ニュースレター

2011年03月15日

 

中国の環境・サステナビリティへの動き ~ JFSからCFS、そしてAFSへ

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JFS ニュースレター No.99 (2010年11月号)

2010年8月に設立8周年を迎えたジャパン・フォー・サステナビリティ(JFS)では、これまで日本で環境情報を発信してきた経験を生かし、現在、アジアの国と地域がそれぞれに環境やサステナビリティへの進んだ取り組みを発信する"Asia for Sustainability(AFS)"をめざし、思いを同じくする他の国々とも連携をはかろうという活動を進めています。このような取り組みはJFSにとって初の試みなので、まず中国のキーパーソンへの働きかけから始めました。

今回のニュースレターでは、このAFSの実現に向けた働きかけを通じて出会った人々から聞くことのできた中国の環境やサステナビリティへの動きについて、現況をまとめました。


中国政府

2008年と2009年に、中国政府高官から、「中国の環境の現状と、国家としてどのように環境問題を受け止め、どのように対応していこうとしているのか」をお聞きしました。

JFS関連記事:
JFSからAFSをめざして ~ 中国の環境問題への取り組み Part.1 & Part.2
http://www.japanfs.org/ja/join/newsletter/pages/028568.html
http://www.japanfs.org/ja/join/newsletter/pages/028962.html

中国大使館・公使参事官を囲んで ~ 中国の環境政策の現在と展望 ~
http://www.japanfs.org/ja/aboutus/event/pages/029711.html

中国としては、1970年代から環境問題を国策の一部に取り入れてきてはいるものの、同時期に経済成長路線が優先されたため、環境対策をどのように実施・施行するかが難しかったとのことです。その間も、中国では、砂漠化・石漠化、水および大気汚染、ゴミといった問題がいっそう深刻になりました。

こうした国内の状況を受けて、2007年には「科学的発展観」として、GDP成長のみを追い求める経済政策からの転換が打ち出され、国策における環境問題への対応の優先順位が引き上げられました。中央政府が地方政府の評価をする際に、単にGDPの伸びだけではなく、エネルギー効率の改善をどれぐらい図ったか、汚染物質の削減をどれぐらい図ったかの評価を組み入れることになったのです。ほかの項目の成績がよくても、環境関連の項目の成績が悪ければ不合格となる「一票否決」という強力な仕組みです。

中国が国内外に環境についてアピールすることになったのは、2008年に開催された北京五輪に向けての環境への取り組みと言えるでしょう。北京では、省エネのために北京市内のホテルやレストラン、公共施設のエアコンの設定温度を26度に保つことを呼びかける「26度運動」や、月に1日、車を運転しない日を設ける「ノーカーデー」運動を、民間のNGO主導で現在も行っています。


環境NGO

最も身近な環境問題であり、生活や健康に直接的な影響を及ぼすため、今、中国国内で特に深刻に受け止められているのは、水と大気の汚染問題と言えるでしょう。2010年1月には、JFS事務局の坂本典子が、南京大学環境学院、ウッドローウィルソンセンター中国環境フォーラム、アジア経済研究所の共催により、南京大学で行われた日米中の3カ国の行政・研究者・NGOによる国際ワークショップ(WS)に参加しました。このWSは、中国で3番目に大きな湖である太湖流域での環境保全・再生のための流域ガバナンス体制づくりをめざして開催されたもので、日本やアメリカの湖汚染問題の経験や中国の関係各者の取り組みを、それぞれ共有しました。

太湖流域では産業および生活排水による水質の汚染が進み、2007年初夏にはアオコの大発生により、湖水を水源としている無錫(むしゃく)市の水道供給が一時停止されるという水危機にみまわれました。その流域は複数の省にまたがっているのですが、省を越えた協力は、まだまだむずかしいということです。WSでは、汚染の原因となる排水を出している生活者や産業界をいかに巻き込むか、どうアクションにつなげていくかが話し合われました。

南京でのWSでは、中国の環境NGOの8団体とつながることができました。また2010年6月には、JFSマネジャーの小林一紀が北京の環境NGOを5団体を訪問し、意見交換をしてきました。

2009年11月のJFSニュースレター記事でも紹介したように、2005年以降、中国の環境NGOは急速に増え、学生を中心に環境問題について真剣に考える人々も増えていますが、全般的に人々の環境意識はまだ低いそうです。中国における環境NGO活動は熱心な学生に支えられているとも言われますが、特に資金面など継続的な活動基盤という意味では、まだまだ課題が多いとのことです。

JFS関連記事:中国の環境NGOレポート
http://www.japanfs.org/ja/join/newsletter/pages/029559.html


産業界

産業界の取り組みに関して、小林が訪問した環境NGOのひとつ、China Dialogueは、「中国企業の間で、CSRの概念が導入され始めているとはいえ、まだ発展しているとはいえず、緩やかに定義された『社会貢献』のレベルにとどまっている」という見方を示しています。

企業経営の慣習の違いとして、調達・生産・流通に関する経営情報を公開する習慣が中国にはありません。また、まだ社会から強く求められていないこともあって、中規模レベルの企業では、生産活動に伴う周辺環境への汚染への意識やその対策はまだまだということです。汚染源はどこで、どれくらいの汚染物質を出しているのかの情報も充分に得られない現状では、対策が一向に進みません。

その問題に1990年代から取り組んできたのが、馬軍(Ma Jun)氏率いる「公衆と環境研究センター」です。この団体では、中国水汚染地図と大気汚染地図をウェブサイト上で公開しています。行政などによるデータに基づき、基準量以上の汚染物質を排出しているとされる企業をリストアップし、Greenpeace中国と共同で、企業による環境汚染を伝えるレポートを発行すると同時に、そうした企業からの製品の購入ボイコットも呼びかけています。

同センターは抗議行動だけでなく、企業との対話を通じた解決をはかろうとしており、すでにパナソニックやウォルマートによる中国での生産・流通活動の汚染対策に協力した実績があります。環境汚染への意識の高い中国国内企業が少ない一方、海外から中国に進出してきた多国籍企業は、生産拠点での環境汚染は企業ブランドへの風評リスクにつながるため、いちはやく対応する様子が見られます。

アジアのCSR情報プラットフォームを運営するCSR Asia会長、リチャード・ウェルフォード氏の談話によれば、中国の企業でも、多国籍展開を経てグローバル企業への成長をめざす大企業の一部は、環境やCSRを重視しているとのことです。今、より多くの中国企業が環境保護とサステナビリティへの取り組みを進めることと、すでに始めている取り組みを広く伝えていくことが求められています。


最後に

これまでにJFSのメンバーが出会った中国の行政関係者や環境NGOからは、「世界の進んだ取り組みをもっと学んで、中国で生かしていきたい」という声が多く聞かれました。世界から学ぶことで、中国国内の実情に即した取り組みも進んでいくことでしょう。しかし、環境情報の発信に関しては、今のところ国内の意識啓発を重視しているため、「中国での環境やサステナビリティへの進んだ取り組みについての情報を幅広く世界に伝えていこう」という動きは、まだこれからです。

中国は急激な経済成長を遂げ、2007年には世界最大の二酸化炭素排出国になりました。 一方、2009年には世界一の風力発電の新規設備容量を誇る国ともなっています 。中国の動向については世界の注目が集まっていますが、環境やサステナビリティに関する情報は、分野や主体者ごとに分散しているのが現状です。政府や地域、個人など、プレイヤーや取り組みの規模の大小を問わず、中国国内の環境対策やサステナビリティに向けての動きを包括的に伝えるメディアが求められています。

JFSでは、日本発の環境情報を発信してきた経験と世界へのチャンネルを生かし、中国から世界への環境情報発信(China for Sustainability)を後押ししたいと考えています。現在、ボランティアメンバーの協力を得て、情報を集め、記事を書いてもらう仕組みづくりを進めているところです。

中国の環境情報を、JFSから世界の読者のみなさんにお届けできる日を、どうぞお楽しみに!

世界をサステナブルな方向に動かしていくために、JFSからAFSへ、そしてWFS(World for Sustainability)に向けて、中国やアジア、世界の仲間たちとのコラボレーションを心から楽しみにしています。


(スタッフライター 坂本典子)

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