ニュースレター

2014年08月05日

 

サッカーを通じて環境活動の牽引役に ~ 横浜FCのカーボンオフセット

Keywords:  ニュースレター  地球温暖化 

 

JFS ニュースレター No.143 (2014年7月号)

カーボン・オフセットという言葉をご存知でしょうか。

地球温暖化防止のため、先進国は京都議定書に基づいて二酸化炭素に換算した温室効果ガスの排出量の上限を各国で決めています。省エネなどさまざまな手法で削減に取り組んでいますが、企業や個人の努力だけではどうしても削減できない温室効果ガスが発生してしまいます。

カーボン・オフセットは、その削減しきれない分を、他の場所で削減が実現できた量(クレジット)を購入したり、排出削減や吸収を実現できるプロジェクトを実施したりすることで、排出量を埋め合わせる(オフセットする)仕組みです。

日本のサッカーチーム、Jリーグに加盟する横浜FCは、サッカーを通じて、このカーボン・オフセットに取り組んでいます。皮切りは、2008年7月に開催した「カーボンオフセットマッチ」の試合でした。

その日のスタジアム来場者数×1kgで二酸化炭素排出量を測定し、その排出量に相当する排出権を購入することで、カーボン・オフセットするというものです。2009年からはカーボンフリーコンサルティング株式会社の協力を得て、J2のリーグ戦の全ホームゲームでカーボン・オフセットに取り組んでいます。

2011年は114,074kg、2012年は163,194kg、2013年は146,613kgの二酸化炭素排出量を、それぞれ国内クレジットを用いてオフセットしました。ちなみに、1kgの二酸化炭素量は、液晶テレビ(20インチ)を約54時間見たときの排出量と同じですから、1回のオフセット量が相当な規模であることがお分かりいただけると思います。

2011年には、横浜市を通じて熊本県小国町との連携事業も実施しました。横浜FCは、横浜で開催される九州の4チームとの試合に伴って排出される二酸化炭素(来場者1名につき1kg)を、小国町は横浜FCの選手が九州へ移動する時に排出する20トン分の二酸化炭素と熊本県で開催される横浜FCの試合に伴って排出される二酸化炭素を、それぞれ小国町の森林整備を用いてカーボン・オフセットするというものです。

各試合の後半30分頃には「来場者=CO2削減量」が電光掲示板に掲載され、アナウンスも行われます。このような「見える化」の取り組みは、サッカーファンや地域住民、子どもたちを巻き込んだ新たな温暖化対策の視点からも期待されています。

スタジアムに来てもらうだけでエコ活動に参加してもらえる。スタジアムで横浜FCを応援してチームを盛り上げてもらう。二つの目的を同時に達成できるこの取り組みは、どのようなきっかけで始められたのでしょうか。

横浜FCを運営する株式会社横浜フリエスポーツクラブの執行役員、藤原兼蔵さんは、「常に他のチームと違うことをやりたいと思っていたんです」と言います。

地元自治体である横浜市からの呼びかけで、2008年3月、横浜FCはJリーグのクラブで初となるISO14001の認証を取得しました。その後も「横浜FC環境行動方針」(※)に沿って、事務所の二酸化炭素排出量やゴミを削減し、サッカー教室で子どもたちに環境のリーフレットを配るなど、地域密着の環境活動に取り組んできました。

※横浜FCの「環境行動方針」

  1. 環境負荷を抑える取組と継続的な改善を繰り返し、環境にやさしい組織体制をつくりあげる
  2. ステークホルダーだけでなく、社会全体の環境保全に対する関心の牽引役になることで社会的責任を果たす
  3. 電気などの資源の効率化と無駄な資源の削減によりコスト削減を図る。
  4. 環境マネジメントシステムを維持および改善し、良好な環境を保持する。

一方で、サッカーチームは毎年半数もの選手が入れ替わり、スタッフや体制も変わるなど、人の異動が激しい組織です。その中でも環境の取り組みを進め続けるポイントとして、藤原さんは「スポンサー企業を獲得できること」「スタジアムの来場者数を増やせること」「横浜FCの知名度が上がること」の3つを挙げてくれました。

「我々は環境の専門家ではないので、日頃の事業活動にいかに目的が合致しているかが大事なんです。"環境は本来業務なんだ"という意識で取り組んできました」と藤原さんは話します。

一つめの「スポンサー企業の獲得」のために、エコパートナー制度を設けています。横浜FCを応援してくれる企業の中でも、特に環境分野で応援してくれる企業・行政を「エコパートナー」と認定し、一緒に環境イベントを行ったり、その企業の商品を取り入れたりしています。

たとえば、選手が以前使っていたボディシャンプーは環境への負荷が高いことがわかり、エコパートナー企業が扱う石鹸に取り替えました。紙コップからリユースカップへの切り替え、不要になった本を集めて岩手県へ贈る活動など、エコパートナー企業や行政の存在がきっかけで始まった取り組みが数多くあります。

企業にとっては、試合会場やイベント会場で選手と一緒に活動をPRしてもらえるメリットがありますし、横浜FCにとっても、今まで知らなかった情報を得て、小さくても自分たちにできる取り組みを知ることができるのは貴重な機会だと捉えています。

二つめの「スタジアムの来場者数を増やす」と、三つめの「横浜FCの知名度をあげる」ために考えられたのが、カーボン・オフセットの取り組みです。スタジアムに行くだけでエコ活動に参加できるという気軽さと、横浜FCの企業としての姿勢は、これまでにも各メディアで報道され、企業イメージの向上と環境に対する取り組みの両面において効果を発揮しています。

サッカーや野球など、プロのスポーツチームには、チームそのものがもつ強力な広報媒体力があります。憧れの選手や尊敬するコーチの言動は、子どもたちや一般の人々に大きな影響を与えます。この媒体力によって、普段は環境活動に興味がなく、偶然サッカーを見に来たという人にも、「カーボン・オフセット」を知ってもらったり、企業メッセージを届けたりすることができます。

2014年からはさらに、選手がアウェーの試合会場へ移動することから発生する二酸化炭素量もオフセットする全国初の取り組みも始めました。これによって、ホーム、アウェー問わず、横浜FCの行う試合はすべて、オフセットが実施されることになりました。アウェーの場合のオフセット対象としては、試合会場のある各地域の森林整備やバイオマスを活用した取り組みへの支援が予定されており、横浜FCの環境活動が全国に広がることが期待されています。

「極端なことを言えば、『試合を行わないことが一番エコ』ともいえます。試合をすれば、飛行機や車を使うし、電力も使い、ゴミも出る。ただ、それではつまらないから、乗合バスを使ったり、太陽光発電を使ったりして、減らせるところは減らす。その上で、最低限出してしまったものをみんなで埋め合わせしようよ、というカーボン・オフセットの仕組みは無理のない取り組みだと思いますし、企業ができる経済活動の一つだと思います」と藤原さん。

取り組みを始めてからは、会社全体にも変化が生まれ、スタッフも"当たり前"としてエコの意識を持つようになったという横浜FC。なにより「取り組みを通じて何千人もの人たちがカーボン・オフセットのことを知ったことは間違いない」と活動の有効性に自信を持っています。

「普段届けることができない人に我々がメッセージを届けることができるのであれば、エコパートナーさんや専門家の方からアドバイスをいただきながら、ぜひお手伝いしていきたい」と藤原さん。そのためには、まずはチームが強くなって媒体力を上げ、発信力を高めていきたい、と今後の目標を話してくれました。

海外のサッカーチームと比べると、スタジアムなどハード面での環境対策など、日本はまだ遅れている部分もあるといいます。でもサッカーは、地域との結びつきが強く、地域への貢献意識も非常に高いスポーツです。全国各地に拠点をおく各サッカーチームが牽引役となり、それぞれの地域の特徴を活かした環境活動を市民と一緒に行う――その取り組みの広がりに今後も期待しています。

(スタッフライター 横山佳代子、枝廣淳子)

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