ニュースレター

2017年02月18日

 

フェアトレードからエシカル消費へ:日本のフェアトレードタウン運動から

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JFS ニュースレター No.173 (2017年1月号)

写真:Max Havelaar Bananen
イメージ画像:Photo by Maxhavel.

フェアトレード運動は、先進国と発展途上国との経済格差から生じる南北問題の解消をめざして始まった、消費行動によって社会課題の解決に貢献できる取り組みです。深刻化する環境問題に対しても、グリーン購入の推進やエコラベルの導入など、環境に配慮した消費を促す動きが起きています。

日本においては、近年頻発する自然災害からの復興支援として、被災地産品を購入する応援消費の動きが広がるなど、フェアトレードやグリーン購入以外にも、消費行動から社会課題を解決しようとする、いわゆるエシカル消費の様々な取り組みが生まれています。

今月号のJFSニュースレターでは、エシカル消費への流れを背景に、フェアトレードの考え方を地域に広げ、より公正な消費をめざして独自に進んでいる、日本のフェアトレードタウン運動をご紹介します。

日本におけるフェアトレード

フェアトレードは、国際協力における一方的な援助ではなく、途上国の零細な生産者や労働者が人間らしい生活を送れるよう、対等なパートナーシップの元に持続的に取引していくことをめざして、第二次世界大戦後にアメリカで始まり、世界に広がりました。日本では1970年代から国際協力NGOの活動の一環としてスタートし、フェアトレードに特化した団体によって活動が続いてきました。

しかし、NGOやフェアトレード団体だけでは、品質面の問題や高価格のため市場が広げにくいといった課題に直面しました。1990年代には、これらの課題を克服し、さらにフェアトレード商品を普及させるため、一般企業を巻き込むことで市場を拡大しようと、フェアトレードラベルへの取り組みが始まりました。

フェアトレード商品の認証制度を作り、一般企業の流通ルートに乗せて、スーパーなど日常的に買い物をする店でフェアトレード商品を扱えば、より一般消費者の手に届きやすくなるためです。フェアトレードラベル導入後は、紅茶、コーヒー、チョコレート、スパイス、ワインなどは、小売業大手でも販売されています。

フェアトレードの広がりをフェアトレードラベル製品の市場で見てみると、世界市場は1999年以降、年平均約30%の割合で伸びており、2015年の調査では約73億ユーロ(約9800億円)となっています。日本では、フェアトレード認証製品は2002年ごろから普及し始め、2015年には約100億円の市場規模となっています。

日本でも着実に市場規模が伸びてはいますが、欧米に比べるとまだまだです。しかし、それだけに、市場が伸びる余地がまだまだあるともいえます。

消費動向・価値観の変化

消費を通じて社会をより良く、公正に変えていこうとする動きの中で、注目したいのは消費者の動向と価値観の変化です。三浦展氏『第四の消費 つながりを生み出す社会へ』によれば、日本の消費社会は約30年周期で変化している、と分析されています。戦前の西洋志向、大都市志向に始まり、高度経済成長期における大量消費の時期を経て、1975年ごろには、質重視やブランド志向といった、個人主義の傾向が強いこだわり消費の時期へと移行しました。

こうした流れに変化が見られるようになったのが、2005年ごろです。シンプル志向、つながり・シェア志向といった、精神的豊かさや社会への貢献を重視する消費への価値観が生まれてきました。これは、日本でフェアトレードが広がり始めた時期と一致しています。

社会や人とのつながり、精神的豊かさへの価値観の変化を後押ししたのは、2011年の東日本大震災の経験だといえるでしょう。被災地を助ける手段として、お金や物資を送ったり、自らボランティアとして現地に赴くだけでなく、被災地への応援として現地の生産物を買ったり、旅行で現地の物を買うといった消費行動を通じた支援が始まったのです。

こうした価値観の変化は、フェアトレードと並行して進んできた、環境に配慮した製品の購入を推進するグリーン購入の流れともあいまって、エシカル消費への流れにつながっていきます。

図:エシカル消費の具体例

エシカル消費の具体例(クリックで拡大表示します)

フェアトレードタウン運動

人々の価値観の変化の流れの中で、フェアトレードタウン運動は始まりました。この運動は、まちぐるみでフェアトレードを推進しようと、行政をはじめ、市町村の住民、企業、市民団体などが一体となって地域内にフェアトレードを広げていこうとするものです。

フェアトレードタウン運動は2000年に英国で始まり、はじめは西側先進国を中心に広がり、その後東欧や中南米、アフリカの途上国にも広がっています。2017年1月末現在、29カ国で1,867のフェアトレードタウンが誕生しています。

日本においては、2011年5月にフェアトレードタウン・ジャパン(現:日本フェアトレード・フォーラム)が定めた以下の6つの基準に照らして審査が行われ、理事会の承認を得た自治体がフェアトレードタウンとして認定されます。

6つの基準とは、

  1. 推進組織の設立と支持層の拡大
  2. 運動の展開と市民の啓発
  3. 地域社会への浸透
  4. 地域活性化への貢献
  5. 地域の店(商業施設)によるフェアトレード産品の幅広い提供
  6. 自治体によるフェアトレードの支持と普及

日本の認定第1号は、2003年からフェアトレードタウンを目指して動き始めていた熊本市。地域のフェアトレードショップのオーナーが中心となって市長をはじめ市議会への働きかけを始め、6年後にはフェアトレードシティくまもと推進委員会を立ち上げて、ファッションショーや学校への出前授業などの意識啓発や署名運動の努力を続けてきました。

2010年にはついに熊本市議会を巻き込むことに成功し、2011年6月に世界で1,000番目、アジアでは初のフェアトレードタウンに認定されました。その後も推進委員会では、海外の団体とも連携を深め、2014年3月には欧州以外で初めてのフェアトレードタウン国際会議開催を実現させました。

熊本市に続いて2015年9月に名古屋市、2016年7月には逗子市もフェアトレードタウンに認定されました。このほか、愛知県一宮市、栃木県宇都宮市、岐阜県垂井町でもフェアトレードタウンへの動きが展開しています。

熊本市、アジア初のフェアトレードシティに認定
http://www.japanfs.org/ja/news/archives/news_id031199.html

写真
名古屋市のフェアトレードタウン認証式
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日本のフェアトレードタウン運動の大きな特徴は、基準に「地域活性化への貢献」が入っていること。これは日本独自の基準です。この基準では、「地場の生産者や店舗、産業の活性化を含め、地域の経済や社会の活力が増し、絆が強まるよう、地産地消やまちづくり、環境活動、障がい者支援等のコミュニティ活動と連携」することが求められています。元々は南北問題の解消をめざして始まったフェアトレードですが、弱い立場にある生産者の自立を実現するという基本的コンセプトを、地域社会の中で展開させていくことをめざしているのです。

近年、社会の中で広がる経済格差が世界中で、また日本でも問題となっています。格差の問題、貧困の問題、過疎や少子高齢化に悩む地方の市町村での農業・漁業など疲弊する一次産業の問題、障がい者の自立支援など、フェアトレードの発想を地域に広めていこうという日本独自の基準は、地域が主体的に取り組んでいくことで、国内社会もフェアでサステナブルにしていくことをめざすものです。

フェアトレードタウン運動は、個人の意識に働きかけてより環境や社会に配慮した消費を推進するだけではなく、行政や市民、団体などの様々な立場の人々がフェアトレードの考え方を地域の中で実現しようとするものです。フェアで環境にも配慮した消費行動が、地域の中で実践され、こうした地域が国内外に増え、裾野が広がっていくことを願っています。

〈参考〉『BLUE EARTH COLLEGE:ようこそ「地球経済大学」へ。(2015年5月・東京都市大学環境学部編:全13講)』より、
第10講 フェアトレードとフェアトレードタウン運動(東京経済大学 渡辺龍也教授著)

スタッフライター 坂本典子

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