ニュースレター

2005年09月01日

 

情報・文化の担い手として - 凸版印刷株式会社

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JFS ニュースレター No.36 (2005年8月号)
シリーズ:持続可能な社会を目指して - 日本企業の挑戦 第28回
http://www.toppan.co.jp/
http://www.toppan.co.jp/csr/

情報の環境負荷

本、雑誌、カタログ、広告、パソコン...。様々なメディアを通して、私たちは日々たくさんの情報にふれています。情報に環境負荷はないですが、情報を伝える過程ではどうでしょうか。たとえば木材を原料とした紙、有機溶剤を含むインク、製本に使う接着剤、液晶画面の色を出すカラーフィルタ。情報革命が進み、私たちが摂取する情報が爆発的に増えていくなかで、いかに情報伝達に伴う環境負荷を下げるかは避けて通れない課題です。

こうした課題に、情報伝達を仕事とする印刷会社はいかに取り組んでいるのでしょうか。「情報・文化の担い手としてふれあい豊かな暮らしに貢献する」というビジョンを掲げ、環境負荷削減に先進的に取り組む凸版印刷株式会社の挑戦を紹介します。

凸版印刷は、グループ142社を含め約32,000人の従業員が働く、日本の二大印刷会社の一つです。紙幣や教科書などの印刷から始まった事業分野は、創業から100年を経て、今では証券・カード、商業印刷、出版印刷、Eビジネス、パッケージ、産業資材、エレクトロニクス、オプトロニクスの8部門で多彩な事業に広がっています。

印刷技術の革新

最近は様々な印刷物の裏表紙などに、「環境配慮」を示す表示を見かけることが多くなりました。凸版印刷の最新技術では今、どれほど環境に配慮した印刷が可能なのでしょうか。同社の社会・環境活動を報告するCSRレポート2004では、その時点で最新の技術を積極的に適用しています。

まずは、使用する用紙です。同レポートの本編部分は、市場回収古紙100%。データ集部分は国産の間伐材パルプを10%(残りは市場回収古紙)入れた間伐材用紙を使っています。間伐材を使うことで、国内の森林を育てることにつなげています。

次に、デザイン・編集の過程はどうでしょう。パソコンの登場とともに、文字通り机の上で出版できるというDTP(デスクトップ・パブリッシング)が可能になり、それまでのプロセスが簡略化され省資源化が進みました。凸版印刷ではこの流れを更に進め、最終的な印刷までできるだけデジタルで進める技術を進化させています。たとえば、デジタルデータから直接印刷版を作成する製版技術のCTP(Computer to Plate)、また、製版段階のフィルム発生を大幅に削減した色校正技術DDCP(Direct Digital Color Proof)などの技術で、できるだけ途中で生成するものを省いています。

そして、インキはどうでしょう。これまでのインキは石油系溶剤を主成分としていたため、人体や大気への悪影響が長らく懸念されていました。凸版印刷では、代替となる植物性インキを業界でいち早く95年から導入。99年には、学校給食や外食産業などから排出される植物性廃油を回収・精製して、再生植物油インキとするプロセスを確立しました。自社外で排出される資源を上手に使い、環境負荷の低い高品質な商品に再生する仕組みとして評価されています。

もう一つ印刷で欠かせないのが、廃液を出さない「水なし印刷方式」の活用です。通常の方式では、有機溶剤の一種を含んだ湿し水を使ってインキを紙面につけるため、廃液が出てしまいます。この方式では水のかわりにシリコン層を使うことで、廃液がまったく出なくなっています。

そして最後の製本・加工の段階では、リサイクルがしやすい接着を施します。具体的には、古紙再生工程で紙とわけるときに細分化しない「難細裂化ホットメルト」という接着剤を使うことにより、再生工程での除去が容易となります。また、従来の中綴じ製本ではステッチ(針金)を使いましたが、それを不要とした「エコ綴じ」という技術を使っています。

こうした印刷技術のほか、これまでの「印刷」を超えた、環境負荷の低い情報伝達技術の開発にも力を注いでいます。たとえば同社は2004年、紙を使わない電子ペーパーの商用化に成功し、世界で初めて量産供給を開始しました。
http://www.japanfs.org/db/657-j

また、同社はパッケージの生産も手がけています。森林育成のための間伐材使用を促進する目的で、飲料メーカーや製紙会社など30社と共同で、「森を育む紙製飲料容器普及協議会」を設立し、森林保護に取り組んでいます。凸版印刷が開発したカートカンは、間伐材や端材を含む国産材を30%以上使用する紙製の「エコロジー容器」で、2001年1月にカートカンの空容器をトイレットペーパーにするリサイクルシステムも構築しました。
http://www.japanfs.org/db/684-j

製品で持続可能性に貢献したい

このようにして、様々な技術を生み出すために、凸版印刷ではどのような開発体制を敷いているのでしょうか。

凸版印刷では、自社にとっての社会に対する責任(CSR)を掘り下げ、「事業活動そのものが、社会貢献につながること」があるべき姿と考えています。そのひとつが製品・技術・サービスの提供によって循環型社会の実現に貢献する、ということです。同社は業界でもいち早く、全社の環境活動を統括すべく1991年に「エコロジーセンター」を設立し、1992年には行動指針である「地球環境宣言」を策定。事業活動において環境汚染を防止するのはもちろん、研究活動においても地球環境保全に貢献する製品・技術の開発に努める方針を掲げました。

実際の製品・技術の開発にあたっては、生産と流通、使用、使用後の各段階における14の環境配慮基準を設定。製品を開発する事業部ごとに、環境配慮度を事前に評価します。開発した製品は「エコロジーセンター」が審査し、合格した製品のみが「環境配慮型製品」として認定・登録されます。商品には、「トッパン環境配慮型製品ラベル」を表示し、環境配慮ポイントをわかりやすく示しています。

こうして世に送り出す「環境配慮型製品」の売上は、毎年、会社の成長率を上回る10%超で成長(2004年度565億円)し、総売上の約5%を占めるほどになっています。

凸版印刷の環境配慮型製品が受け入れられてきた理由は何でしょうか。エコロジーセンターの山郷眞永(さんごうまさなが)さんは、支持されている理由の一つとして「品質の要求に対する企業努力」を挙げます。「環境に配慮していない製品は淘汰される時代になりました。しかし環境によくても、たとえばコストが高ければお客様は受け入れてくれません。お客様は、その他にもデリバリー、かっこよさ、おもしろさといった品質と同列で、環境という品質を求められます。その要望を的確に捉え、品質全体を高めていく努力をしています」。

未来に向けて

更に凸版印刷の環境配慮型製品が進化し、支持されていくために必要なものはなんでしょうか。一つは「グリーンSCM(サプライ・チェーン・マネジメント)をつくること」と山郷さんは言います。それは、これまでのように受注してから環境配慮型製品を作っていく体制から脱皮し、研究開発から、製造、販売まで一連のプロセスのなかに一貫して「環境」という品質を埋め込んでいくことを表しています。

もう一つは「将来のリスクまで考えること」。アスベストをはじめ、過去には画期的製品として開発されたものが、数十年を経て環境にとって大きなリスクがあることが明らかになる場合もあります。「技術的にも、リスクを明確化する限界もあるでしょう。それでも、技術を世に届ける企業として、常に将来のリスクを考えることに挑戦していきます。(山郷さん)」持続可能な社会における情報・文化の担い手を目指し、凸版印刷の挑戦は続きます。


(スタッフライター 小林一紀)

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