ニュースレター

2017年10月10日

 

住民出資のお店で地域の生活を守る:日本各地の取り組み

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JFS ニュースレター No.181 (2017年9月号)

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イメージ画像:Photo by Hajime NAKANO Some Rights Reserved.

暮らしている地域から、お店がなくなってしまうかもしれない。そんな時、私たちには何ができるでしょうか? 日本の地方では、人口減少と高齢化が進み、日用品を売っていたお店が閉店する事例がたくさんあります。今月号のニュースレターでは、地方の人口減少と高齢化の実態、お店の閉店に立ち向かう住民の取り組みをご紹介します。

人口減少と高齢化が進む地方

日本では、高度経済成長期(1950年代半ばから1973年)に、主要産業が農業などの第一次産業から、工業やサービス業などの第二次産業、第三次産業に移行しています。それに伴い、若者の生活も、生まれた土地でずっと農業を営むそれまでの暮らし方から、学校卒業後に工場がある都市部に移り住む暮らしへと変化していきます。若者の人口が少なくなった地方では、生まれてくる子どもの数が減少し、人口減少と高齢化が進行しています。

2017年4月に政府が発表した資料によると、「過疎地域」の人口は全国の8.9%を占めているに過ぎませんが、面積では日本の国土の6割弱を占めています。

過疎地域では高齢化も進んでいます。2010年のデータでは、年齢65歳以上の高齢者の割合は、日本全体では22.8%なのに対して、過疎地域では32.8%と10ポイントも高いことがわかります。

こうした地域では、病院の閉鎖、電車やバス路線の廃線、お店の閉店など、さまざまな問題が生じています。近所のお店が閉店してしまうと、遠くまで車で買い物にいかなくてはなりません。これはお年寄りには大きな負担です。この状況をなんとかしようと、「住民出資のお店」を作ることで、地域のお店を守っている地域がいくつもあります。今回、5つのお店に電話でお話を伺うことができました。


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1.移動販売で買い物難民に食料を届ける
 ――宮城県丸森町「大張物産センターなんでもや」

800人あまりが暮らす宮城県丸森町大張地区は、町の中心地より約10km離れた山間地に位置しています。この地域では、2002年に最後の小売店が閉店してしまい、日用品を入手することもままならなくなりました。

そこで、地元の有志が立ち上がり、地域住民のバックアップを受け「共同出資共同店舗」を2003年に開店しました。それが「大張物産センターなんでもや」です。現在までに、地元の出資者(約20名)から約200万円、協力金出資者(200世帯)から40万円など、あわせて約260万円の出資を受けています。

「なんでもや」は、その名の通り、日用雑貨品をはじめ、地区の野菜・弁当・総菜・農機具などなんでも扱っています。また買物難民になってしまっている高齢者宅への移動販売も行い地域に貢献する店です。

2.コンビニ風の店舗で若者の来店を増やす
 ――長野・高山村「ふるさとセンター山田」

約400世帯が暮らす長野県高山村中山地域の「ふるさとセンター山田」は、2007年9月に営業を始めた食料や日用品を販売するお店です。

「ふるさとセンター山田」が誕生したきっかけは、JA須高山田支所の廃止の決定でした。住民から「店を残して欲しい」という意見が出たことから、2007年6月に株主を1株3万円で募集したところ、現在までに150人の住民からの出資が集まっています。こうして774万円の資本金を得て、2007年7月に株式会社「ふるさとセンター山田」が誕生、9月に店舗の営業を始めました。お店には一休みできるスペースもあり、地域のお年寄りの憩いの場にもなっています。

ふるさとセンター山田は、2016年4月からは、「Yショップ ふるさとセンター山田」として営業を始めました。Yショップは、山崎製パン株式会社の地域密着型の店舗です。コンビニ風のYショップになったことで、子ども連れなど、若いお客さんが増えています。

3.地域の拠点を住民の力で取り戻す
 ――三重県松坂市「コミュニティーうきさと『みんなの店』」

三重県松坂市柚原町は、松阪市街から車で約30分の場所にある人口約80人の集落です。この地域では、1988年の路線バス廃止の検討、2003年のJA店舗の撤退、2007年の郵便局の閉鎖を、住民の力で乗り越えてきました。

路線バスの廃止が検討された際には、市街地からバスで地域を訪れる人を増やすために、とれたての野菜を販売する「早起き市」が開かれました。JA店舗の撤退と郵便局の閉鎖の際には、自治会が簡易郵便局を受託して、郵便局の運営を始めています。

そして、2007年7月には自治会の全世帯が1万円ずつ出資し、旧JA店舗で「コミュニティーうきさと『みんなの店』」の運営を始めました(その他の開業資金は自治会の資金と寄付によって賄われました)。地域住民が必要とする食料品・衣料品を販売する他、観光客のために地区の地図等も掲示しています。

4.洪水をきっかけに振興協議会が積極的に活動
 ――広島県安芸高田市川根地区「万屋」「油屋」

広島県安芸高田市川根地区には、300人余が暮らしています。この地域では、JAの撤退をきっかけに、住民出資による店舗「万屋(よろずや)」とガソリンスタンド「油屋(あぶらや)」を2000年から運営し、地域住民の生活を支えています。出資金は一世帯あたり1,000円、約250世帯から出資を受けました。

川根地区では以前から高齢者への配食サービスのための「一人一日一円募金」など様々な取り組みを行なっていますが、それには1972年に大洪水の被害を受けたことが関係しているそうです。この大洪水で川根地域は壊滅的な被害を受け、それが過疎化に拍車をかけました。こうした危機感から、川根振興協議会を中心に積極的な活動が始まり、現在に至ります。

5.人口減少の中でお店を維持
 ――高知県四万十市西土佐大宮地区「株式会社大宮産業」

愛媛県との県境に近い高知県四万十市西土佐大宮地区。1970年代には約500人が暮らす地域でしたが、現在は約300人にまで人口が減っています。高齢化率も約50%と非常に高いです。ここに、ガソリンスタンドを併設する店舗、株式会社大宮産業があります。JAが大宮出張所を廃止したことをきっかけに2006年5月に設立されました。

地域の人々は、「JAの出張所がなくなったら日々の暮らしが不便になって困る」と、署名を集めるなどの廃止に反対する活動をしましたが、2005年に出張所の廃止が決まりました。廃止決定を受けて、住民108人が700万円を出資し、誕生したのが株式会社大宮産業です。ガソリンスタンド、食品・日用品物販施設、農業資材用倉庫など施設はすべて、JAの出張所のものを引き継いで使用しています。

開店からしばらくの間は、各地域の代表を集めたアドバイザー会議を年に数回開き、商品の品揃えや販売方法について改善を行っていました。他にも、地域に貢献するお店として、さまざまな工夫を行なってきています。「人口減少が進む中でお店を維持するのは大変」とのことですが、2017年からは酒類の販売を始めたそうです。


5つの事例を見ると、一口に住民出資のお店と言っても、地域の状況や歴史的な背景を反映して、様々な形態があることがわかります。出資金の金額も一口あたり千円から数万円まで様々です。これは自治体などのバックアップの有無や、初期費用の大きさなどにより異なります。少額であっても、地域の全世帯が出資することで、「みんなのお店だ」という意識を持ってもらっているという取り組みもありました。

いずれにしても、高齢化と人口減少が進む中で、どのようにお店を守っていくのかが、これからの大きな課題です。欧米では、住民が中心となって協同組合を作り、地域のお店を守っている事例があります。もしかするとクラウド・ファンディング(インターネットで資金の提供などを行うこと)を利用することによって、今は故郷を離れている子どもや孫たちが、故郷のお店を守るために資金提供をしてくれるかもしれません。

みなさんがお住いの地域に「こういう取り組みで地域のお店を守っている」という事例がありましたら、ぜひ情報をお寄せください。

スタッフライター 新津尚子

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