ニュースレター

2008年08月01日

 

下水処理場のエネルギー自立を目指す自治体

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JFS ニュースレター No.71 (2008年7月号)

はじめに

下水道は、毎日の生活で使った水やし尿を処理して、快適で衛生的な生活が営めるようにするという重要な役割を果たしています。また、降った雨をすばやく排除することで浸水から街を守り、川、湖、海などをきれいにして、生態系を守る役割もあります。

日本の昔の都である藤原京(694年)や平城京(710年)などでは、道路の両側には溝が設けられていました。この溝が下水道の役割を果たしたのではないかと考えられています。江戸の街にも、下水道(開渠)が張りめぐらされており、雨水や宅地内から出る汚水を集め、最終的には川や堀などに流していました。その後、昭和30年代の高度経済成長に伴い、公共用水域の水質汚濁が社会問題となり、下水道の整備が強く叫ばれるようになりました。

現在では、全国1,822市町村のうち1,496市町村で下水道事業が実施され、下水道普及率も69.3%に達しています。普及率の上昇に伴いエネルギー消費量は増加しており、特に電力は2004年度には約70億kWhで、全国の総電力消費量の約0.7%を占めています。

2005年9月に国土交通省がとりまとめた「下水道ビジョン2100」には、これまでの「普及拡大」中心から、「健全な水循環と資源循環」を創出する21世紀型下水道への転換を目指す方向性が示されています。その施策方針の1つとして、下水道の有する資源回収・供給機能を積極的に生かして、下水処理場のエネルギー自立や地球温暖化防止等に貢献する「資源のみち」の創出が盛り込まれました。

参考:国土交通省 「資源のみち委員会」を設置
http://www.japanfs.org/db/1401-j

下水道の普及とともに、下水汚泥も増え続けています。下水処理場から1年間(2004年度)で約7500万トン(発生時現物量ベース、含水率97%)もの汚泥が発生しており、処理されて最終的にその約1%が埋立処分されますから、これまでの埋め立てでは対応しきれません。カーボンニュートラルであるバイオマスの視点からみると、下水汚泥は、質・量ともに安定しており、しかも下水処理場で集中的に発生することから利活用に適した資源です。汚泥をリサイクルして有効利用する割合を示す「下水汚泥リサイクル率」は96年度の38%から05年度の70%に増加しています。

全国各都市の下水処理場で行われている先進的な取り組みについて、2007年3月に公表された報告書「資源のみちの実現に向けて」やJFSで取り上げた事例をもとにご紹介しましょう。

下水汚泥を発電用燃料に

下水汚泥に含まれる有機分はエネルギー源や肥料・土壌改良材などとして、無機分は建設資材として、それぞれ利活用が可能です。試算によれば、発生する下水汚泥の有機物全量から回収されるエネルギー量は原油換算で104万kl(2005年度)に相当します。また、固形燃料化された下水汚泥は低品位の石炭並の発熱量を持っています。

東京都23区に13カ所ある下水処理場の1つ、砂町水再生センター(江東区)では、従来、焼却・埋立処分していた下水汚泥を炭化処理し、バイオマス燃料とする「東部スラッジプラント汚泥炭化施設」が2007年11月から稼働しています。

当施設は、下水汚泥処理により生成される脱水汚泥を1日300トン処理する能力を持っています。脱水汚泥9万9000トン/年を乾燥機で乾燥し、炭化炉で炭化して固形のバイオマス燃料を8700トン/年製造します。本燃料は、常磐共同火力の勿来発電所(福島県いわき市)へ供給され、同発電所7号機(出力25万kW)で石炭に1%程度混合して燃焼しています。

本事業により、東京都の年間発生汚泥量の約9%が資源化されます。従来の汚泥焼却に比べてCO2削減量は約3万7000トン/年、さらに発電所の石炭使用量削減により約9200トン/年削減になるため、年間合計約4万6200トンのCO2が削減できます。

九州の福岡市の御笠川浄化センター(福岡市博多区)では、汚泥を減量するためバイオソリッド燃料を2000年度末から製造しています。これは、下水汚泥を減圧下で廃食用油と混合し100℃程度に加熱する油温減圧式乾燥法で製造される石炭に類似した固形のバイオマス燃料です。2007年度の生産量は約2300トンであり、燃料以外にも肥料原料などに有効利用されています。

同燃料の燃焼については、電源開発(Jパワー)の松浦火力発電所(長崎県松浦市)の1号機(出力100万kW)において石炭と混焼する実機試験を行い、混焼割合は最大1%(約90トン/日)が確認され、また、同燃料を1200トン燃焼することにより約1100トンの石炭を削減でき、約2600トンのCO2を削減できることがわかりました。1号機では2006年度から継続的に混焼しており、同年度には約1800トンのバイオソリッド燃料が使われました。

参考:Jパワー、バイオマス燃料混焼で石炭火力のCO2削減
http://www.japanfs.org/db/1373-j

消化ガスの有効利用

2004年度の下水道バイオガス発生量は、全国で約2億9000万立方メートルで、そのうち、消化槽の加温に30%、発電に20%が使われ、その他利用が22%で、未利用が28%でした。発電には1984年から導入されており、2004年度時点の総発電量は約2万1000kWで下水道施設の総電力消費量の約1%分を発電しています。

東京都の下水処理場の1つ、森ヶ崎水再生センターでは、濃縮槽で濃縮した下水汚泥を消化槽で高温消化(約50℃)し、汚泥中の有機分をガス化(主成分:メタンガス)して汚泥を減量するとともに、発生するガスを燃料として2004年4月から発電が行なわれています。

発電設備能力は3200kWで、同センターで使用する年間電力の約2割を賄っており、年間6億円(計画値)の電力コスト削減になっています。その電力はバイオマスで発電されているため、年間約6400トン(計画値)のCO2が削減できるという環境付加価値を持つグリーン電力です。東京都は、この付加価値をグリーン電力証書として販売し、証書購入者を自然エネルギーによる電力を購入したと見なす仕組みの「グリーン電力証書システム」に自治体として初めて参入したことで、同市場の普及拡大に貢献しています。
http://www.gesui.metro.tokyo.jp/odekake/syorijyo/03_11.htm

兵庫県神戸市東灘区の東灘処理場の汚泥処理施設から発生する消化ガスは、処理場内のボイラー燃料などに使用していましたが、発生量の約3割については余剰ガスとして焼却していました。そこで、余剰の消化ガスを精製し、天然ガス自動車燃料とすることに成功しました。消化ガスは、メタン約60%、CO2約40%、微量のシロキサンや硫化水素などの不純物で構成されています。神戸市は神鋼環境ソリューションと共同で、2004年11月から東灘処理場に設置した消化ガスの精製プラントにおいて、CO2と不純物を高圧水吸収法により除去する実証実験を行い、メタン濃度が約98%のバイオ天然ガス(公募名称:こうべバイオガス)を製造しました。

2005年には走行実験を行い、2006年10月からは市バス1台の燃料として東灘区で営業運転を開始しました。こうべバイオガス設備として精製設備、ガスタンク、ガスステーションなどを東灘処理場に整備し、2008年4月から国内初の本格供給を開始しています。供給能力は1日2000立方メートルで、市バス40両分(1日50km走行)の燃料に相当します。年間約1200トンのCO2削減効果があります。主な利用予定車両としては、市バス、ごみ収集車、道路維持作業車、下水汚泥脱水ケーキ運搬車、下水管清掃車、民間配送運搬車などがあります。
http://www.kobelco-eco.co.jp/product/gesui/banner.html

小水力発電

下水処理場で処理された水を放流する場合に、湾岸部においては高潮などに備えて放流渠が水面より数メートル高くしてあるので、この放流落差を利用して発電することができます。処理水は水量・水質が安定しており、水利権や手続面などに問題がないというメリットがあります。放流落差が2メートル以上で、小水力発電を導入した場合の出力は、下水処理場のエネルギー使用量のうち約0.2%に相当するとの試算があります。

東京都の葛西水再生センター(江戸川区)では平均流量毎秒0.45立方メートル、平均有効落差3.0メートル、平均出力11kW(計画値)で、2004年秋から稼働し、年間約10万kWh(計画値)の発電を行っており、電力消費に占める割合が0.1%になっています。前出の森ヶ崎水再生センターでは平均出力約100kW(3台合計)の発電機が2005年6月から稼働しており、電力消費の0.7%に相当する年間約80万kWh(計画値)を発電し、年間約300トン(計画値)のCO2削減になっています。

一方、標高差のある神戸市鈴蘭台下水処理場では平均流量は毎秒0.185立方メートルと少ないものの、有効落差65メートルを生かして2002年4月から年間約49万kWhの発電を行っていて、同処理場の電力消費の13.6%を賄っています。最近では京都市石田水環境保全センターにおいては、2007年6月から定格出力9.4kWの発電機が稼働を開始し、年間8万kWhを発電する見通しです。

おわりに

下水処理場の面積は日本全国の都市公園面積の約1割にも達します。この貴重なスペースを活用して、太陽光発電、風力発電による自然エネルギー導入も始められています。各地での取り組みのさらなる拡大とともに、下水処理場のエネルギー自立や地球温暖化防止への寄与が期待されます。

参考:
日本の下水道発達史
http://www.jswa.jp/atoz/learning/01_06_01_a.html

その他のJFSデータベース関連記事:
http://www.japanfs.org/db/276-j
http://www.japanfs.org/db/423-j
http://www.japanfs.org/db/1237-j
http://www.japanfs.org/db/1366-j


(スタッフライター 小柴禧悦)

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