ニュースレター

2015年06月09日

 

JFS「ローカル・レスポンシブル・コンシューマー」勉強会

Keywords:  ニュースレター  市民社会・地域 

 

JFS ニュースレター No.153 (2015年5月号)

写真:JFS「ローカル・レスポンシブル・コンシューマー」勉強会

「少数の気心の知れた友人同士で学ぶスタイルの勉強会が開催できたら、普通の勉強会とは異なる学びがあるのではないか」そんな期待を胸に、ジャパン・フォー・サステナビリティ(JFS)では、パタゴニア日本支社(環境助成金プログラム)からの支援を得て、2015年2月から7回にわたり計20人に「ローカル・レスポンシブル・コンシューマー(地域に根ざした責任ある消費者)」と題する勉強会を行ないました。参加者の意識は、この勉強会を通してどのように変化したのでしょうか?

この勉強会の目的は、同じくパタゴニアの支援を受けて行なった「地域社会と消費行動に関するアンケート」の結果を、地域のお店での買い物が持つ影響力とともに伝えることです。また普段、地域経済の勉強会などには参加しない人びとにも情報を届けたいと考え、友人ネットワークを通して親しい人たち同士で喫茶店などに集まってもらい勉強会を行いました。いわば勉強会を「出前」したのです。

勉強会では、まず12月に実施したアンケートの簡易版に回答してもらい、全国調査の結果を説明しました。その後、地域での買い物の経済効果を説明し、最後に意見の変化を確認するために、再び同じアンケートに回答してもらいました。勉強会の内容の一部とともに、勉強会後の参加者の意見変化と感想をご紹介します。

勉強会の内容――地域の個人商店での買い物によって、地域の経済を助ける

この勉強会を通して私たちが伝えたかったのは、「毎日の買い物によって、誰でも地域経済に貢献することができる」ということです。そこで、勉強会の中心に据えたのが、英国のNew Economic Foundationの「漏れバケツ理論」です。簡単にこの考え方をご紹介しましょう。

まず、人びとがバケツに水を注いでいる図を想像して下さい。このバケツは地域を表しています。そして人びとが注いでいる水は観光や投資などによって地域に入るお金を表しています。ところが、このバケツには穴がたくさんあいていて、せっかく地域に入った水(お金)が、穴から漏れだしています。

住宅を建築するための補助金が地域に入ってきたとしても、建築業者が地域外の会社の場合、そのお金は地域を通過してすぐに出て行ってしまいます。実際の事例でも、スコットランドの電機メーカーで使われる金属部品のうち、スコットランドで作られたものは12%だけだそうです。グローバル化が進む中、私たちの地域経済は「漏れバケツ」状態なのです。

漏れバケツ理論では、漏れを防ぐとともに、地域の中で繰り返しお金が使われることを重視しています。たとえば、観光で地域内に入ったお金が、次のサイクルでは地域に暮らす従業員の収入になり、その収入がさらに地域での買い物に使われるといった具合です。

このように地域内で多くの人の手に渡ることで、お金は額面以上の価値をもちます。例えば1万円の収入のうち2割が地域内で使われ、残りが地域の外で使われるサイクルが繰り返された場合、1巡目では1万円のうちの2,000円が地域の飲食店などで使われ、地域に残ります。2巡目もその2割(2,000円のうち400円)が地域に残ります。こうして、地域の中で繰り返し使われたお金の額は最終的には約1万2000円分になります。

それに対して「8割が地域内で使われ、残りが地域の外で使われる」サイクルが繰り返されると、1巡目では1万円のうちの8,000円が地域に残り、2巡目では6,400円が地域に残ります。このようにゆっくりと多くの人の手にお金が渡るため、1万円は最終的には約5万円分もの価値を持ちます。地域の中でお金が繰り返し使われることによって、大きな経済効果があるのです。

それではスーパーやチェーン店での買い物はどうでしょうか。そうしたお店の場合、売り上げうち小さくない割合が本社に支払われます。たとえば、日本のあるコンビニエンス・ストアでは、フランチャイズ契約をした小売店が本社に支払うロイヤリティは総売上金額の40%程度です。

また地域のお店や会社では、仕入れのほか、会計士、印刷、清掃の依頼先も地元の業者に頼むことが多いそうです。つまりそれだけ地域内でお金が繰り返し使われることになります。それに対して大手チェーン店では、地域に支払われるのは賃金だけで、その他のサービスは全国規模の会社と契約を結ぶことが多いのです。またネットショップは、地域に賃金すらもたらしません 。

たとえば、「Advocates for Independent Business(仮称:自営業の擁護者)」という米国の団体によると、全国チェーン店で100ドルを使うと14ドルが地域経済に残るのに対し、個人の小売業者で100ドルを使う場合は48ドルが地域経済に残るそうです。また雇用についても、1000万ドルを消費するたびに、アマゾン(大手のオンラインショップ)では14人が雇用されるのに対して、地域の実店舗では57人が雇用されるそうです 。

このように、地域経済を考えると、地域の個人経営のお店で買い物をする方が効果的です。また、手助けができるのは、現在暮らしている地域だけではありません。職場の近くの個人商店での買い物は、その地域の手助けをすることになります。また先ほどは、大手のインターネットショップは地域に雇用ももたらさないと書きましたが、出身地域や応援している地域のオンラインショップで買い物をすれば、その地域の経済を助けることができるのではないでしょうか? 観光に行った場合も、ホテル、食事、買い物をする場所などを少し変えるだけで、地域を助けることができます。

漏れバケツ理論の冊子によると、英国のコーンウォール地方で(日本の鳥取県くらいの大きさの地域です)、旅行者、住民、事業者が、それぞれ1%だけ地域のモノやサービスにお金を使うようになれば、地元で使われるお金が年に5200万ポンド(約100億円)増える計算になるそうです。

皆さんも「週に1度は、地元の個人商店で買い物をする」など、できる範囲で地域経済の手助けをしませんか?

勉強会の後のアンケート調査――どのような意見変化があったのか

勉強会の後で、再度アンケート用紙に目を通してもらい、回答に変化があったか尋ねたところ、「自分の支払ったお金が、地域の経済に役立つかどうか」を気にかけているかについて、「気にかけている」という方向に意見が変化した参加者が4分の1ほどいました。また「住んでいる地域の経済について、現状を変える必要があると思うか?」という質問への回答を変えた回答者も5分の1いました。これは、勉強会を通して現状の認識に変化が生じたことを示しています。そのほかにも「野菜を買いたいお店」のリストからスーパーマーケットを除いた参加者もいました。

勉強会の後、「買い物での地域貢献を考えたことがなかった。今日の夕食は地元の個人飲食店に行こう!」とさっそく勉強会の学びを生かしてくださった参加者もいました。

JFSでは、これからの私たちの幸せと地球環境の持続可能性の鍵は「地域」にあるとの考えから、これからも日本の地域の取り組みに注目し、興味深い事例をお伝えしていきます。

〈参考〉
地域経済の青写真
個人経営の店舗での買い物は、地域経済を後押しする(幸せ経済社会研究所)

〈JFS関連記事〉
毎日の買い物を通して地域経済を後押しする――JFSの世論調査から

スタッフライター 新津尚子

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