ニュースレター

2014年07月31日

 

より広い視野で廃棄物管理を ~ 日本の経験から学ぶ

Keywords:  ニュースレター  3R・廃棄物 

 

JFS ニュースレター No.143 (2014年7月号)

Manga: All towards the same objective
Copyright Hiroshi Takatsuki All Rights Reserved.

2014年3月12~14日に大阪で開催された「国・都市レベルでの廃棄物管理の戦略ワークショップで、さまざまなアジア諸国政府の廃棄物担当の方向けに講演をする機会がありました。JFSニュースレターの読者の皆様とも日本の経験から学んだことを共有したいと思います。以下、講演でお話した内容をご紹介します。

今日は、皆さんが近い未来に直面するであろう課題や問題によりよく備えると同時に、皆さんの国の人々の幸せの基盤づくりに寄与するために、日本の経験から学んだ五つの教訓を共有したいと思います。

スライド:共有したい5つの教訓とメッセージ

1.ホリスティックな見方とアプローチをとる

私たちは、「個別最適化」に陥って、全体像が見えなくなることがあります。地方、地域、国の政府で、ある部門・分野の管理職や責任者に、よくあることです。ですから、一つめのメッセージは、「縦割りの枠から飛び出して、ホリスティックな見方とアプローチをとること」です。

Manga: Finished at last!
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すべての環境問題はつながっており、多くの場合、悪循環を推進し合って、状況を悪化させています。廃棄物はもちろんのこと、水、気候変動、生物多様性の損失、森林・さんご礁の減少、さまざまな汚染などもそうです。こうした密接につながっている問題は、一つの部局や単一のセクターでは解決できません。

私は、苦い経験から、政府の役人が縦割りの枠から抜け出し、担当する分野を超えていくことは非常に難しいことを知っています。しかし、それでもなお、皆さんに、よりよい方向に変えようとしている、つながっている構造と全体像を見失わないようにしてほしいと思います。

皆さんへのよい知らせがあります。すべての問題は、「廃棄物の問題」として見ることができる、ということです。つまり、皆さんには、ほかの多くの問題にも介入する機会がたくさんあるのです。

Manga: Other waste problems
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この地球上にはたった2種類の環境問題しかありません。一つは「供給源」の問題です。経済成長を続けるために地球の資源とエネルギーをどんどん使うことで、森林減少、生物多様性の損失、土壌浸食などの問題を引き起こしています。もう一種類の環境問題は、「吸収源」の問題で、ごみ、二酸化炭素、オゾン層を破壊する物質やその他の汚染物質といった廃棄物を、地球が吸収し、無害できる以上にたくさん排出していることです。

言うまでもなく、供給源と吸収源はつながってもいるので、地球から取り出す量が増えると、生み出される廃棄物の量も増えます。ですから、廃棄物管理は、「ごみ」について取り組むだけでなく、ほかの多くの問題の解決にもつながる重要な位置にあるのです。ですから、せまく定義された「廃棄物処理」という枠の中に閉じ込もっていてはいけません!

特に、「循環する構造」という観点で「リ・サイクル」について考えることが非常に重要です。リサイクルをするためには、廃棄物を収集し、分別し、原料に加工しなければなりません。日本でずいぶん前にリサイクルの取り組みを始めたとき、そこで行き詰まってしまいました。リサイクル量の増加につれて、原料の生産量が増えましたが、リサイクル業者の倉庫に積み上げられるだけでした。ループが閉じられていなかったのです!

ループを閉じるためには、リサイクルされた原料を使って製品を作る製造業者と、リサイクルされた原料から作られた製品を買う消費者が必要です。ですから、「リ・サイクル」のためにループを閉じるべく、製造業者と消費者を奨励する仕組みをつくることは、皆さんの責任業務だと思います。

Manga: Towards shorter, more efficient cycles
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せまい定義の廃棄物管理を超えて、さまざまな人々や組織、セクターを巻き込むことで、より効果的な取り組みができます。リサイクル業者や廃棄物処理会社だけでなく、NGO、市民、他業種の企業、マスコミ、学校の先生、農家と力を合わせましょう! 枠から抜け出しましょう!

Manga: Partnership-type education will be important from now on.
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先に述べたように、供給源の問題と吸収源の問題はつながっています。ですから、処理すべき廃棄物を減らすことに取り組むためには、供給側にも働きかけなくてはなりません。

現在、人間の活動を維持するには、1.5個分の地球が必要となっています。これはまったく持続可能ではありません。しかも、状況は悪化しています。今、アジアの多くの国々が、自分たちの国土が提供できる以上の資源、エネルギー、二酸化炭素吸収が必要となっています。

「経済や経済政策は自分の担当ではない」と思われるかもしれません。しかし、私たちの経済をこのまま成長させ続けると、廃棄物管理の分野で何が起きるかを考えてみて下さい。

ですから、マルチステークホルダーとともに、共有ビジョンをつくりましょう。ビジョンをつくる際には、バックキャスティングのアプローチを用いて、すべての人間と生きとし生けるものが幸せに暮らせる理想的な社会と経済の姿を描きましょう。皆さんの国の人々にとって、幸福や、社会の進歩をもたらすものは何でしょうか? 全体像の中で経済成長はどのように位置づけるべきでしょうか?

Manga: Time for The Simple Life 2.0
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2.経済成長に伴って何が生じるかを予期しておく

アジアをはじめ、世界の発展途上国の多くは、現在、分岐点にいます。先に発展した日本などの国々が経験した過ちや失敗を繰り返す必要はありません。

Manga: Go directly to the third way!
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皆さんは、歴史の中で皆さんが置かれている現在の位置をうまく利用することができますし、そうすべきです。なぜなら、うまくいかなかったことは避け、うまくいったことを選ぶ道がたくさんあるからです。先進国には、「リープフロッグ(段階を飛び越えて一気に進展すること)」はできません。経済成長の過程で自分たちが生み出した問題に対処しなければなりません。しかし、皆さんにはリープフロッグが可能です。そこで、皆さんのお国がさらに発展したときに予期しておくべきことをいくつか共有したいと思います。

まず、リサイクルをはじめとする効果的・効率的な廃棄物管理の仕組みを前もって準備しておくことを強くおすすめします。大量のゴミの山に直面する前に仕組みを作っておくことは、ゴミの山に埋もれてしまってから仕組みづくりをするよりも、はるかに簡単で、安くすみます。

そして、これも私たちの経験から言えることですが、裕福になればなるほど、人々が外食する頻度が増えます。もし皆さんのお国がその段階に達していないのならば、よかったです! 皆さんには、外食することから生み出される廃棄物(それは想像よりはるかに大量です)に対処するために、有効な仕組みや法規制、協力体制について前もって考え、導入するための時間があるのです。

また、より裕福な社会では、安全と利便性への要求がより厳しくなりがちです。消費者のそうした要求があるために、食品会社は製品に対してより高い基準(時に、不必要なほどに高い基準)を設定しなければならず、それによって、生産、加工、流通の段階でさらに多くの廃棄物が生み出されます。

さらに、より裕福な社会では当然のことながら、人々はより便利なライフスタイルを求めます。日本には、セブンイレブンのようなコンビニエンスストアがいくつあるかご存知でしょうか? 約5万店舗です。そして、現在、ほとんどのコンビニでは淹れたてのコーヒーを販売しています。便利なので、とても人気があります。コーヒーを楽しむのに、高いカフェにいかなくてもよいし、マクドナルドに並ばなくたってよいのです。

日本のコンビニで、年間、何杯のコーヒーが消費されていると思いますか? 7億杯です! 廃棄物管理の担当者が何とかしなければならない使い捨てのプラスチックのカップの山がどれだけのものか、想像してみてください。

ですから、日本の経験から私たちがアドバイスできることは、「発展の過程やその後に何が起こるのかを予期し、事前によりよい準備をしておく」ということです。現在やらなければならないことに取り組みながら、近い将来に向けての効果的な仕組みを作り、統合することを始めてください。

3.川上に注力する

皆さんは、廃棄物を何とかしなければならないと奮闘されていることでしょう。リサイクル。廃棄物処理場の建設。ごみ埋立地のために、海岸を埋め立てる。皆さんにも身近なことでしょうか? もしなじみがないとしても、近い将来、廃棄物管理担当者として身近な事柄になると予期しなければなりません。この漫画がいみじくも示しているように、川下でじたばたするよりも川上に注力するほうがよいのです。

Manga: Recycling
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川上に注力するということは、メーカーと協働するということです。なぜなら、「将来的に廃棄物になるもの」の生産方法を決めるのは彼らだからです。ですから、メーカーとともに環境適合設計(DfE: Design for Environment)に力を合わせ、分解のしやすさに焦点をあて、リユース・リサイクルのしやすさを改善しましょう。使用する原材料の種類を統合・整理して減らすよう、メーカーに促してください。日本には、企業の技術革新や技術開発を促すため、「エコ製品」を表彰するさまざまな賞があります。

たとえ、メーカーが環境にとってよりよい製品を生産していても、消費者に大量消費や大量廃棄を促す大量生産をしなければならないとしたら、意味がありません。ですから、メーカーにとっても消費者にとっても、「足るを知る生産」と「足るを知る消費」を行うことがよい、という新しいビジネスモデルを創造することが重要です。

川上に注力することは、小売業者と協力することでもあります。なぜなら、将来的にごみとなるものをいかに販売促進するかを決めるのは、彼らだからです。もし、小売業者が単に不必要な製品を普及させ、まだ使える製品を使い捨てするよう消費者を説き伏せるのならば、川下に対する皆さんの努力はあまり大きな違いを生み出さないでしょう。

川上に注力するということは、消費者と協力することでもあります。なぜなら、消費者が生み出すごみの量と種類を決めるのは彼ら自身だからです。消費者が意思決定する段階は三つあります。

第1は、使用前の段階で、「消費を減らす」または「消費しないで済ます」と決めることができます。第2は、使用中の段階で、買ったものを一度使って使い捨てるのではなく、長い期間使うことができます。第3の段階は、使用後で、リユースやリサイクルが奨励されるべきです。

使用後の段階では、規制や、行動への意欲を刺激または減退させる施策が効果的でしょう。たとえば、飲料容器のデポジットのような仕組みです。日本のある企業では、定期的にオフィスのごみ分別について抜き打ち検査を行い、その結果を部長の現金賞与に反映しているそうです。

ここ数年、日本では「自分で出したごみの費用は自分で払う」という制度を始める自治体が増えています。この制度では、市民は、自分が出したごみの量に応じて処理費用を支払います。このような制度や仕組みはとてもうまくいくと思うので、ぜひ考え始めてください

「これからごみになるもの」を減らすことについては、こちらの報告書が参考になるので、ぜひご覧ください。

『より少ない資源で より豊かなくらしを』
2013 年2月 19 日 国際環境NGO FoE Japan
http://www.foejapan.org/waste/library/pdf/130219.pdf

また、韓国での取り組みも、優れた事例だと思います。韓国では1993年に「資源節約及び再利用促進関連法」が制定され、包装方法の基準と包材の削減目標が設定されました。また、再包装や最充填によって再利用できる包材の生産について、製品の全生産量に対する最小限の割合を定めました。また、カップや皿、レジ袋などの使い捨て包材を禁止しました。

使用前の段階で消費を削減するよう、また、買ったモノを長く使うよう、消費者を説得するのは、難題です。というのも、現代の消費とは、生活必需品を手に入れるためだけではなく、自分のアイデンティティや幸福感の源泉でもあるからです。

消費者は、「必要なもの」よりも「欲しいもの」のために多くを消費します。私たちは、消費者のアイデンティティや幸福感というニーズを満たすために、消費以外の何を提供できるのかを考えなければなりません。これは、先進国で私たちが現在格闘している問題でもあります。人がモノを消費するのは、生理学的なニーズや安全上のニーズだけではなく、帰属感や自尊心のニーズのためでもあるからです。

Manga: What are the things that we really need?
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あるいは、消費者に自分のアイデンティティや幸福感のために使いたいモノを使ってもらいつつ、その物質的なモノを売るのではなく、リースすることもできます。人々はモノそのものではなく、そのモノが提供する機能や効用だけを買うことができます。それによって、必要となる原材料やごみを減らすことができます。

4.廃棄物管理の取り組みを活用して、社会関係資本を育む

日本では、水俣市や横浜市のように、自治体が市民のために、一緒にごみを集めて分別したり、廃棄物の削減のために何をすべきかを話し合ったりする場をつくっています。このような人々への廃棄物管理の取り組みは、二重の効果を生み出しました。一つは、リサイクル率の向上と、処理しなくてはならない廃棄物の削減で、これは予想通りでした。

もう一つの効果は、当初は目指していたわけではなく、大きく目立つものではありませんが、地域社会で社会関係資本を育んでいる、ということです。地域社会での多くの活動や取り組みを刺激し、地元のNGOが生まれ、力を付けていったのです。このことは、気候変動やほかの危険要因によって、大きな被害が予期されている時代において、地元レベルでレジリエンスを強めるという視点から、とても重要な点だと思います。

近年、日本では「シェア」が大きなブームになり、よいビジネスにもなっています。何かをシェアするときには、もちろん、廃棄物の減少を期待すると思いますが、同時に、会話が生まれ、おそらく笑顔も増えるでしょう。信頼や社会関係資本も育むことでしょう。ですから、廃棄物管理の取り組みを活用して、社会関係資本を構築することはよい考えです。近い将来、多くの社会関係資本が必要になってくるからです。

5.「失って取り戻す」より「保つ」ほうがはるかにたやすい

私たちは今、いわゆる持続可能な社会を創ろうとしています。ですが、これは、ゼロから始めなければならないものではありません。日本が経験してきたことをお伝えしましょう。

Manga: Renewal and regeneration
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日本が鎖国政策を取り、その時期を通じて人口が約3000万人で安定していた江戸時代、江戸の町には、約100万の人々がすべてを自給自足して暮らしていました。江戸時代は平和な時代で、全国のどこをみても戦争はありませんでした。経済と文化が繁栄していました。当時、真の「持続可能な社会」が存在していたのです!

専門の業者が、古紙や古着、古桶などを買い取ります。ろうそくから出る、貴重なろうのしずくを買い、それを使って、新しいろうそくを作って売る業者もいました。薪を燃やしたあとに残った灰を集め、肥料として農民に売る業者もいました。

ヨーロッパでは、し尿が窓から投げ捨てられ、ペストのような病気が国中に広まっていた時代、日本では、し尿でさえも売り買いされる貴重な資源として利用されていました。実際、裕福な地域の下肥は、一番高い価格で売れたそうです。一番栄養に富んでいたからです!

京都の竜安寺では、つくばいに次のような彫刻が残っています。
「知足の者は、賎しくと雖も、富めり」
「不知足の者は、富めりと雖も賎しい」

アジアでは、このような「充足の精神」が共有されています......あるいは、「いました」と言ったほうがよいかもしれません。「足るを知」り、自分が実際に必要なものよりも「もっともっと」と求めないという意識です。残念ながら、日本は高度成長期に、このような精神のほぼすべてを失ってしまいました。私たちはこのような文化を取り戻し、立て直さなくてはならないのです。

ですが、もしも皆さんの国で、このような大事な文化や人々の心構えがまだあるのなら、どうぞそれを維持し、さらに強くするように努力してください。なぜならば、「失ってから取り戻す」よりも「保つ」ほうが、簡単でお金もかからないからです。

これで発表を終わります。今行動を起こさなければ、次に何が起きるのか、おわかりいただけたことと思います。よい方向に変えていくかどうかは、皆さんにかかっています。ご清聴ありがとうございました。

写真:スマイル

(枝廣淳子)

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