ニュースレター

2015年05月29日

 

「里山コミュニティ経済」で美しく豊かな農山漁村を後世に

Keywords:  ニュースレター  エコ・ソーシャルビジネス  市民社会・地域  食糧 

 

JFS ニュースレター No.153 (2015年5月号)

写真:霜里農場
Copyright 大和田順子 All rights reserved

2015年2月9日、JFS「地域の経済と幸せ」プロジェクトの一環で、シンポジウム『生き残りにつながる地域の取り組みとは――地域経済・地方創生の視点から』を開催し、地域づくりの現場で活躍されているトップランナーの方々から、それぞれの取り組みをご紹介いただきました。今月号のニュースレターでは、サステナブルコミュニティ・プロデューサーの大和田順子氏の講演から、里山コミュニティ経済の創出事例についてお伝えします。


私は生まれも育ちも東京ですが、最近は年間150日くらい全国各地を歩いています。今日はその中から、いくつかの地域の取り組み事例を紹介したいと思います。

私はもともとは流通の世界にいました。ロハスという言葉をご存じでしょうか。私は2002年にロハスについて日経新聞で書いたのですが、日本で最初にロハスを紹介した記事と言われています。2008年ごろから地域に行く機会が増え、有機農業や地域づくりの取材をして、2011年2月に『アグリ・コミュニティビジネス』という本を出しました。震災以降、いくつかの地域で有機農業や生物多様性、再生エネルギーを活用した地域づくりのお手伝いをしています。農水省・世界農業遺産専門家会議の委員もしています。

今までの石油に依存した大量生産・大量消費社会から、自然エネルギー・地域資源・ローカル生産を重視した里山コミュニティ経済を創出していくことが大事です。このような考え方に基づいて、地域にある資源を使ってどのように地域の経済を作っていけるのかという取り組みを一緒にやっています。「健康は人の健康だけではなく地域や環境の健康とセットになっている」こと、「サステナビリティとは次の世代や途上国への思いやり」といったことも一緒に共有しながら進めています。

「コミュニティ」がキーワードになってくると思いますが、都市の方が危機的状況にあるのではないでしょうか。東日本大震災のとき、ガソリンも買えず、スーパーに行っても棚にお米もなかったですよね。私自身はそれ以来、農家とどれだけ親しくなれるか、地震はいつどこに来るかわからないので、食料の備蓄や、各地に3か所ぐらい疎開先を作るといったことを行いました。

地域の取り組みでは、もちろん基礎自治体の首長のリーダーシップ、ビジョンで地域の未来は大きく左右されますが、やはり主役は地域の人たちです。市民がいかにやる気になるか。私は特に女性を応援したいと思っているので、地域の女性の方たちに「さあ、地域の未来づくりを実践しましょう」と声をかけ、あれこれお話しながら、もちろん男性の方ともお酒を酌み交わしながら、話を進めていきます。

写真:金子美登さん
Copyright 大和田順子 All rights reserved

最初の事例は、埼玉県小川町です。都市部から50キロくらいの都市農村交流しやすい位置にあります。小川町の下里地区にお住まいの金子美登さんは、1971年に有機農業を始めました。日本で「有機農業」という言葉が生まれたのも1971年です。3ヘクタールの牧歌的な、牛や鶏がいる霜里農場で40数年間、有機農業を続けている金子さんの基本的な考え方は、「工業製品や石油に依存しない、身近な資源を活かしていて食糧やエネルギーを自給すること」です。

金子さんのところでは毎年、数人の研修生が1年間寝食を共にしながら学んでいます。その人たちが全国に巣立っています。半農半X的な、自分の食べるものは自給しつつ、自分のスキルを活かして生活するというライフスタイルの人が多いように思います。

金子さんの話を聞くと、その野菜を買いたくなりますが、都市部のスーパーでは売っていません。基本的に小売店ではほとんど販売していないのです。ではどこで売っているのか? 消費者との提携です。最近、CSA(Community SupportedAgriculture)という言葉が日本でも少し知られるようになってきましたが、実は金子さんたちが始めた消費者との提携(TEIKEI)が、アメリカに行って「CSA」という言葉になって逆輸入されたのです。

写真:霜里農場 写真:霜里農場
Copyright 大和田順子 All rights reserved

金子さん個人の取り組みは30年後、集落全体の有機農業化に結びつきました。2010年に『農林水産祭村づくり部門 天皇杯』という、農林水産省が主催する中では最も権威ある賞を受賞しました。つい最近、天皇、皇后両陛下が下里地区に視察にお見えになり、地域の人たちは大変喜んでいました。

畑は少量多品種です。ネギの隣には、葉物があります。ネギがあることで、害虫が寄りつきにくいという効果があります。モノカルチャーではありません。床暖房は薪ボイラーです。自宅は裏山の樹齢80年の杉、ひのきを使ったものです。

写真:廃食油の精製機
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庭先には装置が埋まっていて、牛フンや人糞、生ごみなどを入れると、液体肥料とガスができる。最近、このガスでの発電を始めています。大規模な熱電併給のバイオマス発電と言われても解りにくいですが、これはかなり小さいので、とても解り易い。また、廃食油の精製機も設置され、ストレートベジタブルオイル(SVO)はトラクターや自動車などの乗り物に使っています。エネルギーも燃料も石油に依存しない体制がほぼ整っているわけです。

1988年ごろから、下里で有機栽培されたお米、日本酒、大豆、豆腐と、どんどん地域の経済を作っていきました。お米はJAに出すと当時は1キロ200円ほどでしたが、地元の酒造は1キロ600円で買ってくれる。大豆もJAに出すと1キロ300円ほどですが、隣町のとうふ工房わたなべは500円で買ってくれます。「再生産しよう」「来年も頑張ろう」という気になる価格で買ってくれるところがあると、地域経済が継続できるのです。

このように、お米、大豆、小麦などすべてを集落の有機農業で生産し、それを地域のいろいろな事業者が使用します。とうふ工房わたなべは年商3億5千万円です。ここに行かないと買えないので、都市に住む私たちは通います。「百貨店で霜里豆腐を売ってほしい」と思うのですが、売らない。地元でしか売らないそうです。

写真:とうふ工房わたなべ 写真:とうふ工房わたなべ
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とうふ工房わたなべは、素性の分かる豆腐づくりを心掛けていて、大豆を作る人、豆腐を作る人、配達する人、買う人、食べる人がみんな顔見知りです。社長の渡邉さんは金子さんを大変信頼していて、金子さんの集落の作る大豆はすべて買います。年間60トンから100トンの大豆をこの1軒の豆腐屋さんで買っている。「だから豆腐を売らないといけないんですよ」と言いながら、商品開発にとても努力しています。行くたびに新商品があったり、いろいろなイベントをやっていたりして、大変参考になります。

小川町は和紙も有名で、地ビールなどユニークなお店もあります。郷愁をそそる木造の下里分校という廃校で見学会や勉強会が開催されたりして、私たち都会人はついつい出かけていきたくなります。

写真:和紙
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3年前に「さらに交流の仕組みができないか?」「若い世代が活躍する機会をつくりたい」と、地元の人たちと話し合って、「有機農業を普及するための有機野菜塾や貸し菜園」が始まりました。そしてNPO法人霜里学校が設立され、塾や菜園の運営、旧下里分校の管理を行っています。私も、都内の賃借料の高い菜園から小川町下里での野菜作りに替えて、4年目になります。

金子さんはいつも「農民が元気になると農村が美しくなる」と言っています。私は小川町に毎年通っていますが、毎年どんどん美しくなっていくような気がします。

写真:東白川村
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次の事例は、東白川村です。岐阜県にある2,400人の小さな町で、東濃ひのきというブランドひのきがあり、FSC認証をとっています。地元のNPOの方と知り合い、「新しい交流の仕組みを作りたい」と、大阪に本社のあるスーパーホテルというホテルを紹介しました。

私は2007年に『ロハスビジネスアライアンス』という団体を立ち上げました。都市部のロハスなビジネスや人たちをサポートするビジネスが集まっている団体ですが、参加しているスーパーホテルの会長が「ロハスなビジネスホテルになりたい」と言われました。スーパーホテルは、ホテル業界唯一のエコファースト企業です。中堅規模の会社で、全国に106店舗運営し、経営品質の向上に熱心に取り組まれ、いろいろな賞を受賞しています。

カーボンオフセットにも取り組んでいるのですが、海外産と国産では10倍くらいの価格差があり、「大量に必要」ということで海外産を利用しています。でも、「少しは国産も」ということで、東白川村を紹介したのです。

岐阜にある2店舗分のオフセット用に、東白川村のFSC認証森林を使おうということになりました。でも、空気の取引だけだとよく解らないから、現場を見に行って実態のあることをしようということになり、新入社員研修で去年と一昨年の2回行きました。

東白川村では、地元のNPO法人青空見聞塾が、地域課題を認識して社会参加を促すことで人材の育成につなげるCSR型研修を実施しています。ひのきを伐採するところを見せていただき、皆で枝と葉っぱを鋸で切り、森林組合に持って行って、エッセンシャルオイルを抽出しました。このひのきエッセンシャルオイルを、スーパーホテルで使うことを考えています。

この合宿では、「スーパーホテルとして何が出来るのか?」を考えるワークショップを毎回行っています。CSV(Creating Shared Value)という、地域の課題解決策を共に考え、一緒に新しい価値を創出する取り組みとして、最初に作ったのが大浴場用のひのきの椅子です。この椅子には「東白川村を応援します」と刻印されています。ほかに、ひのきの枕や客室用のポップ台などを作っています。全店舗で1万5千室ほどありますから、それなりの量になってきます。

2つの地域の取り組みを紹介しましたが、私がこの4年間ほど、地域づくりに利用している図があります。縦軸が「農山漁村力」、横軸が「ソーシャルキャピタル力」です。まずは、地域自給があって、エネルギー、食糧の自給ができるようになったら、次は経済的側面、農商工連携や6次産業化です。さらに社会環境面も非常に重要であると思います。これらがセットになって、地域の魅力、地域力が増えていきます。

図:農山漁村力
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一方で、ソーシャルキャピタル力は交流の力、信頼関係です。これによって、地域で支える農業(CSA)だけではなく、フォレスト(森林、CSF)やエネルギー(CSE)もありうるでしょう。同じ考え方がケア(福祉、CSC)などにも使えると思います。そういう考え方で、持続可能なコミュニティを共に作っていきたいと思っています。これが、震災後3年間各地で地域づくりのお手伝いをしながら考えてきた、今日の到達点です。

サステナブルコミュニティ・プロデューサー 大和田順子
(編集:枝廣淳子)

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