ニュースレター

2004年01月01日

 

「鉄道と持続可能性」 - JR東日本

Keywords:  ニュースレター 

 

JFS ニュースレター No.16 (2003年12月号)
シリーズ:持続可能な社会を目指して - 日本企業の挑戦 第8回
http://www.jreast.co.jp/
http://www.jreast.co.jp/eco/index.html

鉄道は東京の生活の一部

東京に住んでいて、鉄道を使ったことがないという人はほとんどいないかもしれません。現代の都市における移動手段といえば自動車がありますが、実際鉄道は通勤や買い物を始め日々の生活や移動に欠かせないものとして社会に定着しています。比較的鉄道の発達したイギリスやフランスと比べても、鉄道の利用比率は日本が一番高くなっています。

JR東日本は、その日本における旅客鉄道輸送の約3分の1を担っている、世界で最大の旅客鉄道会社です。同社は首都圏の約半分の鉄道輸送を提供しており、東京と本州東半分の都市の間に5つのルートで新幹線を走らせています。

従業員数は約71,000人(単体)で、2002年の売上は約2兆5,000億円、営業利益は約3,400億円を上げています。


巨大都市一つ分の乗客数、大都市一つ分のCO2、都市一つ分のゴミ

これだけの規模の事業を展開しているのは、それに見合うだけの需要があるからです。JR東日本の営業地域には人口が約5,900万人いますが、そのうちの1,600万人が毎日利用しています。1,600万人といえば、東京の人口1,200万人全てを毎日乗せても足りないほど。カイロやメキシコシティ、上海といった巨大都市1つ分の人々が毎日利用している計算になります。実に、「輸送人キロ」(輸送したおのおのの旅客にそれぞれの乗車距離キロを乗じた数値)という単位で見てみると、なんと同社だけでイギリス全体の3倍(フランス全体の約2倍、アメリカの13倍)の旅客運輸サービスを提供していることになります。

そしてこの鉄道は、1人を1km運ぶときの使用燃料や電気をCO2に換算すると、自動車の約1/10、バスの1/5ほどで、持続可能な社会における公共輸送システムとして注目を浴びつつあります。しかし、一日にこれだけの数の人が利用すれば、エネルギー消費量(CO2排出量)や廃棄物など全体では環境への影響は甚大なものになります。実に、2002年度のJR東日本が提供するサービスから発生する年間のCO2排出量は232万トン(100万人規模の都市の年間二酸化炭素排出量)、駅や列車で捨てられるゴミは5万トン(10万人規模の都市ゴミ)に及んでいます。

鉄道そのものは比較的環境にやさしい輸送手段であることに間違いはありませんが、鉄道会社が持続可能な社会に積極的に貢献するために、どのようなことができるのでしょうか?また、同社の取組みは、これから鉄道を運営する国や地域に対してどのような教訓を提示しているのでしょうか?JR東日本の取組みから、このテーマについて考えてみたいと思います。


省エネ車両、ハイブリッド電車、さらに燃料電池電車へ

まず、大都市一つ分に及ぶエネルギー使用量とそれに伴うCO2排出量を削減するためにどうしたらいいのか。同社はこの課題に対し、2005年度末までに90年度比総CO2排出量20%削減を掲げ、省エネ車両の導入と供給電力源の環境負荷低減を進めています。

消費エネルギーの72%が列車運転用エネルギーであることを考えると、まず走行に必要な電力をできるだけ下げることが必要です。そこで、材料を鉄からステンレスに変更したり車体の構造を工夫したりすることで軽量化し、また、ブレーキをかけた時に発生する電気を上手に利用するなど、様々な技術を組み合わせた成果として省エネ車両を開発・導入を進めているわけです。

現在導入している省エネ車両は、消費電力を従来の66%や、47%にまで下げており、2002年度末には全体で約12000両あるうちの68%(98年は51%)を占めるに至っています。また、より劇的に走行エネルギーを減らすための開発も進めており、2年かけて世界初のハイブリッド鉄道車両NEトレイン(New Energy Train)を開発し、2003年5月より走行テストを行っています。
http://www.japanfs.org/db/278-j

同社は燃料電池を使用する車両への第一ステップと位置付け、さらに開発を進めています。


供給電力源の効率アップと自然エネルギーの導入

次に、CO2排出量を削減していくためには、供給電力源の環境負荷を低減しなければなりません。同社は現在、年間に利用する電気の半分以上を自社の火力発電所(33%)や水力発電所(23%)でまかない、残り44%を電力会社から購入しています。自社発電の運用効率を向上するほか、給電指令を配して全体の発電量や送電網管理を行うことでムダな電力の発生を最小にしています。また、一部の新幹線ホーム屋根に太陽光発電パネルを導入したり、風力発電を導入したりするなど、自然エネルギーの利用を開始しています。

同社のこうした取組みは、しっかりと数値に表れています。2002年度のCO2の総排出量は1990年に比べて16%削減され、また単位輸送量あたりの列車消費エネルギーは10%低下しました。同社が環境経営指標として掲げるCO2排出量(t-CO2)/営業利益(億円)も、945t-CO2/億円(1990)から、770(t-CO2)(2002)に改善しています。


駅や列車で発生する廃棄物の削減とリサイクル

鉄道会社にとってもう一つ大きな課題となっているのが、お客様が駅や電車に捨てる新聞紙や雑誌、ペットボトル、アルミ缶などのゴミです。JR東日本ではこれにより年間約5万トンのゴミが発生していますが、これは13万人が一年間に一般家庭で出すゴミの量に匹敵します。同社はこれに対して、2005年度にリサイクル率40%の目標を掲げています。そして、首都圏の駅を中心に5分別ゴミ箱を設置し、収集後には三箇所に設置されたリサイクルセンターで分別・減容したうえで、再生業者に送る活動を進めています。ペットボトルは卵パックなどへ、新聞・雑誌はコピー用紙にリサイクルされ、同社のオフィスでも使用されています。こうした活動の成果として、駅や列車でのゴミ発生量そのものが98年5.9万トンから2002年5.0万トンへカットされ、リサイクル率も37%(98年度31%)に増加しています。2005年度の目標である40%に向けて、更なる活動が期待されています。

また、使用済み切符も99.9%が再生され、駅やオフィスで使用するトイレットペーパーや段ボール用紙、社員の名刺として使われています。また、切符や定期券の廃棄物削減につながるチケットレス化については、ICカード「Suica」の普及が進み、利用者も660万人(2003年6月末)へと増加し、使用済み定期券の発生量が大幅に減少しています。


巨大都市一つ分の影響力をいかに発揮するか

ふりかえってみると、毎日1,600万人の人々が触れるサービスは、世の中にそう多くないことに気づかされます。同社が持続可能な社会への取組みを進めれば、巨大都市一つ分の人々に影響を与えることになります。このことはJR東日本に限りません。どこの国や地域であれ、鉄道を運営するということは数多くの人々が毎日時間を過ごす幸福な場を提供することであるはずです。CO2排出削減、ゴミの分別や廃棄物削減の徹底を始めとして、その社会全体が積極的に環境活動を進めていくなかで、鉄道会社のサービスやインフラが一つの大きな舞台となりうるのではないでしょうか。

(スタッフライター 小林一紀)

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