ニュースレター

2011年05月27日

 

地元から自分たちで変えていこう! ~ 飯田市のおひさま0円システム

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JFS ニュースレター No.101 (2011年1月号)
シリーズ:地方自治体の取り組み 第33回

JFS/Achieving Independent Local Change -- the Ohisama Zero-yen System in Iida City
Copyright 2011 おひさま進歩エネルギー株式会社 All Rights Reserved.


長野県南部に位置する飯田市は、10万人の人口を擁する県内では比較的大きい市です。江戸時代には飯田藩の城下町として栄え、現在ではりんご並木や人形劇の街と知られており、「南信州の小京都」とも称されています。

飯田市への交通手段は、単線鉄道の飯田線や高速道路の中央道しかなく、東京や名古屋には高速バスで数時間かかります。このような立地もあって、「自分たちのことは自分たちでやる!」という独立の気性があるのでしょうか、「環境文化都市」としてユニークな取り組みを進め、効果を上げつつあります。


「おひさま0円システム」

現在、世界的にも日本の中でも太陽光発電を設置する家庭が増えています。大規模な商業用太陽光発電所の設置を進めている国が多い中、日本では家庭用太陽光発電に力を入れており、「2020年までに25%削減」に向けて、日本にある約5000万世帯のうち、1000万世帯に普及するという目標を掲げています。

固定価格買取制度など、太陽光発電の導入後にその電力を高く買い取ることによって、「早めに初期費用のモトがとれるようにする」施策はおこなわれていますが、「それでも、最初の初期費用が高くて導入できない」家庭もたくさんあります。

そんな中、飯田市にはなんと「初期費用0円」で太陽光発電を自宅に設置することができるしくみがあります。「おひさま0円システム」です。

このシステムの設計・運用の中核を担っているのが、おひさま進歩エネルギー株式会社です。同社は、「NPO法人南信州おひさま進歩」が母体となって立ち上げられた会社で、持続可能な循環型社会を目指し、地元地域と密接に関わりながら、エネルギーの「省」と「創」の事業を展開しています。エスコ(Energy ServiceCompanyの略)に代表される省エネルギー事業と、太陽の光と熱、森林資源を利用した木質バイオマス、温泉や地下水等の自然の熱を活かしたエネルギーの創造事業を行っています。

「すべての屋根に太陽光発電を」をスローガンに進められている「おひさま0円システム」とはどのようなしくみなのでしょう?

まず、募集に応じ、審査を通過した一般の家庭に、初期費用0円で太陽光発電を設置します。その家庭は、9年間月々定額(3.3kWの場合は19,800円)の料金を支払います。太陽光パネルが発電した電力のうち、自宅で消費しない分は電力会社に売却できます。10年目以降は太陽光パネルがその家庭に無償譲渡され、自分の太陽光パネルとなる、というしくみです。

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初期費用の負担がなくてよい、というだけでもうれしいですが、導入事例を見ると、たとえば、定額料金1年分の約24万円に対して、余剰電力の売却で14~18万円ほどの収入があり、結果的に「年に6~10万円ほどの負担を9年間」で、太陽光発電をしつつ、10年目には太陽光パネルが自分のものになる!というさらにうれしい結果になっているようです。

このしくみは、おひさま進歩エネルギーが飯田市と地元の飯田信用金庫と組むことで可能となりました。初年度の2009年は、30件の募集枠に対して、多くの資料請求や申し込みがあり、2.1倍の倍率となりました。

2年目の2010年は募集枠を50件に広げるとともに、「市民のお金で市民の太陽光発電を普及しよう!」と、市民出資を資金として、太陽光発電の普及を進めています。出資者は、出資に対して分配金(目標利回り2~2.5%)を受け取ることができます。「少し余っているお金を良いことに使いたい」「自分の家は集合住宅だが、地元の自然エネルギーを応援したい」「都市に住んでいるが、太陽光発電の普及の手伝いをしたい」など、飯田市民をはじめ、市外や県外からも出資が相次いでいます。

飯田市は政府が選定した「環境モデル都市」の1つに選ばれており、この「おひさま0円システム」は横展開すべき先進的な取り組みとして、ベストプラクティス集にも取り上げられています。「太陽光発電を設置したいが、初期費用の負担が大きくて無理」という、多くの人々のニーズに、自治体と地元の企業などと組むことでじょうずに対応し、地元の自然エネルギーと、家庭でのエネルギー教育や省エネも推進しているこのシステム。今後の展開と全国への普及が楽しみです。

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「オール・メイド・イン・飯田の防犯灯」

飯田市の取り組みはそれだけではありません。もう1つご紹介したいのは「オール・メイド・イン・飯田の防犯灯」です。飯田市内には約6000基の防犯灯があります。ふつうの防犯灯をLED照明の防犯灯に替えると、消費電力もCO2排出量も約3分の2になるそうです。そこで飯田市では温暖化対策の一環として、LED防犯灯への切り替えを考えたのですが、問題は値段が高いことでした。

防犯灯はそれまで、大手メーカーが製造し、1基6万円ほどで販売していました。飯田には技術を持った地場企業がたくさんあります。そこで「LED防犯灯を飯田で作ろう!」という取り組みが始まりました。

母体となったのは、10年前に始まった共同受注グループです。これは、県などがかかわっている財団法人飯伊地域地場産業振興センターが中心となって立ち上げたもので、参加企業の中から、LEDや防犯灯にかかわる技術を有する15社が集まりました。そして、2つのグループに分かれて、2つのタイプの防犯灯の開発に着手しました。「6000基ある市内の防犯灯を数年かけて替えていくから」と開発リスクを下げたため、取り組みが実現したのです。

2009年7月に開発に着手し、同年12月には製品ができました。環境モデル都市への交付金で、3000基の防犯灯の取り替えを行い、以後、改良を重ねながら、市内の防犯灯を順次付け替えているところです。

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値段は? 大手メーカーの6万円に対して、1万9000円でできたのです。その後もコスト削減の努力により、1万8000円ほどに下がっています。今では飯田市内のみならず、全国の自治体から引き合いが来ているそうです。

集まった企業グループも、初めは「できるだろうか」と言っていたそうですが、「やったらできた。さらに改良していきたい」とやる気になっているとのこと。飯田市内のさまざまな企業が技術を持ち寄り、「オール・メイド・イン・飯田」のLED防犯灯を開発し、全国に販売するようになっている――地元の環境への取り組みが経済的にも報われる、まさに経済と環境の両立(統合)の好例となっています。そして、地域社会の活性化や自信にもつながっていることでしょう。

さまざまな先進的な取り組みを進める飯田市には、そういった歴史や基盤がありました。1997年に市の第四次基本構想を作る時には、市が呼びかけて60人の市民が集まり、4つのグループが基本構想に盛り込むべきことを考えました。すべてのグループの提案に「環境」が入っていたため、「環境文化都市」を第四次基本構想の中核に据えたそうです。

1997年に市民が基本構想の策定にかかわるというのは、日本の自治体としてはかなり先進的ですが、飯田市ではその前の1988年の第三次基本構想を策定する時に、おそらく日本で初めて、基本構想の策定に市民が参加しています。その後も、初めての環境計画を市民と一緒に作るなど、「市民と共に」のスタンスは市にも市民にも根づいているようです。

飯田市の「地元力」のある取り組みの今後の展開がとても楽しみです!

JFS関連記事:地域ぐるみで環境マネジメントシステムの構築、ISO14001自己適 合宣言へ - 長野県飯田市
http://www.japanfs.org/ja/join/newsletter/pages/027262.html


(枝廣淳子)

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