ニュースレター

2016年11月15日

 

成長に向けて大きく変化、日本のサステナブル投資市場

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JFS ニュースレター No.170 (2016年10月号)

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イメージ画像: Photo by RaphaelaFotografie.

日本のサステナブル投資は、これまで個人投資家が中心だったため、世界の市場規模の1,000分の1にも満たない非常に小さいものでした。

JFSニュースレター No.149(2015年1月号)
SRI拡大に向けた日本の現状と課題
http://www.japanfs.org/ja/news/archives/news_id035165.html

しかしながら、2014年2月に日本版スチュワードシップ・コードが策定され、2015年6月にコーポレートガバナンス・コードが発表されたことで、日本でも機関投資家によるサステナブル投資への動きが起きています。

今月号のニュースレターでは、NPO法人日本サステナブル投資フォーラム(JSIF)の快諾を得て、2016年3月31日に発行された『日本サステナブル投資白書2015』エグゼクティブ・サマリーより、成長に向けて大きく変化している日本のサステナブル投資市場についてお伝えします。


第1章:機関投資家の動向

1999年の第一号ファンドによって生まれた日本の責任投資市場は、長い低迷の後、2014年の日本版スチュワードシップ・コード導入によって再拡大の兆しを見せ始めている。日本版スチュワードシップ・コードは、その後に導入されたコーポレートガバナンス・コードとともに車の両輪となり、日本の投資家と企業との関係を変える誘導役としての役割を担っている。

筆者の一人である金井氏は、「日本において企業と投資家は、長きにわたって相互不可侵の関係にあった」と述べている。資本市場から資金を調達しているという意識が薄い日本企業と、企業を「所有」しているという感覚をほとんど持たない投資家の間には、暗黙に「互いに侵略せず」の精神があり、日本版スチュワードシップ・コードがどこまでその関係に変革をもたらすことができるのか期待される。

もちろん、世界最大の運用規模を持つGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)の日本版スチュワードシップ・コードへの署名とPRI(責任投資原則)署名は、否応なしにこれまで世界の潮流に取り残されていた日本のマーケットを変えていくだろう。また、米国労働省が示したエリサ法における「ESGが投資の経済的・財務的価値と直接的な関係がある場合、運用の際に考慮すべき要素となる」という見解も、日本の機関投資家に大きな影響を与えるだろう。

なぜなら、これまでのエリサ法の受託者責任への解釈によって、(筆者の表現を借りると)「SRIはエリサ法の信奉者から目の敵にされてきた」ものであり、日本においても古い受託者責任の解釈は「ESG関係者の頭上を覆っていた暗雲であった」からである。その暗雲が取り除かれ、日本においては、GPIFのPRIへの署名と時期も重なり、公的・企業年金基金が責任投資を本格的に開始する条件が整ったと主張されている。

しかし、日本の年金基金の実情を踏まえると取り組むべき課題は多い。自家運用をしない日本の年金基金がどこまでESGを投資プロセスに組み込む意思のある運用機関をパートナーとして選べるか、モニタリングし、マネジメントできるかという挑戦と、これまでのようにアクティブ運用の一つとしてESGを捉えるのではなく、投資プロセスの中にESGを組み込んでいく「ESGインテグレーション」への挑戦が鍵となろう。

本章では、日本のアセットマネージャーの事例として、三井住友信託銀行のESGインテグレーション事例と、りそな銀行松原氏よりりそな銀行の責任投資事例が紹介されている。また、長きにわたってサステナブル投資を研究対象としてきた高崎経済大学水口教授が海外からの視点で日本の動きを見た感想をコラム寄稿されている。

第2章:個人投資家の動向

日本で唯一、16年間にわたってSRI投資信託市場の動向をデータで捉え、分析を加えて世界に発信する社会的責任投資フォーラム白書の一つの目玉となる章である。

過去16年間の市場動向も合わせてご覧いただきたい。1999年にSRI投資信託が設定されて、2007年の残高1兆円超えから、リーマン・ショックでの資産残高半減を経験したSRI投資信託市場は、2011年後半からは2100億円~2600億円程度の水準を維持して推移している。しかしながら、直近2年間でのSRI投信残高は2013年9月末の2440億円から2160億円へと11.3%減少を記録している。

SRI投信を投資対象と評価項目別に分類し、その純資産残高を2013年9月末時点と比較すると、投資対象別では国内株式型が42.4%から54.5%に増加し、国際株式型は50.0%から40.2%に減少した。評価項目別では、これまでは環境を評価項目としたファンドが純資産残高全体の7割以上を占めていたが、2015年9月末時点では58.6%まで減少している。

トータルでは依然として「国際株式型×環境」が最も大きな部分を占めているものの、やや分散が進んでいる。SRI投信の新規設定・償還の状況を見ると、SRI投信の本数は2010年6月末時点の94本をピークに減少傾向に転じたが、その後下げ止まり、2015年9月末時点では74本となっている。2011年前半から3年以上にわたって新規設定がない状況が続いていたが、2014年後半からは償還本数を上回る新規設定が見られるようになっている。

評価項目別に見ると、直近2年間に新規設定されたSRI投信10本のうち6本が、ウーマノミクス(女性活躍)をテーマとしていることが特徴として挙げられる。SRI投資信託の資金フローを見ると、SRI投信のネットの資金流入出額ベースでは、純減が続いている。

2007年まではファンドの設定に合わせて資金が流入する様子が見てとれるが、リーマン・ショック後の市況の混乱を経て、2010年以降はファンドの新規設定・償還の動向にかかわらず、資金フローの純減が恒常化している。再びファンド本数が増加を始めた2014年後半以降も純減が続いた。

近年は比較的良好な投資環境が続いており、運用効果による純資産残高の増加が見られるが、解約・償還による資金流出に相殺され、トータルでは純資産残高の増減がほとんどない状態が続いている。本節の執筆に当たっては、分析は筆者大竹氏によるもので、株式会社QUICKより各種データをご提供いただいた。

また第2章では、社会貢献型債券市場の動向にも触れている。日本では、2008年3月の日本国内での第一号案件が個人投資家対象に販売されたが、社会貢献型債券は、個人投資家向けの累計販売額が2014年に1兆円を突破し、2015年9月末時点で累計販売額1兆1205億円、発行残高5642億円となっている(発行時為替レート換算。中途売却による残高減加味せず)。

2013年9月末時点と比較すると、累計販売額で3279億円の増加、発行残高で896億円の増加となっており、2008年の登場以来、7年経った今でも増加傾向を維持している。また、2013年11月に販売された国際金融公社による「女性の力応援ボンド」という日本の社会貢献型債券で初めてジェンダーをテーマとした商品も販売開始された。

社会貢献型債券の新たな成長や動きの背景について、筆者徳田氏は「1.利害関係者の方向性の一致」、「2.シンプルな商品性と高金利通貨」、「3.ベスト・エフォート型の普及」の3点をポイントとしてあげている。一方、機関投資家を対象とした発行・販売においても、生命保険会社を中心として社会貢献型債券への投資を成長投資として位置づけ、機関投資家による好意的な動きが見られる。日本政策投資銀行や三井住友銀行など邦銀からのグリーンボンド発行もはじまっており、投資家側・発行体側の双方からモデルケースとなる事例が出始めている。

第3章:株主行動

2014年2月に施行された日本版スチュワードシップ・コードへは、2015年11月末時点で海外機関も含め合計201機関が署名している。国内の主な運用会社はそのほとんどが署名しており、アセットオーナーとしてGPIFをはじめとする公的年金や企業年金、生命保険会社等も署名している。

一方、2015年6月1日付で施行された「コーポレートガバナンス・コード」は国内上場企業を対象とするものであり、市場1部、2部上場企業はすべての原則について遵守か説明の義務を負う。これに伴い、コーポレートガバナンス報告書の様式が変更され、2015年6月以降に開催される年次株主総会の日から6か月以内に新様式での報告書提出が求められることとなった。2015年11月末までに全上場企業の約3割にあたる1,089社が報告書を提出している。

しかしながら、このコードは法律ではなく、英国流の「遵守するか説明せよ(comply or explain)」というプリンシプルベースであることに対して、筆者山崎氏は「今まで日本ではルールベース、つまり守るべき規制を定めてそれを遵守するというやり方だったことから、まだ説明に慣れていない状況であるといえよう」と述べている。

ふたつのコードを結ぶキーワード「エンゲージメント」にも期待が高まる。建設的な対話の一つの形であるESGの株主提案、総会での議決権行使の動向においても変化が起こりつつあるという。

例えば、近年では、単独の個人株主や機関投資家、もしくは大株主(個人、投資会社や自治体等)によって提案される例が増え、これらの多くは、取締役や監査役の選解任や企業経営の透明性向上を要求するといった企業経営への関与を深めることを目的とするケースが多くなっている。日本の投資家による「建設的な『目的をもった対話』」、つまり企業活動や体制の改善など、変化を促すための対話に期待が高まる。

第4章:サステナブル・ファイナンス

金融の持続可能性に向けての様々なアプローチ(ファイナンシング、コミュニティ投資、環境不動産、プライベートエクイティ)について日本の動きを紹介している。

金融行動原則について紹介された筆者竹ヶ原氏によると、「21世紀金融行動原則」へは2015年9月現在、署名機関数は195に拡大し、銀行、証券、保険の主要大手はもとより、全国の地方銀行、信用金庫等を広くカバーするに到っている。形式的には、ESG投融資を展開するための業種の壁を越えた基盤は整ったといえる。しかしながら、今後の発展に向けて、金融機関による自立した活動や署名機関間での温度差といったような課題をクリアする必要がある。

コミュニティ投資、クラウドファンディングについて、筆者多賀氏によると、2015年12月1日時点で、NPOバンクは25団体となり、2015年3月末時点での生活困窮者向けまたは社会的企業を主な融資対象とする14団体の融資累計は32億円あまりとなっている。

制度面では、2014年の金融商品取引法改正により、マイクロ投資ファンド(投資型クラウドファンディング)のうち集団投資スキームに対する規制緩和が進み、休眠預金の活用については2016年1月からの通常国会での法案成立を目指した議論が続いている。

2015年の通常国会に提出された法案によると、コミュニティ投資の担い手がこれらの休眠預金の「資金分配団体」として位置付けられている。本節では、沖氏がマイクロファンド投資について、自身の経験を盛り込んだコラムを寄稿している。

環境不動産もサステナブル投資の分野で期待が高まる分野である。これまで、日本においては世界的な環境不動産認証(例:LEED)を取得する建築物やプロジェクトはほぼ皆無であったが、筆者平松氏によると、ここにきて認証取得に成功する案件が出てきている。

日本の建築物は一般的にエネルギー効率などの環境性能が良いとされてきたが、それを世界的に受け入れられている認証システムで証明することで、あらたな責任投資分野での投資機会の拡大にアピールポイントとなるであろう。

わが国には386万社の企業が存在しており、上場企業が日本国内の3,500社であることから、実にその99.9%は非上場企業である。もちろん、実際の投資対象は選択されるわけであるが、筆者である棚橋氏は「日本の全従業員の69.4%が中小企業で働いており、53.3%の付加価値が創出されていることを考えるとPEというセグメントへの投資を真剣に考えることこそ、サステナブルな日本経済発展を考えることになると考えるのは自然な発想であろう」と述べている。

本節では、まだ上場株式投資が中心の日本の責任投資に対して、プライベートエクイティ投資での責任投資の発展に向けて、プライベートエクイティを実践するにあたってのポイントが述べられている。

筆者後記

エグゼクティブ・サマリー執筆者がSRI(社会的責任投資)という言葉と出会った16年前は、「よい企業に投資すればよいパフォーマンスが期待できる(はず)」という漠然とした"思い"に(社会的)責任投資推進者は頼っていたような気がする。

そして、それは明らかにごく一握りのマーケットの推進者の間での議論であった。しかし、今は違う。日本は大きく動き始めた。投資の様々な場面でESGやスチュワードシップが議論されるようになり、様々な投資実務者は「なぜESG投資が必要なのか」という議論から「どのように実践するか」という議論をするようになってきている。

次の白書が出るまでの2年間で、日本は本格的にESG投資を根付かせることができるだろうか。日本の投資家(機関投資家・個人投資家)によるさらなる議論と実践が期待される。日本のサステナブル投資を引っ張る執筆者たちの執筆内容を咀嚼する中で、またここから10年、15年経ったとき、「自分はあの変革に関わっていた」と誇らしく振り返る人がより多く生まれれば良いという思いに駆られ、エグゼクティブ・サマリー執筆者の余計な私見に紙面を割いてしまった。

JSIF 日本サステナブル投資白書2015(2016年3月31日発行)より
http://www.jsif.jp.net/wp

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