ニュースレター

2014年05月13日

 

東北からスタート 情報とコミュニケーションで一次産業の変革を目指す「東北開墾」

Keywords:  ニュースレター  震災復興  食糧 

 

JFS ニュースレター No.140 (2014年4月号)

食から変える「東北開墾」

現在日本では年間10万人が離農し、生産者数の減少は、生産者の高齢化とともに、食をめぐる課題のひとつとなっています。

「これまで衣食住、地域づくりを他人の手にゆだねてきたことで、当事者意識を失ってしまった日本を変えたい。まずは基本の"食"から積極的に参画することで、自分の命を支える食をつくる"ふるさと"を一人ひとりに見つけてほしい。できればその食をつくる人や海、土地に関わってほしい」――そういう思いから、岩手県出身の高橋博之氏を中心に、NPO法人東北開墾は2013年7月から活動をスタートしました。

人々が孤立する傾向の強い都会と違い、東北には豊かな自然環境と温かい地域コミュニティが残っています。「東北開墾」は東北から出発し、もう一度人と海と土地が支え合って生きる社会をめざそうと考えています。今回は「東北開墾」の考えと取り組みをご紹介します。


「世なおしは、食なおし」

東北開墾は、「世なおしは、食なおし」をテーマに、食に参画する回路を開くことを、果たすべき使命と位置付けています。海や土からつくられる食が食卓に届くまでのプロセスを共有し、生産者への思いや哲学に触れ、様々なかたちで参画していく。命を支えるふるさとづくりに寄与することを目的に、食に関わるおもしろさや社会にコミットするおもしろさを実感できる独自のサービスを開発、提供しています。食に関わるすべての人に対して、「つくる」と「たべる」をつなぐ物販、ツーリズム、教育に関する事業を行い、命を支えるふるさとづくりに貢献することを目指しています。


「東北食べる通信」

東北開墾独自のサービスのひとつとして、食に向き合い、楽しむ「東北食べる通信」があります。毎月1回、独自の哲学でおいしい食べものを作り続ける東北各地の生産者たちをクローズアップした月刊誌と、収穫した自信の一品をセットにして届けています。

読者は、届いた東北食べる通信から、食べものの裏側にある背景や生産者のストーリー、食の知識を学びます。そして月刊誌と一緒に届いた一品を、誌面のレシピを参考にしたり、独自に考えて調理したりします。また、読者限定のSNSグループに自分が考えたレシピを投稿したり、生産者に感謝の気持ちを伝えたり、直接質問したりすることも可能です。食べる通信を通して、読者同士、読者と生産者がコミュニケーションできる関係をつくっているのです。2014年3月現在、1,000人強の読者が買い支えています。

東北開墾のもうひとつのサービスは、こだわりをもつ生産者を個人的に応援することができる「年会費制コミュニティ」です。年会費を支払うことで、生産者を財政的に支援し、生産現場の天候リスクなどをシェアします。生産者は市場価格に振り回されずにこだわりの食べもの作りに取り組むことができます。

手塩にかけて育てた生産物が年2~3回、会員の元に届けられます。ほかにも生産者とFacebook上で交流するなどさまざまなサービスを受けることができます。会員みんなで食べものの作り手を支えていく「東北食べる通信のCSAサービス」を展開中です。


CSAとは?

CSA(Community Supported Agriculture)という言葉をご存じでしょうか。CSAとは地域の住民が地元の農業を支えるための仕組み(地域支援型農業)のひとつです。地域住民が小規模農家や地元農家を支援するために会員となり、一定期間分の商品代金を前払いすることで、定期的に生産物の提供を受けることができます。1970年代の日本の(生産者と消費者の)「提携」運動が発展し、世界に広まったと言われています。農業との新しい向き合いかたとして、現在は欧米を中心に広がっています。


支えあう未来に向かって

「東北食べる通信」やCSAサービスを通じて、読者や会員のみなさんはどのように生産者のみなさんと関わっているのでしょうか。現在の状況や今後の展開について、東北開墾 代表理事の高橋さんにインタビューさせていただきました。

Q.「東北開墾」という名前に大変強い思いを感じたのですが、由来を教えていただけますか。

A.「世なおしは、食なおし」をテーマに食を通じて都市と地方をかきまぜ、閉塞感のある社会に新たなフロンティアを"開墾"する、というのが名前の由来です。

Q.CSAに注目したきっかけは何でしょうか。

A.大量消費社会の中、一次産業は産品を買いたたかれてきました。高齢化、担い手不足の状況に震災被害や風評被害が重なり、疲弊を極めています。一方、消費社会が隅々まで広がった大都市では、便利で楽な反面、人々は創意工夫や助け合いで何かを生み出す場がなく、夢や活力を失っています。

私は、復興支援活動を通じ、居場所と出番を探しあぐねていた若者が自らの生きがいを見出し、その場が「第二のふるさと」となっていく姿を各地で目にしました。そして、都市と地方の人々が共通の価値観で結び合い、混じりあうことで、地図上にない新しいコミュニティをつくることこそが消費社会の構造的問題を解く鍵だと考え、その効果的な手段としてCSAに注目しました。

Q.「東北食べる通信」のウェブサイトでは、応援したい生産者に消費者が年会費を支払うことで、年に2~3回生産物を受け取ったり、SNSを利用して生産者と直接交流ができるといったCSAサービスを展開されていますね。現在参加している消費者の会員数は何人ぐらいいらっしゃいますか。

A.100人強の方がサービスを受けています。

Q.「東北食べる通信」がスタートして半年過ぎました。まわりの反響はいかがでしょう。また、どのような変化がありましたでしょうか。

A.「東北食べる通信9月号」でお届けするどんこの水揚げが遅れ、約2ヶ月、読者に届けられない状況が続きました。しかし、読者からのクレームは一切無く、逆にFacebookのグループページには連日「自然が相手だから仕方がない」、「待つことも楽しみのひとつ」など、60件にも及ぶ激励、理解の声が寄せられました。消費者が、生産現場への理解を深めた応援者へと変化しています。

Q.生産者の方々の反響はいかがでしょうか。

A.それまで接触する機会もなかった生産者同士が、「東北食べる通信」を通じて横の繋がりを見せ始めています。特に他県以上に複雑な状況にある福島では、会津・いわき・相馬など、地域や業種を超えて協力体制を作り始めています。

Q.コミュニティでCSAサービスを受けている会員と、生産者との間でのコミュニケーションはどうでしょうか。

A.事務局が促さずとも、生産者と会員が自発的にコミュニケーションを取り、イベントやツアーなどが開催されています。今後は東北開墾が主催するCSAミーティングを開催し、生産者の抱える問題を共有することで、会員が取り組めることを具体化するなどしていく予定です。

Q.今後「東北食べる通信」はどのように進んでいきたいとお考えでしょうか。

A.「四国食べる通信」をはじめ、東北に留まることなく「食べる通信」を全国に展開していきます。

「東北開墾」では、「四国食べる通信」を今年5月に創刊することに加え、北海道、東松島など他地域での展開も目標としています。「日本開墾」というゴールを目指して、活力に満ちた新たなコミュニティを創出し、心躍るフロンティアを開墾していく、今後の展開に注目です。

(スタッフライター 瀧上紀子、枝廣淳子)

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