ニュースレター

2014年08月12日

 

テクノロジーを最も必要とする人々へ届け続ける ~ NPOコペルニクの取り組み

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JFS ニュースレター No.143 (2014年7月号)

途上国とテクノロジーをつなぐという、世界的に注目を集める活動を展開しているNGOコペルニクの共同創設者 兼 CEO中村俊裕さんにインタビューをさせてもらいました。テクノロジーをつなぐことで暮らしをよくしようという活動、ぜひご覧下さい。

枝廣:コペルニクの立ち上げに至ったきっかけを教えてください。

中村:私はもともと、国連職員として途上国支援の活動をしていました。主に東ティモールやインドネシア、シエラレオネの政府の支援活動をしていたのですが、政府が政府を支援するという国連の枠組みだけでは、普通の人々の生活が変わるのはなかなか難しいと思いました。

また、国連は、「お金を出している政府」「支援を受けている政府」「国連」という三角形でだいたいの物事が動く閉ざされた世界で、新しく効果的なアイデアを有機的に取り入れてゆくのも難しいと感じました。

途上国向けのテクノロジーがたくさん出てきて、起業する人も増えてきたとき、これを有効活用できないかと思い、2009年ぐらいから今の活動に向かいました。

枝廣:どのようにして、途上国にテクノロジーを届けるのですか?

中村:「エネルギー」「保健」「教育」「水」「衛生」の5分野で、良いテクノロジーをいつも探しています。そのリストの中から、現地パートナーに、最も必要なものを選んでもらい、そこに、さらに寄付を持ってきます。「テクノロジー」「現地パートナー」「寄付」の3者をつなげるのです。ウェブサイト上でもつなげることをやっていますし、実際にモノを持って出かけていき、デモンストレーションすることもよくやっています。

枝廣:テクノロジーはいくつぐらいあるのですか?

中村:60~70でしょうか。

枝廣:どうやって集めるのですか? テクノロジーを持っている会社からの売り込み?

中村:それもあります。いろいろ教えてもらえるときもありますし、チームで週に1回勉強会をやっています。各チームが新しいモノを探して、我々が使えそうかどうかを調べてプレゼンし、増やしています。

枝廣:どういう基準で選ぶのですか?

中村:まずは、途上国向けに作られているものですね。

枝廣:具体的には?

中村:安くて、壊れにくく、使いやすいものです。壊れたとき、保証期間にちゃんと対応してくれるかも重要です。

枝廣:テクノロジーの原産国はどこが多いですか?

中村:アメリカが多いかな。ヨーロッパやアジアの企業もあります。私たちが本拠地としているインドネシアも多い。インドの会社もアフリカの会社もあるし、グローバルですね。

枝廣:日本の企業は?

中村:1社ぐらいかな。

枝廣:日本は技術の国と言われているのに、途上国向けの技術はそんなに...

中村:そうですね、日本の技術は先進国向けですから。途上国向けになると、かなり要件が変わってきます。

枝廣:アメリカの技術には、先進国向けも途上国向けもあるのですね。

中村:ええ、ほとんどがベンチャーです。アメリカには、2年間途上国で技術を指導するピースコープ(平和部隊)という政府の海外ボランティアプログラムがあるのですが、それに参加した人がビジネスの学位をとって起業するパターンも多いですね。マサチューセッツ工科大学(MIT)などにも、途上国向けのモノ作りのコースがあるんですよ。今、そういうところの卒業生が次々と起業しています。

枝廣:チームは、どうやってテクノロジーを見つけるのですか?

中村:ネットで調べるのが多いですね。いろいろな国際会議もあります。途上国向けのテクノロジーの世界があるんですよ。スタンフォードやMITのそういう会議などには、その分野に関係する人が集まってきます。ほかにも、インパクト・インベストメントの分野の人たちと情報交換をしたりしています。

枝廣:ある企業のテクノロジーを使いたいという現地パートナーが現れたとき、無料でもらうわけではないのですよね?

中村:ええ、買います。だから、会社にとっては、我々が市場開拓をしているということですね。

枝廣:「現地パートナー」とはどういう人たちでしょうか?

中村:NGOも多いですし、協同組合や女性グループもあります。最近は売店とも一緒にやっています。それぞれの場所には何らかの活動をしている団体がいっぱいありますよね。村の人からの信頼を得ている団体を通じてやると、すんなりと入っていけるんですよ。

枝廣:パートナーは、今どれくらいいるのですか?

中村:プロジェクト数は130くらいで、複数のプロジェクトをやっている団体もあるから、60とか70くらいですね。

枝廣:どうやって現地パートナーになるのですか? ウェブからでも申し込みができるようですが、誰でもなれるわけではないでしょう?

中村:ええ、でもけっこう広く受け入れています。ただ、寄付を使っていることもあって、信頼性が一番重要ですから、団体の報告書や財務状況について質問し、そういったものがすぐに出てこないところはやめておく、といった基本的なチェックはしています。あとは一緒にやってみながら、ですね。

枝廣:3つめのプレーヤーの寄付者とは?

中村:個人・企業がほとんどですね。寄付のお金で、主に最初の製品の購入代と輸送費のコストなどをまかないます。テクノロジーを現地コミュニティーに紹介するテクノロジー・フェアを支援してもらうこともあります。「まず知ってもらう」ところのお金ですね。

枝廣:そういったサポーターは、各国にいるのですか?

中村:本当にグローバルで、アメリカと日本が多いですが、ヨーロッパ、オーストラリア、アジアなど各地からの支援があります。

枝廣:具体的なプロジェクトについて教えて下さい。

中村:東ティモールに最貧のオクシという県があるのですが、そこで活動しているスタッフ5人くらいのNGOとのパートナーシップを組んで活動し、最終的には県の世帯の半分にソーラーライトを持っていきました。

調査をしたところ、以前はたくさん使っていた灯油の使用量が大きく減りました。ということは、支出が減るんですね。以前は、月7000円の支出のうち1400円くらい、20%を灯油に使っていたのが、今では月100円以下です。内職できる時間も延びました。県の半分の世帯をカバーしたということで、これはすごくうまくいった取り組みのひとつですね。

もうひとつは、今売店と一緒にやっているテック・キオスクです。農村部に行くと、売店がありますよね。インドネシアの田舎にも小さな売店があって、みんなそこでお菓子やコーヒーなどを買ったりしています。

この人の流れと、我々のビジネスとをうまくつなげられないかと、「ソーラーライトや浄水器などを置いて売ってくれたら、商売にも良いよ」と話をしました。すごくうまくいっていて、今までに50店舗以上のテック・キオスクができています。人々はそこに買いにくるし、売店の収入もすごく増えるから、彼らの生活もだいぶ楽になる。いまこれに力を入れています。

枝廣:売店は売るまではお金を回収できないですよね?

中村:ええ、だから委託です。最初から「買え」というとどこもやりませんから、そこは我々がリスクをとって、「売ったら返す」やり方です。

枝廣:コペルニクのビジネスモデルは良い感じで回っていますね。

中村:幸い、組織規模も年30~70%くらいの成長率で伸びているので、傾向としては悪くないと思っています。いろいろな企業からの「こういうものはテストできないか?」という依頼も増えてきているので、そこのコンサルティング・フィーなどの自己収入をもう少し増やせれば、もっと回りやすくなるかなと思っています。

枝廣:スタッフは何人くらいなのですか?

中村:50人越えたくらいですかね。

枝廣:たくさんいるのですね! スタッフもグローバルなのですか?

中村:そうですね。ほとんどがインドネシア人ですね。その次がオーストラリア人かな。日本人は4人で、ほかにも、フランス人、スイス人、ドイツ人、オランダ人もいます。

枝廣:今後の展開は?

中村:まだ小さいですから、今の活動を地道に展開していきます。インドネシアで、良いパートナーの数を増やしながら、同じパートナーとの関係を強固にしていきたいですね。

枝廣:コペルニクの活動を応援したいと思ったら、何がいちばん役に立ちますか?

中村:ウェブサイトからもできますが、寄付ですね。寄付とは、1つのツールなんです。「今、途上国にこういう課題がある」と認識してもらうこと、同時に解決策もあって、そこに参画もできる、ということです。この「参画できる」ことにとても意義があると思っています。寄付という行為は、お金があっちからこっちに移るだけではないんです。

枝廣:現地パートナーは「このテクノロジーを使いたい」と申請を出し、ウェブに載せてもらって、目標額の寄付金が集まってはじめて実現するわけだから、ドキドキしながら待っているのですよね。

中村:そうなんです。一度、必要なファンドが集まったちょうどそのときに、現地でその団体と一緒にいたことがあるんですよ。「目標額が達成できた」って電話がかかってきて、みんな「おー!」ととても喜んで。

枝廣:いい場面に立ち会われたのですね! そういう喜びがあちこちに広がるよう、応援しています。ありがとうございました。


(枝廣淳子)

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