ニュースレター

2008年06月01日

 

日本の地域版・中小企業版環境マネジメントシステムの潮流

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JFS ニュースレター No.69 (2008年5月号)

国際的な環境認証の規格にISO14001があります。これは、国際標準化機構(本部ジュネーブ)が発行した環境に関する国際的な標準規格で、環境経営のための計画(P)・実施(D)・評価(C)・見直し(A)の手順、体制、文書等のシステムを組織内で構築する仕組みです。継続的に改善していくことによって、環境負荷も減少するという考え方で、1996年に発行以来、日本では2万件を超える事業所が認証取得(審査登録)し、世界一の取得件数を誇っています。

日本では1996年に、環境省が「環境活動評価プログラム(エコアクション21)」という、中小の事業者が環境への取り組みを促進するための仕組みを策定しました。このプログラムは、2004年には、「エコアクション21ガイドライン」(2004年版)に適合していることを認証する環境マネジメントシステムへと全面的に改定されています。大きな特徴は、把握すべき環境負荷項目や、取り組むべき行動など、必要な取り組みを具体的にプログラムの中で規定していることです。認証登録には、財団法人地球環境戦略研究機関持続性センターが当たっています。
http://www.env.go.jp/policy/j-hiroba/PRG/

日本の経済を支えている中小企業などを対象に、コストや手間を簡便にした独自の環境マネジメントシステム(EMS)が、日本の各地で誕生しています。国や自治体、企業の一部では、ISO14001認証取得と同等レベルとみなすところも増えており、金融機関も取得企業に対して優遇制度をスタートさせています。これら簡易な地域版・中小企業版環境マネジメントシステムが誕生した背景とその潮流をご紹介します。

KES・環境マネジメントシステム・スタンダードの誕生

1997年12月、京都で開催された「気候変動枠組条約第3回締結国会議(COP3)」で、二酸化炭素(CO2)など6種類の温室効果ガスについての排出削減義務などを定めた京都議定書が採択されました。

開催地の京都では、前年に京都市が地球温暖化対策地域推進計画を策定し、この計画を官民協働で押し進めていくために、ローカルアジェンダ21をつくろうという気運が高まっていました。そして、行政・企業・市民団体・学識者等が集まって誕生したのが、「京のアジェンダ21フォーラム」という団体です。
http://www.japanfs.org/db/959-j

同団体の8つのワーキング・グループのひとつ、企業活動ワーキング・グループでは、「中小企業が多い京都で、人も費用も負担が大きいISO14001の認証取得は不向きだ」と、ISO14001の規格に基づいた、もっと簡易で安価な仕組みづくりが検討されました。

中心となったのは京都工業会の企業のOBたちでした。現役時に取り組んだISO14001認証取得の経験を活かし、約10分の1の費用と取り組みやすい内容にして誕生したのが、「京都環境マネジメントシステム(KES)・スタンダード」です。
http://www.keskyoto.org/kesinfo.html

KESにはステップ1とステップ2という、段階的に取り組める2つのステップがあります。ステップ1は、環境問題に取り組み始めた段階の組織が環境宣言を定め、これを実行する計画を立てて進むものです。ステップ2は、将来的にISO14001の認証取得を目指す組織が、検討項目別にシステムを作って実行します。ステップ2には、ISO14001の要求事項が全て含まれています。

KES認証事業は、2年間の試行期間を経て、2001年4月から本格的に始まりました。2002年には「KES・環境マネジメントシステム・スタンダード」に名称を変更。運営組織は、当初は京のアジェンダ21フォーラム内の「KES認証事業部」としてスタートしましたが、現在は2007年4月に誕生した、NPO法人KES環境機構に受け継がれています。

KES協働機関への広がり

KESはその名が示すとおり、当初は京都市中心の企業を対象とした規格でした。けれどもKES認証取得企業がグリーン調達基準を設けると、京都市以外の取引先に波及するなど、中小企業向けのEMSの需要は、京都市内だけに留まらず全国にありました。このため、2003年5月より、KES以外の団体も「KES・環境マネジメントシステム・スタンダード」の審査・登録活動が可能となるよう、ノウハウを他の自治体や企業に提供したのです。現在、東北地方から九州までの11団体がKESと相互認証を交わし、地域を超えた審査登録を実施しています。

KESの審査やコンサルテーションは、審査員登録の要件を満たし、年間6回の審査員研修の3分の1以上を受けた登録者があたります。また、各地の協働機関とは、毎年1回の定期的なKES推進協議会を開催し審査基準の安定化に努めるなど、審査の質にも配慮しています。活動の事業性を維持しつつも、営利を目的としない姿勢が、KESの広がりを推進しているといえるでしょう。
http://www.keskyoto.org/kakuchikikan.html

中小企業版EMSの広がりの背景

地域版や中小企業版EMS認証登録の増加は、国や地方自治体の法制度や規制、企業のグリーン購入・グリーン調達の広がりに大きく関係しています。国際的にも、欧州のELV指令(End of Life Vehicle指令=欧州における廃自動車に対するEU指令)やRoHS指令(Restriction of the use of certain Hazardous Substancesin Electrical and Electronic Equipment指令=特定有害物質の使用制限に関するEU指令)などは、日本の輸出メーカー各社のサプライチェーンマネジメントを強化させました。部品を調達する中小の製造業者や卸売業者に、取引条件としてISO14001などの認証取得を要請するようになったのです。

歩調を合わせるように、エコアクション21やKES認証登録件数も倍増しています。エコアクション21の登録は、2004年度の155件から、翌年度には728件へと激増し、2008年1月時点で2,087件に達しました。KESは、開始時の年間100件から毎年倍増し、2007年度には2,000件を超えました。

KES環境機構の事務局長の平塚憲さんは、「KESができる前までは、メーカーが取引先にISO14001認証取得を求めたり、担当者が取引先を直接指導していた。メーカーの負担が、KESの登場により軽減されたことが追い風となった」と増加の要因を述べています。

エコアクション21では、「自治体イニシアティブ・プログラム」、「関係企業グリーン化プログラム」という、セミナー等の開催費用を負担する環境省の支援が、普及拡大を促進したと考えられます。

環境省が大企業(上場もしくは従業員数500人以上)を対象に1991年から毎年実施している「環境に優しい企業行動調査」によれば、取引先の環境配慮に対して何らかの基準を設けている企業は、2002年度には9.3%でしかありませんでしたが、2006年度には23.8%に増加しています。基準の条件も、2002年度にはISO
14001だけでしたが、翌年には地域版EMSも含まれるようになりました。2004年度以降では、KES、エコアクション21などISO以外のEMSを条件にあげる企業も増えています。
http://www.env.go.jp/policy/j-hiroba/kigyo/
http://www.japanfs.org/db/937-j
http://www.japanfs.org/db/1665-j

中小企業をめぐる環境マネジメントシステムは、「KES・環境マネジメントシステム・スタンダード」や「エコアクション21」のほかにも、国土交通省が主導する「グリーン経営認証制度」や「エコステージ」、地域版EMS等、さまざまな認証制度が誕生しています。また、国際的な動きとして、ISOでも中小企業等を想定したISO14005の策定が進みつつあるといわれています。

このような地域版・中小企業版EMSの誕生は、中小の事業所が立地する各自治体と中小企業の双方にメリットをもたらしています。継続的なPDCAサイクルによる見直しは、CO2や廃棄物の削減につながり、エネルギーや廃棄物処理のコスト削減が可能となります。地球温暖化対策や循環型社会の構築にもつながることから、多くの自治体では、グリーン調達の選定基準として、ISO14001認証取得と並んでエコアクション21やKES認証取得を条件に挙げています。

大企業だけでなく、日本の企業の約99%を占める中小企業も、環境問題への在り方が経営を左右する時代となりつつあります。人や資金など経営資源に限りのある中小の企業が、本来業務の成果を出すためのツールとしても活用できるように、今後のEMSの進化に注目していきたいと思います。


(スタッフライター 八木和美)

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