2014年09月09日
JFS ニュースレター No.144 (2014年8月号)
日本では、2013年12月に「強くしなやかな国民生活の実現を図るための防災・減災等に資する国土強靱化基本法」が成立し、内閣に総理大臣を本部長とする国土強靱化推進本部が設置されました。事務局として実作業にあたっている内閣官房の国土強靱化推進室の担当者にお話をうかがいました。
背景
日本では過去に大きな災害が何度も起こっています。1959年の伊勢湾台風では5,098人に及ぶ死者・行方不明者が出ました。これを契機に、今日の日本の防災対策の原点である「災害対策基本法」が制定されました。
伊勢湾台風(1959年)
Photo by 京都大学防災研究所 Some Rights Reserved.
1995年の阪神・淡路大震災は、震度7の直下型地震が大都市を直撃し、死者の約8割が家屋の圧壊等により亡くなりました。密集市街地を中心とした大規模な市街地延焼火災の発生、高速道路の高架橋の倒壊など、多大な人的・物的被害が発生しました。この時の教訓から、住宅・建築物の耐震化、木造住宅密集市街地対策を強化するとともに、インフラの耐震性強化に着手しました。このように、大きな災害のたびに、ハード対策を念頭に置いた設計基準の強化などを図ってきたのですが、事後的な対応が中心でした。
阪神・淡路大震災(1995年)
Photo by 松岡明芳 Some Rights Reserved.
観測史上最大のM9.0の巨大地震と最大40mを越える大津波が発生した東日本大震災では、防潮堤などは津波を遅らせる等の効果がありましたが、完全に防ぐことはできず、多数の死亡・行方不明者が出る大災害となりました。また、多数の帰宅困難者の発生、ガソリン不足などが深刻な問題となりました。一方、「釜石の奇跡」のように日ごろからの防災教育に基づいた避難行動が多くの命を救った例もありました。
東日本大震災(2011年)
Photo by ChiefHira Some Rights Reserved.
「釜石の奇跡」 3,000人の生徒達はどのように3.11から助かったか
http://www.japanfs.org/ja/news/archives/news_id034283.html
東日本大震災の教訓は、これまでの「防護」という発想による個別のインフラ整備中心の防災対策だけでは限界がある、ということです。ハードとソフトを組み合わせて、もっと社会・経済の全体の強さとしなやかさ、強靭性を高めていく必要があります。
経緯
東日本大震災後、自民党に国土強靭化調査会が設置され、2年間検討を重ねました。2012年12月に第2次安倍内閣が発足した際、内閣の重要事項として国土強靭化に取り組むため、内閣に「国土強靭化担当大臣」を設置。2013年1月に内閣官房に設置された国土強靭化推進室が事務局となり検討が進められるとともに、同年12月に議員立法により国土強靱化基本法が成立しました。
「国土強靭化」は「防災」とどう違うのか
防災は、「災害が起きた後にどう対応するのか」という緊急対応が主眼です。「地震が起きたとき」「原子力災害が起きたとき」といった分類で対応マニュアルがまとめられています。一方、平時からどうやって命を守り被害を軽減していくのかについては、今までの防災の取組だけでは必ずしも十分対応できなかったという反省があります。
東日本大震災の津波がまさにそうでした。例えば釜石の防波堤が崩壊して、まさか来ないだろうと思っている人たちを津波が襲い、たくさんの方が亡くなりました。「釜石の奇跡」のような「逃げる」教育がきちんとされていれば、防げたところもあるでしょう。インフラも大事ですが、それ以上にソフトも大事であり、両方を組み合わせてやっていく必要があるという考え方が防災と違うところです。日本では今後も、首都直下地震や南海トラフ地震などの巨大地震の発生が予想されています。こういった災害への事前の対応力を高める必要があります。
国土強靭化をどうやって進めるのか
有識者の会議で検討し、「国土強靭化の基本目標」を4つ設定しました。
この4つの目標に照らして、(1)リスクを特定、分析、(2)脆弱性を特定、(3)脆弱性評価、対応方策の検討、(4)重点化・優先順位を付け実施、(5)結果の評価、というPDCAサイクルを繰り返し見直しながら、国土の強靱化を推進していきます。
回避すべき起きてはならない最悪の事態を有識者懇談会で検討してもらい、45の「起こってはいけない事態」を設定しました。従来は「地震」「風水害」などのハザードを想定して対応を考えていましたが、今回は、ハザードの種類に関わらず、その影響の結果生じるリスクから出発するところが特徴的です。リスクをもたらすハザードは、まずは自然災害を想定しています。
45のうち、特に「施策の重点化」として想定されたのが、次の15です。
45の「起こってはいけない事態」と12の施策分野からなる45×12の巨大な表を作り、脆弱性評価を行いました。「起こってはいけない事態」のそれぞれに対して、「行政機能」「住宅都市」「情報通信」などの施策分野で、政府の行っている施策を埋めていき、抜けや不足を評価しました。
第1回の脆弱性評価は施策の有無の評価でしたが、その後、基本計画に向けて、進捗状況を指標で示すさらに精緻な脆弱性評価をしました。たとえば、地震時の住宅や火災について、住宅建築物の耐震化率の「2020年度までに95%」という将来目標に対して、現状の進捗評価をして、何が必要かを検討しました。
イメージ画像:Photo by Haruhiko Okumura Some Rights Reserved.
英国や米国でも「国家レジリエンス計画」を設定して取り組みを進めていますが、「起きてはいけない事態」を設定しての脆弱性評価は、日本独自のやり方ではないかと思います。
基本計画には、脆弱性評価によって洗い出した弱点に対して、12の施策分野ごとに具体的にどんな対策を打っていくのかを盛り込みます。たとえば警察消防機能では、救急救命活動に必要な警察の体制強化、消防の緊急対応の派遣隊、TEC-FORCE(テック・フォース)という災害時に現地に行って調査し、必要な対策を立案するもの、人材面の強化などが入ってきます。また、横断的分野として、「リスク・コミュニケーション」「老朽化対策」「研究開発」があります。45のプログラムについては5年間の基本計画を作り、アクションプランも策定し、毎年見直していくことになります。
「国土強靱化基本計画」は、「アンブレラ計画」と呼ばれ、その下に防災基本計画や国土形成計画が位置づけられ、さらにその下に、各省庁の担当しているエネルギー基本計画や食料・農業・農村基本計画、社会資本の計画などが位置します。つまり、国土強靱化基本計画は、防災基本計画や国土形成計画という横断的な計画にも、その下にある個別分野の計画にも反映される仕組みとなっています。
また、国土強靱化法では、地域計画の策定も決められています。都道府県や市町村という単位で、それぞれの地方公共団体が地域の強靱化のための計画を策定できるというものです。政府では、地域計画を支援するため、地域計画ガイドラインを準備しており、モデル調査としていくつかの地域に専門家を派遣し、地域計画の策定に助言を行う予定です。
イメージ画像:Photo by Rikujojieitai Boueisho Some Rights Reserved.
2015年には、10年に1度開催される国連防災世界会議が仙台で開催されます。テーマの1つは「レジリエンス」ですから、そういう場で、国土強靱化に関する海外との情報交換やネットワークづくりもできたら、と考えています。
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JFSでも2015年の国連防災世界会議に向けて、さまざまなレジリエンスの観点からの考え方や取り組みを日本から発信していきたいと思っています。ご期待下さい!
(枝廣淳子)