ニュースレター

2014年03月18日

 

食料ロス・廃棄問題の解決を目指す共創型プロジェクト「フードロス・チャレンジ・プロジェクト」

Keywords:  ニュースレター  3R・廃棄物  食糧 

 

JFS ニュースレター No.138 (2014年2月号)


イメージ画像: Photo by epSos .de Some Rights Reserved.

「人が消費するために生産された食料の概ね3分の1が世界中で失われ、捨てられており、その量は1年あたり約13億トンになる」――2011年に国際連合食糧農業機関(FAO)が発表した、世界の食料ロスと食料廃棄の現状です。世界には飢えに苦しんでいる人が約8億4200万人いることを考えても、見過ごせない問題です。

日本では、年間約1800万トンの食品廃棄物が排出されており、このうちいわゆる「食品ロス」とよばれる「本来食べられるにも関わらず廃棄される量」は500~800万トンと試算されています。

このようにまだ食べられる食料が廃棄されている問題(=フードロス)を解決しようと、2012年12月に発足した「フードロス・チャレンジ・プロジェクト」をご紹介します。

日本では、食事の前に「いただきます」という挨拶をします。これは、他の生き物の命をいただくこと、作ってくれた人、「食べる」ことへの感謝を表す言葉です。私たちにとって、まだ食べられるものを捨てなければならないこと、それは決して気持ちのいいことではなく、どこか後ろめたいことです。なんらかの理由で店頭に並べられない商品を廃棄しなければならないことは、経済的な損失にもなります。

それなのに、なぜこのように多くの「フードロス」が生じているのでしょうか? 消費、生産、流通、様々な場面で発生する「フードロス」、そして、毎日の食を通してその仕組みの中に多かれ少なかれ何らかのかたちで関わっている私たち――問題が起こる社会の仕組みそのものを見直す必要があるのではないでしょうか?

食べ物を買い、消費する個人から、生産する農家、製造する事業者などがそれぞれ削減に取り組むことは非常に大切なことです。しかし、生産から消費までの各段階が複雑に影響しあっている食品ロスの問題に対しては、関係する多様なセクターを巻き込み、協働で取り組みながら、新しいアプローチをつくり出すことが必要です。

このように考えた「フードロス・チャレンジ・プロジェクト」は、農業・漁業生産、加工メーカー、流通、小売などの"食のバリューチェーン"に関わるさまざまな企業や組織と、食に関する専門的知見を有する行政、NPO、大学などの各種関係者が一堂に会し、フードロス問題の構造を全体的な視野から把握し、対話を重ね、課題解決のためのアクション創出することを目指す「共創型プロジェクト」として立ち上げられました。

このプロジェクトは、元国連食糧農業機関(FAO)日本事務所の大軒恵美子さんが代表を務め、博報堂bemo!チームが事務局として関わっています。そのほか、NPO法人ハンガー・フリー・ワールド、慶応義塾大学システムデザイン・マネジメント研究所ソーシャルデザインセンターなどとパートナーを組んで活動しています。

第一フェイズでは、味の素株式会社、株式会社ニチレイフーズ、株式会社モスフードサービス、東芝テック株式会社の4社が、活動に賛同し、生活者、事業者、NPO、有識者など計約40名から構成される多様な領域の関係者と共にフードロス問題の解決に向けたリサーチを行いました。

まず、食べ物が生まれ、廃棄される段階を知るために、【生産-事業-消費-廃棄】プロセスをめぐる「スタディツアー」にでかけました。農業生産法人、水産加工会社、スーパーマーケット、ホテル、外食、生活者の家庭など、さまざまな現場を共に訪れ、先駆的な取り組みを見たり、生活者の生の声を聞いたりすることで、それぞれの場面でフードロスが生まれる現状やその背景を知ることができました。さらに、個々の参加者の学びを共有し、"全体"に視野を広げることで、フードロスが生まれる根っこにある問題が見えてきました。

一つは、「人と人とのつながりの分断」です。例えば、農作物は気候の影響を受けやすく生産量が安定しません。ところが、そのリスクを取るのは生産者であり、買う側や最終消費者の個人には、そのつながりが見えにくい現状があります。生産者、個人、製造加工場、バリューチェーンの各段階で、それぞれがブラックボックス化して、他のステークホルダーにプレッシャーを与えている仕組みが見えてきました。

二つ目は、自然資源を考える際の「中長期的な視点の欠如」です。漁場、森、水、食べ物を生み出すために必要なエネルギーは有限な資源であり、それらを無駄にすることは、時間の遅れを伴って将来になんらかの影響を及ぼしてしまうのですが、この視点は短期的な経済合理性が優先されすぎるあまりに欠落してしまいます。

それに対する先進的な取り組みも学びました。スタディツアーで訪れた株式会社小田原鈴廣では、かまぼこを作る際に出る残渣を使って肥料を作っています。その肥料を近隣の農家に使ってもらい、その農家でとれた野菜を今度は自社のレストランで使うことで、栄養のサイクルを復活させることを目指しています。鈴廣のビジネスから、かまぼこを作る企業として長期的に水産資源を守ること、持続可能な経営のための時間軸をもつことで、無駄のない循環モデルが実践されていることがわかりました。

このように、実際の事例にふれ、分析を行い、フードロスを生み出すシステムに対してどのようなアプローチが可能か、各参加者がアイディアを検討しました。

また、さらに多くの方々とフードロスという問題について語り合い、解決に向けた新しい発想やつながりを生み出してくことを目的に「シンポジウムイベント」も行っています。

ほかにも、スタディツアーの参加者からのアイディアで、冷蔵庫に残った食材を活用するヒントを学ぶことでフードロスを減らそうという、シェアパーティー『サルパ!(サルベージパーティー)』を2013年7月に開催。それぞれの家庭から持ち寄った食材を、シェフがアイディア巧みに即興で調理、参加者へのアドバイスを行いながら、楽しく美味しく無駄を減らす新しい取り組みです。同様の取り組みが自発的に全国各地で開催されています。

今後の活動の方向性について、代表の大軒さんはこのように話しています。

『シンポジウムイベントでは、実際にそこで出会った方々が継続的に情報交換をするようになり、問題意識をもつ人たちをつなぐ場を提供できたことは、ひとつの成果だと思っています。小さくてもこのようなイベントを継続的に実施することでプラットフォームとしても機能しはじめていると感じています。

現在は、大学生と一緒に体験型ゲーム教材を作り、ワークショップを実施する構想も生まれています。「きっかけはフードロス・チャレンジ・プロジェクトだけれど、コンセプトを共有して、どんどんそれぞれの場所で活動していく」発信の地をめざして、活動をつづけています。また、世の中に提示できる実証試験なども今後検討できたらと思います。

さらに、個人的な想いとして、日本の豊かな食文化をいかした工夫がもっとできるのでは、と考えています。例えばスタディツアーで訪れたAPカンパニーさんでは、「大皿で提供して残っている料理があると、お客様に了解を得て、新しい味付けにして、再度提供するサービス」を行っています。喜んで食べ切ってもらうための工夫なのです。このようないろいろな食べ方や保存の仕方など、工夫の楽しさを、ビジネスでも新しい文化として取り入れていけるのではないでしょうか』

「フードロス・チャレンジ・プロジェクト」は、さまざまな関係者を巻き込みながら、どのようなアイディアが生まれ、今後のアクションに繋がっていくのでしょうか。さらに、一つの組織や企業では解決が難しい社会課題に対して、共創しながら解決の道筋をさぐるというひとつのモデルとして、そのプロセスにも今後も注目したいプロジェクトです。

(スタッフライター 岩下かほり、枝廣淳子)

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