ニュースレター

2016年04月14日

 

東日本大震災の被災地宮城県石巻市から、女性達からのメッセージ

Keywords:  ニュースレター  震災復興 

 

JFS ニュースレター No.163 (2016年3月号)

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イメージ画像: Copyright 千葉直美 All rights reserved.

東日本大震災から5年が過ぎました。被災された人々はどのような思いで、どのような暮らしを営んでいるのでしょうか。今号では被災地・石巻市で女性達に被災体験の聞き書きを続けている千葉直美さんの小冊子から、3人のメッセージをお伝えします。


はじめに

2011年3月11日、東日本大震災は甚大な被害をもたらしました。地震と津波は多くの大切な家屋や建物、財産を奪い、尊い人命を犠牲にしました。宮城県石巻市でも復興と復旧が少しずつ進み、道路工事、工場や会社、店舗の新設と修復、住宅の新築など、街の姿を変えていっています。しかしながら、災害公営住宅の建設、住宅地の土地の造成、高台移転整備は、発災から5年になろうとしているにもかかわらず解決してない問題が山積しています。それでも毎日の生活を送らねばならない人々です。時間は容赦なく過ぎていきます。

目に見えないものはどうでしょうか。震災直後から、被災者と呼ばれる方々は、何を考え、何をどう感じているのでしょう。特に女性達の気持ちはどうなのでしょう。生活の再建もままならず、まだ不自由な生活を余儀なくされている女性達。そんな女性達への被災体験の聞き書を試みました。

それは10分間の立ち話であったり、お茶を飲みながらの30分の雑談であったり、きちんと座っての2時間を越えるインタビューであったりしました。3年が過ぎた2014年の3月から記録を始めました。20人です。年齢も生活環境、被災状況も違う女性達です。20人、誰ひとり同じ人生を送っておらず、誰ひとり同じ被災体験をしておらず、また誰ひとり同じ考えや気持ちをもっていません。

20人、一人ひとりがそれぞれ、震災前、震災後の人生を生きる唯一の特別の存在です。彼女達の口から紡ぎだされる言葉から、私達は何かを感じ、何かを未来へ伝えることができればと思います。20人の誰かの人生に共感したり自分を重ねあわせたりできるかもしれません。

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イメージ画像: Copyright 千葉直美 All rights reserved.

1)M.Nさん(60代)

3月11日当日、自分の宝石店を津波が襲い、ヘドロとガレキに埋まりました。"もう店はだめかなぁ"と思いました。しかし次の日、小高い丘を登り"自分はどうすべきなのか、どうしようか、どう生きたらいいか"と考え始めると、アイデアが次々と浮かびました。その小高い日和山へ毎日登りました。一週間後、店へ行き、"被災したのは自分だけじゃない"とわかりました。

泥水の中で、店の宝石を洗いました。そうしているうちに、"お客様の宝石も震災で汚れただろう。その宝石をクリーニングしてあげよう。きれいにしてあげたい"と思いつきました。300人のお得意様にハガキを出し、汚れた宝石を持ってきてもらい、業者に宅配で送りました。クリーニングしてきれいになった宝石を、きれいな袋やケースに入れて、お客様にお返ししました。生まれ変わった宝石。物を売るためじゃなく、ただクリーニングしてあげたかったのです。震災後から、新聞で死亡者リストを見て、お客様の名前がないか確認しました。

仮設商店街の店舗の抽選に応募し、当選。自分も何か役にたちたい、今しかできないことを精一杯やろうと思いました。自分がしてもらって嬉しいことを、他人にもすると、自分に巡ってくるのです。思ったらすぐ行動のタイプ。この店の、この町でのありかたを模索。銀行へ相談。意気込み、やる気が通じたのか銀行が、相談にのってくれる。その担当者いわく"オーラを感じる、側にいたい"。自分が商売できているのは、お客様、従業員、周囲の人達のおかげ。感謝。みんなに何かしたい。迷わない、直行。必ずできると信じます。自分でドアを開く、ちょっとした一歩。30代から40代は苦労の連続。若いころから経済的に自立をめざし、近所に義母を預かってもらいました。

人は人、比べない。比べてもどうしようもない。イメージが大切ですから、仮設店舗だからといって中途半端にせず、ちゃんとしたものを作りたい。結果は後からついてきます。ちょっとしたきっかけを太いパイプに。人を大切に、一人では生きられない。自分にはなぜか人が集まって来て、相談していきます。人はすばらしい、人間でよかった。震災後、パソコンを習い、アナウンス教室にも通いました。誰かのために役に立たなければと思います。みんなを助け、目の前のことを確実にすることが大切です。39歳で大病。60歳を過ぎたら、毎日全力。好奇心いっぱいの人生。万年少女みたい。

2014年5月17日

2)C.Dさん(60代)

震災をたまに思いだします。旧式のストーブにより暖をとり、料理もしました。電気ストーブも併用。徒歩、自転車、車を使い、体力が必要だと実感しました。日ごろから健康に暮らすことが大切ではないでしょうか。駆けつけたボランティアや知人のために、みそ汁を作りました。地球環境に気をつけたいです。震災後、修復した自宅を地域のために開放し、近所のお年寄りとの集まりを開いています。このことにより、震災当時のことを聞き、初めてわかることもあります。たとえば、震災時、我が家の猫がどうやっていたか。声掛けなど、近所付き合いの大切さを知りました。留守にする時、近所に声をかけると、鍵をかけないで出かけることが可能。

「自分は生かされている。生きることは生かされていること」と実感。津波の犠牲にならなかった自分。震災がきっかけで何かが変わる自分。以前よりもっと、「何かしなくでは」との気持ちが強くなりました。自分の意志でなく亡くなった人の分まで。自宅は高台にあるのに、たまたまあの日は海辺にいたり、高台への避難後、自宅へもどった人達が亡くなりました。他人に手招きされて、避難した方で助かった知人達。助かった人、犠牲になった人の違いについて考えます。なぜ自分が助かったか、"何かしなさい"と言われている気がします。人のために。同じ場所、同じ時間、同じ条件でいたのに、生死の分かれ目は何なのだろと自問。震災により、人それぞれの本質が出るのかもしれません。人間性、生き方について考え、"これから"について考えたいです。

もう物に執着していません。何を大切にするかといった価値観が変わりました。人とのつながり、近所とのかかわり、相手を思う言葉や行動が大切で、そっと手を差し伸べたり想像力を働かせたりすることが大事かもしれません。いろんな経験をすることが人生を豊かにし、優しくします。必要なものは必要な時に来るのではないでしょうか。自然を大切に。黒い悪臭のへドロを海から返されたのです。しばらく2階の6畳一間に夫婦と息子の3人暮らし(+猫3匹)が、幸せで心がひとつでした。ロウソク、電池式の明かり。朝日と共に起き、太陽が沈むと就寝。私たち人間は、生き方を変えるべきです。何が無いかではなく、何があるか。自然は自然を修復します。2014年8月には、閉店した知り合いの喫茶店を引き継ぎ、喫茶店経営を始める予定。

2014年3月29日

3)Y.Zさん(60代)

"ここから、海側に家を建ててはいけない"という石碑の文言を守らなかった石巻の人々。40年~50年前、不動産屋は、"ここは津波がくるかも"と忠告しましたが、土地を購入した人々。震災から3年目の今、再建は過酷。震災当日、亡くなった人の分まで生きようとすぐ思いました、生かされたからには。近所のみんなは亡くなり、家はありません。しかたない。みんなも同じです。ご遺体をたくさん見ました。みんなに支えられたので、どう恩返ししたらいいのでしょう。物はいりません。何がなくとも、生きているだけでいいとみんなに言われました。その言葉に支えられました。物にも心にも支えられたのは確かです。信仰を持っている人は強く、やさしく、やわらかいですね。

震災遺構として残そうとしている小学校の建物がありますが、自分は保存に反対。見ると辛いし、たくさんの人が亡くなったことを思い出します。自分は幸せ、夫と二人。しょぼくれてもいられません。家を再建しても、それが終わりではありません。カンボジアのアンコールワットを見たいです。この3年。わけのわからない3年。建設のビジネスをしたいです。姉の死(2013年)は震災より辛いです。国内外の誰かに恩返ししたいです。友人がたくさんいてよかったです。相談できる友達。一人では何もできません。信頼が大切です。物はなんとかなります。泊まりにおいでと言ってくれる友達がいます。

自分のためだけじゃなく、車を失った知人の分まで、車で送迎。実は45才で免許取得。すっぽり家屋を失いましたが、家族がいるから大丈夫です。震災後、他人の人間性や内面がわかりました。ある人から"ざまあみろ"と言われ、ショックでした。厭な人とは会わないし交流しません。遠方から米、味噌をもってきてくれた人達。これからは好きなように生きたいです。20年間働いたので、いつ死んでもいい。後悔はありません。それなりに人の世話もしました。夫をおいて逝きたくはありません。男一人は悲しい。考えてもしかたありません。問題にたちむかいます。震災前は、指輪、皮物が好きで着物、靴、バックをいっぱい持っていました。今はまったく関心がありません。指輪もつけたくない。不思議です。ほしいものは、ありません。物欲が無くなったのです。若いころ夫は船に乗り、自分は一人で子育て。子どもを預けて働きました。

2014年6月22日


ほかの方々のメッセージもぜひまたお届けしたいと思っています。「彼女達のメッセージが、日本や世界のどこかの女性達へ届くことを願います」という千葉さんの思いを乗せて。

千葉さんへのメッセージはこちらへお送りください。
e-mail: swan20110311@gmail.com

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イメージ画像: Copyright 千葉直美 All rights reserved.

枝廣淳子

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