ニュースレター

2012年03月13日

 

重量車からのCO2削減対策 ~ 東京都の燃費による新しい指標づくり

Keywords:  ニュースレター 

 

JFS ニュースレター No.114 (2012年2月号)
シリーズ:地方自治体の取り組み 第37回
http://www.kankyo.metro.tokyo.jp/vehicle/index.html


2011年3月のJFSニュースレターに、東京都のディーゼル車に対する対策をご紹介しました。今回は、それに続き、自動車からのCO2削減対策についての都の新しい取り組みについて、ご紹介しましょう。

参考記事:東京都におけるディーゼル規制の動き
http://www.japanfs.org/ja/join/newsletter/pages/030815.html

東京都から排出されるCO2排出量の約4分の1を占めているのが、自動車からの排出です。そこで、都ではこれまでにも次世代自動車の利用、CO2排出量の少ない運転(エコドライブ)などの普及促進など、さまざまな取り組みを進めてきました。

その自動車からの排出の中でも、長距離輸送を行うトラックなどの重量車への対策は課題の一つでした。このほど、都内の運送事業者や荷主企業、都民が協力して、都内の自動車からのCO2排出量を削減する新たな仕組みを試行することになりました。

これまで重量車の場合、さまざまな種類の自動車を使用し、さまざまな重さや荷姿の荷物を運んでおり、形や用途、車種や重量などによっても条件が多様であることから、一概には比べられないということで、燃料消費量を評価するのは困難だと思われていました。それに対し、今回、都が提案しているのは、これまで重量車の1台1台のトラックを実走行燃費(km/L)で評価をする仕組みです。

ベンチマークを設定するためには、まず個々の自動車の特性を把握して分類し、同じ条件で比べるといった工夫が必要です。さらにベンチマークは、運送事業者側が自分の努力を容易に把握・提示できる指標となっており、荷主などの利用者側もその努力の程度が分かるものでなくてはなりません。

そこで都は社団法人東京都トラック協会の協力を得て、同協会が推進する「グリーン・エコプロジェクト」に参加している運送事業者から、個々のトラックの走行距離と給油量について1カ月ごとに集計した合計35万台の実走行燃費(以後、燃費)データを収集しました。都はこれらの集めたデータをもとに、車種、燃料、燃費基準、車両総重量、月間走行距離、営業月など、さまざまな要素について燃費への影響を調べたのです。
http://www.tta-gep.jp/

そして、2010年度から2年をかけて統計分析を実施した結果、「車種・燃料種類・車両総重量」の3要素が燃費へ大きく影響していることがわかったのです。そこで、これらのデータを「車種」、「燃料種別」、「車両総重量」の別で39の区分に分類することにしました。

たとえば軽油を燃料とするトラックでは、車種を「バン、現金輸送車等」「キャブオーバー」「冷蔵車・冷凍車」「厨芥・清掃車」「コンテナ専用車・脱着装置付きコンテナ専用車」「ダンプ・粉粒体運搬車」「タンク車・アスファルト運搬車」「コンクリートミキサー車」「トレーラー」の9種に分けます。これを、さらに重量区分で「小型1(~3.5トン)」「小型2(~7.5トンで小型貨物車)」「中型1(~7.5トンで普通貨物車)」「中型2(~8.0トン)」「大型1(~16トン)」「大型2(~20トン)」、それから「トレーラー(20トン~)の7区分に分けます。

このように、統計的に同じとみなせる上、外観や用途も類似していると思われるグループを統廃合して、39のグループ分類が出来上がりました。
※上記の重さは車両重量ですが、一部の車種では1重量区分しかない場合もあり、単純に9×7とはなりません。

この分析結果を元に都は、エコドライブ等の取り組みによるCO2削減努力の程度を定量的に評価することが可能なベンチマークを、世界で初めて作成したのです。

燃費は自動車に特殊な機器を取り付けたり、荷捌き場ごとに積み卸した荷物の重量を記録したりすることなく把握が可能なので、運送事業者の負担が比較的軽くて済みます。また燃費は、運送業の許可を得て事業を行う業者は法令義務として、あるいは自主的に記録し保管している指標でもあることから、都は燃費を使った指標づくりを進めていくことにしたのです。

ただ、もともと車のCO2排出量は、運送手段によって大きく違います。主に個人経営などで使用する自家用貨物車は、どうしても1回に運ぶ量が少なくなりがちなので、まとめて効率よく運ぶことを事業としている営業用貨物車よりも、トン・キロ当たりCO2排出量で見ると7倍の排出量(国土交通省試算)になってしまいます。

すでに効率的な運送を実施している営業用貨物車、特に、今回の分析の母集団となったグリーン・エコプロジェクトに参加していた事業者は、もともと特に効率的な運送に取り組んできています。その上で、さらに上位の運送事業者を推奨すると不当に厳しい競争を誘発する懸念があります。

そこで都は、ベンチマークは順位づけではなく、ランク分けのための指標とし、荷主の考えによって「Aランク以上」「Bランク以上」「Cランク以上」というように、運送業務の発注の際にランク付けを活用してもらうことを推奨していく予定です。

実際の評価は、運送事業者が保有車両それぞれの走行量および給油量を都に提出して行います。これらのデータを39のグループごとに個々の自動車を評価した上で総括し、事業者のランク評価を行うわけです。

今後は各ランクの評価を受けた事業者名を都が公表し、都民や荷主事業者に対して評価を受けた事業者の利用を推奨していきます。そうすることによって、これまで何のインセンティブや義務もないのに、エコドライブなどの環境配慮を自主的に頑張ってきた事業者に対して、早期に社会的な高い評価を得られるようにしたいと都は考えています。

また、自家用貨物車を使用する事業者では、ベンチマークでの評価が可能な精度での記録が報告できる場合に評価の対象とすることを検討する予定です。ただし都では、前に述べた通り、自家用貨物車は輸送効率の点から、可能な限りの営業用貨物車への転換(自営転換)を推奨しています。

燃費を使った指標を用いる評価を活用した、この新しい仕組みづくりに関して、都は日本全国の主だった企業や自治体が加盟している「グリーン購入ネットワーク」の協力を得ながら検討を進めています。
http://www.gpn.jp/

都は運送業者からの申請による任意評価制度を2012年度に試行(公開については未定)、2013年度から本格実施を予定しています。

東京都では、率先的なグリーン購入活動の一環として、この新たな仕組みによって高い評価を受けた運送事業者の活用を積極的に促進していくことにしています。そうすることで、エコドライブなどに努力している事業者にインセンティブを与え、さらに取り組みへの努力を促進し、大きなCO2の排出源である長距離輸送車からの大きな排出削減を目指しているのです。


(スタッフライター 三枝信子)

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