ニュースレター

2014年12月19日

 

持続可能な日本 「フクシマ」から見えてくる日本の課題

Keywords:  ニュースレター  原子力 

 

JFS ニュースレター No.147 (2014年11月号)

写真:欧州緑グループ・欧州自由連盟による共同アクション
2014年3月11日、ストラスブールで行われた欧州緑グループ・欧州自由連盟による共同アクション
イメージ画像:Photo by greensefa Some Rights Reserved.

2014年9月10日、経済・社会・自然科学・環境分野の研究者による国際ネットワーク Club of Vienna 主催のシンポジウム「Cope with the Stress of FutureChanges - Preparing States, Region, Cities, Organization, Families andPeople for the Ongoing Transition」に参加し、日本の持続可能性に関する講演を行いました。今月号のニュースレターでは講演の中から、「フクシマ」から見えてくる日本の課題についてお伝えします。

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私はこれまで、「つなぎ役」として、国内のセクター間や、日本と世界をつなぐ活動をしてきました。言わば「伝える人」として活動しています。ですから、本日みなさんがお聞きになるのは、15年間ほど何らかの効果を生み出すためにこの分野で活動してきた人間の、一つの見方です。

私は、気候変動、生物多様性の損失、エネルギーなどの問題に対処する政府の委員会に働きかけてきました。記事や本を書いたり、大勢の人たちに講演をしたり、企業に対してコンサルティングを行ったりしています。

しかし、私が気づいたのは、「これらの問題はすべて症状である」ということです。そして、私たちが向き合わなければならない、そして取り組まなければならない"根本の原因"とは、経済成長に対する飽くなき欲求だということです。つまり、それに対して何らかの手を打たない限り、問題を解決するのは非常に難しいでしょう。

これが、私が数年前に「幸せ経済社会研究所」を立ち上げた理由です。「有限の地球の上で、無限の経済成長を続ける」ことは難しいと思います。そして、日本のみならず世界の各地で、幸せや豊かさに向かう別の道筋を作り出すための多くの試みと対策が進められています。日本では、私たち幸せ経済社会研究所が、研究、情報発信、対話、世界とのネットワークづくりなどの活動を行っています。

写真:幸せ経済社会研究所の画面キャプチャ

日本で私たちが直面している課題をお話ししたいと思います。言うまでもなく、フクシマです。原発事故です。私たちはいまだにこの問題を解決していません。ご存じのように、未解決なのです。ですから、フクシマの現在の状況をお話しさせてください。

「大気中には、東京電力福島第一原発事故に伴い大気中に放出された放射性物質は、これまでにセシウム134と137を合わせて2万兆ベクレルにのぼり、現在も毎時1000万ベクレルの追加的放出がある。海洋への放射性物質の放出については、事故発生当初は7100兆ベクレル放出されたとみられる。その後、地下水の汚染などにより、最大で1日あたり最大200億ベクレルのセシウムが放出されているとみられる」。これが、この原子力発電所を所有する東京電力の社長による放射性物質の漏出状況の説明です。

つまり、私たちは大気や海洋に非常に大量の放射性物質を放出し続けているのです。そして、まだ止まっていません。日本は自然が豊かな国ですから、いたるところに非常に豊富な地下水があります。そして、フクシマの原発の敷地にも非常に豊かな地下水があるのです。毎日、400トンの地下水が原子炉に流出し、汚染されているのです。

というわけで、これは私たちにとって非常に大きな問題となっています。政府は、海中に凍土壁を設置しようと考えています。1~4号機の原子炉建屋が海側にあります。そして、山の方から地下水が一日に400トン流入し、汚染されています。この計画は、このエリアを囲むように1.5kmにわたって、1,550本の管を30メートルの深さに設置しようというものです。そこに、マイナス30度の冷却材を循環させ、地下水とその周囲の土壌を凍らせるというものです。

どう思われますか? しかし、これが政府の計画であり、やろうとしていることなのです。このいわゆる「凍土壁」を設置しての凍結作業は、2020年まで続くと言われています。この工事費用は、言うまでもなく巨額ですが、これは政府によって、つまり納税者によって、支払われる予定です。

凍結状態を長期間にわたって持続するためには、そのための電気料金が膨大なものになります。そして多くの人々、特にNGO関係者が恐れているのは停電です。もし電気が止まったらどうなるのでしょう?

しかし、これが今日本で起こっていることなのです。これまでにも政府は、地下水汚染を止めるために多くの試みをしてきました。特に海洋への流出を食い止めようと、地下水バイパス、汚染水の浄化システム、その他多くの対策が行われてきましたが、十分な成功を収めてはいません。そして、この凍土壁の運用によって何が起きるのか、誰もわからないのです。

ですから、日本にいる人たちだけでなく、世界の専門家が助けてくれることを望んでいます。しかし、問題は、日本政府とこの原発を運営する東京電力が、世界に対してあまりにも閉鎖的であることです。フクシマの後、私は世界の多くの専門家たちからの連絡をもらいました。日本の私たちを助けようと、専門知識や技術を提供すると申し出てくれていたのです。私は国内の関係者に彼らのメッセージを伝えましたが、返事がないか、あったとしても「ありがとうございます。しかし、結構です。私たちは自分たちで対処します」という返事です。そこがひとつの問題です。

また、福島県には今でも、30~40年間、居住が不可能な場所があるため、多くの人々が強制的に家から離れての生活を余儀なくされています。人々が再びそこで暮らせるようになるまでにどれだけの時間を要するか、本当のところは誰にもわかりません。

震災発生からの1年間における福島県からの転出者は5万4千人を超え、前年より7割以上も増加しています。多くの人々が家、地域、そして故郷を去り、再び帰ることはありませんでした。福島県ではたくさんの悲劇が起きていると思われます。地域社会は崩壊し、家族はばらばらになり、どこに住むかで意見が食い違うために多くの夫婦が離婚し、痛ましい自殺もあります。福島県が現在直面している最大の問題は、壊されたイメージによる経済的なダメージです。なぜなら日本のほかの地域の人たちは、福島県産物、特に農産物を買いたいと思っていません。もちろん、放射能汚染を恐れているからです。これは、この地域で今も続いているとても悲しい状況なのです。

フクシマの事故では、汚染が深刻で専門家が対応すべき瓦礫も大量に発生しています。さらに、地震と津波による瓦礫も大量に発生しました。しかし、日本では、福島県の瓦礫受け入れに積極的な地域がなく、瓦礫問題も遅々として進んでいません。

福島および他県の原子力発電所の運転停止による、エネルギー不足をとても心配している人もいます。さらに、電力の価格も上昇しています。

フクシマ以前は、日本の電力の3分の1は原子力で賄われていました。事故後、ほぼすべての原子力発電所の運転が停止されています。そのため、現在は化石燃料に大きく依存しています。これは言うまでもなく、気候変動の点で大きな問題を引き起こします。

また、化石燃料への依存が大きくなったために、電力価格が上昇しています。東日本大震災とフクシマの原発事故が起きた3.11以降、家庭用の電気代は20~30%引き上げられました。私たちが外国のエネルギー源への依存をあまりに高めているため、エネルギーの安全保障について憂慮する人が増えています。

日本では大規模な水力発電も行われていますが、再生可能エネルギーは非常に限られています。固定価格買取制度が始まった2012年以降、特に太陽光発電など、再生可能エネルギーが激増しました。しかし、ほぼゼロから始まったため、日本では再生可能エネルギーが占める割合はまだ非常に限定的です。

私は「本当の課題」は、人々が懸念と関心を失いつつあることではないかと思っています。3年間という長い月日が経ってしまいました。もちろん、福島県に住む人たちはまだ「自分たちに何ができるか?」を考えていますが、一般的には、日本人の間での憂慮や関心の度合いは低くなっています。マスメディアがフクシマについてどのくらい取り上げているかを調べてみると、著しく少なくなっていることがわかります。

現在の安倍政権は、フクシマや他の諸問題に対応するため、経済成長に力を入れてきました。人々は今、「贅沢なことは言っていられない。フクシマやエネルギー事情を考えるためには、経済成長に力を注がざるを得ないのだ」と感じています。こういった考えは日本人の多くに広がっています。

私たちがすべきことは、こういった状況を構造のレベルから考えることです。ですが、まだそうできてはいません。前民主党政権は、何とか変えようとしましたが、うまくいきませんでした。総選挙で負けたのです。そして、旧来型の自民党が今、日本の政権を担っています。

そして安倍政権は、私を含む反原発派を政府の委員会から外しました。前政権の時に、私は政府の総合資源エネルギー調査会基本問題委員会のメンバーでした。この委員会は2030年までの日本のエネルギー政策を創ることになっており、委員は全部で25名、そのうち反原発派は私を含め8名でした。これは小さなことですが、日本の視点からすれば大きな進展です。というのは、過去にはこのような反原発派を複数選任することなどなかったからです。

しかし、自民党は政権を取ると委員会を刷新し、反原発派を外しました。ですから、現在の日本には、3.11などなかったかのように職務にあたっている政府官僚や委員がいます。彼らはその前の30~40年間にわたって行ってきたように、「原発に力を注」ぎ続けているのです。

悪名高い、いわゆる「原子力ムラ」と呼ばれるものが存在しています。これは原子力担当の政府官僚、業界、学術界のグループで、大きな力を持っています。そして、現在のところ何も変わっていません。原子力の政策と運営を監督する原子力規制委員会の現委員長は、原子力ムラのメンバーだという声もあります。今朝、日本からニュースが入りました。この規制委員会が日本で最初の原発再稼働を許可したというのです。この再稼働は冬に行われると思われます。

もう一つの問題は、日本には、特にマスメディアにおいて、本当の意味でのジャーナリズムが限定的であるということです。テレビを見たり、全国紙を読むと、部分的な情報は入ってきますが、全体像ではありません。同時に、日本には代替メディアもまだあまりありません。ですから、メッセージを広く伝えることはとても難しいのです。

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以上、フクシマをめぐる状況を中心にお伝えしました。来月は後編として、日本の地域経済や持続可能性につながる価値観・ライフスタイルなどのお話をさせていただいた部分をお伝えする予定です。どうぞお楽しみに。

(枝廣淳子)

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