ニュースレター

2016年08月31日

 

オリンピックの金メダルを都市鉱山から!

Keywords:  ニュースレター  3R・廃棄物 

 

JFS ニュースレター No.168 (2016年8月号)

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2016年6月号のニュースレターでは、2020年に東京で開催されるオリンピック・パラリンピックでは「持続可能性」の側面が重視されることをお伝えし、持続可能な調達や運営に向けての東京オリンピック・パラリンピック組織委員会の動きを中心に、ご紹介しました。

JFSニュースレター No.166(2016年6月号)
持続可能な東京オリンピック・パラリンピックをめざして
http://www.japanfs.org/ja/news/archives/news_id035599.html

東京オリンピック・パラリンピックに向けては、金、銀、銅メダルを、都市で廃棄される電子機器等に含まれる資源、いわゆる「都市鉱山」からのリサイクルでつくろうとする動きも出てきています。今月号のニュースレターでは、一般社団法人サステイナビリティ技術設計機構が開設したウェブサイト「都市鉱山メダル特設ページ」から、リサイクル原料でメダルをつくる取り組みについてお伝えします。

都市鉱山メダル特設ページ
http://susdi.org/wp/medal/


メダル製造が地球環境にもたらす影響

近年のオリンピックはスポーツの祭典であると同時に、持続可能な社会づくりへ向けた取り組みにもなっています。2020年の東京オリンピック・パラリンピックでも、レガシー(将来へのこすもの)として持続可能な取り組みが重視されています。そして、2016年1月25日に発表されたそのプランの中間報告の中には「都市鉱山の利用」として「メダルの製造の検討」が謳われています。

なぜ、「都市鉱山」からメダルを作ることが持続可能社会への道に通じるかというと、ひとつに金、銀、銅の金属を天然の鉱山から得るにはその何千倍、何万倍の大量の地球資源を使用し、さらには水銀などを使った工法がとられるなど地球環境の破壊につながる恐れがあります。

また、「都市鉱山」のもとになる使用済み電子機器はリサイクルされずに不法に処理されると有害物を発生するケースも多く、先進国から持ち込まれた廃電子機器は発展途上国でE-waste(廃電子廃棄物)と呼ばれる問題も起こしています。この二つの側面から、「都市鉱山」からメダルを作ることは、地球環境への負荷を減らし持続可能な社会を作るための取り組みになります。

また、日本は2000年の循環型社会形成促進法制定をはじめとして、容器包装リサイクル法、家電リサイクル法、建設リサイクル法、自動車リサイクル法など日常生活の多くの部分を覆うリサイクル法を制定し、世界的にも高いリサイクル率で国民もそれを推し進めてきました。

オリンピックのメダルを「都市鉱山」からつくることは、この世界に誇るわが国のリサイクルの取り組みを世界中、とくにE-wasteで苦しんでいるアジア、アフリカ諸国の人たちに知ってもらい、適切なリサイクルへの道があることを示し励ましていく良い機会でもあります。

史上初のリサイクルメダル実現に向けて

これまで、ロンドンオリンピックでは、一時期リサイクルでメダルを作ることも検討されたとのうわさがありますが、結局は、金は資源メジャーからの寄付でした。

リオデジャネイロでは、銀と銅には30%のリサイクル原料が含まれるとのことです。しかし、金に関しては水銀などを使用しない持続可能なプロセスで作られたことをうたってはいますが、リサイクル原料を使用しているとは言われていません。

このような中で、みんなが集めた廃電子機器から金メダルができれば、東京オリンピックがまさに史上初めてということになります。

しかし、「史上初めて」ということは、難しさも意味しています。「気持ちはわかるが無理して新しいことをする必要はない」という人たちもいることは事実です。そこで、その気持ちの広がりをみんなで確認し合い、メダルの原料の調達計画を最終的に決める人たちに伝わるようにしていくことが必要です。

昨年夏、小型家電リサイクルに市として積極的に取り組んでいる岩手県一ノ関市、秋田県大館市、青森県八戸市の三自治体が、「2020年東京オリンピック・パラリンピックのメダルに回収金属を活用することについての提案」を行いました。

全国の小型家電リサイクルに取り組んでいる自治体が、この三市に賛同して、この輪を広げていくことが、「都市鉱山」メダルに向けた大きな力になります。また、自治体だけでなく、国民一人ひとりが賛同の声を上げていくことも、実現に向けた大きな力になります。

日本における小型家電リサイクルの現状

小型家電リサイクル法は2013年4月に施行され、翌年から本格的に稼働しだしました。2014年では数では約20%、人口では4分の1の自治体が取り組み始めましたが、その翌年には、数で半数近く、人口では7割の自治体の取り組みに広がっています。さらに、準備中や前向きに検討中の自治体を加えると約90%の人口を覆う自治体が、小型家電リサイクルを進めようとしています。

この小型家電リサイクルを支えるのが、認定事業者と呼ばれる国で認められたリサイクル業者です。全国で45社が認定事業者として、自治体などに集まった小型家電を引き取って、分別や解体を行い、金属を回収する製錬業者に送っています。

初年度の2013年に自治体に集まった小型家電は、全国で9,772トンです。さらに、個人や会社からも直接持ち込まれて、認定事業者には13,236トンの小型家電が回収されました。リサイクル認定事業者のところで小型家電は部材などに解体、分別され、8,582トンが製錬業に引き渡されました。そこで一番多く取り出されたのは鉄で6,599トン、アルミが505トン、銅が381トンで、金や銀などの貴金属類は494kg取り出されています。

メダルの原料はリサイクルで供給可能!

オリンピックのメダルに使う金、銀、銅だけ見ると、銅が381トン回収された2013年には、金は46kg、銀は446kgとれています。さらに、小型家電リサイクルが進んだ2014年には、金、銀、銅ともほぼその3倍の量が廃小型家電から回収されています。

これは、オリンピックのメダルを作るのに必要な量に対してどのくらいのものになるのでしょうか。ロンドンオリンピックを参考に、見積もりました。

オリンピックとパラリンピックでは4,000を超えるメダルが授与されます。そのメダルを、かつてオリンピック憲章で定められていた成分比でつくるとすると、金は9.6kg、銀は1,210kg、銅は700kg必要になります。金と銅については、これまでのペースで集まってくる廃小型家電からだけでも十分な量になります。

銀については2014実績では少し足りませんが、2015年はもっと回収率が上がっているようなので、さらに取り組みを続ければ可能性があります。ただ、銀の場合は健康診断でお世話になっているX線フィルムの廃棄物が大量にリサイクルで再生されているので、リサイクル全体を見るならば、これも十分な供給量を持っています。


都市鉱山メダル特設ページには、廃電子基板から得られた金をメッキしてつくった、試作金メダルの写真が掲載されています。この取り組みが成功し、2020年のオリンピック・パラリンピックで「都市鉱山メダル」が選手を飾る日が楽しみです。

(編集:スタッフライター 田辺伸広)

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