ニュースレター

2003年11月01日

 

経済効率重視から本当の幸せを求めて:スローライフの広がり

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JFS ニュースレター No.14 (2003年10月号)

岩手県の県庁職員の名刺の裏に、「何かしていなければ落ち着かない。つねにがんばっていないと不安になる。そんなの変だぜ、現代人諸君」と書いてあって、びっくりしたことがあります。

岩手県は、経済効率重視の価値観を転換しようと、2001年に「がんばらない宣言」を出しました。以下のようにその意味を説明しています。

より人間的に、よりナチュラルに、素顔のままで新世紀を歩き始めましょう。それが岩手の理想とする「がんばらない」姿勢です。例えば、深い森を伐って最先端デザインのビルを建てるのではなく、濃厚な森羅万象に調和した木造りの民家を守ってこそ岩手らしいんじゃないか......そんな「共生」の意識こそが、岩手流「がんばらない」なのです。

「がんばる」「がんばれ」は日本では非常によく使われることばです。岩手県の増田知事は、「『がんばる』という言葉は、日本の経済成長一辺倒の象徴です。『岩手はがんばりません』と宣言するということは、そのまま素直に言葉だけ取ると怠け者みたいに感じるけれど、じつはそうではなくい。むしろ自然体に生きて行こうという意識の象徴なのです」と説明しています。

岩手県は、この「がんばらない宣言」を新聞広告で全国にアピールしました。これまでの経済効率重視の価値観を転換しようというキャッチフレーズには、日本全国から賛同の声が寄せられているそうです。

これまでのように「効率」や「スピード」一辺倒ではなく、「ゆとり」や「生活の質」を求めようという自治体は、岩手県だけではありません。この1-2年、「スローライフ」を行政の理念として掲げたり、「スローライフ月間」などのイベントを開催したりして、住民の意識変革を促進するとともに、自らの価値観を転換しようとしている自治体が増えています。

その先駆的自治体のひとつ、静岡県掛川市の取り組みについては、JFSの記事でも取り上げたことがあります。
http://www.japanfs.org/db/202-j

掛川市は1979年に全国の自治体で始めての「生涯学習都市宣言」を行い、生涯学習を柱にした人づくりや街づくりを積極的に推進してきました。20数年にわたる生涯学習の取り組みの集大成として、「スローライフ」を新たな理念として打ち出しています。掛川市の新村市長は前回の選挙時に「スローライフ」をアピールの中心に据え、再選を果たしています。

「スローライフ宣言in掛川」をご紹介しましょう。

「スローライフ宣言in掛川」20世紀後半の日本は、「早く、安く、便利、効率」を追求し、経済的に繁栄しましたが、人間性喪失や地域の荒廃、環境汚染をもたらしました。

そこで21世紀は、大量生産・大量消費の急ぐ社会から、ものと心を大切に、急がない社会に移行し、「ゆっくり、ゆったり、ゆたかな心で」という「スローライフ」をキーワードにしたいと考えました。人間は、平均寿命80歳とすると、時間にして70万800時間、生きています。このうち勤務労働時間は、40数年働いたとして7万時間、あとの63万時間は、睡眠の23万時間のほかに食事や勉強や余暇で過ごします。いままでは、7万時間の労働を中心に、会社人間的に生活してきましたが、これからは63万時間を、いろいろなスロー主義で暮らし、真の安心と幸せを得ていきたいのです。

このスローライフの実践運動は、次の8つのテーマ・区分によって展開されます。
「スローペース」という歩行文化で、健康増進し、交通事故をなくします。
「スローウエア」という伝統織物、染め物、和服、浴衣など美しい衣服を大事にします。(衣)
「スローフード」で、和食や茶道など食文化と地域の安心な食材を楽しみます。 (食)
「スローハウス」という、100年・200年もつ木と竹と紙の家を尊び、物を長持ちさせ、自然環境を守ります。(住)
「スローインダストリー」という農林業で、森林を大切に、手間ひまかけて循環型農業を営み、市民農園やグリーンツーリズムを普及します。
「スローエデュケーション」で、学歴社会をやめ、一生涯、芸術文化や趣味・スポーツに親しみ、子どもに温かく声かけする社会をつくります。
「スローエイジング」で美しく加齢し、一世紀一週間人生の終生自立をめざします。
「スローライフ」で、上記1から7のことを総合した生活哲学により、省資源、省エネを図り、自然や四季と共に暮らします。

また、日本全国の市や町で「スローライフ」を行政の理念として掲げている20自治体が集まり、8月24日に岐阜市で「スローライフサミット」を開催。"人生をていねいに味わうことのできるまちを目指そう"と「スローライフまちづくり 岐阜宣言」を採択しました。

このサミットでは、スローライフの先進的な取り組みを紹介し、昼食は伝統食材を使った弁当「岐阜弁」を囲んで食談議を楽しんだそうです。スローライフサミットは、今後各地持ち回りで継続していく予定で、来年度は金沢市で開催される予定です。

イタリアから始まったスローフード運動は、高度経済成長の後遺症や長引く不況から「本当に大切なものは何なのか?」という問い直しが広がっている日本では、競争や効率やスピードより、じっくりゆっくり本当に幸せな暮らしを送りたい、という「スローライフ」の盛り上がりにつながっています。環境省が出している「環境白書」にも今年版にはじめて、「スローライフ」についての記述が登場しています。

これまでの大量生産・大量消費・大量廃棄の時代から、循環型で「足るを知る」持続可能な社会へ転換していく、ひとつの動きだと考えています。「あの経済大国、あの経済効率至上主義の日本が?」と思われるかもしれません。「スローライフ」や「がんばらない」の日本での今後の展開と広がりに、ぜひご注目ください。

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