ニュースレター

2009年07月21日

 

「環境モデル都市」の取り組み事例 その1

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JFS ニュースレター No.79 (2009年3月号)

前号で、2008年7月に日本政府が「環境モデル都市」として、横浜市、北九州市、富山市、北海道帯広市、同下川町、熊本県水俣市の6市町を選定したことをお伝えしました。

今号では、その中から、2008年12月14日に開催された国際セミナーでの「大都市」のカテゴリーから選ばれた横浜市、「地方中心都市」カテゴリーの富山市、「小規模市町村」カテゴリーの北海道下川町の発表から、具体的な「環境モデル都市」の取り組みをお届けします。
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/tiiki/kankyo/seminar2008/index.html

横浜市の取り組み ~「市民力」発揮で大都市型ゼロカーボン生活を実現
(横浜市副市長 阿部 守一 氏)

横浜市は人口約365万人と、都市としては東京に次いで2番目、市町村としては日本で一番人口の多い自治体です。横浜市では、これまでもいろいろと環境問題に取り組んできました。まずごみの削減です。横浜市では人口の伸び以上にごみが増えているという問題を抱えていました。そこで「2010年度におけるごみの排出量を2001年から3割削減」という目標を立て、2003年度より、市民は分別排出の徹底、事業者は使用済み製品の回収やリサイクル、行政は3R(リデュース、リユース、リサイクル)の仕組みづくりや普及啓発、と全市民がそれぞれに取り組んできました。

2006年度に既に「3割減」を達成し、現在は約4割近い削減を達成してます。2カ所の焼却工場を廃止することができ、将来必要となる建て替え経費1100億円および年間の運営経費約30億円を削減できました。これは、市民、事業者、行政の協働による「環境と経済の両立」の事例だと思います。

2007年3月には横浜港で風力発電を開始しました。これも市民、事業者との協働による事業モデルです。市民に市債を買ってもらって建設資金とし、その償還は市内企業からの協賛金と売電収入で賄っています。約3億円の市債を発行しましたが、市民の関心も強く、発売後3日で売り切れました。市内の企業からも年間4500万円の協賛金をもらっています。見学ツアーなど市民への普及啓発活動にも役立てているところです。

横浜市のCO2排出量は1990年に比べて増えています。その間、人口も11%増えているのですが、1人当たり排出量も増加しており、何とかCO2の排出削減に取り組もうと2008年1月に「CO-DO30」(横浜市脱温暖化行動方針)を策定しました。目標は「2025年度までに市民1人当たりの温室効果ガス排出量を2004年度比30%削減」です。地球温暖化対策事業本部という市長直属の組織を立ち上げて取り組んでいます。

JFS/yokohama-co2
出所:内閣官房


個別のプロジェクトとしては、環境性能の建築基準「CASBEE横浜」を設定し、中規模の建築物にも適用し、マンション等の広告にも環境性能表示を義務付ける方向で取り組んでいます。また、自治会や町内会の協力を得て、省エネナビなどを設置し、省エネ行動を「見える化」し、市民のきめ細かな取り組みを進めているところです。

交通に関しては、「ゼロエミッション交通プロジェクト」として、公共交通や低公害車、自転車などを広めていきます。また、都市と農山村の連携を通じた取り組みを進めていきたいと、横浜市の水源地である山梨県の道志村や長野県と話し合いを始めています。

課題は2つあり、まず、365万人という人口の大きな自治体なので、市民に少しでも理解をしてもらい、一緒に取り組んでもらえる仕組みを進めていくことです。もう1つの課題は、いろいろなプロジェクトを進めていく上で現行制度を変えていく必要がある部分――国との関係で言えば、地方分権に関する問題や、新しい技術開発や仕組みに今の制度はなかなか追いついていないことなど――を、政府や関係省庁の理解も得ながら進めていきたいと考えています。

富山市コンパクトシティ戦略によるCO2削減計画
(富山市市長 森 雅志 氏)

富山市の面積は1,240平方キロメートルくらいで、7割は森林です。残りの部分は極めて平たんなところで、40年ぐらいかけて「低密度に人口が拡散する町づくり」を続けてきました。世帯あたりの自動車保有台数は全国で2番という、まさに1人に1台、車なしでは暮らせないという土地です。今回はコンパクトシティ戦略の交通面についてお話しします。

典型的な拡散型の町づくりをしてきた結果、1990年から2006年の間に、公共交通の利用者が激減しました。特に、路線バスは67%も減ってしまったので、運行の間引きや路線の廃止などさまざまな影響が出ています。一方、普通乗用車の登録台数は1990年比で1.4倍、軽四輪は6.5倍に増加していますので、CO2の排出量という意味では極めて成績の悪い都市となっています。

パーソントリップ調査を見ると、自動車分担率が72.2%もあります。通勤に至っては、84%近くです。市の職員で夫婦で勤めている人が何人もいますが、自宅から同じ職場に来るのに、1台ずつに分かれて乗って来るほどです。こういう暮らし方を変えていこう、そのためには公共交通を再生させることが必要だろうと考えました。

一方で、今のような拡散型の町づくりをこれからもやっていくと、行政管理コストが増大する一方です。除雪の必要な道は延びる。ごみを収集する範囲は広がる。それは、市のCO2量にも影響をしてきますから、少なくとも拡散を止めるということは急いでやらなくてはならないと思っています。交通機関として、車だけに依存して暮らす社会から、車も公共交通も使う社会にシフトさせられないか――こう考えたわけです。

富山市は、すでに人口が薄く広がっている都市の中に、大変恵まれた鉄軌道や利便性のよいバス路線があり、公共交通網がすべて富山駅に集結しているという特徴があります。したがって、この公共交通の質を高め、中心部の魅力を高めていくことによって、一定水準以上のサービスレベルの公共交通エリアへ、住む人を緩やかに誘導していけないか――そのような計画を20年ぐらいの先を見越して立てました。

鉄道や公共交通を「だんごの串」に見立て、駅や電停の近くのエリアを「だんご」に見立てて、これからは串を活性化すると同時に、だんごの部分に住む人を増やしていくことを緩やかに誘導していく計画です。富山駅から公共交通網が放射線状に延びているので、最初に行政が投資することで公共交通の質を高めていきます。

JFS/toyama-structure
出所:内閣官房


同時に、駅から500m以内、バス停から300m以内などに、新たに住宅を取得する人に1戸あたり50万円、事業者には1戸あたり100万円を補助することなども同時に進めています。現在、そういったエリアに住んでいる人口は、全人口のうち28%ですが、20年かけて42%に高めていきたいと考えています。

まず取り組んだのが、富山ライトレールです。JRが運行していた赤字路線を引き受けてLRT化しました。道路の車線を減らして電車を入れたのです。操業開始して2カ年、利用者はJR時代の2.5倍ぐらいに増えました。利用者の中の23~24%はマイカー通勤やバス通勤からシフトしてきた人たちです。

第2弾として、21年12月の完成をめざして、市の中心部にある路面電車網の拡張工事を進めています。都市の中心部に路面電車のサークルを作り、その周辺に公共施設や図書館、高齢者賃貸住宅などを意図的に凝集し、拠点的に投資していく。そして、このサークルへアクセスする公共交通網の質を順番に高めていこうとしています。

昨年ライトレールを3日間無料で運行したところ、11.5倍ものお客さんが乗りました。質のいい公共交通を廉価で運営できれば、普段の足としては車だけを利用している人たちも公共交通を使うようになることが分かってきました。あとは、どういう負担で、どう進めていくかということだろうと思っています。

北海道下川町~環境モデル都市の取組み紹介
(下川町町長 安斎 保 氏)

下川町は北海道の北部に位置する人口3,850人の小さな農山村です。町の面積は東京23区とほぼ同じ64,420ヘクタール、うち約90%が森林です。林業と農業を基幹産業としていることから、森林・林業をどのように活性化させるか、その資源をいかに活用するかを考えて、町政運営に携わってきました。京都議定書でも、地球温暖化対策のための森林の役割が明確になり、世界的にも森林の重要性が増しています。

「環境モデル都市」の柱の1つは、持続可能な循環型森林経営です。森林の経営には長期的な展望にたった政策が必要です。資源が枯渇することのないように、資源循環型の森林経営が必要との基本理念に基づいて森づくりを進めてきました。資源活用の例として、森林組合が間伐材などを利用し、木炭・集成材の加工を中心に、オガコ、煙を活用した木酢液やくん煙材、そして伐採の時に出る枝葉まで商品化してしまうという廃棄物ゼロ(ゼロエミッション)の高次加工に取り組んでいます。
http://www.shimokawa.jp/shinrin/products

循環型森林経営を進める本町では、常に適正な森林管理を進めようと2003年に北海道で初めて、FSCの森林認証を取得しました。加工・流通の認証であるCOC認証事業所も7事業所に増えており、循環型森林経営が着実な成果をあげています。

カーボンニュートラルな木質バイオマスエネルギーの活用も進めています。町内の公共施設には重油ボイラーの替わりに木質バイオマスボイラーを積極的に導入し、今後は公共施設や農業ハウスなどに活用していきたいと考えています。また、食糧を原料としないバイオ燃料として、短期間に生長する「ヤナギ」の試験栽培も始めました。

本町が環境モデル都市の実現化に向けて森林バイオマスの利活用を推進し、地域振興を図ることは、温暖化対策と快適な生活環境の創造との結合であり、また、地域経営のコストの削減にもつながります。さらに、新たな地域の産業創造により雇用機会の創造が図られ、地球的大義をもった取り組みであろうと確信しています。

JFS/shimokawa-project
出所:内閣官房


(編集責任:枝廣淳子)

※次回は、残りの3都市を取り上げます。
  「環境モデル都市」の取り組み事例 その2

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