ニュースレター

2011年05月18日

 

「絶望から未来を見つけるトークライブ 2010」Part 2

Keywords:  ニュースレター 

 

JFS ニュースレター No.102 (2011年2月号)

今回は、前回に引き続き、2010年の大晦日に行われたトークライブ「絶望から未来を見つけるトークライブ2010」のPart 2をお送りします。

「絶望から未来を見つけるトークライブ 2010」
山田 玲司氏(漫画家/『ココナッツピリオド』『絶望に効くクスリ』他)
江守 正多氏(国立環境研究所地球環境研究センター温暖化リスク評価研究室室長)
田中 優氏(未来バンク事業組合理事長)
枝廣 淳子(環境ジャーナリスト/JFS代表)

枝廣:最近、東洋と西洋って言っていいのかよくわからないですけど、考え方の基本的なスタンスが違うところがあるのかなと思うことがあります。

今、なぜ温暖化が進んでいるかというと、森林や海など地球がCO2吸収する力――IPCC第4次報告書によると年間31億トン(炭素トン)――を、私たち人間が出しているCO2量――IPCC第4次報告書では72億トン(炭素トン)ですが、もっと増えています――を超えているからです。

「地球が支えられる力」と「私たちが与えている負荷」のバランスがおかしいということです。地球が吸収できる以上にCO2を出しているから温暖化が進んでいる。自然に成長する以上に伐採しているから森林が減っている。地球は新しい種を100万年にひとつくらいつくるらしいですけど、それよりもずっと速く絶滅させているから、生物多様性が減っている。

このような状況に対して、私たち日本人は、たぶん、ごくふつうに、「人間の活動量を減らして地球が支えられるところまで戻さないといけない」と思いますよね。だけど欧米の人たちの中には、そう考えないで、「地球の許容量を増やせばいい」と考える人もいるそうです。私たち人間がやりたいことは減らさないでどんどんやればいい、もし今の地球がCO2を十分に吸収できないのだったら、吸収できるように地球に細工をすればいいと。

日本でも実験が始まっていますが、CCSといって、大気中に出るCO2を捕まえて地下に埋めるというのは、人工的に吸収量を増やしているのと同じですよね。そうすれば大気中のCO2は増えないのだから、火力発電所をつくっていいよね、という話になります。

もっと大きな話になると、ジオエンジニアリング(地球工学)と言って、地球そのものを改変しちゃおうという考え方や研究もあります。日本ではまだ大きな話題になっていませんけど、欧米では進みつつあります。たとえば地球と太陽の間に大きな傘を開いて、太陽光線を反射しちゃえばいいとか、エアロゾルを大気中に撒くことで地球を冷却化できる、とか。

江守:去年から今年ぐらいに、急に科学者の中でその議論が盛んになってきたんですよ。東洋人は自然への畏怖があるからから、そんなことしないけど、西洋人はそういうふうに考えるところがあるかもしれない。もう一つは、何度を超えたら大変なことになっちゃうんじゃないか、ということを心配する科学者が増えてきた現れかもしれない。もし1.5度温暖化してしまうと、急激に南極の氷床が崩壊するとか、海面が10年分ぐらい上がっちゃうとか、ジム・ハンセン氏(NASA)とか本気ですごく心配しているわけですよ。「かもしれない話」っていうのは、別に心配しなくてもいいと言っているわけではなくて、かもしれないから心配している科学者だっていっぱいいるわけ。

1.5度、というのは、もうあと0.7~0.8度ですよ、それで、「CO2を減らしてそこまでに抑えることはもう間に合わない」と思った時に、緊急手段としてそういう特殊な方法で温暖化を止めるっていうことを本当にやらなくちゃいけなくなったときのために、どういうことがあるのかというのを今からちゃんと調べておきましょうっていう話で。

田中:パラシュートだな、まるで。

江守:そう、緊急避難のためだということを断って書かれた論文が、すごく増えてきたんですね。実効性があるか、コストはどうか、副作用がないか、国際間のしくみとしてコントロールできるか、そういう議論が最近ものすごく活発になってきました。やると決まったわけじゃないけど、万が一やらなくちゃいけなくなった時のために調べていますっていうこと。

枝廣:温暖化について一生懸命研究してきた科学者は、ずっとこの問題に関して発言してきた。でも国際社会は何も手を打たない、COP15・16の交渉も減らす方向にいっていない。一方、温暖化は進み続けていて、このままだとだめだ。もしかしたらティッピング・ポイントを超えちゃうかもしれない、もしそうなる可能性があるとしたら、非常手段としてジオエンジニアリング的なことも必要じゃないか、という論調ですね。科学者もそれがいいと思って言っているわけじゃないけれど、あまりに私たちがCO2を減らさないから、このままだと大変なことになるからと言ってますね。

田中:ノルウェーに行ったときに見たけど、地中に1000万トンを超えるCO2を埋めているんだよ、あそこ。

枝廣:ノルウェーのスタットオイル社というところです。確かにCCSを世界で最も進めている場所ですけど、それはノルウェーで非常に高い炭素税がかけられたからなんですよね。つまりCO2を出してしまうとすごい高い税金を払わないといけない。しかし産業界としては生産するとCO2が出ちゃう。CCSで炭素を捕まえて埋めるコストのほうが炭素税を払うよりも安い。それぐらい高い炭素税をかけて、国から出るCO2を減らそうとしているんですよね。それは、私たちが求めていることでもありますよね。日本では炭素税はこれからですが。

江守:僕は、長い目で見ると、人類にとってCCSはやらずにはおれないんじゃないかと思っています。石炭は安くて、いっぱいあるじゃないですか。それを人類が指をくわえて封印することっていうのは有り得ないんじゃないか。人類は、安くて目の前にいっぱいある石炭を燃やしてCO2を出すか、地中に埋めるかの、ほぼ二択だろうと思ってるんです。太陽エネルギーだけで他にはいらないよという状況になれば、石炭は封印でいいっていう考えがあるかもしれないけど、よっぽどでない限り、技術的に難しいだろうから、そうすると不可避的にCCSっていうのは必要な技術じゃないかと思うんです。

枝廣:個人的に思うのは、大きな構造を変えるのも大事だし、そのために世論を盛り上げるとかいろんなことはできると思うんだけど、それよりもひとりひとり、もしくは地域ごとに、「送電線から落ちる」方が早いんじゃないかな、と。私の夢は自分の家が送電線から落ちることなんです。たとえばスウェーデンだと、自分で電力が選べるんですね。ちょっと値段が高いけど風力がいいとか、選べる。日本はそれもないでしょ。自分の地域の電力会社から電力を買わざるを得ない。何で発電した電気かは選べない。それがいやだとしたら、できるだけ省エネをして、どうしても必要な電気は太陽光発電を使って、電力会社から買わないで送電線から落ちちゃおう、って。

田中:ヤマダ電気で電気自動車を買おう! 僕の本です。(笑)

枝廣:これまではね、電気って溜められないので、それができなかったんですよ。風車とか太陽光とか、発電しないときもあるから。だけど蓄電池があれば、昼間発電したのをためて夜使えるでしょ。蓄電がネックだったわけです。で、今、優さんが言った電気自動車っていうのは、蓄電池を乗せて走っているものなので、車というより電池だと思えばいい。電池が時には走ります、って感じ。一家に一台ずつ、昼間の発電を電気自動車の電池に溜めておいて、夜はそこからまた戻して使うというように、蓄電池として使えるんですね。そういう技術的な可能性は出てきてますよね。

田中:もうすでにヤマダ電気は太陽光発電を売ってるし、電気自動車も売り始めたし、今パナソニックが一軒の家だけでエネルギーを賄える仕組みを進めてる。TDKも進めてる。両方とも直流から直流なんですよ。自然エネルギーって直流で、使う電気機器も全部直流なんです。ところが、その間に電力会社が入るから、直流を交流に直して交流を直流に直して使う必要がある。それを直流から直流にすると、変換の無駄がなくなるので、電力消費量が2割減るんですよ。

枝廣:なぜ電力会社が交流に変えているかと言うと、直流って長い距離を送るとロスが大きいんですね。今の電力のしくみは、遠くで発電して遠くまで運ぶ。そうすると直流だとロスが大きいので、遠くまで運んでもロスが少ない交流に変えて運んでおいて、手元まで来た交流をもう一度直流に変えてるんです。そうじゃなくて我が家の上で発電すれば、直流のままでできるようになりますよね。

山田:日本の自然エネルギーは、今、3.7%ぐらいですかね。優さんの本だと、地熱を有効利用すれば日本の総発電量の3割は地熱でまかなえるんですよね。

田中:日本の最大の面積って、海なんだよ。国土の11倍、海の方が広い。その海の上に波力や、浮かべてやる風力発電をやると日本の電気は有り余る。

山田:輸出国になれる。

田中:なる。明らかに。だからそっちを発達させればいいのに。


(この続きは来月号にて!)

English  

 


 

このページの先頭へ