ニュースレター

2011年05月17日

 

「絶望から未来を見つけるトークライブ 2010」Part 1

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JFS ニュースレター No.101 (2011年1月号)

2010年の大晦日に東京で興味深いトークライブが行われました。その様子をお伝えします。

「絶望から未来を見つけるトークライブ 2010」
 山田 玲司氏(漫画家/『ココナッツピリオド』『絶望に効くクスリ』他)
 江守 正多氏(国立環境研究所地球環境研究センター温暖化リスク評価研究室室長)
 田中 優氏(未来バンク事業組合理事長)
 枝廣 淳子(環境ジャーナリスト/JFS代表)

山田:2007年頃には、アル・ゴア氏の本を枝廣さんが翻訳し、江守さんたちの地球シミュレータもすごい話題になり、温暖化で世の中は盛り上がりましたが、その後は、「エコはエゴだ」とか、「日本だけ高い温暖化目標を掲げていると国が滅びる」とか、「温暖化なんかしていない」と言う人がずいぶん増えてきました。実際のところ、今日も寒いですよね?

江守:確かに寒いですよね。今年寒いのは、ひとつにはラニーニャ現象のためです。エルニーニョ、ラニーニャって聞いた事があると思いますけれども、これは温暖化に関係なく、たまに必ず来るものです。温暖化は、世界の平均気温がじわじわ上がっていくこと。少しずつの変化ですから、1年や2年じゃわからない。10年20年を振り返ると、「ああ、上がっている」とわかる。その変化に重なって、「今年はたまたま暑い」「たまたま寒い」という変動があるんですよ。今年は、たまたま寒くなる変動のパターンをしているので、今年の冬は寒い。だけど今年の世界平均気温は、速報値でいうと、史上第2位の高さなんです。

山田:今年はひどい暑さでしたよね。ヨーロッパでもアメリカでも、人が亡くなったり。

江守:ええ、今年は平均的にはすごく暑かったですよ。長期的には、やっぱり暑い状況が続いている。陸だけ見ると、今年は観測史上始まって以来の暑さを更新しています。だから、平均的に見なくちゃいけない。「今年たまたま日本の冬は寒い」というのと、「温暖化している」というのは、全然矛盾しないということです。

山田:あと、北極の氷がどんどん溶けて減っていくっていうのはどうなんですか。

江守:北極では、冬は氷が多いし、夏は少ない。問題は、例年の夏に比べてどのくらい少ないか、例年の冬に比べてどれくらい少ないかです。北極海の氷は1年の中では9月が一番少ないんですけど、2007年に記録的に北極海の氷が減りました。2008年、2009年は少し戻ったんですよ。だから「なんだ、大丈夫じゃないじゃないか」という人もいます。でも、今、不気味なのは、冬にしては北極の氷が少ないんですよ。

田中:北極海の氷は、新しいのはすぐ溶けるんだよね。古い氷は溶けにくいのだけど。ところが、北極海の極点の氷が、2007年以降、ほとんど新しい氷になっちゃった。

江守:厚い氷が減って、薄い氷が増えていますよね。面積だけを見ていたらわからないかも知れないけど。それは確かですね。

山田:グリーンランドの氷が、ほとんどなくなっているという話もありましたけど。

田中:グリーンランドにはイヌイットの人たちが暮らしているのね。彼らはアザラシを捕まえて食べるんですよ。アザラシを捕まえられるのは、アザラシが氷の上にいるときだけなの。海の中では、めっちゃくちゃ動きが早いから。ところが氷が減っちゃったんで、彼らはアザラシが捕れなくなっちゃった。そのせいで餓死した人も出てます。

山田:テレビをつけると、風車が回っている映像をやたらと見る。なんだかCO2がだいぶ減ってるような気分になりますが、どうなんですかね、減ってるんですか?

江守:先進国は減ってるでしょう。不景気で。

山田:不景気のおかげで! 地球全体としてはどうなんですか?

江守:減ってないですよ。途上国は特に大きく増えている。中国は自然エネルギー、再生可能エネルギー、省エネ技術の導入をものすごいスピードでやろうとしているとよく言いますけど、それでもやっぱり経済成長による増加分が大きいので増えていますよね。それから、今、不気味なのは、大気中のメタン濃度が増え始めていることです。しばらく増えていたのが、最近止まっていたんですよ。止まっていた原因もよくわかっていないんですけど、ここ1、2年、また増え始めた。永久凍土のメタンが出てきたのか、北極海のメタンが出てきたのか、もっと別の原因なのか、それともメタンを減らすプロセスのほうに何か変化があったのか...。原因は専門家でもまだ断言できないと思いますけど。

枝廣:温暖化で怖いのは、温暖化って温度が直線的に少しずつ上がっていくようなイメージを持つでしょう? だけど、もし本当に永久凍土が溶け始めたら、CO2の21倍の温室効果を持つメタンがたくさん出て、余計に温暖化が進むから、ますます永久凍土が溶けて......と悪循環になってしまいますよね。温暖化にはそういう悪循環があるから、いったんスイッチが入ってしまうと、あっという間に悪化する可能性があると言われています。なので、「本当にそうなのかがわかってから行動しよう」とか、「温度が上がり続けるのを確認してからにしよう」と言っていると手遅れになると心配している人もたくさんいます。

江守:それで言うと、メタンが永久凍土から出てくるというプロセスも、まだあまりわかっていないので、今の将来予測のシミュレーションに入ってないんですよ。だから、それを入れたら本当にどうなるかというのは、まだ誰もわからない。

枝廣:最近、先進国では「温暖化問題に関心がある」「何とかすべきだと思う」という人たちの割合が減っているんですね。日本にもそういう調査結果があります。一方で、今では途上国のほうが危機意識が高いという調査もあります。「温暖化は取り組むべき大きな問題で、自分もできることをやる」という回答は、途上国のほうが先進国よりも高いとか。

田中:さっきの悪いことが悪いことを起こしていくっていうポジティブ・フィードバックの中で、森の問題もある。木の移動速度は、種を飛ばして50年かけて育って、とすごく遅い。温暖化のスピードのほうがずっと速い。温暖化すると、森はもっと北のほうに引っ越さないと生きられなくなるんだけど、間に合わないわけ。そういう中で、今、松枯れだけでなく、ナラ枯れが起こっていて、あちこちで枯れ木ばっかり目につくようになってきた。

枝廣:「自然」と「温暖化」の関係って、両方向で。ひとつは温暖化が進むと、優さんが言ったみたいに植物は北に行けないし、それから、たとえばヒナが孵る時期と虫が出てくる時期がズレちゃって、餌がなくて鳥が困るとか、生物多様性や自然に影響を与えます。逆に、生態系が弱くなって、たとえば森がナラ枯れとかブナ枯れして枯れてしまうと、CO2を吸収できなくなるので、温暖化に悪影響を及ぼしちゃうんですね。「今は森林はCO2吸収源だが、2~3度温暖化すると、排出源になってしまう」とも言われています。そういうこともあって、「2度ぐらいに抑えないと」という話はよく聞きますね。

江守:IPCCは「2度を超えちゃいけない」とは一言も言っていませんけどね。「2度」は絶対的な基準じゃない。2度が本当に怖いかどうかは、価値判断の問題なんですよ。たとえ科学的に「どれぐらいの確率で、どれだけ大変なことが起こるのか」がわかったとしても、その確率が大変なことだと思うか思わないかは、価値判断の問題なんです。僕は「これはリスクとして考えてください」と言います。たとえば、交通事故のリスクはあるけれど、車に乗るほうが便利だから車に乗るわけでしょう? リスクはゼロにはならないですよ。それと同じで、温暖化して何度を超えたらこんなに大変なことが起こる「かもしれない」と思ったことを、すごく心配する人もいれば、「まぁ、それぐらいだったらいいや」と思う人もいる。そういういろいろな感じ方をする人たちがいる中で、合意を形成しなくちゃいけない問題なんです。

田中:少しずつ直線的に悪化していくなら、2度でも大丈夫かもしれないけど、さっき枝廣さんが言ったように、加速度的に悪化するとしたら2度になった時点でもう絶望的だな。

江守:でも、それは「かもしれない」ですからね。自分が死んだ後かもしれない。

田中:死んだ後だって同じでしょう。

枝廣:これが難しいのは、世代を超えた話なんですよね。さっきの江守さんの話で言うと、車に乗って交通事故に遭うかもしれないリスクは自分に返ってきますよね。だけど温暖化の場合、今のこの楽な「石油ジャブジャブ」の生活を続けるのは自分のプラスだけど、そのマイナスのリスクは未来世代にやってくる可能性がある。だから、2050年に生きていて、今、政府が何を決めるかが自分たちの将来にリスクを与えるという若い人たちが、もっと発言権を持ち、もっと活動をしないと。時間軸が大きな鍵を握ってるんです。たとえば、財政問題も同じで、できるだけ赤字を減らした方がよいと思うけど、「そうしたら、私たちの年金が減りますよ」って言われたら、みんな「あ、じゃ、そのあとにしませんか」って。

田中:大学の学費値上げと同じだな。「新1年生から値上げします」って言うから、2年生以降は「まぁ俺は関係ねえか」って。

山田:小学生を会議に半分入れる法案が必要だ(笑)。だって、彼らが被害に遭うわけですよね。「温暖化のせいかもしれない」としか言えないっていうのは、科学者の立場上しょうがない。科学者っていう仕事なんだから。だからこそ、みんなで大きな声で「あそこであんな被害が出ているのは、温暖化のせいかもしれない」と大きな声で言うべきじゃないか。

つづきは来月をお楽しみに!)

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