ニュースレター

2014年12月29日

 

経済成長の必要性と可能性に関するジレンマ――経済成長をめぐる意識調査から

Keywords:  ニュースレター  定常型社会 

 

JFS ニュースレター No.148 (2014年12月号)


イメージ画像: Photo by geralt Some Rights Reserved.

日本では独自の「幸福度指標」「豊かさ指標」を作成・活用する自治体がいくつも登場しています。また、地域の木材を有効活用したバイオマス発電で地域のエネルギーを賄う取り組みを中心に、貨幣には換算できない生活の幸せや、「マネー資本主義」の経済システムの横にお金に依存しないサブシステムを再構築しておくことの安心感にスポットを当てる『里山資本主義』という新書が、2014年の新書大賞を受賞しています。里山資本主義的な経済や社会のあり方は「GDPや経済成長率を縮小させる可能性もある」とも述べる書籍が数十万部も売れていることからも、多くの人々が関心を寄せるのは「経済成長」だけではないことがわかります。

他方、毎日のように報道される成長戦略をはじめとする政治・経済ニュースからは、政府や経済・産業界には「経済成長が不可欠だ」という考え方がその大前提にあることが伝わってきます。そして毎年「前年比X%」という成長率が掲げられるように、「経済はつねに成長し続けるべきだ」という想定があることがわかります。

このような状況の中で、一般の人々は経済成長についてどのように考えているのでしょうか? 経済の規模を測る指標であるGDP成長にどのようなイメージを抱いているのでしょうか? その考えやイメージに、現実との乖離はあるのでしょうか?

JFSのパートナー組織である幸せ経済社会研究所が旭硝子財団の協力を得て2014年10月に実施した「経済についての意識調査」の結果をお伝えしましょう。調査は、2014年10月25~26日、株式会社マクロミルのモニター会員を対象にインターネット調査法を用いて行われ、サンプルの構成は20歳~70歳の500人で、年代、性別および大都市/中小都市・地方の割合は、国勢調査データの日本人口比に合わせました。

ここでは、「経済成長について人々はどのように考えているか」「GDPが成長し続けることの必要性と可能性について、人々はどう思っているか」「いわゆる経済成長神話について人々はどのように考えているか」の3点を取り上げます。

「経済成長」について人々はどのように考えているのか

「あなたは、経済成長は望ましいことだと思いますか?それとも望ましくないことだと思いますか?」という質問については、「望ましい/どちらかといえば望ましい」と回答は8割以上でした。「望ましくない/どちらかといえば望ましくない」は1割以下、「わからない」という回答が約8%でした。

GDPが成長し続けることの必要性と可能性について、人々はどう思っているか

「あなたは、GDPが成長し続けることは必要だと思いますか?それとも必要ないと思いますか?」という質問を、「日本の社会にとって」「あなたが暮らしている地域にとって」「日本の企業にとって」「あなた自身の生活にとって」のそれぞれについて聞いたところ、いずれの場合も、「必要だと思う/どちらかといえば必要だと思う」との回答が約8割に達しました。

「必要だと思う/どちらかといえば必要だと思う」が最も多かったのは「日本の企業にとって」で(85.2%)、最も少なかったのは「あなた自身の生活にとって」(70.0%)でした。GDPの成長は「自分自身の生活」よりも「日本の企業」にとって必要だという回答が相対的に多かったことは興味深いところです。「個人としての経済成長の必要性の認識」と「企業としての経済成長の必要性の認識」の乖離があるとしたら、その意味するところは何なのでしょうか?

次に「あなたは、GDPが成長し続けることは可能だと思いますか? それとも不可能だと思いますか?」と質問したところ、「可能だと思う/どちらかと言えば可能だと思う」は約40%で、「不可能だと思う/どちらかといえば不可能だと思う」という回答も約40%、「わからない」という回答が約17%でした。

前問での「必要」との回答が約80%であったのと比べて、「可能」と答えた人は半分程度だったのは大変興味深い結果です。これは「GDPが成長し続けることは、必要だが不可能だ」と答えた人々がいることを意味します。

経済成長に関する人々の屈折した思いが現れているといえるでしょう。「必要/どちらかといえば必要」かつ「不可能/どちらかといえば不可能」と考える人は、全体500人のうち158人で、つまり、3分の1近くの人々が「GDPが成長し続けることは必要だが、それは可能ではない」と思っているのです。

その理由を自由回答形式で尋ねたところ、GDPが成長し続けることは「必要」だが「不可能/どちらかといえば不可能」との回答で多かったのは、「人口減少」「地球の限界」「グローバル化の影響」などの指摘でした。

一方、GDP成長を続けることは「可能/どちらかといえば可能」との回答者の挙げる理由には、政策や技術、国民の努力に期待する声が多くありました。

いわゆる「経済成長神話」について人々はどのように考えているか

「GDPなど経済成長によって様々な問題(失業、賃金、経済格差、不幸、環境問題など)が解決する」と信じていることは「経済成長神話」と呼ばれていますが、そのそれぞれについてどう思うかを尋ねてみました。

その結果、「GDPが成長すれば、失業者は減る」「GDPが成長すれば、多くの人々の賃金が上がる」については6割以上の人が「そう思う/どちらかといえばそう思う」と回答しており、過半数の人が「GDP成長によって失業問題と賃金がよい方向に向かう」と考えていました。

それに対して、「GDPが成長すれば、人々の間の経済的格差が縮小する」「GDPが成長すれば、環境問題は改善される」については、「そう思う/どちらかといえばそう思う」との回答は約2割で、「GDP成長によって格差や環境問題が改善する」と考えている人は少ないことがわかりました。

「GDPが成長すれば、多くの人々が幸福になる」については、「そう思う/どちらかといえばそう思う」との回答が42%、「そう思わない/どちらかというとそう思わない」が42.2%と、「経済成長」と「幸福」の関連の有無については、意見がほぼ二分していることは興味深い結果です。

統計データを見ると、この30~40年間の日本では、GDPが成長する一方、完全失業率、賃金係数、ジニ係数、生活満足度はすべて悪化しており、実際には"経済成長神話"は成り立っていません。格差については経済成長神話を信じている人が少ないのに対して、失業と賃金については今なお経済成長神話を信じている人が過半数を超えているのはなぜなのでしょうか? 幸福に関して意見が分かれていますが、両者の「理由づけ」はどのようなものなのでしょうか?

これらの新たな問いを追求していくとともに、今回のような「経済成長に関する意識」を経時的に追跡をしていきたいと考えています。

〈参考〉
幸せ経済社会研究所 プレスリリース
3人に1人は「GDP成長のジレンマ」(必要だが不可能)を感じている
―経済成長についての世論調査より―

(枝廣淳子)

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