ニュースレター

2004年11月01日

 

大きな環と小さな環とが響き合う「スローソサエティ」の実現へ - 日本青年会議所 

Keywords:  ニュースレター 

 

JFS ニュースレター No.26 (2004年10月号)
シリーズ:ユニークな日本のNGO 第7回
 http://www.jaycee.or.jp/

日本では、「スロー」という言葉をキーワードに、これまでの経済効率重視の価値観から、ゆったりした時間や心の豊かさを重視する価値観への転換が、市民の間に浸透しつつあります。その一端をJFSニュースレター第14号(October 31,2003)でお伝えしました。
http://www.japanfs.org/ja/join/newsletter/pages/027247.html

成長のスピードをゆるめて、ものごとの過程や多様性やつながりを見つめなおそうというこの動きは、スローフード、スローライフ、スロービジネスなどと表現され、さまざまな分野で広がりを見せています。

経営に参画している青年経済人の集まりである(社)日本青年会議所は、2004年の会頭米谷啓和氏のもと、活動の基本理念を、「大きな環と小さな環とが響き合う『スローソサエティ』実現へ」とし、日本全国でさまざまな取り組みを行っています。今後の日本経済の中心を担う若手経営層が、効率やスピードを重視しない「スロー」の考え方を意識し始めたことは、これからの社会を大きく変えていく可能性を秘めています。

日本青年会議所の環境活動の歩み

青年会議所は、「明るい豊かなまちづくり」と「指導者としてのひとづくり」を運動の柱とする、20歳から40歳までの青年経済人の団体です。 1949年の東京青年商工会議所設立に始まり、その2年後に全国的な運営組織である日本青年会議所(日本JC)が誕生しました。全国に743の各地青年会議所(LOM)があり、約46,000人の会員がいます。

LOMからの出向者約1800人で構成される日本JCは、LOMと連携しながらさまざまな事業を進めるとともに、世界118カ国、約19万人が参加する国際青年会議所(Junior Chamber International =JCI)の一員として、積極的な民間外交を行い、世界との友情を深め平和維持に努めています。

日本JCの環境活動のスタートは、運動指針として「地球市民・地球益」を掲げた1990年代にさかのぼります。1993年に始めた「もったいない運動」はその後も継続され、国際的な運動にまで発展しました。ゴミの減量やリサイクルに対する会員への意識啓発や青少年向けの意識啓発を行ったほか、古紙の共同回収に取り組む環境NGOオフィス町内会に協力して参加企業のネットワークを広げ、この事業の成功に貢献しました。
http://www.japanfs.org/ja/join/newsletter/pages/027214.html

「もったいない」とは、日本語に特有の言葉で、日本人のモノを大切にする心を表しています。「もったい」はモノの本質や価値を意味し、「ない」は否定語です。従って、「もったいない」とは、「そのモノの本質や価値が生かされず惜しい」というような意味をもちます。日本JCのもったいない運動は、海外にも、この言葉を浸透させるきっかけになりました。

2000年以降は、環境保全活動から環境経営を推進する活動へと進化し、環境省が進めている中小企業向けの環境活動評価プログラム「エコアクション21」導入のためのワークショップに力を入れました。

スローソサエティにこめられた思い

2004年度のJC運動のビジョンは「スローソサエティ」ですが、スローソサエティとはいったいどんな社会なのでしょうか。米谷氏は次のように説明します。

「スローソサエティとは『多様なつながりに生かされている社会』のことです。人とのつながり、家族や地域とのつながり、地球とのつながり、命のつながり、そして、過去・現在・未来のつながり、世代のつながり--あらゆるものはつながっています。『つながり』という観点から社会を見直すと、さまざまな問題の本質がよく見えます。例えば、地球環境問題は人と自然のつながりの問題であり、教育問題は家族や地域とのつながりの問題です。今、社会で起きているさまざまな問題は、いろいろなところで『つながり』が断ち切れていることに起因していると考えています。スローソサエティへの取り組みは、このつながりを紡ぎ直す運動です。」

スローソサエティの考えは、日本JCが行ってきた「地球益」の活動と、阪神淡路大震災(1995)のボランティア活動で発揮された「助け合い・支えあい」の精神とが、「スロー」というキーワードで一つになって生まれました。

米谷氏は、「環境」という言葉を使いません。これからの社会を考えていく上で環境問題は一面にしか過ぎないこと、また、中小企業の経営者が多い青年会議所メンバーにとって、環境活動は「義務」や「強制」と受け取られやすく、「儲からない」という先入観があって、楽しいものではない場合が多いからです。「環境」という言葉を使わずに、人と自然のつながりに思いをめぐらし、地域での「小さな環」、地球規模での「大きな環」を考えることで、環境問題をより身近に感じ、自らの行動を変えていくことができます。

全国各地のスローな取り組み

日本JCでは、スローソサエティのビジョンのもと、「つながりを体験できること」に重点をおいた活動が、全国のLOMで展開されています。例えば、有用微生物を利用した地域の湖の水質改善、わが町の素晴らしさを子ども達に伝えるクイズや体験学習、親子で参加する米作り酒作りなど。米谷氏は、「過去から継続してきた活動も、『つながり』の視点で見直すことによって、新しい意義を発見できる」と言います。

一例として、四国にある鳴門青年会議所では、2004年4月に「スローフード鳴門-地域と食の再発見-」と題したイベントを開催し、約60名の市民が家族で参加しました。日本のスローフード運動や鳴門の特産物のお話を聞いた後、鳴門の郷土料理「鯛めし」と鳴門特産のわかめなどを使った「鳴門サラダ」の調理実演や試食、鳴門の特産物「サツマイモ・れんこん・わかめ」と外地産食材との味比較などが全員参加で行われ、大いに盛り上がりました。郷土の食を見直すことで、地域に根付いてきた食文化の大切さ、地域の自然の大切さに気づき、地域愛を生むきっかけになりました。

これからのスローソサエティ活動

日本JCの役職の任期は1年で、次年度は新しい会頭によって新しい活動方針が示されます。その年の運動を単年度制を超えて続けたい場合、日本JCの外に組織を作って、運動の継続をはかるメンバーも多くいます。米谷氏も、この1年間の「スローソサエティ」活動の中でつながったネットワークをこれからも大切にしていきたいと考え、このネットワークを有機的に働かせていくための組織「スローソサエティ協会」を独自に立ち上げるつもりです。

地域での小さな循環と、目に見えにくい地球の大きな循環とが調和し、モノを媒介しないつながり、お金で買うことのできないつながり、時計で計ることのできない自然の循環する時間に軸足を置いた人と人、人と自然、そして現在と未来とが有機的につながり合う社会の実現に向けて、今年日本JCが蒔いた種は、これから大きく成長していくことでしょう。


(スタッフライター 西条江利子)

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