ニュースレター

2014年01月01日

 

住民主導による地域公共交通確保の取り組み

Keywords:  ニュースレター  交通・モビリティ  市民社会・地域 

 

JFS ニュースレター No.136 (2013年12月号)

Oujin_Fureai_Bus
徳島市応神地区「ふれあいバス」
-住民自らの取り組みによってバス運行に至った好例-
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人口減少・高齢化社会の直面する問題の一つが「地域における交通手段の確保」です。日本では、住民団体やNP0法人といった非営利組織が参画し、時には自ら運営・運行に携わるバス等の地域公共交通が増えています。

この問題に詳しい名古屋大学大学院環境学研究科都市環境学専攻の加藤博和准教授は、こうした取り組みについて「定義が明確でないことから実数の把握は困難だが、既に3ケタに近い市町村に広がっていると推測される」と述べています。加藤准教授と九州国際大学地域連携センター副センター長の神力潔司氏の論考をベースに、日本の地域公共交通確保の取り組みの現状と課題についてお伝えします。

日本では長年、需給調整規制(参入退出規制)により、各地域における独占的交通事業者が地域の路線網を一元的に連営する形がとられてきました。路線網全体での運行経費に一定の利潤を加えた額が事業者の収入となるような運貨設定(総括原価方式)を国が認可することによって、採算路線の収益で不採算路線の欠損を埋める「内部補助」が行われ、不採算部分も含めた路線網が維持される仕組みだったのです。

ところが、モータリゼーションの進展に伴い、路線バス・ローカル鉄道の利用者数は1970年代以降減り続けました。2002年に乗合バス事業における需給調整規制が撤廃され、採算性の高い地域では公共交通サービスの多様化が進む一方、人口減少・高齢化の進む地域では不採算路線の廃止によって、「暮らしの足」が確保できない地域も出てきました。

そのため、2006年に改正道路運送法が施行され、コミュニティバスや乗合タクシー、市町村バスやNPOによるボランティア有償運送が法律で明確に規定されました。こうして、地区のニーズに合わせた運行を行う住民主導型公共交通の展開が容易となり、さまざまな取り組みが始まりました。

加藤准教授は、住民・地域の自立的な取り組みと、自治体の関与との強弱によって、住民主導型公共交通を (1)住民自立型、(2)企業等支援型、(3)自治体支援型の3類型に整理しています。それぞれの例を見てみましょう。


(1) 住民自立型の例

2004年2月に運行開始した京都市伏見区の「醍醐コミュニティバス」

任意団体「醍醐コミュニティバス市民の会」が事業主体です。経費は運賃と協力団体(パートナーズ)の運行協力金・広告料で賄い、公的補助を一切受けていません(2006年10月から市の敬老・福祉乗車証での利用が可能となり、その利用分は市から支払われています)。「市民の会」の活動は活発で、多くの協力団体を獲得しており、人口も多い地区であることから、現在まで順調に推移しています。


(2) 企業等支援型の例

2002年11月運行開始の三重県四日市市羽津いかるが地区「生活バスよっかいち」

同地区の路線バスの廃止が確定し、市は公的補助はできないという態度でした。そこで地区住民有志が近隣の病院・医院やスーパーなどに新たなバス運行の協賛金を募る活動を始め、住民有志・協賛企業等に市の交通担当者やバス事業者が加わった「生活バス四日市運営協議会」が発足し、無償バス試験運行を実施しました。

その後、市の補助制度が新設されてその受給が決定し、2003年4月には日本初のバス運行を目的とするNP0法人である「生活バス四日市」が設立され、有償での運行が始まりました。活動自体は独立的ですが、市の協力や補助を受け、運行主体は既存路線バス事業者です。

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生活バスよっかいち
Copyright 加藤博和 All Rights Reserved.

(3) 自治体支援型の例

2000年9月に運行開始した愛知県豊田市の「高岡ふれあいバス」

高岡地区はバス路線が貧弱で、自治会で公共交通の検討を10年ほど続けていましたが、状況は変化しませんでした。協力に入った市が「地区住民でバスの運営協議会をつくり、会員を集めて運行経費をある程度確保できれば補助金を出してもよい」と提案しました。これを受けて、事業主体「ふれあいバス運営協議会」が立ち上がり、路線バスの廃止と同時に、会員制のふれあいバスを運行開始しました。その後、会員確保に苦労したため、だれでも乗れる方式に変更したり、路線を整理したりといった改善を経て、地区の重要な足として現在も運行が続いています。

豊田市はその後、この方式を他地区にも広げ、各地区内の路線については補助金の範囲内で地区が自主的に運行方法を検討する仕組みを全面的に採用しました。なお、運行事業者を共同企業体方式にすることで、地区の小規模事業者にも運行に参加できる可能性を与え、「地区でつくる公共交通」という位置づけをより明確化している点が特徴的です。

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高岡ふれあいバス
Copyright 加藤博和 All Rights Reserved.

(1) (2)とも運営基盤が脆弱であることが多く、運行開始までこぎつけても、短期で運行中止に追い込まれた例もあります。一方、多くの自治体ではコミュニティバス等の運行経費が年々増大し、維持が将来的に困難となってきているため、自治体が住民に企画・運営に参画を呼びかけ、場合によっては主体的に担ってもらう取り組みがなされる例が増えてきました。北九州市の「おでかけ交通事業」を紹介しましょう。

おでかけ交通事業は、バス路線廃止地区やバス路線のない高台地区、高齢化率が市の平均を上回る地区などにおいて、地域住民の交通手段を確保するため、採算の確保を前提として、地域住民、交通事業者、市がそれぞれの役割分担のもとで連携して、マイクロバスやジャンボタクシー等を運行するものです。

市は、地域と交通事業者の取組みに対して、運輸局、既存の交通事業者など、関係機関との調整や、車両調達等の費用及び運行に要する費用の一部に対する助成などの支援を行います。助成金は、1)交通事業者が運行開始時に要する費用に最大460万円、2)交通事業者が車両更新時に要する費用に最大300万円、3)交通事業者の収支が赤字の際に、地域や交通事業者の運行を継続するための努力を前提として赤字額の一部(運行支援助成)、4)地域が主体となって試験運行を実施する際に、赤字額の一部、となっています。

おでかけ交通事業は、市内7地域で実施されていますが、"運行の持続性"の根源である事業としての採算性については、枝光地区を除いて自治体の補助金による運営を強いられているのが現状です。

枝光地区のある八幡東区は官営製鐵所によって発展した地域です。中でも枝光地区は一般家庭に乗用車の普及が及ぶ以前に形成された街区で、生活道路が狭く、車庫を保有した住宅もあまりありません。狭くて急な坂道が多く、高齢化が進む中で、足の確保が大きな課題でした。

ここでは、自治区会や商店街で組織する委員会が運営主体となり、株式会社光タクシーが運行担当する形で「枝光やまさか乗合ジャンボタクシー」が走っています。9人乗り、15人乗りの車両で、4ルート、平日1日62便の運行で、運賃は一律150円です。

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枝光やまさか乗合タクシー
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創立50周年事業の一つとしてこの事業を始めた光タクシーのウェブサイトには、このように車内の様子が描かれていきます。

車輛の中では、「トマトを買ったら、ちょっと多かったけ、運転手さん、あんた半分持って帰り!」とか、「あんた見かけん運転手さんやね。え? ○○さんの代わり? あんたもなかなか上手いけど、ベテランの○○さんにようと教えてもらわないけんね。」などというほのぼのとした会話が聞かれます。人と人がぐっと近くなる乗り物です。

こういったコミュニティ交通の目的は、地域住民の生活利便性の向上であり、それに資する住宅地と中心市街地を結ぶ移送手段の確保です。この観点から、八幡東区と枝光地区の卸売業と小売業の推移を比較した神力氏は、調査研究から以下のようなことがわかったとし、「乗合タクシーの運行の効果を裏付けている」としています。

  • 枝光地区の小売業の年間販売額の推移は、同地区の人口減少の推移と明らかに異なり、減少が非常に少ない。
  • 2006年には隣接する東田地区に大型ショッピングセンターが開業したが、枝光地区の小売業の年間販売額は大きな減少となっていない。
  • 枝光本町商店街では、2010年度に2件、2011年度に2件の計4件の店舗が新規に開店している。

加藤准教授は、「住民主導型公共交通の取り組みでは、住民自らが出発式や周年記念イベントを催したり、パンフレットを作成・配布したり、協賛企業確保のため営業活動に回ったり、停留所看板や待合所の製作を行ったりと、様々な活動が展開されている。これらを通じて、単なる公共交通確保維持改善にとどまらず、新たな地域づくり運動へ発展しているところも多い」と述べています。

一方、公共交通を切実に必要とする住民(高齢者など)と、公共交通確保の取り組みを主導できる住民(資金調達能力や組織力、リーダーシップを有し、コーディネータ役が果たせる人材など)とは異なることが多く、行政の支援も欠かせません。

課題や失敗例も少なくありませんが、それでも人口減少・高齢化社会における「暮らしの足の確保」に向けてのチャレンジはこれからも日本各地で続くことでしょう。

参考文献:
加藤博和「日本における住民主導による地域公共交通確保の取り組み」
神力潔司「のりあいタクシーのルート設定に関する考察」

(枝廣淳子)

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