エコなくらし」という5つの視点で構成されています。削減目標は、2030年までに30%以上の削減、2050年までには50%以上です。

「住・緑・まちづくり」の取り組みに、市民参加の森づくりがあります。100年計画で進めており、30数年たった現在、だいぶ定着してきました。農業では、低炭素型の農業を推進しています。土壌の中への炭素の貯留機能を促進するために、不耕起栽培や省耕起栽培を普及促進しており、既に100ヘクタールほどの圃場で実績を上げています。

「創資源・創エネ」の取り組みでは、豆がら、牛ふん、ふん尿といったバイオマス資源が非常に豊富なので、堆肥化や木質ペレット燃料の生産をしていきます。食品加工や選果の残渣などの家畜飼料への利用や、市民の生活から出た廃用油をBDFに精製して燃料に使う等々、地域に豊富に賦存するバイオマス資源の活用を図ります。

「快適・賑わうまち」は、今まで土地が広いこともあり、外に外に広がるまちづくりでしたが、できるだけ既に整備された市街地を有効に使い、コンパクトなまちにしていこうという取り組みです。「エコなくらし」では、各家庭に環境家計簿を普及、マイバッグでレジ袋の削減、マイ箸、マイボトル等々の持参運動、木質ペレットストーブの普及といったライフスタイルの転換を図っていくという取り組みを、全市民挙げて意識を変えながら取り組んでいきたいと思っています。

水俣市~環境と経済が調和した持続可能な環境モデル都市をめざして
(水俣市市長 宮本勝彬氏)

水俣市は熊本県の最南端に位置する人口約29,000人のまちで、面積は約162平方Km、うち75%が森林です。本市は、日本の経済発展の中で水俣病という大変つらく悲しい公害病を経験しました。地域住民は身体的な苦しみのほか、偏見、差別、誹謗、中傷などによって精神的にも大変苦しめられました。発生から50年をすでに経過しましたが、現在なお痛手は残っており、苦しんでいる市民がいます。

環境破壊、環境汚染によって苦しめられた水俣市は、1992年に日本ではじめて「環境モデル都市づくり」を宣言し、以後環境に配慮したまちづくりを市民と行政が一体となって進めてきました。最初の取り組みは、住民参加によるごみの分別です。分別したごみは市内のエコタウンにあるリサイクル施設で貴重な資源となります。水俣病によって市民の心は引き裂かれましたが、ごみの分別収集が1つのコミュニケーションの場となり、市民の気持ちを取り戻すことができたのではないかと思っています。

JFS/minamata citizen
出所:内閣官房


本市は、2020年に温室効果ガス32.7%減、2050年に50%を超える削減を目標としています。そのために、「環境配慮型暮らしの実践」「環境にこだわった産業づくり」「自然と共生する環境保全型都市づくり」「環境学習都市づくり」の取り組みを進めていきます。

「環境配慮型暮らしの実践」では、まずはごみ減量、分別リサイクルの推進です。本市では現在ごみを22種類に分別しています。市内の300カ所にごみステーションを設置し、住民自らがその場で分別をしていることがひとつの特徴です。ごみの減量、分別リサイクルを進めることで、二酸化炭素の削減につなげていきます。

「地域全体丸ごとISOのまちづくり」も進めています。市が1999年に環境マネジメントシステム「ISO14001」を取得した後、市独自の環境ISOとして、家庭版ISO、学校版ISOなどを創設し、省エネルギー、省資源を進めています。また、発泡トレイの廃止など環境に配慮した取り組みを行っている店舗を「エコショップ」として認定したり、環境に配慮したものづくりを行っている市民を「環境マイスター」として認定しています。

「環境にこだわった産業づくり」では、竹などの地域の未使用資源からエタノールを抽出し、代替燃料として活用していこうと取り組んでいます。「自然と共生する環境保全の都市づくり」では、市民の森、海藻の森づくりを進めます。森林を適正に育成、管理することによって二酸化炭素の吸収を促進し、水俣病で汚染された海の再生を含めて海藻の森づくりを進めていきます。

これまで水俣市は市民と行政が一体となって、できるだけ少ない経費で効果的に知恵を出し合い、直接行動することによって取り組みを進めてきました。水俣病の負の遺産をプラスの資産に変えるべく、市民一体となって頑張っていきたいと思っています。

(編集責任:枝廣淳子)

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  「環境モデル都市」の取り組み事例 その1
  「環境モデル都市」をつくり出し、広げよう - その考え方、日本政府の取り組み

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