ニュースレター

2013年11月26日

 

センスウェアとキッズデザインでサステナブルなものづくりを

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JFS ニュースレター No.134 (2013年10月号)


ユニバーサルデザイン総合研究所の赤池学さんは、商品や施設、地域開発を手掛けるプロダクトデザイナーとして活動しておられます。JFSサイトのTAKUMIというコーナー(英語のみ)の記事を書かれた方です。

今回は第8回サステナブルデザイン国際会議での赤池さんの講演から、サステナブルなものづくりについて、特にビジネスとしてのサステナビリティを含めて、これからどんなものづくりが重要なのかについてお伝えしましょう。

~~~以下、赤池学さんの講演より~~~

これまでのものづくりでは、まず、新しいテクノロジーや素材といったハードウェアが出発点となります。従来なかった機能という品質を生み出してくれるハードウェアを、どういう領域やプロダクトに展開するか、というアプリケーションのプランニングを「ソフトウェアのプロセス」と僕は呼んでいます。すばらしい技術をある商品に展開していくことで、機能という品質や使い勝手が生まれます。

これまでの日本は、このハードウェアとソフトウェアのプランニングをしながら、海外でも売れる商品を作ってきましたが、現在では新興国に負けてしまっています。そこで、全く違う3つ目、4つ目の品質を考えないといけないと思い、「センスウェア」と「ソーシャルウェア」という言葉をつくりました。

センスウェアとは、心と五感に訴えかける品質です。「感動する」「共感する」とか、「びっくりしちゃう」「変わらない愛着を感じてしまう」とか。そういう品質が、機能という品質に寄り添うべきです。ソーシャルウェアとは、公益としての品質です。最近、CSV(creating shared value)が流行りつつありますが、ユニバーサルデザインは、みんなのためのデザインですから、ユーザーだけではなく、思いつく限りのステークホルダーに対してもメリットを提供できるものづくりを、と考えると、ソーシャルウェアつまり公益としての品質という価値がモノや施設に付いてくることになります。

センスウェアとは具体的にどういうものでしょうか? たとえば、日本のロボットテクノロジーは世界一だと自負しています。いろいろな大学の研究機関もロボットを造っていますが、そのロボットはほとんどがニートです。要するにビジネスになっていない。税金も払っていないロボットばかりです。

それに対して、富山県の中小企業が作ったパロというアザラシ型ロボットがあります。「世界一人間を癒すロボット」としてギネスブックにも載っています。これは、日本でもヨーロッパでもちゃんと売れています。パロには、とてつもないテクノロジーが入っているわけではありません。ヒゲを触ると「イヤン、イヤン」とか言う、そのレベルのコミュニケーションです。でも、心や五感に訴えかける価値を提供しているから、売れているのですね。

こちらは愛媛県のタオルメーカーが作った「ダイアログ・イン・ザ・ダーク・タオル」という商品です。この商品開発にあたって、仲間たちと一緒にあるクリエーターたちをプロデュースしました。有名なデザイナーでもアーティストでもなく、まったくの目の見えない8人の視覚障害者です。

障害者というと頭から弱者と決め付ける人もいますが、彼らは目が見えなければ、残る4つの感覚を利用して、健常者と同じようにサバイバルして生きています。つまり、障害者の中には、健常者にはない能力やすばらしい経験がある。その力を使って開発したかったのです。

目が見えない彼らの指の感覚は、健常者よりも優れています。彼らの指が喜ぶタオルを作りたいと思って、8カ月かけて、あらゆるタオルの繊維とさまざまな織り方を触りまくってもらいました。「この繊維をこう織ったときが、私たちの指は一番喜ぶ」と言われた通りに作り、大手百貨店の伊勢丹で売り始めたら、製造が追いつかないくらい売れるようになりました。

購入者のアンケートをみると、7回、8回とリピート購入している人が多いことがわかりました。自由記述欄には、ほとんど同じことが書かれています。「このタオルは、障害者を頭から弱者と決めるのではなく、弱者の中に価値を見いだし、弱者と呼ばれていた視覚障害者と一緒に開発したタオルだ。タオルを知人にプレゼントするときに、このうんちくをお話しするのが何とも心地よくて誇らしい」と書いてあるのです。

ここからもわかるように、ものづくりでは「共感する」「感動する」価値ということをもっと考えていかないといけないし、僕は、そういう心のレスポンスは国境を越えて変わらないものだろうと信じています。

このようなユニバーサル目線に立ってみると、実は、社会的に最も弱いのは子どもです。それで僕は、仲間と一緒に日本初の「キッズデザイン」という考え方を提起しました。子ども用品を開発するデザインではありません。子どもがユーザーではない商品や施設であっても、子ども目線、子ども基準で、安心・安全に作ろうというコンセプトです。

一番の弱者である子どもの目線でモノを作ると、障害者やお年寄りにも使いやすいユニバーサルデザインに広がっていきますし、次世代目線ですから、エコデザイン・サステナブルデザインにもつながっていきます。

子どもの事故による死亡原因の第4位は、キャップなどの誤飲による窒息です。8年間調べてようやくわかったことですが、事故実態と社会課題がわかったら、そのソリューションとなるものを作ればいいのですね。たとえば、マーカーのキャップに通気孔を打てばいい。こういう商品を売ったら、日本中の幼稚園や保育園がこのマーカーに切り替えました。

炊飯器を使うとき、蒸気が出ますよね。この蒸気でやけどをする乳幼児がかなりいました。この問題を解決しようと、水のタンクを中に入れ、水冷式で蒸気を出す炊飯器が登場しました。7万円以上する高級品ですが、大ヒット商品になっています。

この「チビオン」という子供向けの体温計は、おでこにわずか1秒当てるだけで検温できます。

こちらの哺乳びんは、Rの形状をしてしますが、これは女性のおっぱいの形なんですね。自然授乳の形で飲ませれば、飲んだミルクが耳管に入って炎症を起こすこともなく、空気も飲まない。環境ホルモンを考え、技術的に大変に高度な熟練技能がいるのですが、ガラスでできています。

これはRan's Nightという、簡易基礎体温計です。子どもを生みたい女性が、パジャマなどに付けておくと、寝ている間に10分間隔で温度センサーが検温し、手持ちのパソコンに排卵リズムを送り込んでくれます。

ユニバーサルデザインというと、障害者や高齢者を考える人は多いですが、子どもを生みたい女性や妊婦さんなど、一時的であってもハンディキャップドになる状況はさまざまにあります。大企業などが「子どもを生みたい人や妊婦さんのためのユニバーサルデザイン・プロダクト」を作ったという話は聞いたことないでしょう? 世界中にどれだけ、子どもを生みたい人たちや妊婦さんがいるのか考えたら、その巨大なマーケットをビジネスとして捨てているということですよね。

僕は、20世紀までの社会を「自動化社会」と呼んでいます。大震災までは、エネルギーベストミックスに象徴される「最適化社会」を模索していたのだと思います。でも、中央政府も有識者も日本にふさわしいエネルギーの合理的な比率については答えを持っていない。そのことを私たちは知ってしまいました。

一方で、情報技術が成熟し、情報の民主化が起きています。これからは、情報・民主化をベースに、個人も企業も地方自治体も、自ら計画して行動していくようになります。それを僕は「自律化社会」と呼んでいます。

さらに、そのフロントランナーたちは、そもそもほとんどコストもかからない自然のメカニズムや生物の機能性、生態系サービスなどを、ものづくりやまちづくりに展開していくでしょう。それは、「自然化社会」に向かうベクトルです。

たとえば、ミカンなど柑橘系の皮にはヘスペリジンという、アトピー性皮膚炎のかゆみを消炎する機能成分がたくさん入っています。各地で柑橘系を作っていますから、そういう機能性を活かした商品、たとえば石けんなどを作ることができます。

青森県の弘前大学で、ナガイモの中に、筋肉上向機能のあるムチンだけではなくて、インフルエンザを無害化してしまうディオスコリンと呼ばれる新しい糖蛋白質がたっぷり入っているということがわかりました。ナガイモを食べると、新型インフルエンザの感染を抑えることができるのです。こういう機能性がある作物は、日本にもアジアにもたくさんあります。

僕が現在力を入れてコンサルティングしているのは、ネピュレ(Next Puree)という会社です。他社のピューレでは、青果物をすりつぶしてしまうので、味も香りも機能成分も壊れてしまいます。でも、この会社では、加熱水蒸気をかけ、遠心分離にかけるという独自の製造装置をつくることで、細胞をほぐしてピューレにする。成分も機能もほとんど壊れず、冷凍しても2年間は劣化しません。

そうすると何が起きるか? 一級品の国産レモンはキロ300円ぐらいですが、このネピュレにすることで大手パンメーカーがキロ1,400円で買ってくれています。日本の国産レモンの機能性をそのまま活かし、化学的な合成材を使わず、おいしいパンができる。それによって300円が1,400円に化けるのです。日本にも他の国々にも、規格外の野菜や果物がたくさんあります。それをこうしたジャパンテクノロジーによって、付加価値の高いビジネスにできるようになります。

センスウェアという僕らの心と五感のセンサーを臆することなく駆動させていけば、僕はサステナブルなものづくりやまちづくりの解に誰もが辿り着ける、と信じています。


(ユニバーサルデザイン総合研究所所長 赤池学  ~~冒頭紹介文:枝廣淳子)

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