ニュースレター

2006年04月01日

 

県境不法投棄事件を教訓に - 岩手県の取組み

Keywords:  ニュースレター 

 

JFS ニュースレター No.43 (2006年3月号)
シリーズ:地方自治体の取り組み 第12回

廃棄物とは何か

日本では、「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」(廃棄物処理法)で、廃棄物は大きく「一般廃棄物」と「産業廃棄物」の2つに区別されています。事業活動に伴って生じた廃棄物のうち、法律で定められた20種類のものと輸入された廃棄物を「産業廃棄物」と呼び、家庭から排出される廃棄物と事業系廃棄物から産業廃棄物を除いたものを「一般廃棄物」と呼んでいます。

「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」
http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S45/S45HO137.html

一般廃棄物については「自区内処理の原則」という考え方に基づき、市町村が処理することが基本とされています。産業廃棄物については、事業者が自分で処理することが原則とされていますが、一般廃棄物と異なり、どの地域内で処理しなければならないという規定はありません。なお、排出事業者は、許可を有している業者に廃棄物処理を委託できることとなっており、ほとんどの事業者は廃棄物処理を業者に委託しています。その場合でも、廃棄物が適正に最終処分されるまでの責任は事業者が負わなくてはなりません。

しかしながら、首都圏などの大都市圏では、焼却炉などの中間処理施設や最終処分場を確保することが難しく、廃棄物を自区内で処理できないという問題を抱えています。そのため、産業廃棄物の多くが都府県域を越えて運搬・処分されているのが実態です。また、山間部では心無い処理業者による不法投棄が多くなっています。

青森・岩手県境 産業廃棄物不法投棄事件

1998年に発覚した「青森・岩手県境 産業廃棄物不法投棄事件」は、十和田八幡平国立公園の十和田湖からほど近い、岩手県二戸市と青森県田子町の県境にまたがる原野27haで起きました。首都圏から遠く500km以上も離れたのどかな丘陵地が、国内最大規模といわれる不法投棄事件の現場となったのです。

現場は青森県の産廃処理業者が所有する土地でしたが、堆肥と称して産業廃棄物が野積みされ、悪臭や汚水流出などの深刻な環境汚染を引き起こしていました。不法投棄量は、それまで全国最大といわれていた香川県豊島の45万立方メートルの2倍近い82万立方メートルに及びました。現場からは埼玉県の中間処理業者から排出されたRDF(ごみ固形燃料)様の産業廃棄物が多く見つかりましたが、廃プラスチック、紙くず、金属くずなどが含まれており、燃料として使用できるものではありませんでした。

そればかりか、地中から発見された200本以上のドラム缶からは、発ガン性が指摘される鉛や揮発性塩素化合物(テトラクロロエチレン、ジクロロメタンなど)が検出されました。現場にはピンク色の池ができ、有機溶剤のようなツーンとした悪臭が漂っていたといいます。「こんな理不尽を行政が許してはいけないと思いました」。『政策法務ナレッジ 青森・岩手県境 産業廃棄物不法投棄事件』(第一法規)の共著者で、事件を教訓に条例整備に取り組んだ岩手県職員の千葉実さんは、当時の状況を振り返ります。

岩手県の対応

不法投棄された廃棄物については、行政が原因者や排出事業者に対して措置命令を出し、原状回復や適正処理を求めることができます。しかし、原因者や排出事業者を特定することなどに時間がかかり、廃棄物が撤去されないまま放置されると環境に悪影響を及ぼすため、とりあえず行政が代わりに撤去し、その費用を原因者等に請求する「行政代執行」という仕組みがあります。ただし、費用請求段階で原因者等が財産を失っている場合などには求償できないことから、結局のところ、自治体が公費で撤去費用を負担することになります。

この件のように、首都圏の廃棄物の撤去費用を、被害を受けている青森県民や岩手県民の納めた税金で賄うことを、地元住民が納得するはずがありません。そこで、岩手県は事業者負担を貫くため、行政代執行を実施する前に、民事保全法を使って処理業者の財産を仮差押えし、2億6,000万円を原状回復費用として確保しました。

また、直接不法投棄をした原因者にとどまらず、産業廃棄物を排出した1万社以上の排出事業者に対しても責任を追及しました。排出事業者を特定するために、処理業者から提出された産業廃棄物管理表(マニフェスト)を整理する作業を1年がかりで行いました。それでも、原状回復の総事業費は青森県分を含め660億円にのぼり、両県には重い負債がのしかかります。岩手県は県境不法投棄事件の対策と処理について、以下のホームページで情報公開しています。

岩手県 産業廃棄物不法投棄緊急特別対策室
http://www.pref.iwate.jp/~hp0315/haikibutu/tokubetutop.htm

「循環型社会3条例」の制定

「北東北を首都圏のゴミ捨て場にしてはいけない」----青森・岩手・秋田の北東北三県は、広域産業廃棄物制度について検討するワーキング・グループを設置しました。東北地方は山間部が多いため、首都圏で発生した産業廃棄物が大量に持ち込まれ、大規模な不法投棄事件があちこちで起こっていました。大都市圏からの産業廃棄物の無秩序な流入を抑制するには、できるだけ多くの県が協力して対策を講じる必要があると考えたのです。

ワーキング・グループでは、県外産業廃棄物を搬入する際の県との事前協議、それに係る協力金の徴収、および産業廃棄物税制について検討し、これを元に2002年8月の北東北知事サミットにおいて、三県同時の産業廃棄物対策に関する条例化が合意されました。

ところが、産業界は、三県の産業廃棄物対策に理解を示しながらも、厳しい景気状況の下で新たな経済的負担を課せられることから、特に環境保全協力金の導入について反対意見を主張しました。これに対し岩手県は、税や協力金の収入は新たな環境産業育成のための助成措置の財源として産業界に還元すること、流入規制については、全国最大級の産業廃棄物不法投棄事件の被害県として、県民の不安感を払拭するためにやむをえないものであることなどを繰り返し説明し、最終的に理解を得ることができました。

その結果、2002年12月の岩手県議会で、(1)循環型地域社会の形成に関する条例、(2)県外産業廃棄物の搬入に係る事前協議等に関する条例、(3)岩手県産業廃棄物条例、のいわゆる「循環型社会3条例」が可決されました。このうち(2)と(3)については、北東北三県で同一内容の条例になっています。
http://www.japanfs.org/db/210-j

持続可能な循環型地域社会の形成

産業廃棄物が広域に移動する現在、最終処分されるまでに多くの業者が介在し、誰が排出したのか、どんな工程から排出されたのかがわからないまま、処理責任の所在が不明確になりがちです。しかし、産業廃棄物を適正に処理するためには、排出事業者が自らの産業廃棄物を自らの目の届くところで責任を持って処理することが何よりも重要です。

岩手県では「産業廃棄物の自県(圏)内処理」を推進しています。これは、岩手県内で発生した産業廃棄物はできるだけ県内または北東北三県、最大でも東北六県程度のエリアで処理する体制を整備しようとする考え方です。持続可能な循環型地域社会を形成するためには、廃棄物の性質に合ったリサイクル等の処理が隣接地域間で行われる体制づくりが不可欠であると考えています。

現代の大量生産・大量消費の社会システムが続く限り、不法投棄は日本全国どこでも同様に起こりうる普遍的な課題です。地方自治体にとって、県外から不正に持ち込まれた廃棄物を撤去するために、被害を受けている県民の税金を用いることは納得できるものではありません。県外廃棄物に対する規制は、他の自治体でも次々と考えられています。産業廃棄物の最終処分場が不足している現在、企業の社会的責任、およびゼロエミッションへの取組みがますます求められています。

(スタッフライター 角田一恵)

English  

 


 

このページの先頭へ