ニュースレター

2011年04月26日

 

最先端の環境技術を世界へ ~ 川崎市の新たな挑戦

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JFS ニュースレター No.100 (2010年12月号)
シリーズ:地方自治体の取り組み 第32回
http://www.city.kawasaki.jp/

川崎市は、日本の首都東京と多摩川という川を挟んで隣に位置する人口140万人の大都市です。東京駅から電車で20分という利便性に富んだ地域でもあることから、住民の多くは東京で仕事をしており、ベッドタウンとして人口は増え続けています。また、東京湾に面する臨海部は埋め立て地によって形成され、日本初のエコタウンをはじめとして、日本でも有数の先端技術を有する企業や工場が集まる地域となっており、国外からの労働者も多いのが特徴です。

戦前からの工業地帯であった川崎市は、京浜工業地帯の中核として、日本の高度経済成長時代(1960~70年代)を担っていましたが、一時期、大気汚染や水質汚濁などの公害を引き起こした時期がありました。しかし、いち早く公害防止条例を施行し、公害被害者救済制度を整えるとともに、市内39工場と大気汚染防止協定を結ぶなど、国に先駆けた公害対策を行うことにより、公害を克服してきたという歴史も持っています。
http://www.japanfs.org/ja/join/newsletter/pages/028597.html

現在、世界は地球規模の気候変動という環境課題を抱えています。川崎市のCO2排出量で言えば、市全体の排出量のうち75.9%が産業部門からの排出という突出した割合になっていますが、2008年度の市の温室効果ガス排出量は、その産業部門の排出量を中心に基準年度(CO2、メタン、一酸化二窒素は1990年度、それ以外の3ガスは1995年度)と比べて13.9%の減少となっています。
http://www.city.kawasaki.jp/30/30titan/home/ghg/ghg-top.htm

一方、民生・家庭部門では人口増加も一因となって温室効果ガス排出量が増加傾向にあるとして、自然環境、社会環境、生活環境に関する諸問題に地域で対応していこうという試みも行われています。市中央部に位置する高津区ではモデルケースとして、区内の地域資源を活用しながら持続可能な地域社会「エコシティたかつ」の形成を推進する方針を、市民協働で2009年3月に策定しました。
http://www.city.kawasaki.jp/67/67tisin/eco_city/index.html

「エコシティたかつ」の推進の特徴は、温室効果ガス排出の削減や吸収策などの「緩和策」を行うことと、気候変動がもたらす水災害や生物多様性の減少等、悪影響への「対応策」を両輪として進めていくとした点です。

現在、「エコシティたかつ」では、低炭素・省資源社会の実現、自然共生型都市再生の推進、地域に即した防災まちづくりの推進の3つの基本目標のもと、12のプロジェクトが展開中です。たとえば学校流域プロジェクトとして、市内学校のビオトープなどを整備し、水循環の仕組みや自然や生き物の賑わいを支える地域のモデル基地とする試みのほか、都市部に残った貴重な緑地や農地に着目し、農的資源を生かしたまちづくりの推進などが行われています。

2010年4月に施行された「川崎市地球温暖化対策の推進に関する条例」では、こういった日常生活等における地球温暖化対策、再生可能エネルギー源の優先的な利用とともに、環境技術による国際貢献をポイントとして上げています。

国際貢献に繋がる取り組みの一つに、低炭素社会につながる製品や技術を応援する「低CO2川崎ブランド」があります。これは、企業等の温室効果ガス削減努力を適正に評価するために、直接排出量だけでなく、製品・技術等におけるライフサイクル全体での評価を行うのが特徴です。つまり、製品の生産過程だけではなく、原材料の調達から流通販売、使用、廃棄に至るそれぞれの行程での排出量を評価しようという試みで、2009年度からは、低CO2パイロットブランドとして、臨海部の拠点を構える東京電力やJFEエンジニアリングの9つの製品・技術を選定しています。
http://www.k-co2brand.com/

また環境局環境技術情報センターによる産学公民連携公募型共同研究事業も積極的に行っており、市内緑地の釣り池での炭素繊維による閉鎖性水域の水質浄化の研究や、地中熱利用空調システムの共同研究を行い、地中熱利用空調システムは、実際に市内こども文化センターへ導入しました。2007年度から3年かけて環境技術を活用した国際貢献ということで取り組んだ自転車搭載型の浄水器の研究は、巨大な装置を運搬・導入するのが難しい海外の発展途上地域などで、すでに活躍しています。
http://www.city.kawasaki.jp/30/30kangic/home/home/collaboration.html

この川崎市で2009年より毎年2月に、これらの市内環境技術を世界に伝えていくための場として、アジアの環境対策に即応する環境技術から地球規模の環境問題を解決する最先端の環境技術までを幅広く展示する「川崎国際環境技術展(以下、環境技術展)」が開催されています。2010年の開催では、市内企業を中心に124企業・団体が参加し、2日間で約10,500人が来場しました。
http://www.kawasaki-eco-tech.jp/contents/about.html

もともと川崎市は「アジア・太平洋エコビジネスフォーラム」などのUNEPと連携した取り組みを行っています。2009年2月には環境と経済の好循環を推進し、協力して環境課題に取り組むことを目指し、中国瀋陽市と「循環経済発展協力に関する協定」を締結するなど、海外との連携も盛んです。環境技術展でも、アジアを中心に海外からの来場者を多く迎えました。

2011年は2月16-17日に開催されますが、環境改善技術、廃棄物・リサイクル技術、再生可能エネルギー・省エネルギーに関する技術など、市内の企業を中心とした最先端の環境技術が一堂に会することになっています。

また川崎市では、臨海部の浮島と扇島の2地域における日本最大級となる合計2万kWのメガソーラー発電の建設が始まっています。これが完成すると、一般家庭の約5,900軒分の年間電力使用量に相当する発電量になるものとして、日本国内でも注目を集めています。JFS関連記事:川崎市臨海部に国内最大級の太陽光発電所建設へ
http://www.japanfs.org/ja/pages/029751.html

公害克服の経験と東京のベッドタウンという地の利を活かし、環境技術の移転による国際貢献・産業交流の実現に向けて、川崎市の挑戦は続きます。


(スタッフライター 三枝信子)

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