ニュースレター

2011年08月16日

 

環境首都コンテストの10年 ~ 「持続可能な地域社会」実現への挑戦

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JFS ニュースレター No.107 (2011年7月号)


日本の「環境首都」誕生

日本に「環境首都」を誕生させることを最大の目標として、2001年度から行ってきた「環境首都コンテスト」において、第10回目で、ついに環境首都が誕生しました。このコンテストに第1回から連続参加してきた熊本県水俣市です。10年間、待ちに待った日本の環境首都が、ついに誕生したのです。
http://eco-capital.net/modules/project/ecocap/report10/ecocapital.html

今回は、この環境首都コンテストの10年を振り返りながら、コンテストの目指してきたもの、日本の持続可能な地域の実現に向けての歩みなどについてお伝えします。

環境首都コンテスト、10年の歩み

環境首都コンテストは、ドイツで実施された「環境首都コンテスト」をモデルとし、2001年にスタートしました。

JFS-NL記事:日本の「環境首都」を選ぶコンテスト、3年目の成果と展望      
http://www.japanfs.org/ja/join/newsletter/pages/027284.html

このコンテストの目的は「持続可能な地域社会を創ること」ですが、さらに主催である環境首都創造NGO全国ネットワーク(以下、主催ネットワーク)では、「自治体間に切磋琢磨する仕組みをつくることにより、自治体の環境施策の総合的な推進を加速すること、また国内に具体的な目標とする自治体を出現させることにより、全国の自治体に波及的な効果をもたらしていくこと」などを目指しました。
http://eco-capital.net/

コンテストの審査は、全15分野からなる環境首都をめざす自治体が取り組むべき施策などに関する質問票に答えてもらうことから始まります。当初、主催ネットワークの一番の問題は、これらの目的に合致する質問項目を設定することでした。単に自治体の環境問題への取り組み状況の順位付けを目的としたものに終わることのないよう、持続可能な地域づくりを推進するために、どのような質問が適切か、それぞれの質問に対する自治体の取り組みをどのように評価するのかが、大変重要だったからです。

作成された質問票は、第1回では約60ページだったものが、最終的には15分野、約80問で構成、全200ページを超える冊子になり、質問内容自体が主催ネットワークから自治体への施策提案にもなっています。

また、これらの質問票に自治体の担当者が回答するだけではなく、質問票の提出後に総勢50名を越えるスタッフが聞き取り調査を行い、時には訪問ヒアリングを行うなど、主催ネットワークと自治体双方で回答を作り上げているのも特徴です。約2か月かけて回答書類を詳細にチェック・採点した上、各地域の先進事例などを丁寧に拾い出し、10年間、審査を行ってきました。


持続可能な地域社会を創るための7つのポイント

持続可能な開発(発展)という概念は、1980年に国際自然保護連合(IUCN)、国連環境計画(UNEP)等がとりまとめた「世界保全戦略」に初めてキーワードとして提出されました。また「持続可能な地域社会」とは、1992年のリオデジャネイロで開催された環境と開発に関する国際連合会議(通称:地球サミット)で採択された「アジェンダ21」で中心的コンセプトとされて、世界に大きく認知されました。

持続可能な社会をつくる主体としては、もちろん中央政府の役割も大きいですが、その中央政府を動かしていくのは、地域の進んだ取り組みにある、というのがアジェンダ21の考え方です。それは日本における公害問題を見ても明らかです。かつて日本各地に恐ろしい被害をもたらした産業公害や道路公害などに、最初に対応したのは地元自治体でした。対応に差はありますが、被害者と向き合って、国に先駆けて様々な規制・協定・指導等を行うことにより、逆に国を動かすにいたったのです。

主催ネットワークによると、このコンテストを行うことにより、全国の参加自治体の平均点は、第1回を100点とすると第10回には317.5点にまで上がりました。コンテストの上位10位の自治体においては、さらに大きな平均点のアップが見られます。

主催ネットワークでは、環境首都コンテストでの経験を経て、持続可能で豊かな社会を地域から実現するためには何が必要かを模索し、「持続可能で豊かな地域社会・エコシティーを創るための要件」として、以下の7つのポイントをまとめるに至りました。

1. 各セクターにリーダーシップがある人がいること。またそのような人を創り  出して行くこと2. 特性を生かした素晴らしい持続可能な地域の将来像を描き共有すること3. パートナーシップ、参画と対話を自治体運営の基礎にすえること4. 環境、経済、社会(的公正)の3要素を併せた事業、活動を優先すること5. そのため行政組織の縦割り弊害を除去し、施策の統合化を図ること6. 施策や活動が戦略的に構成されるような計画(総合計画、アジェンダ21、環  境基本計画等)を策定し、運用すること7. 地域で変化が実感できる、具体的事例、先進的事例を創り出して行くこと

さらに主催ネットワークでは、環境首都コンテストの上位を占める自治体の共通項として、縦割り行政の弊害をあらためること、本格的な住民参画(住民の提案が自治体の予算に反映される)を上げています。これらの7つのポイントに加え、上記2点を意識していくことが、地域を持続可能な社会へ近づけていくと主催ネットワークは考えています。


環境首都コンテストから、全国の自治体へ

今回、初めて日本の環境首都となった水俣市は、かつて国を揺るがす大きな産業公害である「水俣病」に苦しんだところです。その経験を踏まえて、水俣市は環境都市を目指すことを1992年に宣言し、2008年7月には環境モデル都市にも選ばれるなど、数多くの取り組みを行ってきました。
http://www.japanfs.org/ja/join/newsletter/pages/029001.html

水俣市環境モデル都市推進課の大崎伸也氏は、環境首都コンテストについて、以下のように語ってくれました。

「コンテストに参加したのは、『日本の環境首都コンテスト』趣旨が、本市が目指す都市像に合致するものだったこと、第1回から連続して参加してきたのは、本市の環境の取り組みを第三者に客観的に評価いただき、その結果をさらにより良く市の環境施策に反映させていく必要があったこと、加えて全国の環境に取り組む自治体や市民団体と交流や情報交換、あるいは切磋琢磨することでお互いに高めあうことができたからです」。

「コンテストに参加して得た成果としては、客観的な評価をいただいたことで、市民と行政との相乗効果が上がり、環境の取り組みのレベルを押し上げていく、そのモチベーションになったと思います。結果、環境首都の称号が獲得できたことにより、長い間、公害のまちとされてきた水俣市のイメージアップにも大きく貢献していると考えます」。

「日本の環境首都に選ばれたことは大変名誉なことです。しかし、これで私たちの取り組みが終わったわけではありません。環境首都になって、これまでよりさらに注目されることになると思いますので、他の地域のお手本になれるよう水俣からさらなる取り組みを進め、これを発信して、日本全体を引っ張っていくリーダー的な役割が求められていると思います。全国の自治体やNGOと一緒に連携協力して、この環境の輪を広げながら、私たちの目標である、地球環境とそこに暮らすあらゆる生命と共生し、将来にわたって持続可能な、真の意味で豊かな暮らしやすい地域社会を創造してきたいと考えています」。

ちなみに、環境首都に選ばれての市と市民の反応を伺ったところ、環境首都の表彰式が水俣市で行われた際には、平日にも関わらず約100人の市民が集まり、その後は環境首都の誕生パーティーも開催され大いに盛り上がったそうです。「これまで環境に取り組んできた道のりを振り返りながら、すばらしい栄誉を受けたことを市民とともに喜び感謝しています。と同時に、この環境首都という称号の持つ責任や使命の大きさ、重さをひしひしと感じています」と、大崎氏は語りました。

環境首都コンテストの運営に10年間、関わってきた環境ネットワークくまもとの原育美氏は、10年を振り返って、このように述懐しています。「回答作業の労を厭わず継続して参加いただいた自治体は、得点が伸びただけでなく、レーダーチャートの凹凸が減少し円に近づいている。質問や先進事例に刺激を受けて施策の充実が図られ、横断的に環境施策を捉え、総合化と確実な予算化を図る体制や仕組みが徐々に出来上がっていったからであろう」。そして、1年間で6項目の不得意分野を克服し、バランスの取れた得点を達成した水俣市に惜しみない賞賛を贈っています。

しかし同時に、全国的にコンテストを浸透させることができなかったなど、克服できなかった課題も残しました。それでも10年という時間をかけて蓄積してきた「持続可能な地域社会」実現への挑戦と、そこに至る道筋、ヒント、先進事例など、得られたものはたくさんあります。先進事例の総計は668にもなりました。

これらの成果とともに、環境首都となった水俣市を筆頭に、コンテストに参加した自治体、関わったNGOや担当者たちを中心に、日本の持続可能な社会への本当の歩みが、ここから始まるのです。


(スタッフライター 三枝信子)

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