ニュースレター

2018年02月28日

 

やる気のある若者が移住・起業する村 ~ 岡山県・西粟倉村の自立へ向けた取り組み(前編)

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JFS ニュースレター No.186 (2018年2月号)

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Copyright 2018 西粟倉村 All Rights Reserved.

西粟倉村は、岡山県の最北東端に位置し、兵庫県・鳥取県と県境を接する人口1,480人(2018年1月現在)の村です。岡山県の県庁所在地である岡山市からは車で2時間ほどの山の中にあります。村の面積(57.97平方km)の約95%は山林で、その84%はスギやヒノキなどの人工林です。

平成の大合併のときにも、村人の約6割が合併しないことを望み、合併しない道を選びました。もっとも、県内で、財政力は一番小さな村で、2013年と2008年の国勢調査を比べると、人口は10%ほど減っており、「このままでは、人口はずっと減っていくだろう」という状況でした。この恵まれているとはいえない状況の中でも、自分たちで自分たちの村づくりを続けている西粟倉村は、林業を軸とした地域再生の成功モデルの1つとなっています。日本中から注目を集めている西粟倉村のこれまでの取り組みと現在、そして今後の展望についてお伝えしましょう。

日本の各地と同じく、西粟倉村の人工林は、高度成長期に一斉に植えられたものがほとんどです。安価な輸入材の流通拡大に伴って、全国的な林業が衰退していくなかで、間伐も行われなくなっていきました。間伐などの手が入らなくなると、森が荒れてしまいます。

そのような状況に対して、「50年前に将来の子どもや孫のためにと先人が木を植えてくれた思いを大事にして、立派な100年の森に育てていくため、あと50年、村ぐるみで挑戦を続けよう」と、2008年に生まれたのが、「百年の森林構想」です。

百年の森林構想
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「百年の森林構想」は、図にあるように、村役場が特別会計をもって支援するだけではなく、森林組合や民間事業者などとの総合的な取り組みとなっています。「50年前に植えられた木を立派な100年の森に育てていく」ためには、間伐などの森の手入れを、経済的に成り立つ仕組みで持続的に続けていく必要があります。村では、そのために、「百年の森林創造事業」という森をつくる事業と、「森の学校事業」というエンドユーザー向けに商品を開発する事業を進めています。

「百年の森林創造事業」は行政が主となって進めるもので、「役場が森林所有者から森林を預かって、森林の間伐、作業道整備を行う」取り組みです。村が森林所有者と10年間の「森林長期施業管理協定」を結び、施業にかかる費用をすべて負担して、間伐や作業道整備を行います。伐採・販売された木材は、販売費用を差し引いたのち、半分を森林所有者が受け取り、残りの半分は村の「百年の森林構想」事業の財源に充てられます。

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西粟倉村の森林は、民有林が3,000ヘクタールほど、社有林が1,000ヘクタールほど、村有林が1,300ヘクタールほどとなっています。10年かけて、民有林の半分強の1,600ヘクタールほど、約800人の森林所有者と「森林長期施業管理協定」を結びました。残りの方々にも村に預けてもらえるよう、働きかけを続けています。

現在、村が預かっている1,600ヘクタールと村有林1,300ヘクタールは、持続可能な森林管理の国際認証であるFSC(Forest Stewardship Council)の認証を受けています。ゆくゆくは、村の森林全てが認証を受けて、産出される木材の付加価値を高めることをめざしています。

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そうやって手入れをしながら産出される間伐材などの木材を、ただ丸太で売るのではなく、付加価値を高めようと、エンドユーザー向けに商品を開発する事業も進めています。そのために、百年の森林を支えるための「共有の森ファンド」が2009年に誕生しました。都会に住む人々に一口5万円からの出資をしてもらい、百年の森林構想を応援してもらおうというものです。その資金で森の再生のための商品化を進めるとともに、出資者向けのツアーを開催して、村に来てもらって交流を深める機会も設けています。

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2009年の10月に設立された「株式会社西粟倉・森の学校」が、地域の資源を活かした商品開発や販売を推進しています。人工林から出てくる間伐材を加工するため、新たに木材加工工場を設立し、原木の調達から製材、乾燥、加工から販売までの機能を担っています。木材加工だけではなく、マーケティングとインキュベーションの機能にも力を入れ、個人向けDIY製品の開発や販売、住宅用の内装材、大型建築物への材料供給など、国産材の加工、流通、販売を強力に推し進めています。ツアーやイベントの企画・運営も行っています。

森の学校のウェブサイトには、このように謳われています。「小さな地域の林業を支えるため、少量多品目の製材モデルにより木材の価値を最大限に活かすことを目指しています。お客様の暮らしに寄り添いながら、地域林業の発展のために木材の価値を最大限に引き出すことが私たちの仕事です。」

人気商品の1つが「ユカハリ・タイル」。これは、50cm×50cmの無垢の木の"タイル"を既存の床の上に置くだけで、無垢のフローリングができるという床タイルです。アパートに住んでいる人も無垢の床を楽しむことができます。女性でも簡単に設置ができますし、引っ越しの時に一緒に持っていくことも、汚れや傷が気になったら張り替えることもできます。こうした活動を展開してきて、2013年、「森の学校」は助成金に頼らず、自前の事業のみで黒字化に成功しました。

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そして、「森の学校」だけではありません。この地域の資本である森に特化したさまざまな事業が展開されています。地元の材での家具づくりに取り組む「ようび」の家具は内外でも高い評価を得ています。安全な木工製品・おもちゃ・家具などを製造・販売する「木の里工房 木薫」もあります。

この「株式会社西粟倉・森の学校」の取り組みを代表取締役社長として率いてきた牧大介さんが、次のチャレンジのために2015年10月西粟倉村で立ち上げたのが、エーゼロ株式会社です。「森の学校」は、間伐材で製品をつくり、森から価値を生み出す流れをつくってきました。この活動を通して、「地域全体に多様な価値が眠っているなか、木材や木材製品を売るだけでいいのだろうか。農業、林業、水産業という枠を超えて、自然資本として価値をつなげていかなければならないのでは」という考えが強くなっていった、と牧さんは語ります。

エーゼロの事業目的は、「農山漁村の地域経済循環を促進し、その人口動態を改善すること」。ローカルベンチャー育成事業、建築・不動産事業、メディア運営事業、内水面養殖事業、獣肉加工流通事業などを事業内容としています。ちなみに、社名は、森の土壌の一番上の有機物層である「エーゼロ(A0)層」から。木の栄養分であり、雨から土を守る大事な層です。私たちは、この目立たないけれど豊かな森を支える層のように、社会へさまざまな価値を産み出す土壌となることを目指しています、とのこと。

そんな思いを土台に、エーゼロが最初に商品化したのは、なんと「森のうなぎ」です! うなぎの養殖は、水温を25~30℃に保つ必要があるため、西粟倉村のように寒い地域ではほとんど行われていません。「燃料に捨てられている木くずを活用できる!」と考えたことが、うなぎの養殖に取り組むきっかけとなりました。林業と水産業をつなげる取り組みのはじめの一歩です。養殖場所は、廃校になった旧影石小学校の体育館です。

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うなぎの養殖では、一般的には半年ほどで出荷サイズになるよう育てられますが、エーゼロでは、無投薬にこだわり、1年以上かけてゆっくり大きく育てています。それでも1年か2年で収益を得ることができます。「数十年、100年という超長期の運用資産である森を保全していくことも大切ですが、短期で収益が生まれるビジネスも重要」なのです。

燃料の木くずは、製材や加工過程から出るものだけではありません。「森の学校」では、無着色・無漂白で防カビ材などを使用していない国産スギのワリバシを製造し、販売しています。そのワリバシは西粟倉村内の道の駅をはじめ、全国の飲食店などで使われています。村内施設で使用されたワリバシも回収して、燃料にしているのです。

うなぎの水槽では、常に水を循環させて水をきれいにする「ろ過」が必要ですが、そのろ過に、杉や檜のバーク(木の皮)を使う研究もしています。バークは、これまで捨てられていたものでした。バークにある成分が水中環境を整え、魚を健康にしていく効果が期待されています。また、うなぎのえさは、魚を骨ごと乾燥し粉末にした魚粉が中心なので、うなぎのふんや排水には窒素、リン、カルシウムなどが豊富に含まれています。バークはそれらの成分を吸着していくので、ストックすると良質な堆肥の材料になります。

また、排水そのものをビニルハウスの畑に循環させる流れをつくる計画もあります。温かい水なので、ビニルハウス自体も温まります。ここで作物を育て、野菜の茎など食べられないものも堆肥の材料にし、堆肥を畑で使います。「私たちは、単にうなぎの養殖をするのではありません。森に囲まれた環境で、森のめぐみを活用しながら林業と水産業をつなげて循環させていくことを目指しています」とのこと。

西粟倉村にある道の駅あわくらんどでは、森のうなぎを味わえるメニューが始まっています。そして、おいしい森のうなぎをいただくのに使ったワリバシは、森のうなぎを育てるための燃料になるのです。食べている人も大きな循環に関わっていることが感じられます。

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西粟倉村の産業観光課長・上山隆浩さんは、「百年の森林構想でさまざまな取り組みが広がったこと、また多くの企業が立ち上がったことなどから、9年たって、村の人口の9%にあたる130人がIターンとしてこの地域に入ってきています。エーゼロだけでも20人以上雇用しているんですよ。2010年には子どもの数は126人でしたが、今では154人。今年は社会増として21人のプラスが見込まれています」と教えてくれました。

補助金や助成金に頼り続けないと回らない地域が多い中、西粟倉村は、日本の地域再生の成功事例として、視察の絶えない村になっています。次号では、「エネルギー100%自給」をめざすとともに、自然資本のみならず、社会資本・経済資本にも取り組もうとしている西粟倉村についてお伝えします。どうぞお楽しみに!

枝廣淳子

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