ニュースレター

2011年05月19日

 

「絶望から未来を見つけるトークライブ 2010」Part 3

Keywords:  ニュースレター 

 

JFS ニュースレター No.104 (2011年4月号)

今回は、2010年の大晦日に行われたトークライブ「絶望から未来を見つけるトークライブ2010」のPart 3(最終回)をお送りします。

「絶望から未来を見つけるトークライブ 2010」
山田 玲司氏(漫画家/『ココナッツピリオド』『絶望に効くクスリ』他)
江守 正多氏(国立環境研究所 地球環境研究センター温暖化リスク評価研究室室長)
田中 優氏(未来バンク事業組合理事長)
枝廣 淳子(環境ジャーナリスト/JFS代表)

山田:なんか前向きで明るくなるような感じの話をしたいですね。今年1年、どうでした? 自分なりのキーワードとか?

江守:僕が今年すごく印象に残っているキーワードはトランスペアレンシー(透明性)。

去年のコペンハーゲンでのCOP15では、一部の国が裏で原稿を作ったんですね。要するに密室でやったわけですよ。我々が有力国だと思っている人たちが決めて、あとはみんな従え、というやり方をやったんですね。でも、それじゃうまく決まらなかった。民主的じゃないじゃないですか。それで全会一致にならなかったんですよ。

今年、僕が一つ希望を持てたのは、メキシコでのCOP16では、「今回は裏文書はありません、透明にやります」をモットーに「皆さんで議論して決めるんです」というやり方でやった。そうしたら、最後は合意ができたんですよ。「透明性」です。ごちょごちょ後ろで隠してやっていても、まとまらないんですよ。オープンにしてやるのが一番、という方向に世の中が動いていく兆しがあった。

で、今回僕は、IPCCの第5次報告書の執筆者になったので、この間、中国での執筆者会合に出ました。その時に「透明性」ということを一番に言ってました。今年から透明性が大事。象徴的なのはウィキリークス (WikiLeaks)ですよね。要するに、何か隠してる、やましいことがあると、見つかった時のダメージがこれほどデカい。しかも今インターネットのおかげで誰でも情報が発信できるようになっているので、ものすごく見つかりやすくなったんですよ。だから物事を隠すことのリスクがものすごく高いってのが、みんながわかったのが今年だったんじゃないかな。だから、これからは透明性の時代になります。

枝廣:私はね、今年はいろいろなことがあって、一つ大きな手ごたえは、来年に是非続けていくつもりですけど、やっと本丸に切り込みが始められたってことです。

たとえば、温暖化にしても生物多様性の危機にしても、それらは症状の一つにしかすぎません。温暖化対策は大事だけど、CO2捕まえて埋めていればいいかっていうと、そうではない。本丸はなにかというと、「経済成長をどう考えるか」です。経済成長し続けることを前提に今の温暖化対策が作られているけど、それは本当にはどうなのか。これまで――今もそうですけど――、政府も産業界も経済成長は絶対的な至上命題で、「GDPが伸び続けること」がどうなのか、というのは一切不問なんですね。それは前提になってしまっていて。だから、GDPを伸ばし続けつつCO2を減らすにはどうしたらいいか、ということを一生懸命考えている。

で、わかりやすい話でいうと、IPATっていうんですけど、I=P×A×T。Iというのはインパクト(Impact)で、環境の影響です。たとえば温暖化だったら、CO2排出量ですね。で、CO2の排出量はどうやって計算できるかというと、P×A×Tなんです。最初のPは人口(Population)です。2番目のAは豊かさ(Affluence)。たとえば一人当たりのGDPですね。最後のTは技術(Technology)ですね。どれくらいの人口がいて、一人当たりどれくらいのGDPを必要としていて、そして、そのGDPを生み出すのにどういう技術を使っているか――たとえば省エネ技術を使うとか、再生可能エネルギーの技術を使うとか、そうするとTのところは進むわけです――。で、それを掛け合わせたものがIになります。

人口については、日本ではこれから減っていきますよね。豊かさというところは、これからも増やそうとしている。そうすると豊かさが増えるために増えるCO2を、Tの技術だけで減らそうとしてきたわけです。日本も世界もみんなそうですね。「経済成長は止めちゃいけない」ってみんな言っているので。そのために必要なT(技術)ってどれくらいかを計算すると、ほとんど実行不可能なくらいになるんです。私たちとしては、それでいいのかなと思いつつ、でも「あなたの年金減りますよ」って言われたら、「じゃあGDP成長したほうがいいです」って、みんなそう言わざるを得ない......で来ていた。

私は環境派なので、前々からGDP成長ばかりじゃなくて、それは幸せにもつながっていないし、逆にGDPの成長を目指すことが幸せが減るような結果に日本や先進国はなってる――データを見れば明らか――。それでもGDPGDP、成長成長って言ってるのはおかしい、まず地球がそれじゃもたない、っていうことをずっと言ってきました。

でも一方で、産業界や経済界の人は、「そうは言っても、でも成長を止めるわけにはいかない」って言うわけです。それがなかなかわかんなかったのですが、今年すごくよくわかりました。彼らの論理をきちっと聞いて勉強すると、いまの経済構造は経済成長に支えられているので、経済成長をやめてしまうと、たとえば失業者が続出して、会社はどんどんと潰れて、経済が停滞して、私たちの毎日の生活は非常に暗いものになる。それは構造的にそうなっているからなんですよね。

環境派は長い時間軸で見て、このままだと地球がもたないって言う。経済や産業の人たちは、短い時間軸で見ていて、遠くを見るとそうかもしれないけど、そんなこと言ったらまず近くが危ういんだと言う。なので、成長することは持続可能ではない、だけど成長をやめることは今の状況を不安定にする。そのジレンマをどういうふうに解決するんだ、というところを話し合わなきゃいけないのに、このままだと地球がだめになるとか、このままだと雇用が失われるとか、そこだけの議論になってしまって、どこも動いてこなかったような気がするんですね。

で、まだ勉強始めたばっかりですけど、経済成長を考え直すっていうのが、日本だけじゃなくて、世界的に動きとして出てきているので、それを勉強しながら、「じゃ、そうじゃない、どっちかっていうのじゃなくて、どう折り合いをつけるか」につながる新しい価値観や経済モデル――つまり成長を前提にしない経済のモデルを作っていかないといけない――そういう話を、少しずついろいろな人と勉強したり、勉強会を開いたりということを、来年は力を入れてやっていきたいなと思ってるんです。

田中:2010年、俺が一番頑張ってたのは、ミュージシャンと一緒に音楽で表現するとか、「美味しんぼ」とのコラボレーション。多ジャンルに広げていくって、すっごく大事だと思うわけ。だってさ、だれもが環境の難しい話の集会になんか来るわけないじゃん。その来るわけない人たちに、どうやって伝えるかっていったら、チャンネルを広げるしかないだろ。だから俺は、また来年もやりたいのは、もっともっとウィング広げて、もっといろんなジャンルからゲリラ活動したいなあと思うんだよ。

山田:僕も他流試合やってますよ~。で、僕の来年のことなんですけど、ずっと悩んでたのが成長の議論なんですよ。1日に22万人、地球では人口が増えてるらしいんですよね。だけど日本では、少子化というのは、将来の労働力どうするんだって議論になってるんですよ。クローン兵を作ってんのかって話じゃないですか、それって。今後も経済を成長させていくために若者が必要だっていう発想をしてるんですよ、普通に。で、いろいろ考えて、それに関しての成長っていうのが、いいのか悪いのか、どうすりゃいいのか、落としどころに関して勉強を始めた年なんです。

僕のイメージだと、観覧車型だと後から中国・インドが来たときに、日本が上にいた場合、下がってくみたいなイメージがあるじゃないですか。そうじゃなくて、メリーゴーランド型に変えていくって感じに、イメージとしてはあってですね。枝廣さんがある科学者に言われたらしいんですけど、成長し続けるんだったら地球がでかくなり続けなきゃ無理だっていう話ですが、地球が大きくなってるって話は聞いたことないんで。これはちゃんと落とし前つけようじゃないって感じの来年があってですね。

で、僕は、いろんな人に会ってですね。いろんな人がいろんなことになってくわけですけど、いいところはどこにもあるし、僕からみると、まだ世界は美しいって、すごいそれを感じた年だったんですね。あと3時間くらいで2010年も終わりますけど、"世界は美しい!"みたいな感じの年でした、僕は。ありがとうございます。

田中:山田さん、どうもありがとう。というわけで、我々の部はこれで終わりにして、とっても素敵な音楽を、皆さん聞いて楽しんで下さい。そして一緒に新年を迎えましょう。

                                END.

English  

 


 

このページの先頭へ