ニュースレター

2010年01月12日

 

地域が支える有機の里づくり

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30世紀につながる持続可能なまちづくりをめざして
有機の里 ~ 埼玉県小川町

JFS ニュースレター No.85 (2009年9月号)
シリーズ:地方自治体の取り組み 第26回

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埼玉県小川町は東京から電車で約1時間、周囲を山に囲まれた自然豊かなまちに3万5000人あまりが暮らしています。その里山の自然環境や歴史を残す町並みから、「武蔵の小京都」とよばれ、1300年の歴史を誇る手漉き和紙や小川絹、森林資源を活用した建具や、良質な水を利用した酒造などの伝統産業を中心に栄えてきました。

この小川町で38年前から有機農業を実践してきたのが金子美登(かねこよしのり)さんです。金子さんが農業を始めた1970年代、ローマクラブの「成長の限界」が発表され、このまま人口も経済も成長を続けて環境破壊が進めば人類の成長は限界に達するという内容が、世界中で大きな反響を呼びました。また同じ頃、石油ショックが起こって世界経済は大きく混乱し、日本ではイタイイタイ病や水俣病などの環境汚染が原因の公害病が多発したほか、米の生産調整のための減反政策が始まりました。

このような時代を背景に、金子さんは、「これからの農業は安全でおいしく、栄養価のあるものを豊かに自給していくことが大事」と考えました。やがて枯渇する化石燃料や鉱物資源に依存する「工業化社会」から、永続的な「農的社会」がやってくると考えたのです。


有機的な循環をめざして

「安全でおいしいものをつくるには、化学肥料や農薬を使わずに、自然の有機的な循環を利用して農業をすること」――金子さんの農場では、その季節にあったさまざまな作物を栽培しながら、牛や鶏、合鴨などを飼育する有畜複合農業を実践しています。畑でとった食べものを食べ、生ごみや作物のくず、雑草などは動物のえさになり、その糞尿や山から集めた落ち葉が堆肥となって、畑や田んぼの栄養になるという循環です。

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落ち葉などを使った堆肥:Copyright Japan for Sustainability


これらの有機農業による循環に加えて、エネルギーも自給できれば本当の自立につながると、太陽光、バイオガスなどの自然エネルギーの活用や、食用油の廃油を利用したSVO(Straight Vegetable Oil)燃料のトラクターや乗用車を使用する取り組みも行っています。

金子さんは、有機農業の推進と普及にも尽力してきました。有機農業の後継者を育てようと、この四半世紀あまりで受け入れた研修生は100人を超え、日本のみならず世界各地で活躍しています。研修を受けて小川町で独立した生産者を中心に、1994年には「小川町有機農業生産者グループ」という任意団体を立ち上げ、現在は30軒の有機農家が共同出荷などの取り組みを行っています。

「近年の食の安全や環境という気運に後押しされ、有機農業は広く一般にも認知されるようになってきました。でも、まだ生産者にとってはリスクの大きい、労働量の多い農法ですし、消費者の理解も十分とはいえません。技術の向上や情報交換の機会を求め、販路を拡大し、消費者の理解を深めるための活動を続けていきたい。共存する自然環境に負荷をかけない生き方や、人を大切にし、豊かに自給する農業をめざしていきます」と有機農業生産グループのメンバー、岩崎民江さんは語ります。

小川町有機農業生産者グループの取り組みは行政や市民とも連携しながら広がり、小川町は「有機の里」として、有機農業を学びたい若者をはじめ、さまざまな人が訪れるようになりました。金子さんは1999年には小川町議会議員に当選し、政治の側から有機農業を生かした「食、エネルギー自給、循環型の町づくり」に取り組んでいます。


もうひとつの循環――地域が支える有機農業

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小川町の自然酒
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有機農業は天候などの自然条件に大きく左右されるため、生産量が一定でないことも多く、大きさや形もまちまちです。その有機農業を支え、町の活性化にもつなげようと、地場産業との連携が始まりました。1988年、地元の酒造メーカーと提携して発売した有機米を使った「小川の自然酒」を皮切りに、しょうゆ、乾麺、豆腐など、地場産有機農作物を使った商品が開発されています。「有機栽培の大豆はすべて買い支える」という地元企業や、企業ぐるみで有機米を購入する地元企業なども町の有機農業を支えています。

※ JFS関連記事:社員の米を会社が確保、地元農家を支援して食への意識を高めよう
http://www.japanfs.org/ja/pages/029148.html


有機農作物の販路が生まれたり、無農薬栽培の実践例を身近に見たり、その収穫物の質の違いを実感したりして、有機農業に切り替える生産者も増えてきました。「70歳をすぎて、農業がこんなに楽しいものだということを初めて知った」という農業者も現れるなど、有機農業を中心に町が活性化していく「プラスの循環」が起きてきています。


30世紀につながる町づくり

小川町では、1992年に小川町自然エネルギー研究会がバイオガスプラントの実証実験を開始し、現在はNPOふうどが引き継いで、行政や市民と一緒に、生ゴミの資源循環化事業に取り組んでいます。行政が回収した生ごみを、生ごみ資源化プラントで液肥とメタンガスにし、液肥は生産者が購入・使用します。この事業によって、2001年から2007年までに87トンの生ごみが資源化されました。

※ JFS関連記事:NPOふうど、バイオガスプラントで生ごみを資源化
http://www.japanfs.org/ja/pages/023815.html

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生ごみ資源化プラント
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この生ごみ資源化事業に参画しているNPO生活工房つばさ・游の高橋優子さんは、「エネルギーと食の自給をめざし、外国から輸入する化石燃料や海外資本に振り回されない、市民の手による自給自足のコミュニティをこの小川町で実現させたい」と語ります。

生ごみ資源化プラントの資金の半分は、市民からの出資でまかなわれました。「市民から出資を募り、事業の成果である利益や損失を共有する仕組みを作ることで、生産手段を持たない住民も農家と協力して循環型社会を作っていくことができる。これは新しいかたちの『市民発の公共事業』ではないか」と高橋さん。

また、ほかにも、有機資源循環農場(霜里農場)の見学会、有機野菜料理教室やキャンドルナイトなどのイベント、小学校への環境出前講座を企画・開催して地域活性化に取り組んでいるほか、地元で受け継がれてきた大豆を使った豆腐を地元企業と共同開発するなど、食とエネルギーの地産地消へのさまざまな取り組みが進められています。

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小川町の七夕まつり
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1300年の伝統を誇る小川和紙は1000年は使えると言います。その地元の手漉き和紙を使った伝統的な七夕まつりも、活動のひとつです。「その地域の人には当たり前の自然や産業も、外の人にはとても新鮮に映ります。この『地元の宝』を活かさないのはもったいないと、さまざまな活動に取り組んでいます」と高橋さん。1000年後の30世紀が持続可能な世界であるように、七夕まつりに願いを込めて、高橋さんたちは持続可能な町づくりに取り組んでいます。


小川から世界へ

有機農業が地域を支え、地域が有機農業を支える――このような取り組みは小川町に限ったものではありません。カンザス州のローレンスおよびカンザスシティでも同様の取り組みが行われています。米国の大規模農場の中心地に位置するこの地域は、有機農業を実践する農家と地域のコミュニティが支え合ってまちづくりをしています。

2009年5月から6月にかけて、NPO法人アイフォームジャパンとカンザスルーラルセンターが「有機食品を通した地域づくりをめざして 埼玉―カンザス交流事業」を行いました。5月にカンザス州から来日した有機生産者や専門家など10名が小川町に6日間滞在し、有機農場を見学し、有機生産者との交流会を開催しました。6月には小川町のメンバーを含む10名が日本からカンザスを訪れ、現状や問題を共有したり、類似点や違う点を学びあったりして、帰国後もウエブサイトを通じて交流を深めています。共同出荷や販路の拡大など、帰国後すぐに実践できる学びも多くあり、お互いに貴重な機会となりました。
http://www.gplof.org/


2006年12月、日本で有機農業推進法が成立しました。小川町は2008年から5年間の有機農業のモデルタウンに選ばれ、有機農業生産者グループを中心に、行政、JA、一般の生産者を含む団体、そして市民も巻き込んで発足した小川町有機農業推進協議会が、有機農業を新しく始めたい人のための相談会を開催するなど、有機農業の推進に努めています。

さらに、海外との連携プロジェクトを契機に、若い世代の生産者交流プログラムが企画されるなど、小川町の「30世紀」を見すえた取り組みが展開しつつあります。小川町の有機農業を中心としたまちづくりが、「持続可能な30世紀型農業モデル」として世界に広がっていくことを期待しています。

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(スタッフライター 佐藤千鶴子)

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