ニュースレター

2017年11月12日

 

幸福度を含む社会指標:5つの自治体の取り組み

Keywords:  ニュースレター  幸せ  政策・制度 

 

JFS ニュースレター No.182 (2017年10月号)

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イメージ画像:Photo by akizou.

近年、ブータンの国民総幸福(GNH)をはじめ、GDP(国内総生産)だけではなく、社会進歩や幸福度、真の豊かさを計測しようという動きが世界的に広がっています。日本でも、少なくとも22の自治体が、独自の幸福度指標を作成しています。

幸せ経済社会研究所プレスリリース:
「少なくとも22の自治体が『幸福度指標』を作成」
http://ishes.org/news/2012/inws_id000687.html

こうした自治体は、どのようなきっかけで幸福度指標の取り組みを始めたのでしょうか。また、調査はどのように行われているのでしょうか。今月号のニュースレターでは、2017年3月に公表された内閣府経済社会総合研究所のESRIリサーチ・ノート「社会指標に関する自治体の取組」の内容の一部をご紹介します。

ESRIリサーチ・ノートでは 、東京都荒川区、愛知県長久手市の2市町村と京都府、福岡県、三重県の3県の全部で5つの自治体の幸福度を含む社会指標が取り上げられています。いずれも、特徴的な取り組みを行っています。

5つの自治体の共通点

各自治体は特徴的な取り組みを行っている一方、5つの自治体の幸福度を含む社会指標には共通点もありました。例えば、どの自治体でも、幸福度を含む社会指標の取り組みを始めるにあたって、首長のリーダーシップが大きな役割を果たしています。また、いずれの自治体でも、意識調査(アンケート調査)によって幸福実感等を測定していました(統計データと意識調査を併用している自治体もありました)。意識調査では、幸福感を尋ねるだけではなく、安全や子育てといった地域の課題なども尋ねられています。

意識調査は、4,000人から5,000人を対象として行っている自治体がほとんどでした。なお、これまでの調査結果から、回答結果には地域の特徴が現れる、年による大きな変化は見られないといった傾向が明らかになっています。

指標の活用方法については、「政策課題を発見するためのツール」として用いている自治体が複数ありました。都道府県レベル(京都府、福岡県、三重県)では総合計画と関連して、その進捗や方向性を確認するために活用する傾向があるのに対して、市町村区(荒川区と長久手市)では個別の事業に活かす傾向が見られました。

次に、特徴がある点を中心に、各自治体の取り組みをご紹介します。

東京都荒川区:荒川区国民総幸福度(GAH)

荒川区では2004年、これらの自治体の中で最も早い段階で、荒川区民総幸福度の取り組みを始めました。区長の「基礎自治体(市、町、村、および特別区)の究極の目的は住民の幸福である」という考え方の下、「区政は区民を幸せにするシステム」というドメイン(事業領域)を掲げ、取り組みを行っています。

幸福度を含む社会指標の作成にあたっては、有識者による研究会と、区の職員によるワーキンググループが設置されました。指標づくりでは、ワーキンググループで作成した素案に、有識者と区の幹部職員、区のシンクタンクである荒川区自治総合研究所の研究員による「荒川区民総幸福度(GAH)に関する研究会」が意見を述べるというプロセスが取られています。

調査結果の分析から、「安心安全分野」の実感度が低いことがわかりました。そこで、どのような人が特にこの分野の実感度が低いのかを調べ、そうした人達向けに防災に関する事業を実施するなど、区の取り組みに活かしています。

また、荒川区は、「荒川区民総幸福度(GAH)の取り組みには、運動の側面もある」と考えています。住民の幸福について、住民自身が自分で考えることが必要であるという発想のもと、幸福度に関するレポートや報告書が発行されるたびに、地域の集まりで説明を実施しています。

愛知県長久手市:ながくて幸せのモノサシづくり

愛知県長久手市では、自治体の役割は住民の「福祉=幸福」の増進であり、「日本一の福祉のまち」とは「日本一幸せ感が高いまち」であるとして、「ながくて幸せのモノサシづくり」の取り組みを行っています。

長久手の取り組みの特徴は、「住民が自ら動き出し始める新しい仕組みをつくる」として住民参加を重視している点です。他の自治体では、調査項目の検討は自治体職員が中心となって行っているのに対して、長久手市では、調査票も、公募により参加した市民と職員が協働で作成しています。市民と職員が一緒に調査票を作成していることは、長久手の取り組みの特徴の1つです。

また、2013年からはアンケート調査の設計、実施、結果の分析を行うための「ながくて幸せ調査隊」を、2015年からは調査結果の共有などのために「ながくて幸せ実感広め隊」を設置して、活動を続けています。

京都府:明日の京都・京都指標

京都府では、だれもがしあわせを実感できる希望の京都づくりに取り組むため、2011年に府政運営の指針「明日の京都」を策定しました。京都指標は、この「明日の京都」の長期ビジョンの方向性の確認や、中期計画の進捗管理のために作成されたものです。

京都指標の特徴は、意識調査だけではなく、統計データ* も用いていることです。毎年9月の府議会で、「ベンチマークレポート」として、「明日の京都」の実施状況と指標の点検結果について報告を行っています。

*統計データには、失業率やいじめの認知件数等が含まれます

また、京都指標は幸福度の把握を目指すものではなく、長期ビジョンの方向性を点検することを目的としているため、直接「幸福感」に関する質問は設けていません。ただし、「将来かなえたい夢や実現したい目標があるか」、「これからも京都に住み続けたいと思うか」といった質問は設けられています。

福岡県:幸福度に関する研究会

福岡県では、2011年度から県知事の主導により「県民幸福度日本一」を目指すという目標を掲げています。このために、「幸福度に関する研究会」を設置し、同年から幸福実感等を尋ねる県民意識調査を開始しています。

「幸福度に関する研究会」には、様々な年齢、性別、地域から、「経済・雇用」「教育」「女性」「子育て」「健康・長寿」「住まい・環境」「つながり」など、幸福を考える上で重要な分野の有識者が委員として参加しました。会議はこれまでに3回開かれ、学界、経済界、NPO法人の代表者の他に、大学生も委員として参加しています。

また、福岡県には、県民意識調査の調査項目を利用した調査を実施している市町村もあります。

三重県:みえ県民力ビジョン

三重県では、県知事のリーダーシップのもと、「平成23年度県政運営の考え方」に、「日本一、幸福が実感できる三重を目指す」ことが明記されました。そして長期の戦略計画である「みえ県民力ビジョン」に基本理念として「県民力でめざす『幸福実感日本一』の三重」が掲げられました。

三重県でも県民を対象とした意識調査を行っています。対象者は10,000人と他の自治体の4,000~5,000人に比べて多いのが特徴です(これは以前から行われている調査の対象者数を引き継いでいるためです)。

調査結果は、「みえ県民力ビジョン」の政策分野ごとの実感の推移を確認するために使われており、政策議論の材料として活用されています。

調査結果により、三重県では、家族や結婚、子供を持つこと等が幸福実感と密接な関係にあることがわかりました。この結果を踏まえ、家庭教育の充実に取り組んでいます。また、「伊勢志摩地域・東紀州地域」の幸福感が上昇した理由として「伊勢志摩サミット」の影響が考えられることも踏まえて、ポストサミットの取組を進めるなど、意識調査の結果得られた指標の動向が、事業に活用されています。

まとめ

この研究から明らかになったことのひとつは、幸福度指標の作成の際には、地域の特性を踏まえることが重要だということです。例えば早い時期に取り組みをはじめた荒川区では、日本国内では前例がなかったため、ブータンに職員を派遣し、取り組みの参考にすることを考えていたそうです。しかし、ブータンの取り組みをそのまま荒川区に用いることはできませんでした。荒川区という地域の特性を踏まえて、指標を作成する必要があったのです。

地域には、さまざまな状況や背景があります。指標が地域課題の発見や総合計画の進捗管理に使われるのであれば、必要とされる項目は地域ごとに異なります。今回調査した自治体の指標や意識調査の項目を見ると、いずれも地域の特徴を捉えた内容が含まれています。


地域の特色を踏まえた自治体の幸せ指標づくりの動きは、これからも広がっていくのでしょうか? JFSでは今後も自治体の幸せ指標の動向についてご紹介していく予定です。

〈JFS関連記事〉
持続可能な幸せ社会を目指す荒川区の取り組み ~「荒川区民総幸福度(GAH)」とは~
https://www.japanfs.org/ja/news/archives/news_id034214.html
「幸福度の高いまち」を目指して ながくて幸せのモノサシづくり
https://www.japanfs.org/ja/news/archives/news_id035388.html

〈参考〉
ESRIリサーチ・ノート「社会指標に関する自治体の取組」
石田絢子(内閣府経済社会総合研究所行政実務研修員)
市川恭子(内閣府経済社会総合研究所主任研究官)
http://www.esri.go.jp/jp/archive/e_rnote/e_rnote030/e_rnote030.pdf

※ESRIリサーチ・ノートは研究者個人の責任で執筆されており、内閣府経済総合研究所の見解を示すものではありません。本稿は、ESRIリサーチ・ノートの内容を分かりやすく説明するため、JFSが構成等を変更しています。

編集 新津尚子(スタッフライター)

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