ニュースレター

2006年02月01日

 

人と自然を"食"で結ぶ - モスフードサービス

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JFS ニュースレター No.41 (2006年1月号)
シリーズ:持続可能な社会を目指して - 日本企業の挑戦 第35回
http://www.mos.co.jp/index.html

日本にアメリカ式のハンバーガーチェーン店が登場して、36年になります。店頭のカウンターで注文するとわずか数分で温かいハンバーガーが提供され、安価で手早く食べられることから、若い人たちを中心に受け入れられ、大小さまざまなチェーンが誕生しました。今では、全国に6千以上のハンバーガー店があります。

多くの人に親しまれているハンバーガー店ですが、環境面や健康面から見ると課題も多くあります。例えば、お客様を待たせないよう商品をあらかじめ作り置きするため、売れ残りを廃棄しなければならないこと、プラスチック容器や紙カップなどが大量に使い捨てされること、カロリーは高いが1食としては栄養が偏ることなどです。

モスフードサービスが経営するハンバーガーチェーン「モスバーガー」は、これらの課題を克服し、ハンバーガー=ジャンクフードというイメージを打ち破るべく、他のチェーンとは一線を画した商品とシステムで店舗を広げています。1号店のオープンは、1972年。2005年3月期には、全国に1,472店(うち直営店は145店)を構え、日本で2番目に店舗数の多いハンバーガーチェーンとなっています。

モスバーガーは、日本生まれのハンバーガー専門店として、安いものを大量に早く出すことよりも、よい素材を使ったおいしいものを出すこと、そして、日本の食文化をとり入れることにこだわってきました。創業当初から、作り立てのおいしさを提供するために、ひとつひとつ注文を受けて作るアフターオーダーを採用しており、イートインのドリンク類は、紙カップではなく繰り返し使える陶器製のカップで提供しています。また、味噌と醤油を使ったテリヤキバーガーやお米を使ったライスバーガーのように、日本の食材をとり入れた商品や、パンの変わりにレタスで包んだ低カロリーのハンバーガーのようにオリジナリティのある商品を揃えています。

モス(MOS)とは、Mountain・Ocean・Sunの頭文字で、「山のように気高く堂々と、海のように深く広い心で、太陽のように燃え尽きることのない情熱をもった人間集団でありたい」という創業者の願いから名づけられました。「人々の命や健康に直接関る"食"に携わる企業は、自然と融和し協調することによって初めて事業が成立する」という信念もこめられています。

同社の取り組みの特徴は、店舗の裏側も大切にする、ということです。お客様の目に触れる店内や商品やサービスだけでなく、食材の生産者や店舗の運営を支えてくれる業者とのつながりを大切にし、協力しあって持続可能な社会への改革を進めているのです。その事例を二つ紹介しましょう。

一つ目は、アグリ事業です。モスバーガーのハンバーガーには、レタス、トマト、たまねぎなどの野菜がたっぷり入っていて、野菜のおいしさを味わうことができます。創業以来、良質な野菜の調達に力を入れており、1997年からは、約2,000軒の農家の協力を得て、全店で化学合成の農薬や肥料をできるだけ使わず地域の環境に配慮して栽培された野菜を使用しています。
http://www.mos.co.jp/quality/vegetables/

アグリ事業グループの担当者は、産地に赴き、同社が求める品質と栽培管理を実践できる生産者かどうかを見極めた上で取引を始めます。その後も定期的に産地に足を運び、栽培方法の確認や改善指導をします。野菜の生産者には、農薬散布回数や施肥量などの栽培記録を義務づけ、その情報はモスバーガー各店と結ばれた産地情報管理システム上でデータベース化されます。店舗では、このデータベースを使って、その日に店に運ばれてくる野菜の生産者情報を知り、店頭に表示してお客様に紹介しています。

同社がアグリ事業に取り組むきっかけは、「野菜の味が店によって違う」というお客様からの声でした。さっそく味を均一化できる品種の研究を始めましたが、品種だけでは解決できないことに気づき、土作りに着目しました。そして自社の実験農場を作り、野菜の栽培方法を研究するようになったのです。ここで得られたノウハウを、モスバーガーの野菜作りに生かしています。

同社では、農業の発展なくしてモスバーガーの発展はないという考えのもと、日本の農家を応援し、競争力のある産地を育てることで、地域や生産者と共生しながら変革の努力をしていくことを目指しています。生産者を店に招いて、お客様にどのように食べていただいているかを自分の目で確かめてもらい、売れる食材の作り方を考えてもらうこともあります。また、化学肥料や農薬を減らすために混栽されたものの、店では使わない野菜の販売先を確保するために、インターネットショッピングサイトを運営するなど、さまざまな支援をしています。協力農家の中には、モスバーガーに出荷していることを品質の保証として、他の取引先を開拓したところもあるそうです。

二つ目は、野菜くずの循環型リサイクルです。モスバーガーでは、作り置きはせず、注文があってから調理をするアフターオーダー方式のため、食品の廃棄量は少ないのですが、丸ごとの野菜を店舗で調理するため、毎日野菜くずが出ます。サンプル店での測定では、1店舗1日あたり3.9kgの生ごみが出ています。これをリサイクルし、堆肥原料などに利用する仕組みづくりに取り組んでいます。
http://www.japanfs.org/db/232-j
http://www.japanfs.org/db/1195-j

2003年2-3月には、宮城県仙台市を中心とする5店舗で、野菜を納品したトラックで野菜くずを回収し、リサイクルする実験を行いました。通常なら空(から)で帰るトラックを利用するので、運送時の燃料を節約できCO2排出量を増やすこともありません。回収した野菜くずは、完熟堆肥にしたあと、花の栽培セットの培養土として、年に1度モスバーガーの記念日に全店でお客様にプレゼントされます。

この実験は、味の素(株)の物流子会社である味の素物流(株)と共同で行われ、野菜くずを回収してトラックの中で撹拌・減量化できるように改造した特殊車両が使われました。現在は、回収店を8店舗に拡大して継続されています。

2005年8月には、名古屋地区のモスバーガー5店舗を対象に、同様の取り組みを開始しました。名古屋では、より実現性を高めるため、特殊車両ではなく通常の配送車を使い、食材用の野菜と混載しても問題ないよう、野菜くずを密閉して運ぶ方法を考案しました。

また、東京都内の廃棄物業者と共同で、直営店16店の野菜くずを近郊の協力農家に引き取ってもらい、堆肥化してモスの野菜の栽培に使ってもらう実験も行っています。

これら以外の仕組みも含め、現在45店舗で循環型リサイクルの仕組みを構築しています。同社では、2007年までにチェーン全体の15%にあたる店舗でリサイクルの仕組みを作ることを目標としています。ただし、リサイクル資源の取り扱いに関しては、法律上の制約もあり、既存の廃棄物委託業者とも共存していきたいという考えから、リサイクル率の向上を追い求めるのではなく、他の外食チェーンやコンビニエンスストアと協力しながら、地域の実情にあった最も負担の少ない形で、継続して取り組める仕組みを検討し、導入していく方針です。

同社では、3年後の2008年度までに、モスバーガー全店を「安心・安全・環境配慮」をコンセプトとする「緑モス」に転換することを表明しています。緑モスとは、コンセプトを象徴する色として緑を選び、看板を今までの赤から緑に変えることからの呼称です。木目調の落ち着いた雰囲気で、居心地の良い空間を目指し、新店舗では禁煙又は分煙の対応を推進、効果の高い分煙化を段階的に進め、より食事らしい商品を販売するなど、いくつかの基準を設けて、2004年より徐々に転換しています。
http://www.mos.co.jp/shop/midori/

お客様の快適性と環境に配慮した店舗運営と、それを支える店舗の裏側での生産者や取引業者との協力による改革を両輪として着実に歩んでいくモスフードサービスは、これからも食を通じて、私たちと自然とをしっかりとつないでくれることでしょう。


(スタッフライター 西条江利子)

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