ニュースレター

2011年06月24日

 

東京都におけるディーゼル規制の動き

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JFS ニュースレター No.103 (2011年3月号)
シリーズ:地方自治体の取り組み 第34回
http://www.kankyo.metro.tokyo.jp/vehicle/air_pollution/diesel/index.html

日本の首都である東京都は、今、日本のいろいろな環境政策をリードする形で動いていますが、今回は、その中でもディーゼル車の規制について注目してみたいと思います。


ディーゼル車をめぐる現状

日本では1968(昭和43)年に「大気汚染防止法」が制定され、工場も含め、車に対する排出基準が設けられて規制が行われてきました。これにより、ガソリン車から排出されるNOxやSPM(浮遊粒子状物質)をはじめとするばい煙などは排出が低減され、近年では、これまでよりもさらに細かいPM2.5の規制にも取り組んできています。自動車は日本の経済を支える重要な産業の一つですから、技術的にも積極的な改善が行われてきました。

一般に、ディーゼルエンジンはガソリンエンジンに比べて圧縮比が高く、全体として希薄な燃焼を行うのでガソリン車よりも燃費が良いことから、長距離輸送トラックなどに多く使われてきました。しかし、その燃焼の仕組みから多くのNOxやブラック・カーボン(煤)が発生し、排出規制や改善技術においても、ガソリン車に遅れをとっている傾向にありました。

首都高速道路をはじめ主要な幹線道路が集中する街・東京では、一日平日平均で、千葉県へ抜ける国道14号の14万台を筆頭に、首都高速都心環状線で12万台、湾岸線も12万台(1999年度道路交通センサス)と、大変に車の交通量の多い都市です。この多くが長距離を荷物を多く積載して走る重量級のトラックです。

もちろんディーゼル車には燃費のよさやCO2排出量の少なさ、耐久性の高さなど、優れた部分があることは都も承知していました。しかし、人口や産業が密集していて大気汚染が激しい東京では、SPMの環境基準、すなわち都民の健康を保護する上で維持されることが望ましい汚染の上限値が、道路沿いの地域の多くで守られていない状況にありました。

関東地方のSPMの濃度を見ても、東京都心部を中心として濃度が濃くなっています。そして、粒子状物質(PM)の排出源を調べていくと、走行量では2割に過ぎないディーゼル車が、自動車から出るPMのほとんどを排出していることが分かったのです。PMは呼吸器障害を招き発がん性も指摘されていますが、驚くべきことに1994年になるまで国は排出基準を設けておらず、また石原氏が都知事に就任した1999年時点でも、欧米に比べて大変緩い規制となっていました。

そういった背景を受けて、都では都民の健康を守るためにも、国の規制に先んじてディーゼル車の規制に取り組むことになったのです。


東京都における施策展開の経緯

東京都では、まず1999年8月に「ディーゼル車NO作戦」の政策が提案されました。これは、提案1:都内ではディーゼル車には乗らない、買わない、売らない、提案2:代替車のある業務用ディーゼル車は、ガソリン車などへの代替を義務付け、提案3:排ガス浄化装置の開発を急ぎ、ディーゼル車への装着を義務付け、など5項目によるもので、軽油をガソリンよりも安くしている優遇税制を是正するなど、かなり画期的な提案でした。

都はこの提案を元にディーゼル車規制の検討を始め、2000年12月には東京都環境確保条例を制定し、2002年9月には、違反ディーゼル車一掃作戦を開始するなど、具体的な規制を開始しました。2003年10月には、都のディーゼル車規制が開始され、都を取り囲む3県(千葉・埼玉・神奈川)も都に刺激されるように、ほぼ同様の条例に基づき、一斉に規制を開始することになりました。

都条例に基づくディーゼル車走行規制の内容は、都内全域(島しょを除く)を対象としており、PM排出基準に適合しないディーゼル車の都内走行を禁止(乗用車を除く)するなど、かなり厳しいものです。実現可能性から出発するのではなく、都民の健康被害防止という明確な目標設定に基づく制度の立案・構築・実施を行っていること、都を走行している車両すべてに該当する規制であることに特徴があります。

また、その政策の提案から実施までのスピードの速さも特筆すべきでしょう。1999年8月に提案されてから、規制が開始されるまで約4年。そして、この規制によって、規制開始前には環境基準を未達成だった東京都におけるSPMの濃度は、2005年度には環境基準を達成。2009年度まで連続して環境基準を達成しており、NO2にしても、やはり規制前には環境基準3割達成だったものが、2005年度には5割、2009年度には9割達成という実績が出ています。


規制を推進するために

こうして成果を上げている都の規制ですが、そこに至るまでには、さまざまな壁がありました。そもそも法律が定めている以上の自動車排出ガス規制を行うことは、自動車が移動する発生源であることもあって、制度的に困難であるとの考えが有力でした。

走行中の車両に、どのように規制を行うかも難しい問題でした。走行禁止については、走行に伴って改善指導を行い、是正されなければ運行禁止、運行禁止命令に従わない者には処罰(罰金50万円以下)ないし氏名の公表をすることとしました。これまで、実際に運行禁止命令を発令したのは約460に上りましたが、今のところ、処罰例はありません。

摘発については、主にトラック、バスにディーゼル車が多いこともあり、同じルートを通る反復継続性が高いことから、一定のポイントで性能の高い監視カメラを投入し、車検証のデータと照合して自動車公害監視員が指導にあたりました。

規制への技術的な改善については、一部の専門家しか知られていなかった「連続再生式ディーゼルPF」を紹介したり、排出ガス浄化に不可欠な低硫黄軽油の早期供給の実現を石油連盟に働きかけ、2003年4月からの全国での供給を開始させました。

他県から流入する車両の扱いが困難だったのですが、これについては、千葉・埼玉・神奈川にも同様の条例規定を設置するように働きかけを行いました。東京都を中心に、一都3県で一丸となってディーゼル車を規制し、大気汚染を防止するネットワークを広げていくことになったのです。

首都圏を構成する八都県市が共同で、規制適合車にステッカーを配ったことも、取り組みの一つです。また、中小企業には車両の買い換え、装置装着に対して必要な費用の半額を都が補助するなどの支援制度を都で導入し、隣県を始めとする全国の自治体、事業者団体に対しても支援制度の実施を要請しました。


意識の壁への挑戦

今回のディーゼル車規制で都が行ったことの一つに、徹底的な広報・普及キャンペーンがありました。自動車20台以上を使用する都内約3,800社への立ち入り指導、都内ディーゼル車所有者に、延べ550万通のダイレクトメールの送付、全国の100の荷主団体への訪問、全国の大手企業2,000社への規制対応状況のアンケートなどを行ったほか、路上や物流拠点での取り締まりを述べ300カ所で行いました。

このように、ディーゼル車を使う事業者や荷主となる事業者への条例順守を求めるきめ細やかな働きかけを行いながら、インターネットを活用した政策討論会「ディーゼル、YES or NO」や公開討論会も実施するなど、都民の意識も喚起したのです。

かつて昭和40年代に、都をはじめとする一部自治体が工場公害に対する先駆けの規制を制定し、国の法律制定を促したことがありました。以後30年間、そのような事例はなかったのですが、環境を守るためにはスピードが要求されます。重要なことは、国の政策を待たずに、地域からでも変わっていくことが大切です。地域が変わり、国も変わる。そういった事例をこれからも応援していきたいものです。


(スタッフライター 三枝信子)

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