ニュースレター

2017年04月28日

 

これからの社会を創る「いい会社」を支える

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JFS ニュースレター No.176 (2017年4月号)

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よりよい社会づくりにつながるお金の流れをつくるため、日本でもさまざまな取り組みが進められています。

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今月号のニュースレターでは、幸せ経済社会研究所のウェブサイトに掲載された、鎌倉投信株式会社取締役資産運用部長の新井和宏氏へのインタビュー(聞き手:JFS代表 枝廣淳子)より、「いい会社」に投資することでよりよい社会づくりに近づけていこうとしている投資会社の考え方を紹介します。

お金が直接「いい会社」に届くように

――15年ほど前、ある環境金融シンポジウムで「30年間クローズド*の未来世代のためのエコファンド」を提案したら、「そんなものは成り立たない」と失笑されましたが、鎌倉投信はそれ以上のものをつくってくださいました。もともとは、ファンドマネージャーとして、今とは真逆のことをしていらした。何が一番大きな転換点だったのでしょうか。

*クローズド(ファンド):募集期間があらかじめ定められており、償還期限前の解約が原則として出来ないファンドを指す。

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新井和宏氏
(c) 2017 幸せ経済社会研究所

前の運用会社に勤めていた時にSRI(社会的責任投資:Socially Responsible Investment)ファンドが登場しはじめて、私自身も運用者として関心を持って見ていました。でも、スコアが高くなるようにいろいろなCSR活動をやっているだけで、将来に対して何のメッセージもないわけですから、それを見て判断してもしかたない、うまくいかないと私たちは結論づけた。そして、そうでないものをつくりたいと思ったのが1つの要因です。

もう1つは、法政大学の坂本光司先生のご本(『日本でいちばん大切にしたい会社』あさ出版)に出会ったことです。ファンドマネージャーとして、僕が追究していた以外のもののほうがよっぽど大きいということに気付かされました。そこで坂本先生と一緒にいろんな会社を回らせていただきました。これが大きなきっかけになったことは間違いありません。

お金で預かって幸せで返す

――投資先や運用方法を本やウェブで公開されておられますが、他社は追随しない。そのようなビジネスモデルはどのようにつくられたのですか。

「いい会社を応援する仕組みをつくる」ことを優先したかった。「いい会社に投資する」条件で、最大限のパフォーマンスを出すなんて、普通の人は考えない。僕は割り切ったからできた。ほかのプロの運用者にはできないと思います。

投資信託というのは「お金で預かってお金をお返しする」商品です。でも、私たちは「お金で預かって幸せで返す」と決めたんです。そのための3要件を考えました。1つは、お金は増えなければいけない。もう1つは、そのお金で、投資先の会社が社会を豊かにしてくれなければいけない。最後の1つは、それによってお客様の心が豊かにならなければいけない。この3つが揃えば、お客様は幸せになれるだろうと考えたわけです。ここが多分、鎌倉投信が特異な運用会社である源泉になっているものではないかと思います。

鎌倉投信は運用して7年で1万6千人の方々に240億円ほどを預けていただいています。設立当初に比べて、マイクロファイナンスやクラウドファンディングなど色々な資金調達方法や社会的企業(ソーシャルベンチャー)の新たな形が出てきている中で、自分たちは本当に必要とされる金融なのかを問い続けています。私たちの立ち位置は、ベンチャーキャピタルによって社会的企業が急成長を求められることなく、「いい会社がいい会社のまま成長できる」ように、「上場の代わりになるようなもの」を提供していくべきであろうと思っています。

――同じような事業に参入する企業は出てきているのでしょうか。

投資信託で同じような商品が入ってくるかというと、次元がまだ一世代違っているかなと思います。具体的に言うと、今SRIからESGへという流れがあって、僕らがやっているのはCSV投資であり、インパクト投資を併せ持ったものになっています。僕らはこれをサステナブル投資と言っていますが、まだ時代がそこまでついてきていないと思っています。

ただ、クラウドファンディングといった形でインパクト投資に近いものがたくさん用意されてきていますし、東京証券取引所の中でも「社会的企業には特別に制度を設けなければいけない」という議論もあって、少しずつ変わりつつあるのかなと思っています。自分たちが大きくなって社会全体を変えようというつもりはまったくなくて、私自身は「こういうものがあってもいいんじゃない?」という提案をしているつもりです。

これからもたくさんいろんな取り組みが増えてきて、また少し淘汰されて、そうして社会はよりよいほうへ流れていくんじゃないか。自然でシンプルなものしか残らない、複雑で不自然なものはすべて淘汰される、と私たちは考えているんです。ですから事業もシンプルでなければいけないし、いろいろなことをやっている会社は投資先にはならない。複雑な事業はメッセージも届きにくいですから。

――新井さんたちがちゃんと投資先の会社を回ってよい社会と財産の形成をつないでくれていることへの受益者からの大きな信頼に対して、どのように対応されていますか。

資産形成について私たちがまずお客様に言うのは、5%の期待リターンなんですね。これには根拠があって、実は日本の企業は、「失われた20年」と言われた期間にも5%程度は成長しているんです。ですから、長期的には5%のリターンは可能だと考えています。

あくまでも企業が稼ぐ分だけきちんとリターンが出るように運用すればいい。いま1社当たり3億円の投資で、株価が下がったら買い足し、上がったら売って3億にすることを毎日やっています。市場が大きく動いていたとしても、リスクを小さくして日々稼いでいるので、短期的に負けにくく、結果はおのずとついてくる。私たちは最初から「高い報酬はいらない」と言っています。低いリスクで、相対的には低いリターンだけれども、報酬も業界標準より低くていいから成り立つんです。

もう1つは、社会というテーマでやっていることです。私たちが儲けだけを考える投資をやれば、当然ながら期待リターンも高くなるでしょう。それをやらないから、大きいリターンは得られないと思っている。ただ、その分リスクは小さくできるから、それで勝負をしていこうと考えています。

投資先のファンになる

投資先であるいい会社を一覧にして公開して、自分一人では目が届かないところを、受益者1万6千人の目で見ています。ほぼ毎月のように、運用報告として現地にお客様をお連れして、どういう会社か実際に見ていただきます。「この会社を支えなきゃ駄目だよな」と思ってもらえる機会をどれだけ増やせるか、私たちがやっているのは、「投資先のファンになりましょう」ということ。お金も出し、消費者にもなります。

悪いところがあれば「こんなことをしていますがいいんですか」とのお客様からの指摘をその投資先に伝えます。その対応を見て、いい会社か、投資を継続するかを判断します。「一部のお客さんが言っているだけでしょう」とクレームを宝にできない会社は、"その程度の会社"ということになります。

企業は人でつくられているので、人間そのものです。人と同じように、会社にも個性があったほうがいい。得意・不得意、無駄や失敗もある。完ぺきである必要はないのに完ぺきを求めようとするのは、おかしいと思います。目指すべきところがちゃんとしているほうがとても大切で、魅力的で、人間らしいことです。

投資先やお客様とのつながりも、すごく古くさいものにしたい。昔あった金融を新しい形で取り戻したいんです。信頼や共感でつながっていて、心地いいのが成立することを証明したい。すごく非効率に見えますが、鎌倉投信の経営理念は3つの「わ」、日本の心を伝える「和」、心温まる言葉を大切にする「話」、社会や人とのつながりを表す「輪」ですから、企業と投資家、そして企業と企業が協力をして歩んでいく、そういう構図をつくりたいと思っています。

昔の金融機関は、「こういう社会にしたい」という世界観、社会観にお金を投じることで、より早くよりよい社会に近づける、ということをやっていたはず。それが今、短期的な利益がすべてになってしまって、長期的な思考が全部失われてしまったんです。

現場を信じることができなくなったときに企業は大企業病になる

――日本はどこで長期的な思考を失ったのでしょう。

やはりバブル崩壊と、それに伴う不良債権処理としてバーゼル規制*がかかったこと。こここそが転換点だと思います。

*バーゼル規制:主要国の中央銀行が加盟するバーゼル銀行監督委員会が定めた、国際的な金融活動を行う銀行について信用リスクなどを担保するため一定以上の自己資本比率を保つこと等を求める指針。

現在、担保がなければ不良債権のように扱われてしまいます。人でなく、機械が判断してほぼ決まってしまう。みんな心や想いがあったはずなのに、「管理型になった瞬間に終わるんだな」と思います。これは大企業にも言える。現場を信じないというのもそうですね。

そうではないあり方もあります。ヤマトホールディングスさんが投資先になっている理由は、あれだけの大企業になっても現場を信じているから。それができなくなったときに、企業は大企業病になる。完全な管理下におきたいのは、評判リスクを避けたいからだけでしょう。そこをヤマトさんは外から何と言われて傷付いても、現場を信じ続ける姿勢は変えない。意識がすべて「現場」に向いていて、現場を支えるために本部があるとみんなが思っているわけです。それが企業文化そのものになっています。この会社は「おかしい」んです(笑)。

いい会社は、やはり現場を見ないとわかりません。感動的な話はそこにあるんです。だから私たちは「いい会社」をお客様に見て、知っていただいて、こんなすてきな会社があるんだ、と自分のお金が役に立っていることを誇りに思って、喜びに変えてほしいんです。

サービスはほぼ同じの、ほかの運輸会社さんとヤマトさん、どちらを選ぶかといえば、純利益の4割、142億を東北に寄付する会社のほうがいいに決まっていると思いませんか。そういう選択をしてもらえるよう、企業の社会価値を上げていく。「この会社はいい会社だ」と言う。いい会社になるように一生懸命支える。その結果として、お客様の満足にもなる。本来、株主はそういうものだと思っています。

ステークホルダーは「地球」

――ご著書(『投資は「きれいごと」で成功する』ダイヤモンド社)のなかで、「いい会社の見つけ方」として「大量生産・大量消費を目指さない」「必要なものを、必要な分だけ。その考え方が、現代を生き抜く商品やサービスを生む」とあって、そのような会社が増えることが鍵だと思っているんですが、このあたりはどのように見ていらっしゃいますか。

まず「大量生産・大量消費を目指さない」と掲げてほしい、というのが1つ目です。製造業でもサービス業でも、それが最も必要で、現実にそう言っている会社は存在します。たとえば、長野にあるKOA株式会社。スマートフォンなどに入っている電気の抵抗器を作っているメーカーで、とても需要があるので、大量生産・大量消費を歓迎するだろうと思うのですが、違うんです。森の中にある会社で、森林塾も運営されていて、ステークホルダーに「地球」と書いてある。そういう会社を私たちは守らなければいけない。

この会社はほかの機関投資家から ROE(自己資本利益率・Return On Equity)が低いと言われます。彼らのROEが低いのは、本社工場以外に村単位で工場があるからです。もともと養蚕が盛んな地域で、代替産業として、電器分野に参入しました。電器の抵抗器は一番短いラインなら、2メートルぐらい場所があればいいので、昔と同じように各村に工場のラインを置いているのを「無駄」と言われるわけです。一般的に「本社にまとめれば1個所で済んで効率的」と言いますが、そこで効率性を追っては駄目です。地域の雇用がなくなれば、若い人は出ていって過疎化が進んでしまいます。そんなことをしてはいけない。

各村に工場があることで社会価値がどれだけ生み出されているのか僕らがきちんと数字で報告する。それで、彼らの職を守り、維持できるようにする。株主として「この経営方法を続けなさい」と言い続けなければいけない。企業の社会価値を上げれば、ファンが増える。商品やサービスが飽和している中で消費者が何を選択するかというと単純に、「共感」です。

――鎌倉投信では、投資の果実 =「資産形成」×「社会形成」×「こころの形成」だとされていますよね。資産は数値化できますが、社会やこころの形成はどうやって見える化するのでしょうか?

まず、こころの形成は測りようがないので、お客様に「幸せですか」と私たちが問い続けることです。社会形成は、私たちが数値化したり、標準化するのは、個性をなくす危険性があると思っています。いい会社というのは、個性が際立って、とがっていなければいけない。だから、とがっている所をもっととがらせる。

社内の人が「自社の数字にならない」と言い始めるのを納得させるには数字で対抗するしかない。そのためのリサーチ費用は鎌倉投信が出していて、投資先企業に出してもらうつもりはありません。それを企業に言わなければいけないし、お客様にも伝えて、役に立っているかどうかを理解し、かつその会社を自分が支えているんだと思っていただけるようにしないといけません。

社会性など、数字で全部測れるわけがない。ですが、数字があることで相手を説得できるのであれば利用する、それぐらいの位置づけです。数字で何でも測れると思ったときに、お金、成長、効率の話が前面に出てくる。数字で測れないもののほうがよほど大事だとわかっていれば、愚かな選択をしないで済むはずです。

「お金」と「働く」教育を

――そのうち新井さんたちが本流になる日が来ると思うんですけど、それまでは前のような仕事をやっている人たちが扱うお金と影響が大きいですよね。そのような中で、どこから変えたらいいのでしょう。

僕が今注力しているのは子どもへのお金の教育で、2017年5月に高校生向けに「お金」と「働く」というテーマで本を出す予定です。「お金」と「働く」って、密接に関係しているのに、何のために働くのか考えもしない。実際にはそんなことはないのに、子どもたちは小さいころから、必死に勉強して年収1千万円ないと幸せになれない、と大人に洗脳されている。そもそも、人ってなぜ生きるんだろう、幸せになるためでしょう、そのための手段がいろいろあって、お金はその1つでしかなくて、全部ではないことに早く気づいたほうが幸せになる。「お金は目的にならないから、まず幸せになることから考えようよ」という本です。

日本ほど幸せになれる条件が揃っている国はないです。1つには、もう(国内の)人口増加に問題意識を持たないでいい。もう1つ、日本には企業文化の中に三方よしを考える社会がある。「もったいない」も「おもてなし」も存在する。モノやサービスはもう足りているからいいじゃないかと精神を満たすものをどんどん増やして、最も精神性を重視する社会に移行できるはずです。社会課題だらけだからこそ、素晴らしいものをつくり上げることができる、日本は世界で最初に次のステージに行けるポテンシャルを持っている。

――最後に2つお聞きします。1つは、私たちの暮らしや日本経済は、このまま続いていくのか。もう1つは、新井さんが次に力を入れていくのは何か。

残念ながら、日本の自動車と電機という二大産業の構造は崩れるでしょう。今後どんなにベンチャーが大きくなっても、大きな産業が小さくなるスピードのほうが速いので、結果、雇用が減じてしまう。でも、成長する分野は必ずある。それが、社会課題に対応して「社会に必要とされる」会社です。ただ、構造変化の次のステージに移ったときには、そこまでの成長はいらないと思う。モノやサービスがそんなにいらなければ、お金で測れない、GDPに出てこないような取引量がもっと増えると思いますが、大きな日本株全体の成長はないだろうというのが、もともとの考えです。

次にやっていかなければならないことはたくさんあります。1つは、社会課題にまだまだ自分たちが対応できていないこと。社会課題というのはこれからもたくさん出てくるので、最前線の人たちに話を聞いて、その中で自ら動いて、社会起業家を育成し、しっかりサポートしていきたいですね。

お客様の財産が増えていくにつれ、結果的に鎌倉投信への報酬が増えていきます。一定のコストを除けば、ここから先は利益が膨らんでいくだけなので、その一部を寄付などの社会貢献に回すことに決めていて、今度は寄付先として「いいNPO」のリスティングを検討しています。贅肉だらけの、財務、経営、開示が駄目なNPOをなくし、筋肉質の、きちっと食べていけるNPOをつくっていきたい。「いい会社」と「いいNPO」のリスティングは起業した当時から考えていて、やっと入り口まで来たかな、という感じです。

「結い2101」の説明会に赤ちゃんを連れてきたお母さんから、「この子のために加入します。この子が大きくなったとき、いい会社がもっと増えてほしいと思うから」と言われました。本当にうれしい。こんな素敵な人たちがいる国ですから、素敵にならないわけがないです。

――本当にそのとおりですね! ありがとうございました。

出典:幸せ経済社会研究所ウェブサイト
http://www.ishes.org/interview/itv12_01.html

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