ニュースレター

2009年07月28日

 

環境ビジネスを推進する ~ 富士通総研

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JFS ニュースレター No.79 (2009年3月号)
シリーズ:持続可能な社会を目指して - 日本企業の挑戦 第77回

企業経営の問題を、どう把握し解決すべきかわからないときに、客観的に状況を分析し助言をしてくれるシンクタンクやコンサルティングはありがたい存在です。

富士通総研は、富士通グループの1つとして1986年に創業しました。同社は新しいビジネスモデル、業務改革、経営とITの一体化を提案する「コンサルティング」、社会科学・自然科学の理論とITを融合した課題解決手法を提供する「研究開発」、社会・経済・産業の将来の変化を洞察し政策提言する「経済研究」の3つの分野を大きな柱としています。

同社が掲げる環境方針のスローガン、「事業における環境負荷低減の推進」に向けて行われているプロジェクトをいくつかご紹介しましょう。

グリーン物流を通して具体的に検討される環境貢献

物流の効率化はコスト削減につながり、経営面でプラスとなるばかりではなく、CO2排出量やエネルギー使用の削減にもつながります。こうした環境に配慮した物流は「グリーン物流」と呼ばれています。荷主企業と物流事業者が協働し、物流面におけるCO2排出削減に向けた取り組みを推し進めるため、日本ロジスティクスシステム協会、日本物流団体連合会、日本経済団体連合会、経済産業省、国土交通省が連携して、2005年に「グリーン物流パートナーシップ会議」が設立されました。この会議には、多くのメーカーや物流企業、自治体、IT企業などが参加し、富士通総研もメンバーの一員です。また2006年には、経済産業省と国土交通省が「グリーン物流とエコポイント研究会」を開催し、消費者も含めたグリーン物流の普及・促進に向けた検討を行っています。

「グリーン物流とエコポイント研究会、物流エコポイント制度モデルを提案」
http://www.japanfs.org/ja/pages/024538.html

グリーン物流を浸透させる取り組みを研究している同社第一コンサルティング本部では、荷受側の協力に着眼しました。企業同士だけではなく、消費者のかかわり方を変えることで、初めてグリーン物流が実現します。そこで、物流と消費者を結びつけるために、エコポイントの導入という実験が2007年度に行われました。

参加企業は通信販売の大手である千趣会と、物流大手の佐川急便です。千趣会の会員にモニターを募集したところ、1日で1,000人の定員が埋まるほどの関心を集めました。

まず、商品の配送日時がモニターへメールで届きます。モニターはそれを見て、受け取り可能な日時を指定します。参加者は再配達なく受け取ることができれば3エコポイント、再配達1回で1エコポイントを受け取ることができます。このポイントは、次回の商品購入か植林への寄付に使うことができ、消費者にとってメリットとなります。物流事業者にとっても、前もって受け取り日時を設定することで、無駄な運送をせずに済むわけです。

研究開発部上級研究員の亀廼井(かめのい)千鶴子さんは、参加企業から「環境負荷低減の効果ばかりではなく、企業イメージのアップにもなった」と驚きの声があったと言います。現在、消費者と千趣会・佐川急便が連携して「地球温暖化防止応援キャンペーン」に取り組んでいます。また、2008年度には、複数の事業者が共同で宅配ボックスを設置した場合の、利用者の活用頻度と効果の調査も始まっています。

経営と一体化した環境負荷低減を目指して

この1月にリリースを出したばかりの新たな提案が、「環境負荷低減と経済価値向上の両立を支援する環境経営ソリューション」です。
http://jp.fujitsu.com/group/fri/column/news/200902/200902/2009-2-7.html

これまで多くの企業では、環境保全を心がけたとしても、CO2排出量などの社内データを収集し、それに対する環境活動を行い、その結果をCSRレポートなどで社会へ報告する程度にとどまっていました。環境負荷低減活動は「コスト」と考えられ、経済価値のあるビジネス活動とはとらえられていません。そこで富士通総研では、企業経営と一体化した環境ガバナンスを推進するためのフレームワークを開発しました。環境負荷低減と経済価値向上の両立を目指し、クライアントの環境経営の継続的な高度化を支援するものです。

このフレームワークは、企業の環境への取り組み全体を、「目的」「対象領域」「構成要素」の3つの軸で整理したものです。まず目的を、(1)ビジネス活動の一環として、環境にいかに取り組んでいくかを考える「戦略」、(2)どれだけ環境に貢献しているかを社会に正しく伝える「報告の信頼性」、(3)取り組みが確実に成果に結びつくことを目指す「業務の有効性、効率性」、(4)環境問題や規制の変化に誠実に対応していく「コンプライアンス」の4つとし、対象領域を「全社(事業体としての組織全体)」、「サイト(工場、営業拠点、店舗など)」、「現場(製造現場、営業現場など)」の3つのレベルで取り組むことを提案しています。

構成要素は6つです。(1)取締役会の意思決定などについて評価する「環境経営基盤」、(2)環境活動へのリスクなどをとらえ、それにどう対応するかという「環境活動の評価と対応」、(3)日々の業務のなかで、どのような保全をするのか、どのような製品をつくるのかといった、ビジネスプロセスをすべて含めた「環境保全活動」、(4)どれだけの効果が上がっているのかの「モニタリング」、(5)各ステークホルダーとの情報共有や社員教育などを含む「情報と伝達」、(6)環境活動におけるITの活用状況やIT自体の環境対応度を見る「ITへの対応」です。こうした6要素について約100項目にもわたる分野で調査や評価をし、環境経営における脆弱性をあぶり出していきます。

「これは内部統制などリスクマネジメントのフレームワークを応用したものなので、他のリスクマネジメントとの融合性をとりやすいものになっています」と内部統制事業部シニアマネジングコンサルタントの佐藤研さんは説明します。

「従来の環境活動は法令への対応が中心でしたが、法令遵守にとどまらず、消費者の志向や市場動向など、さまざまな変化へ対応することが必要になってきています。幅広い対象を網羅し柔軟に対応するために、このフレームワークが役に立ちます」(佐藤さん)。

昨年は省エネ法も改正されるなど、企業はより厳しい環境への対応が求められていますが、プロセスを改革してビジネスの効率化とCO2削減などの環境負荷低減を両立させることは可能です。さらにそうした取り組みを積極的に情報発信することで、ブランド力の向上にもつながります。

民生部門や地域交流への提案も

政策提言や一般企業へ考え方を提示するシンクタンク機能を担う同社経済研究所では、この数年、低炭素社会の実現を大きなテーマとしています。日本では、2007年度速報で、1990年度比40%以上のCO2排出量の増加を示したのが、オフィスや家庭などの民生部門です。最近の成果を発表した「研究レポート(No.333)」では、業務部門に比べ、削減がなかなか進まない民生部門対策について発表されています。省エネ効果の高い家電や省エネ住宅などハード部門の対策は進んでいますが、この研究を行った経済研究所主任研究員の生田孝史さんは「ハードの導入だけではなく、効果の"見える化"と省エネ機器などの使い方に応じたインセンティブが必要なのではないか」と提言しています。
http://jp.fujitsu.com/group/fri/report/research/2008/report-333.html

また同社は、地域活性化につながる事業にも携わっています。

JFS/volunteer-holiday Copyright 株式会社富士通総研

2004年に、国土交通省と総務省の連携で「交流人口拡大による地域活力向上のための施策モデル(ボランティアホリデー)構築に関する調査」が実施されました。その事業を委託された富士通総研では、調査が終わった2006年以降も「ボランティアホリデー」の運営事務局となり、各地域が求めるボランティア情報をポータルサイトで紹介し、全国の中山間地域と都市住民をつなぐ役割を果たしています。2008年には、約170名がこのサイトを通してボランティアに参加しています。
http://www.vol-h.org/

このサイトの運営は、本業と直結するものではありません。しかし、公共コンサルティング事業部シニアコンサルタントの安藤日出夫さんは「地域や関係団体などとのチャネルが広がることで、新しい事業やビジネスのきっかけにつながってきています」と事業の可能性を説明します。

富士通グループでは「すべてをグリーンにします」というスローガンのもとで、「環境に配慮した生産活動」「環境配慮技術・製品の提供」「環境ソリューションの提供」に対して、社員一人ひとりが貢献することを目指しています。また中期環境ビジョン「Green Policy 2020」を掲げ、その目標として2020年に国内で年間約3000万トンのCO2排出削減への貢献を目指しています。富士通総研でも、それにのっとった取り組みを行い、これからも社会へ貢献していくことでしょう。

(スタッフライター 岸上祐子)

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