ニュースレター

2009年06月09日

 

「環境モデル都市」をつくり出し、広げよう - その考え方、日本政府の取り組み

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JFS ニュースレター No.78 (2009年2月号)

JFS/Eco-model city
2008年7月選出の6都市 出所:内閣官房


2008年2月、低炭素社会に向けたさまざまな課題について議論を行うため、内閣総理大臣が有識者の参集を求め、地球温暖化問題に関する懇談会を開催することが決まりました。この「地球温暖化に関する懇談会」には、学術界・シンクタンク・産業界の代表など12名(途中から13名)の委員が選定され、総理とともに議論を行っています。

また、懇談会委員の数名と外部の有識者からなる分科会が3つ置かれており、その1つが「環境モデル都市・低炭素社会づくり」の分科会です。私(JFS共同代表:枝廣淳子)は懇談会委員とともに、この分科会委員も務め、議論に参加しています。

「環境モデル都市分科会」の目的は、大幅な二酸化炭素(CO2)削減を図るため、一定の地域を定めて、これまでの知見の集積を社会経済システムに組み込むことによって、都市・地域がそれぞれの特性を活かした統合的な取り組みを進めることです。2008年4月には、そのために、国内から先導的・モデル的な都市をいくつか選定し、政府が財政面などで支援し、環境対策の推進を促すことが決まりました。

選定の基準は5つありました。

JFS/EMC criteria
出所:内閣官房

(1)大幅な温室効果ガス削減目標
・2050年に半減を超える長期的な目標を目指すものであること
・早期に都市・地域内の排出量ピークアウトを目指すものであること
・2020年までに30%以上のエネルギー効率の改善を目指すものであることが推奨されました。
(2) 先導性・モデル性
・統合アプローチにおいて、他に類例がない新しい取組であること
・国内及び海外の他の都市・地域の模範・参考となる取組であること
(3)地域適応性
・都市・地域の固有の条件、特色を的確に把握し、その特色を活かした独自のアイディアが盛り込まれた取組であること
(4)実現可能性
・削減目標達成との関係で取組に合理性があること
・地域住民、地元企業、大学、NPO等の幅広い関係者の参加が見込まれること
(5)持続性
・新たなまちづくりの概念の提示等により、都市・地域の長期的な活力の創出が期待できること
・将来のまちづくりを担う世代への環境教育を実施していること

全国から82の自治体より応募があり、関心の高さを示しました。基準をもとに、地域のバランスを考慮し、大都市・地方中心都市・小規模市町村からまんべんなく選ぶという方針のもと、7月に横浜市、北九州市、富山市、北海道帯広市、同下川町、熊本県水俣市の6市町を選定しました。いずれも2050年までに二酸化炭素を現状から50%以上削減するなど意欲的な目標を掲げている市町です。また、2009年1月には加えて、京都市、堺市、飯田市、豊田市、檮原町(高知県)、宮古島市、東京都千代田区が選定されました。

政府は、温室効果ガスの大幅削減などに取り組む「環境モデル都市」の活動を全国に普及させることを目的に、「低炭素都市推進協議会」を創設し、2008年12月14日に国際セミナーを開催しました。今回は、このセミナーから「環境モデル都市分科会」の座長でもある村上周三慶應義塾大学教授の基調講演から、日本の低炭素社会に向けての都市づくりの考え方や動きをお伝えします。
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/tiiki/kankyo/seminar2008/index.html

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村上周三慶應義塾大学教授の基調講演より

低炭素社会への移行において、なぜ"都市"に着目する必要があるのでしょうか。第一に、都市自体がエネルギーの大量消費者であり、特に私たちの生活に直結している民生用を中心として、エネルギー消費量が急増する傾向にあることです。また、都市の施策の策定・実行の主体である自治体当局は、市民の日常生活に直結した目線を持ち、エネルギーを消費する各主体に対して、大きな影響力を有しています。地域のエネルギー安定供給に関する責任も負っています。

JFS/enegy consumption
村上教授講演資料 出所:内閣官房


「低炭素社会」を考える際、CO2の削減のみを目標とすべきではないと考えています。削減と同時に、環境、経済、社会の鼎立やQOL(Quality of Life)を目指すべきです。

環境モデル都市の姿は、都市の規模や自然環境とか、社会システム、産業構造、あるいは住民のライフスタイルによって、多様なものになるでしょう。しかし、社会システムのすべての面において、新たな段階への移行が必要であり、そのためには、あらゆる手段を動員する統合アプローチが重要です。従来は、政策分野別、自治体の部署別、あるいは主体別の個別分野別アプローチが多かったのですが、それでは多様な環境施策を効率的に運用していくことができません。統合アプローチに切り替えていく必要があるのですが、環境モデル都市は、その具体化としてきわめて有効であろうと思います。実際、環境モデル都市の選定のためのヒアリングで、「今回の環境モデル都市の応募資料を作る段階で、従来の部門の壁を越えた協力ができた」という声を多くの自治体担当者から聞きました。

政府の側でも、中央の府省間の連携、中央と地方の連携、あるいは産学の連携を進めるために、環境省や経産省といった特定の省庁ではなく、内閣官房が支援する形になっています。

では、「低炭素社会づくり」はどのような手順で進めればよいのでしょうか。まず必要なのは、その都市のCO2排出の現状評価と将来予測です。今回の環境モデル都市をはじめ、多くの自治体で進められています。次に、どこに障壁や障害があるのかを解明し、各ステークホルダーの役割を明確化します。そして、将来ビジョンを設定し、バックキャスティングに基づくロードマップを策定し、行動計画に落とし込んでいきます。そして、行動計画のフォローアップも忘れてはなりません。このフォローアップのために、低炭素都市推進協議会が設立されたのです。

環境モデル都市のイメージは、その規模によっても異なります。大都市の場合、エネルギー利用や交通システムの変革、居住構造の変革や自然環境を生かした都市基盤づくりなど、都市構造全体から低炭素化を図る必要があります。地方中心都市レベルでは、周辺の郊外地域と連携した低炭素化が必要になってくるでしょう。コンパクトシティの実現や公共交通体系の整備などが鍵を握ります。小規模市町村では、再生可能エネルギーや地域資源の活用など、豊かな自然環境活用の視点からの低炭素化などが重要ではないかと考えます。

今後、優れた事例の全国展開を図るとともに、環境に積極的に取り組む海外の都市と連携し、我が国の優れた取り組みを世界に発信していくため、環境モデル都市の取り組みに対する支援や成果のフォローアップを進めていくことになります。

最後に、「都市の環境性能評価」という最近の話題について、簡単にご紹介します。都市の環境性能評価をする必要があるのですが、そのためのツールがまだ十分に整備されていないため、今回の選定にあたっても苦労をしました。

建築物に関しては、日本のCASBEEやアメリカのLEED、イギリスのBREEAMなど、世界にもたくさんのツールがあります。ところが、都市の環境性能評価ツールは、建物の評価ツールほど広く世の中に出回っておらず、社会全体や都市における施策や活動の評価のために、その必要性が高まっています。

現在、その作業を進めているところですが、「環境負荷の削減、低炭素化」とともに、「生活の質の向上」をめざすことを、開発の基本理念としています。そうした総合的評価の結果を、分かりやすく"見える化"する単純明快な表示で示していく必要があります。一般の市民の賛同を得るためには、分かりやすい"見える化"が非常に大事だからです。

CASBEEは日本で国土交通省の指導で開発されたツールで、住宅用、一般オフィス用などがあり、建物の確認申請の時にCASBEEの評価結果を提出することを義務付けるなど、多くの自治体で使われています。
http://www.ibec.or.jp/CASBEE/

現在、その「都市用のCASBEE‐低炭素版」を開発中です。都市の環境性能の評価は、住宅などの建物のCASBEE評価ツールがあり、まちづくりの街区の評価ツールがあって、さらに都市のレベルでの評価ツールというように入れ子構造で考えています。最初の2つは開発が終わっており、3つめが必要だろうというところに来ています。

JFS/casbee

CASBEE・街区の例としては、東京駅から1kmぐらいのところでの大きな再開発である「晴海トリトンスクエア」があります。これを評価すると、Aランクで4つ星と、すでにツールが完成しています。これからはCASBEE・街区の考え方を都市にも拡大することが必要だろうと考えています。

JFS/Harumi triton

都市環境性能の「見える化」、環境効率による簡単な指標ができれば、市民に対する、省CO2のための有効な情報発信になります。いくら立派な省エネ型都市をつくっても、市民が省エネ型を実行しなければ、その効果は上がらないのですから、市民の低炭素活動へのインセンティブを刺激することが非常に大事です。

こういった都市の性能評価ができると、各都市が進める環境施策に対する強力な支援になるのみならず、都市間と環境効率の比較もできるようになります。それは、多くの市民の関心を集め、自らの都市に対する郷土意識を高めるでしょう。さらに、都市間競争によって、地域活性化も期待できるでしょう。

「2050年までに60から80%の削減」という日本の長期目標に向かって、早く低炭素社会へ移行しなくてはなりません。そのためには低炭素社会のイメージを提供し、市民みんながその意識を共有することが必要です。そういったときに、環境モデル都市という先行事例を提示することは非常に有効であると考えています。環境モデル都市を成功させ、内外の情報発信によって、低炭素社会の普及・促進を図っていくべきであり、それが効果的であると考えています。

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次号では、同じく2008年12月14日に国際セミナーより、2008年7月に「環境モデル都市」に選定された6市町の発表から、実際の市町での低炭素社会づくり・環境モデル都市づくりへの取り組みや悩みをお伝えします。どうぞお楽しみに!

(枝廣淳子)

JFS関連ニュースレター記事;
 「環境モデル都市」の取り組み事例 その1
 「環境モデル都市」の取り組み事例 その2

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