ニュースレター

2002年12月01日

 

民が官を動かし大きな広がりへ - オフィス町内会の取り組み戦略

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JFS ニュースレター No.3 (2002年11月号)
シリーズ:ユニークな日本のNGO 第1回
http://www.o-cho.org/

日本には、とてもユニークな体制や組織を持ち、独自の効果的な活動を展開している非政府組織(NGO)がいくつもあります。このシリーズでは、そのようなNGOをご紹介していきたいと思います。1991年8月に発足した「オフィス町内会」は、東京のオフィス街を中心に、古紙の共同回収に取り組んでいる環境NGOです。

1990年、東京電力の本店内で、ゴミの減量化と資源化を目的として、古紙の分別回収が始まりました。オフィスでの取り組みとしてははじめてのものでした。半年ほどの試みで、回収量やコスト面で実績が上がり、次の展開を考え始めました。

このとき、のちの「オフィス町内会」の代表となる東京電力社員の半谷栄寿さんは、東京23区内に点在する約50ヶ所の東京電力関連の事業所をネットワークし、古紙の分別回収を広げることを考えました。しかし、交通渋滞や運送費などのコスト面でも難しいことがシミュレーションから明らかになりました。

「それなら、企業間の枠を取り払い、近隣のオフィス街で共通の回収車を巡回させれば分別回収の輪が拡大する......」。「オフィス町内会」は、こんな発想の転換から生まれた、オフィス街の企業のネットワークからなる環境NGOなのです。

その後、既存の古紙回収会社との連携を築き、約30の事業所から試験運用が始まりました。2002年3月末には1091事業所が参加し、毎月約722トンの古紙を回収して資源化するまでに、活動を広げてきました。

オフィス町内会の成功要因に、「3つの経済性」があります。

(1)会員企業が負担する費用はゴミ処理の負担よりも軽い

オフィス町内会の会員企業が位置する東京都では、オフィス古紙を廃棄物として処理すると、標準で28.5円/kgの処理費用がかかります。これに対して、オフィス町内会の共同回収の仕組みを利用すると、平均負担額は17.6円/kgですみます。1kgたり10円以上もコストダウンがはかれるのです。

(2)回収会社は古紙相場が低迷しても回収経費を確保できる

古紙回収会社は、通常は古紙の相場によって利益が変動します。相場が低迷していると、回収にかかる経費さえ回収できないこともあるのですが、オフィス町内会の仕組みでは、企業側が回収費用を負担するので、相場に左右されずに事業を続けることができます。

(3)事務局は独立採算のもとで主体的な活動を展開できる

企業側が負担する回収費用の中に、オフィス町内会を運営する事務局の経費5.8円/kgが含まれています。このことによって、事務局は独立採算性を確立することができます。オフィス町内会は、運営を始めて以来、ずっと黒字経営を続けています。また、会員企業にとっては、2001年度決算ベースの試算で、全体の年間回収量約8,600トンで8,600万円以上のコストメリットがうまれています。

オフィス町内会は、「どんなに良いことでも『経済性』が成り立たなければ、仕組みとして定着はしない。どんな活動でも、『経済性』が見えなければ、モラルに訴えるだけの一過性の活動に終わってしまう」という信念を持っています。経済性を確保し、ウィン-ウィン(敗者がいない)仕組み作りを通して、賛同と参加を広げています。

「オフィス町内会」の活動は、東京電力という一企業の社員が中心となって始めた動きであり、そのNGO活動を企業が支援しているという点でも、日本でもユニークなNGOとなっています。

1996年に東京電力のトップマネジメントにおいて、オフィス町内会に対する「ゆるやかなサポート」が改めて確認されました。東京電力の社会貢献活動ではあるが、社内の論理や慣行で運営するのではなく、あくまで会員の立場に立って、オフィス町内会ができるだけ自由な活動を続けられるように、その主体性を大切にしていこうという配慮が「ゆるやかなサポート」という表現に込められています。

東京電力の社内では環境部が「オフィス町内会」に対する社内のサポート組織となっており、オフィス町内会の事務局に人材を継続して派遣するなど、自主的な活動を支援しています。

オフィス町内会は、共同回収の取り組みとして始まりましたが、古紙を集めるだけに終わるのではなく、集めた古紙を再利用すること、つまり再生紙を使用すること、しかもこれを経済システムとして社会に定着させていくことが古紙のリサイクルを完結する上で是が非でも必要だと認識しました。

分別回収のシステム化と再生紙の使用拡大は、古紙リサイクルの車の両輪なのでを強く実感し、そのためには「紙の白さ」を問い直すことが必要だと、次のステージの活動を始めました。

オフィス町内会では、コピー用紙に注目し、白色度70%の再生紙こそが多くメリットを持つ、「適度な白さ」であることを訴求することにしました。従来の天然パルプ100%や、天然パルプ100%と同じ白さを保った再生紙(白色度80%)に比べ、製造コストも安価で、新聞古紙が使えます。また、漂白剤等の薬品使用量も減らせるからです。コピー用紙に新しい「物差し」を導入することによって、再生用紙の利用拡大に結びつけようと考えたのです。

1997年から99年にかけて、日本全国で「白色度70シンポジウム」を開催。自治体に対して「白色度70」再生コピー用紙の使用拡大を訴えました。まず共鳴したのが東京都です。東京都が96年10月に策定した再生品利用ガイドラインに「白色度70」再生コピー用紙が位置づけられました。

また、98年には、環境省が推奨リストのガイドラインに「白色度70」の再生コピー用紙を明記したほか、メディアでも取り上げられ、再生紙の使用拡大が推進されました。2000年に成立したグリーン購入法でも「白色度70」が明記されています。

「オフィス町内会」の活動は、東京23区から全国に波及し、企業、回収会社、ボランティアグループ、自治体などの皆さんが中心となって、それぞれの地域の特性に沿った「オフィス町内会」が広がっています。東京多摩、横浜みなとみらい21、浦和、上尾、水戸、土浦、前橋、沼田、宇都宮、千葉、木更津、袖ヶ浦、東扇島、身延などの関東圏はもとより、札幌、仙台、山形、福島、福島浜通り、新潟、北九州、大分、延岡など、北海道から九州に至っています。

これまでの活動で、大企業ではほぼ「白色度70」の再生コピー用紙を利用するようになってきました。今後は、中小企業や一般の人々にどのように「適度な白さ」を訴え、再生紙の使用拡大につなげていくか、地道なオフィス街での回収作業と並行して、ますます活動の広がりが期待されています。

一企業の社員が、分別回収を進めたいと地域の事業所のネットワークを築き始め、会社からの支援を得、多くの企業の参加を得ながら、活動を拡大してきました。日本の紙の使用パターンを変えようという戦略を持って、オフィス町内会は実際に地方自治体や政府をも動かしてきたのです。

最後に、企業の一社員として、この活動を立ち上げ、ここまで育ててきたオフィス町内会の半谷代表のことば--「新しいことをやろうとする時は、やり過ぎるくらいがちょうど良い」。

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