ニュースレター

2009年02月16日

 

「環境」と「経済」の調和する都市へ - 川崎市における環境対策の取り組み

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JFS ニュースレター No.74 (2008年10月号)
シリーズ:地方自治体の取り組み 第23回
http://www.city.kawasaki.jp/

川崎市の歴史

川崎市は、日本の首都東京と多摩川を挟んで隣に位置する大都市です。南北に細長い地形をしていて、南東部(臨海部)は重工業地帯、北西部(丘陵部)は東京のベッドタウンとも言うべき住宅地域という性格の異なる地域をあわせ持つ都市として発展してきました。この発展に伴い、市制を施行した1924年には約5万人だった人口が、現在は約140万人もの都市になっています。

戦前からの工業地帯であった川崎市は、1950年代頃からは既存の製鉄所などの工場に加え、大規模な発電所、製油生成工場などの石油化学コンビナートなどが東京湾の埋立地に次々に建設され、京浜工業地帯の中核として日本の高度経済成長期を支えたのです。

ところが、これらの工場などが大量の化石燃料を燃焼させる際に排出される硫黄酸化物などを含む排ガスが、当時は処理装置などが未整備であったため、そのまま大量に大気中に排出されてしまいました。排出された大気汚染物質により、周辺の住民の間に慢性気管支炎や気管支喘息などの患者が増大し、川崎市は長く公害で苦しむこととなります。

そのため川崎市では1971年に「市民生活最優先」を原則に掲げ、市役所に「公害局」を新設、公害の防止、公害健康被害者の救済、自然環境の保全・回復などを優先した施策を実践していくことになりました。ことに公害に対しては、市民運動などの後押しがあったこともあり、全国に先駆けて、1972年に「川崎市公害防止条例」が制定され、1976年には「環境影響評価に関する条例」も制定されました。

こういった施策の積み重ねと努力があり、現在では川崎の大気・水質とも国の基準値を達成するようになりました。1972年に完成した公害監視センターは、現在でも、24時間、休むことなく自動測定器によって大気環境の監視を行い、インターネットなどでリアルタイムに情報を発信し続けています。

また、このセンターにおける役割は年とともに変化しており、昨今では地球温暖化など、より複雑・多様化してきている環境問題における調査も担うようになってきています。

川崎市の現在の環境施策

現在、川崎市の環境施策の中で重要な位置を占めているのは、他の多くの自治体と同じく、地球温暖化に関する問題です。川崎市では京都議定書の採択を受けて、98年には「地球環境保全のための行動計画」が、さらに2004年には「地球温暖化対策地域推進計画」が策定されました。これらをもとに、今、川崎市がもっとも力を入れているのが「カーボン・チャレンジ川崎エコ戦略(CCかわさき)」です。

同市はこれまでつねに、臨海部にある工業地帯と北西部にある住宅地域との間で、バランスを取りながら施策を進めてきました。そのためCCかわさきの中でも、まず「環境」と「経済」の調和と好循環を推進し、持続可能な社会を地球規模で実現するために全市をあげて取り組むとしています。

これまで川崎の温暖化対策の実践活動は、市民・事業者・学校・行政がそれぞれの部会を設置して活動している「川崎地球温暖化対策推進協議会」を中心として行われてきました。ことに市民部会の活動は「省エネルギー」「ソーラーチーム」「グリーンコンシューマ」「交通環境」など、テーマを分けて盛んに行われています。

中でも地域の商店街とともに、一つの店ごとに何らかのエコな取り組みをしようと呼びかけて行われた「1店1エコ運動」は、地元の小学生がチームを作って、この運動に参加している店舗を直接訪ねて聞き取り調査をするなど、地元ぐるみの活動に発展してきました。市民部会は、これらの活動が評価され、2006年度の地球温暖化防止活動環境大臣表彰を受賞しました。

CO2削減の取り組みを推進するためには、このように多様な主体による協働が大切です。CCかわさきでは推進体制として市民や事業者なども加わった「川崎温暖化対策推進会議(CCかわさきエコ会議)」を創設し、行政だけが主導するのではなく、各主体が連携して実効性のある活動に取り組むための推進ネットワークを目指しています。
http://www.cckawasaki.jp/

これらの取り組みを、さらに一歩進めるものとして、2008年の5月には「環境技術情報センター」を開設しました。ここでは、主に市内の環境技術に関する情報の収集・発信、市民・事業者・大学などの連携による協働研究、環境教育・学習などの機能を持つ環境総合研究所を目指しています。場所も市民がアクセスしやすいように市役所の建物ではなく、市内の商業用のビル内に設置しました。これまで、どちらかというと市民に情報を発信したり広報を行ったりするのが苦手だった行政が、自ら市民の側に歩み寄ろうとする気持ちの現れだと言えるでしょう。

川崎から世界へ

川崎では、1997年に「環境調和型まちづくり(川崎エコタウン)」構想を策定し、国から日本初のエコタウン地域の指定を受け、2002年には臨海部に廃棄物を資源として利用するゼロ・エミッション工業団地が建設されるなど、川崎市の産業特性である先端的な環境技術を生かした取り組みが行われてきました。

さらには、こうした優れた環境技術を持つ世界的企業が集積する地域として、環境技術による国際貢献を推進すべく、国連グローバルコンパクトに自治体としては日本で初めての参加を宣言し、市内展開を目指した独自の「かわさきコンパクト」を作成しました。これは企業が参加する「ビジネス・コンパクト」と市民が加わる「市民コンパクト」があり、企業だけではなく市民や市民活動団体も宣言に加われるようにしたのが特長で、企業と市民との連携も行われています。
http://www.japanfs.org/ja/pages/024082.html

一方、国際環境施策では、産業と環境が調和した持続可能な都市モデルを形成するため、2004年よりアジア・太平洋エコビジネスフォーラムを毎年開催し、環境技術や情報の意見交換を国内外都市の行政担当者や企業、研究者と行っています。またUNEP IETCが推進しているアジア太平洋地域エコタウンプロジェクトにも協力しています。2007年にはインドネシアやベトナムなどのエコタウンに参加しているアジアの4都市の担当者を招いてUNEPアジア・太平洋エコタウンプロジェクト会議を開催し、各地の課題を共有する場を設けたほか、海外環境技術研修生の受け入れや研修会も行っています。

こうしてアジア諸国との連携を強めていく中で、来年は新しい企画が準備されています。2009年2月に開催が予定されている「川崎国際環境技術展2009」と、同時開催される「第5回アジア・太平洋エコビジネスフォーラム」です。

技術展では、川崎の環境への取り組みや国内企業の有する優れた環境技術、生産工程に組み込まれた省エネ技術などを広く国内外へ紹介し、環境技術の移転による国際貢献を図るための技術展で、あらゆる分野の環境技術・製品・サービスが集まるほか、川崎臨海部のエコタウンを始めとする施設などの訪問も行われる予定です。

また、環境フォーラムやセミナーの開催、環境分野での国内外からの来場者と出展企業とのビジネスマッチングにより、日本のみならずアジア地域も含めた、より一層の環境技術や取り組みが推進されることも期待されています。

これまでも川崎で起こる現象は、日本各地で起こる現象の先駆けでもありました。日本における「都市像」のひとつの形と言えるかもしれません。そういった意味からも、川崎市の今後の方針は充分に日本のモデルとなり得る可能性を秘めています。川崎市のこれからの取り組みとその成果に、大きな期待が寄せられています。

(スタッフライター 三枝信子)

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