ニュースレター

2010年07月27日

 

新たな価値を見出す「ドゥタンク」 ~ アミタ持続可能経済研究所

Keywords:  ニュースレター 

 

JFS ニュースレター No.91 (2010年3月号)
シリーズ:持続可能な社会を目指して - 日本企業の挑戦 第89回
http://www.aise.jp/about/index.html


再生は、資源、地域、そして人

持続可能社会の実現を目指し、循環型システムをつくる取り組みとして、環境、農林水産業、エネルギー、食、地域といったさまざまな分野で事業を展開するアミタグループは、2010年1月、持株会社体制に移行し、アミタホールディングス株式会社を設立して新たなスタートを切りました。

このアミタグループの一企業、株式会社アミタ持続可能経済研究所(以下、持続研)は、同グループが柱とする事業のなかでも、特に「環境ソリューション事業」として、地域再生、自然産業再生事業のプロデュースおよびコンサルティングから、企業の環境リスク提言やリスクコミュニケーション、環境部門支援、CSR活動支援などを展開しています。

アミタグループの事業の底に流れていているのは、「価値がないと思われているものに新たな価値を見出す」という考え方です。もともとアミタは、工場などから排出され、不要とみなされて廃棄されていたものに亜鉛などの貴重な原料が多く含まれていることを発見し、再資源化を始めたことから出発した企業です。

持続研のミッションは「森、里、海などの自然資本(Natural Capital)と、人と人との信頼関係、心のつながりなどの社会資本(Social Capital)を高め、人と自然の悪循環を好循環に変えていく」とされています。「新たな関係性をつくり、これまで使われていなかったものに新たな価値を見出すことが常に念頭にある」と持続研代表取締役社長の唐鎌真一さんは語ります。新たな価値を見出す対象は、モノだけではありません。地域の人が活用できていなかった身近な自然にも、地域にはない都会ならではの技術やアイデアも、それらが本来有する価値を見出し地域再生事業へ生かそうとしています。


機能とコンセプトの合致した京都

持続研は、2005年に京都で立ち上がりました。京都でのスタートについて、アミタホールディングス(株)カンパニーデザイン室グループ広報担当の鎌田紗織さんは、「地域としても、環境としてもコンセプトに合ったからです」と語ります。京都は1997年に、第3回気候変動枠組条約締約国会議(COP3)で京都議定書が議決した地でもあり、「環境」というキーワードを考える場合に適していると思われました。また、オフィスは、古くからある独特の長屋住居「京町屋」を改装して活用しています。
http://www.aise.jp/company/office.html

多くの企業の環境部は本社にあるため、東京の拠点も必要ですが、一次産業を支援する拠点として、京都にオフィスを持つことには、大きな意味がありました。唐鎌さんは次のように語ります。「コンサルタントとして地域再生の提案をするにしても、現地のことを知らないとできません。地域の方々と、ときには酒を交えながら話すことで、私たちの提案は深いものになります。囲炉裏がある京都オフィスだからこそできることです」

シンクタンクとして地域再生の提案をするだけではなく、一緒になって地域再生の事業活動を行う「ドゥタンク」を標榜する持続研では、京都オフィスは、企業コンセプトの体現と機能の両方を兼ね備えたものとなっているのです。

では、膝をつき合わせた話し合いから生まれてくる地域再生のポイントには、どのようなものがあるのでしょうか。一番のポイントは、「われわれの提案が押しつけや迷惑にならないように地域の人たちと合意するプロセスを、入り口の段階でいかに深く議論できるかです」と唐鎌さんは強調します。

そうやって、一つひとつ丁寧に積み上げていく再生事業は、それぞれの地域の事情を反映させたものとなります。ある地域で成功した手法が、ほかでも同じように成功するとは限らないのです。そこに、地域再生事業の大変さ、そしておもしろさがあるとも言えます。


琵琶湖を望む里地里山の生きものたちが主役の「たかしま生きもの田んぼ米」

持続研の立ち上げ期からかかわっているプロジェクトが、琵琶湖の北西部・滋賀県高島市で行われている「たかしま生きもの田んぼプロジェクト」です。

琵琶湖の特徴は日本一の広さだけではありません。400万年以上前に誕生した古代湖で、ニゴロブナやイワトコナマズ、ビワマスなど50種以上の固有種がいることでも特異な湖です。高島市は、世帯数の約15%が水稲農家で、市の陸地面積の約8%を水田が占めます。ここで使われた水は琵琶湖へと流れるため、田んぼの環境を保全することは琵琶湖の環境保全にもつながるのです。

滋賀県は琵琶湖の水質汚染を減らすために、2003年4月に「環境こだわり農業推進条例」を施行し、農薬や化学肥料の使用制限を推奨するなど、環境保全型農業推進の後押しをしています。

しかし持続研が市や農家たちと検討を始めた当初、プロジェクトをどう進めていくのか、特に、どのような物語を育み共有していくのか、という課題がありました。というのも、高島市には、コウノトリやトキといった、メディアにもよく登場するニュース性のある「スーパースター」がいないというのです。

たとえば近県の兵庫県では、日本では絶滅したコウノトリを復活させるために、2005 年から試験放鳥が始まり、周辺の田んぼではコウノトリの餌となる水生動物を増やすために、農薬や化学肥料の使用を控えたり、水田魚道の設置などを行う「コウノトリ育む農法」が推奨されています。そして収穫物はブランド米となっています。絶滅したトキの復活を試みる新潟県佐渡市でも、同様に環境保全型農業によるブランド米があります。

JFS記事:農林水産省 生物多様性を重視した農林水産業に対する認証制度を提言
http://www.japanfs.org/ja/pages/022739.html

持続研は、そうしたスーパースターに絞るのではなく、生きものたちの顔ぶれの豊かさを売りにして『たかしま生きもの田んぼ米』として売り出したらどうかという提案をしたと言います。

当初は賛同してくれる農家はわずか数軒でしたが、5年を経た今では、30軒以上となりました。これからの農業を担っていく20~30歳代の農家も数多く参画しています。また、高島市は滋賀県では唯一、農林水産省の有機農業のモデルタウンに選定され、たかしま生きもの田んぼプロジェクトに取り組む農家たちのグループ「たかしま有機農法研究会」がその中心となっています。たかしま有機農法研究会が農薬・化学肥料不使用で生産する「たかしま生きもの田んぼ米」は、2キロ(白米)で1,450円と、一般のスーパーで販売されているお米に比べると若干高くなりますが、関西をはじめ、関東でも評価が高く、販路が広がってきています。

「地元の人たちは、ここには特別なものはないと思っています。しかし、よそから来たからこそ気づく新しい視点を示して、それが地域の資源になるという合意をつくっていくのです。地域の資源の生かし方には、どこでも通用する汎用的な答えはないと思います」(唐鎌さん)

参考URL:たかしま有機農法研究会・たかしま生きもの田んぼ米について
http://ikimonotanbo.jp/


「地域は意外に元気がある。まだ捨てたものではない」

多くの農山漁村では若者を中心に都市部への人口流出が進んでいます。一方、都市に住む若者の間では、農林漁業などの一次産業への就業や、農山漁村地域の定住への関心が高まっています。都市住民の移住は、農山漁村の活性化を図る手段にはなりますが、ただ移住しただけでは、お互いのよい点が活かされません。お互いの人材や資源を有効に活用できる、コーディネーターが必要になってきます。

農林水産省では、2008年度から「田舎で働き隊!」事業(農村活性化人材育成派遣支援モデル事業)として、都市部の人材を農山漁村の活性化に活用するため、人材育成やコーディネート機関に対して支援しています。持続研は、この事業を担っているほかの8団体とともに、「ニッポンのムラ力(ヂカラ)向上プロジェクト」を立ち上げました。

「参加団体にはそれぞれに強みがあり、グリーンツーリズムや、農林業といった強みや専門性を持っています。そのなかで持続研の強みは、農林水商工すべてのフィールドでの経験があり、『ドゥタンク』としての特色を生かせる知見とノウハウを持っていることです」(唐鎌さん)

唐鎌さんは3年前までは都市銀行に勤務し、環境型配慮の融資などを行っていました。しかし、持続研で地域の現場を数多く訪ね歩くうちに、「かつて得ていた情報は、かなりデフォルメされていたことがわかりました。地域は、聞いていた以上に元気がある。捨てたものじゃない、と思います。限界集落だ、自給率の低下だと危機感をあおられていますが、現場にはまだ力があります」と力強く言います。

地域を元気にするためには、現場をよく知って、価値がないと思われていたものにも新しい価値を見出し、新しいつながりをつくって活用する。持続研の活動は、各地の協働者を巻き込みながら、これからも広がっていきそうです。


(スタッフライター 岸上祐子)

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